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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第九章]Fall out
198/441

ある事を話す為に④




 《黒い球体》が発生してから二ヶ月間は、比較的安全だったと言えるでしょう。


 まあ、《黒い球体》が空から降ってきて、大地にある多くの物を飲み込んで消失して。


 その余波で瓦礫を空に舞い上がらせて、周囲に落とすという危険な状況が比較的安全というのも変な話ですけれど。


 政府機関が文字通り消失し、毎時間毎日、日本国内からどこかの国で《黒い球体》が発生しては大地に落ちてを繰り返していたとしても。


 隣人同士という集団意識から来る結束というのはそんな状況下でも簡単に作り上げることが出来て。


 一時の秩序を構築することが出来ました。


 あの街―――私が暮らしていた神奈川県内の街一つとその周囲はそうでした。


 私がこの目で見て聞いて知っている範囲では、でしかありませんが。


 限られた物資の節度ある分配とその場から脱出の為の活動で人々は手を取り合うことが出来ていました。


 ―――少なくとも、二ヶ月経つまでは。


 その日のことは、よく覚えています。


 その日までに調べ上げれたことは、大阪が比較安全そうだったこと。


 たまたま停泊していたフェリーで一度に多くの人間が運べるから往復してその街から脱出しようと計画が動き出した日でもありました。


 その日に、《黒い球体》が港に落ちて、周囲の街も、そこにいた議員や市議、自衛隊員や米国海兵隊を始めとする大阪への移動計画の主要メンバーが飲み込まれて消失しました。


 その後、脱走の手立てや、ルートを失った人々の、各々の選択はなんだったのか。


 私は結果からしか語れませんが―――ただわかるのは醜い争いが一つ、二つと増え。


 最終的には一ヶ月で生き残る為の殺し合いに変わっていき、団結と結束は面白いぐらいに崩れ去ったという結果だけが残りました。


 それでも、この場から脱出しようと考えたグループはいました。


 私がいた孤児院の職員達や施設近くに住む人は、少なくともそうでした。


 そこから脱出する為に、通れるルートと使える乗り物を探して、食料や医薬品をはじめとする物資を集めて。


 ―――でも、それに限度はありました。


 より厳しくなった数の無い物資に、他所のグループの襲撃と撃退。


 そこに、自衛の為とはいえ殺人が加わって。


 他のグループと報復し合う状況へと変わりました。


 誰が最初に殺したのかと味方内で言い争い、最終的には分裂する協力関係。


 そうして私を含む孤児院の人達は孤立しました。


 ただ、やる事は変わりません。


 いつ来るかわからない救助を待つのと並行して、子供たちを安全な所へ逃がす為にそのルートの構築と確保。


 それまで食料をはじめとする生活物資を瓦礫の中から回収して賄い続ける。


 突然現れる襲撃者と戦って。


 一人、また一人と殺されて、殺し返して。


 皆で生き抜こうと励まし合いながらあの日々を生き抜いた。


 きっと、あの中で一番多く人を殺していたのは私でしょう。


 そうするのが、一番被害が少なかったから。


 彼らの手を、こんな事で汚させたくはなかったから。


 ―――でもそれは結局、シスター達や子共達を血で濡れた死体の山に立たせる事でしかなかったというのに。


 それに気付きながらも、殺し続けた。


 殺してきた中には一人ひとりの個人も含まれますが、夫婦や恋人同士、友人同士だっただろう二人組や三人組。


 果てには親子や、私と同世代の人達。


 孤児院にいる子供達とそう変らない年齢の兄弟姉妹まで手に掛けました。


 彼らだって、と思っても感情移入は出来ません。


 命は平等でも、等価ではありません。


 殺しに来ている、私達とは関わりの無い人達よりも、シスターをはじめとする孤児院の職員とコトネ達の方が大切なのですから。


 気が付けば、神奈川県は《黒い球体》で周辺をえぐられ、孤島と化して陸路での脱走は出来なくなった。


