それは突然に
「そう言えば、だけど」
フィオナさんのお父さん―――イェスタフさんを埋葬して、フィオナさんが泣き止んでから。
軍用車―――厳つい四駆の汎用輸送車で基地への帰路。
マリオンさんが運転手で、アルペジオが助手席。
私が後部座席の左の席で、フィオナさんは右でした。
「基地を出る時、輸送機飛んで来てたわよね。それも六機」
そう話題を振ったのはアルペジオでした。
彼女の言う通り、イェスタフさんの埋葬の為に基地を出た時、輸送機が飛来していました。
リンクスを一機積めるだけのペイロードを持つ、大型輸送機です。
それも六機。
「こっちの事態に気づいて、連絡機を飛ばしてくれたのかしら?」
「……に、してはあの輸送機では大きすぎませんか?」
アルペジオの予想に疑問を言います。
「それもそうよね……。でも六機も来てるし、物資とか積んで来たのかもしれないわよ?」
「その線もありますね」
彼女の予想に、なるほどと頷きます。
―――基地に帰れば、結果は分かるでしょうけど。
そして、エンジンとタイヤが地面を転がる音以外の音はしないだけの空間になります。
フィオナさんは、気持ちは上の空のようで窓の外を眺めていました。
気が済むまで泣いたからでしょう、どことなく気は楽そうでした。
―――しばらくはそっとしておきましょうか。
そう思って、窓の外へ視線を向けます。
天気は相変わらず曇り空。
分厚いのか暗くて、雨が降るんじゃないかと不安になります。
後ろに流れ、見える風景は相変わらず枯れた草木で覆われた荒野が広がっています。
そんな景色を眺めるだけの時間が一〇分ほど経過しまして。
「……ん?」
「どうしたのかしら?」
アルペジオとマリオンさんが怪訝そうな声を出しました。
「何かありました?」
視線を前に向けて尋ねました。
まあ、すぐに視界に入るのでその二人が怪訝そうな反応したものは目に入ったのですけれど。
私達が進む先には、兵員輸送車三台と武装した人達が十人以上いました。
埋葬に参加した人たちではないのは確かです。
車両と迷彩服からして私達と同じ連合軍のそれなので味方だとわかるのですが、完全武装というのが気になります。
一昨日の地震で訓練どころではないはずですし。
南東の町への救援もまだ編成途中だったはずです。
なら、この部隊は一体……?
そう思っているとその部隊の一人がこちらに『止まれ』のジェスチャーをしました。
それを見たマリオンさんはブレーキを掛けて速度を落としていきます。
停車。
統制の執れた動きで瞬く間に兵士は私達が乗る車を囲みます。
全員ヘルメットにゴーグルをつけていて、口元しか顔の判別が付きませんでした。
それでも性別は男だとはわかります。
あとは―――上着の上腕部辺りに《クナモリアル》の国章が入ったワッペンが張られていました。
彼らは《クナモリアル》が編成した部隊ということでしょう。
そんな国の部隊が、どうしてここに?
マリオンさんはパワーウインドウを下ろして、運転席に近づいてきた男と話そうと口を開いて、
「オルレアン連合軍、第十一騎士団、機動歩兵部隊の者だ」
―――第十一騎士団?
まず疑問に思ったのはそれです。
確か、オルレアン連合で編成された騎士団の数は10。
それ以上はまだ編成されていませんし、編成されたと聞いたこともありません。
そういう話が私の耳に届く前にここに来た、という事でしょうか。
そしてワッペンからしてこの部隊の母国は《クナモリアル》。
第八の《ストラスール》とは違う指揮系統の部隊ということになります。
どうして、他所の国の騎士団の部隊がここに?
「第八騎士団、副団長のマリオンよ」
「チハヤユウキはこの車に乗っているな?」
……はい?
この問いに、私は首を傾げました。
なんで私なのでしょう?
「後ろに乗っているけれど?」
マリオンさんは素直に答えました。
その言葉を聞いた男は視線を送って、隣に居た男が私が座る側のドアを開けました。
「チハヤユウキだな」
誰何されました。
「そうですけど、なにか?」
そう返すと、男は無言で私の腕を乱暴に掴み、車から強引に引き摺り落としました。
「―――!?」
驚きますが―――体は反射的に、訓練された通りに対応する為に動きます。
あえてそのまま引っ張り出されて、相手の手を振り解いて地面を転がります。
「いきなり何ですか?!」
身構えながら尋ねました。
少なくとも、乱暴されるに値するような事はやった覚えはありません。
いえ、ちょっとした偽装亡命の手引きだったり、嘘を言ったりはしましたけど。
それでも他の部隊では確認出来ないような、知る由のない事ばかりです。
「何か私に用があるなら、まず要件を言ってくれませんか?」
相手を睨みながらもう一度尋ねます。
「貴様を反逆罪の疑いで拘束する」
淡々とした口調で返ってきた言葉は、私の思考を止めるには十分でした。
反逆罪?
もう少し詳しくと聞こうとしましたが、相手が一手早く動きました。
腰のホルスターから銃に似た何かを引き抜くと、それを私に向けて発射しました。
咄嗟に頭と心臓を守るように両腕を構えます。
そしてすぐに左腕と左の脇腹に何かが刺さるような痛みを感じました。
右目で見えたのは銃のようなそれからワイヤーが伸びていて、私に繋がっていました。
これは―――。
「―――!」
文字通り、痺れるような痛みに襲われて、私は膝を付きます。
これは、テーザー銃です。
針状の弾をワイヤーで銃と繋いで、打ち込んだ相手に電撃を浴びせる捕縛用の武器。
相手を気絶させることも出来ますが、場合によっては怯ませる程度しか出来なかったりする代物です。
今回は、私は動けなくさせられましたが、意識ははっきりとしています。
なんで?
そう訊こうとしましたが、言えませんでした。
すぐさま近づいてきた男に、頭に蹴りを叩き込まれました。
男の右足のブーツが私の左頬に入って、鈍い音をこの耳で聞いて。
そのまま、視界が真っ暗になりました。