 それでもとなんとか動く、三十三人の人が乗れそうな船を見つけて、燃料を確保して隠して。


 そして気が付けば―――《黒い球体》が出現してから、八ヶ月のその日。


 施設職員、最後の大人となったシスターも死んで。


 残ったのは私と、コトネを含む32人の子供達。


 彼女らを守る為に、また沢山の人を殺し続けました。


 彼女達の食料だけはなんとか確保し続けて。


 私は、出かけた先で食べてるからと嘘をついて。


 二、三日に一回か、一週間飴玉だけの日々を何度か繰り返した。


 そして、結局は耐えれなくなって、人として許されないような事にまで手を出した。


 幸い、と表現するのはいささかおかしいかもしれせんが―――人間の死体は、ありますから。




 そこまで、話して。




「―――待って、チハヤ」


 フィオナさんは、そこから語ろうとする私を止めました。


 その声は少し震えています。


 何か、怖い事に気付いたからでしょう。


「はい」


「それって、まさかだけど……」


「今、フィオナさんが想像している通りだと思いますよ。……人の死体は、確実に目の前にありますからね」


 それが、私がやった事だ。




 ―――よくある話です。


 例えば遭難した人達がいたとして。


 救助の目は無くて、食料は無くて。


 仲間の死体だけはあった。


 そして飢えに耐え兼ねて、その死体に手を出す。



 それが、私に来てしまっただけ。



 そうでもしないと、生き残れなかった。


 そうしないと、コトネや他の子供達を守れなかった。



 ―――でも、結局は。



「最後の最後に、失敗しました。敵を一人、逃がしてしまったんですよ」


 その日。


 そう、十一月も下旬になった頃。


 脱出の為に確保し続けていた船が、何者かによって焼かれてしまった帰りでした。


 私を背後から襲ってきた二人組の内、一人は持っていたシャベルで、その場で殺しました。


 ―――ですが、残り一人は。


 腕に怪我をさせたものの、逃げ足は速く逃げ切られてしまいました。


 それが、コトネや子供達の最後に繋がる、引き金でした。


 翌日、食料を探しにいつも通り教会を出て。


 そして、ある時教会の方へ視線を向ければ、そこには白煙を立ち上げていました。


 その場所が教会だとすぐに理解して、急いで戻れば。


 子供達は躊躇うことなく大人達に殺されていて。


 コトネは、私の目の前で刺されてました。


 私はその場にいた男性二人と女性一人をすぐさま殺して、コトネに駆けつけました。


 けれど、刺されて引き抜かれた刃物の刃渡りと角度と、場所が悪かった。


 内臓に傷付けるどころか貫通しているのです。


 私の目が正しければ、その位置は腎臓まで届いて、貫いているでしょう。


 そして憎たらしい程に、ご丁寧に捻ってから引き抜かれたことも、わかりました。


 ここまでの重傷を受けた、たった一人の妹を助ける方法はもうありませんでした。


 ただ、遅れたこととコトネを助ける術がないことを謝るしか出来ない私にコトネは―――。


『あなたが、わたしのかぞくでよかった。あなたがいたじかんは、とてもしあわせだった。あなたとすごすじかんは、とてもうれしかった』


 そうとだけ、何年ぶりになるかわからないほど久しぶりに、どこか穏やかな口調で喋って息を引き取りました。



 ―――そこからはもう、ほとんど覚えていません。


 ただ、言えるのは。


 襲撃者を全員、撫で斬りにしたことと。


 その死体は全て、奴らが乗ってきたらしい三トントラックに積んで街に置いてガソリンを撒いて火に掛けたこと。


 そこからもう誰もいない教会に戻ったことだけです。



 ここからは、もう多くを語る必要はないでしょうか。



 コトネを含む子供達を教会の近くに、一人一人丁寧に埋葬したこと。


 コトネのロザリオと私のロザリオを交換したこと。


 そして、自分の首を斬って自害しようとして、マフヨに止められたこと。



 そして、最後に《黒い球体》へ飛び込んだ。

 


 結果は、この通り生きて異世界に―――この世界に転移してしまった。


 そして、偶然とはいえリンクス―――《プライング》を操る適正を、体温の低下や内分泌系等の新陳代謝の変化という代償を知らずに払って獲得した。


 殺されたいが為に戦場に赴くことを選んだ。



 でも結局、殺されないでいる。


 そして、自分が誰かに殺されるいつかを迎えたいが為に、隣人を守る為に殺し続けていた。



「―――それが、私という人間です」


 長くなった話をそう締めくくりました。


 カップを手に取って残り僅かになった、そしてすっかり冷えた紅茶を飲み干します。


 そして私の語る話のほとんどを黙って聞いていた、隣に座っているフィオナさんに視線を向けました。


「………」


 その表情は、愕然としていました。


 その妖しい赤い瞳も少し泳いでいます。


 それもそうでしょう。


 好きな人がそういう経験の過去を持っていて、抱えている。


 その内容ですら人の道を踏み外した、驚かないようにとか引かないようにとか言っても無理な話でしょう。


 きっと、誰にでも受け入れ難い過去でしょう。


 しばらくして、フィオナさんは俯いて、


「……あなたは―――」


 そう声を漏らしました。


「……チハヤは、これから、そう生きていくつもりだった?」


「そう生きていく、とは?」


「誰かに殺される日を迎える為に、戦場に居続ける生き方よ」


「―――そのつもりでしたよ。でも……」


「でも?」


「……いろいろあって、時間が経って。記憶を振り返って。心の中で気持ちを整理してしまって。考えが少し変わってしまうものです」


 だから、そんな風に生きるつもりは今はありませんと山脈へ視線を移しつつ答えます。



 ―――ええ、そうです。



 沢山の人を踏みにじって殺してきて、殺されるに値するはずの私は生き残ってしまった。


 誰かを助けれる人たちは理不尽に殺されて、手をかけてないあの子たちが死んで。


 どうして私が生き残るのでしょう?


 どうして、私じゃないんでしょう?


 みんなを守る為に沢山殺して、死体の山を積み上げて立ち続けているのは私なのに。


 コトネも、シスターも。孤児院の皆は死んでしまった。


 彼女達の時間は止まり、私だけは進む時間に流されてしまった。



 そう口に出しました。



 ―――あの日感じた絶望感。


 ―――無力感や虚無感が混ざった黒い感情がまた私の胸の中を渦巻く。



 ―――でも。



「これはシスターからの遺言ですが―――私はコトネやシスター。神父を始めとする孤児院の皆が生きた証だから生き抜いてと、まるで楔でも打つように言い聞かされています」


 シスターの遺言と、並行世界のコトネから言われたことを口にします。


 きっと、シスターは私が一人だけ生き残ってしまえば自殺すると思われていたのでしょう―――実際、自殺行為に走りましたけど。


 でも、その言葉の意味は分かっているつもりです。


 あの人達の教えは私に影響を与えていて。


 思い出は、私の口から語られる。


 それらは何らかの形で残って、されど時間の波で風化していくのでしょう。


 でも、それは今から風化させる訳にはいかない。


「もう、自分が近い内に殺されるように生きることは止めにします」


 この世界に来て、誰かに出会って。


 この世界でも人間の中で生きてきて。


 今更、この縁や輪の外に出るにはもう遅いのでしょう


 そうするには、良き隣人に囲まれ過ぎている。


 そうするには、一個人(フィオナさん)から好意を向けられてしまっている。


 なら、もう生きていくしかないのでしょう。


 過去を抱えて。


 今を燃料にして。


「ええ、そこから進んでいますとも」


 これは―――私の確認です。


 これからを生きるという選択のスタートラインを既に越えているのだという、再認識。


「だから今日、ここに来て私の今までとやってきたことをお話したのです。あなたに『好き』と言われて、『結婚したい』とまで言われた以上、この事を話さない訳にはいきませんから」


 そう言ってフィオナさんへ視線を向けます。


「私と一緒にこれからを生きるという事は、血で濡れた死体の山に立つという事です。そして、まだ積み上げるのかもしれません。―――この事を知った上で、あなたの気持ちを聞かせてくれますか?」


 これが、私の聞きたい事です。


 私としては、こんな所に立って欲しくないと思っていますが―――それを決めるのは私ではなくフィオナさんです。


 どんな選択でも、私は受け入れるしかないのですけれど。


「……いくつか、聞いてもいい?」


 返って来たのは答えではなく質問の言葉でした。


 聞いているのは私なのですけれど、なんて言いません。


 きっと、それだけでは決めれないのかもしれないのですから。


「……どうぞ」


「もし、私じゃない別の誰かが私と同じようにチハヤの事を好きって言ったとしたら同じ話をする?」


 その代わりに、とでも言うように次の質問をしてきました。


「しますよ」


「複数の人にも?」


「はい」


「そうして、あなたの過去が言い広められて。あなたの周りに親しいと言える人がいなくなるとしても?」


「それは、私のやった事を考えればそうなって当然かなって、思います。そうして孤独の人生になっても、私はその事実を受け入れるしかありません」


 フィオナさんは俯いたまま暗く訊いてきて。


 私は淡々と答えることを三回繰り返して。


「……じゃあ―――」


 そう、フィオナさんは顔を上げて私を見ました。


 その目を見て、私は複雑な気分になります。


 ―――いえ、もう私にはどうすることも出来ないのです。


 話すことは話しました。


 これは彼女の選択です。


 そうである以上、私があれこれ言うことはしてはいけません。


 出来る事は、彼女の選択を尊重するだけ。


「私がどんな選択をしても、その選択を受け入れてくれる?」


「―――はい。受け入れます」


「全て?」


「もちろん」


 フィオナさんの確認するような質問に何度も頷きます。


 そして彼女は、私の両手をやや強引に取ります。


「私が、この世界に来てずっと、あなたに話していない事を話しても……受け入れられる?」


 ―――私に話していないこと。


 それは―――彼女の正体ですよねきっと。


 ここは、私が言うべきですね。


「フィオナさんは、《エルフ》とは人間の五、六倍ぐらい寿命が長い種族なのでしょう? そして、フィオナさんはエルフの中でも珍しい、とても長寿な種族だとか」


「……え?」


 これにはフィオナさんは目を見開いて驚いていました。


「……それって、最初から、知っていたの?」


「はい。ずっと、知らないふりをしていました。連合側には、エルフとかドワーフとか来ていないようでしたから、人間じゃないからって酷い扱いを受けないようにとHALと口裏合わせていたんです」


 そう告白します。


 その言葉に、彼女は目を白黒させてから、そのワインレッドの瞳を吊り上げます。


「……私ね―――」


「……はい」


「私は、一〇〇〇年以上生きるエルフなの。そして今、二二四歳。あと八〇〇年生きるの」


 ―――帝国で知った事を言いたいのですが、ここは黙る事にします。


 これは、彼女の覚悟ですから。


「チハヤと同じよ。それを伝えようって思ってたの。この事を聞いて、あなたがどんな選択をしても、私は受け入れた」


「―――でも、私は知っていた。そして黙っていた。……フィオナさんは、そんな事をしていた私を責めますか?」


「責めないわ。……だって私は、チハヤが私が人間ではないって知っていながら、差別する事なく接していたって事を知れたのよ。―――これが、嬉しくない訳がないわ」


 彼女はそう言って、目じりに涙を浮かべ始めます。


 嬉しさで、感極まったのでしょう。


「こういう時は、ハンカチで拭うべきなんでしょうけど―――」


 持ってきてはいますけど。


「生憎、感情一つで泣く分の涙を拭うハンカチはありませんので。……失礼」


 そう断わってから、握られた両手の片方―――右手だけ引き抜いて、人差し指でその涙を拭います。


 外気に当てられて少しひんやりとしたその肌を右、左と一回ずつ軽く拭います。


 左の目尻から手を離そうとして、フィオナさんの左手が私の右手を掴みました。


 そのまま私の手は彼女の頬に当てられます。


 指だけ触れるより、もっと触れて欲しいのでしょうか。


「……チハヤ」


「はい」


「長寿な(エルフ)と、それと比べて短命な人間(あなた)。―――結婚したら、どう足掻いても私はあなたのいない時間が長い、そういう人生になるわ」


「……そうですね」


「私はチハヤとこれから一緒に生きれるなら、いつか来る《あなたのいない残りの時間》を寂しく生きてもいい、って本気で覚悟してる」


 そう言って、フィオナさんは掴んだ私の右手を自分の顔から離します。


 左手に再度合わせて、私より大きい手で私の両手を包みます。


「あなたが慕い続ける《フランチェスカ》って人への気持ちは持ってていい―――あなたが話してくれたこと、全部一緒に抱えるわ。―――だから、私にも特別っていう感情を向けて、あなたの残りの時間を私と共に過ごす時間にして」


 そう、フィオナさんは真っ直ぐ私を見て言いました。


 確認しなくても、これが答えでしょう。


 彼女は、私が抱える気持ちや、やってきたこと。


 立つ場所がどんな所かを知って、自身の事を話して。


 それでも変わらない気持ちを伝えてきた。


 ここまで来たら、あとは私の答え次第。


 記憶を振り返れば―――こう言っては酷いものですが、最初は異世界にやってきてしまったという似た境遇の人という認識で、ここでの生活に慣れるまでは放っておけないという程度にしか思っていませんでした。


 しかし、私が好み(タイプ)の人だったから、という理由で好意を向けて、一緒にいる時間を増やして。


 私に長い髪を乾かして貰ったり、梳いて貰ったりと私の厚意に甘えたりして。


 彼女のそういう面倒を見る事や、食事や演奏を共にする―――。


 そんな、なんでもない日常が私は好きですし、それらの感謝の言葉は嬉しく思っています。


 なんだかんだと気にしているのは、間違いありません。


 そういう人から告白されて。


 彼女が隠していた事を聞いて。


 自分の抱えている事を聞いてもなお変わらない気持ちと覚悟を告白された。


 そんな彼女を、私は格好いいと思えて、そう言い切る姿勢に惹かれている。


 ―――ここまで来たのなら。


「―――わかりました」


 思わず笑みが零れる。


 お互いの秘密を話し合って。


 一途な気持ちをぶつけられている。


 『好き』にさせられる、という感覚にさせられている。


 ―――私はこれらを受け止めて、応えるしかないでしょう。


「フィオナさん。私の時間、あなたに捧げます」


 私も―――少し望むとしましょう。


 彼女と共に生きる、なんでもない幸せな日常を。


「生と死や、幸福や不幸が分かち合えないかもしれなくとも―――あなたの傍らに、あなたの記憶とこれからの時間に私を居させて下さい」


 精一杯に微笑んで、答えました。


 私なりの、告白。


 彼女の気持ちと覚悟への答え。


「………」


 その言葉にフィオナさんは少し固まって。


「当然よ」


 とても嬉しそうに、その妖艶な顔で微笑んで言って。


 その唇を私の唇で軽く触れました。


 そしてすぐに離れます。


 フィオナさんならもっと豪快に来そうなのに、と思っていると、


「あと、あなたの口から言って欲しい言葉があるのだけれど?」


 彼女はそう挑発的な顔を浮かべて言いました。


 もうここまで来たならなんでも来なさい、なんて思いつつ、


「なんですか?」


 私はそう尋ねました。


 フィオナさんはその顔をやや赤くしながら、左腕は私の背中に。


 右腕は私の後頭部に回して。


 その豊満な胸を私に押し付けるように抱きしめて言います。


「私の事、好きって言って」


 その言葉に、確かにまだその言葉は言ってないことに気付かされます。


 好きという単語は使いましたが、それはフランチェスカに対してです。


 フィオナさんではありません。


 つまりは妬いていると。


 ―――可愛い人ですね、なんて思いつつその要求に私は応えます。


「フィオナさんの事、好きですよ」


「私もチハヤの事が好きよ。愛してる」


 私の言葉に即答して、フィオナさんはまた私に唇を重ねました。






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