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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第二章]それを止めない
18/439

殺しきる



 《プライング》は正面に敵リンクス三機を捕捉した。


 二機は《ヴォルフ》と呼ばれる帝国軍の量産リンクスで、この前の襲撃でチハヤが撃破した機体と同一の物だ。

 ゴーグルアイタイプで《マーチャー》よりも少しマッシブなシルエット。スカートアーマーの代わりなのか、小型ながらブースターユニットが腰の前後に付き、背中のメインブースターは二基が基本のようだ。

 一機はライフルと左肩のハードポイントから下げたシールド。それに腰に実体ブレードとオーソドックス。

 もう一機は増加装甲なのか、ゴテゴテしたプレートが各所に取り付けられている。武器はサブマシンガンを両手に。腰にも同型のブレードを二本装備している。

 最後の一機はまるっこいの一言で表現出来そうな機体。フリーダ・ゲストヴィッツが駆る《ナースホルン》だ。武器はハルバードに、


「あれは……ショットガンかしら?」


 左手にガントレット状の装備があり、銃口らしき穴もある。口径も大きい。

 《プライング》の機動性は以前の襲撃で経験しているだろうから、その対策だろうか。拡散範囲の広いソウドオフ仕様かもしれない。

 

 チハヤはまず、どの機体から殺ろうか、と手順を組み立て始める。


リーダー機は間違いなく《ナースホルン》。あの部隊を崩すならあの機体を潰さなければならないが、


「固いのですよね」


 今回、二二〇ミリ口径のHEAT弾を持ってきているが、これが何処まで効果があるかわからない。

 ―――まあ、あくまでこれはごり押しで使う予定ですが。


 団長にお願いして、連合軍内の戦闘データから《ナースホルン》のデータを片っ端から見たのである程度の特徴は捕らえれてはいるけれど。


 そうなると残りの二機から潰すべきだろう。倒せるのを潰すのも一つの手である。


「《ヒビキ》。UAV飛ばして。高度は―――」


 linksシステムで脳に直接データを投影する。機体が収拾した気象データと基地から取得した天候は良好、なら。


「二〇〇〇でお願い」

 

『了解。UAVオンライン。テイクオフ』


 《プライング》の右背サブアームに装備したコンテナから球体UAVが四機空へ上がっていく。


 さて、と。思考を敵機の撃破へと切り替えようとして、チハヤはその光景を見た。

 《ヴォルフ》二機が移動を停止し、建物の上に立った。これ以上進軍しない、とでも言うかのような姿勢だ。


 代わりに、《ナースホルン》が速度を上げ、単独でこちらへ向かって来ている。


「単機でやる気かしら?」


 この前の続きをしたいとでも? 数の有利を捨てて?


 決闘(まが)いの果たし合い殺しあいをしたいと?


 下らないと、嗤う。


「《ヒビキ》! あの単細胞に教育してやりましょう」


 酷いと形容してもいいぐらい凶悪で獰猛な表情を浮かべてチハヤは言いきる。周りの人間から可愛いと言われる端正な顔立ちが、その表情ですべて台無しになる。


『了解。徹底的に捻り潰してやりましょう』


 《ヒビキ》の返答に、ノリのいい奴が相棒で良かったとチハヤは嬉しく思った。


「さあ、殺してみなさい。叩き潰してやる」







「ラファール00よりマスタング03、マスタング05。敵機はどうやら私とサシでやりたいそうよ。手出しは無用。背後の《ヴォルフ》が邪魔しないか見てて下さい」


 チハヤはそう通信で言って、《プライング》を突撃させる。抗議の声が二人から聞こえたが、チハヤは聞き流して相手に視線を向ける。


 《ナースホルン》は左腕をこちらに向けて、発砲。


 とっさに右へ避ける。


『散弾砲と推定。拡散範囲が広い模様』


 《ヒビキ》の分析がコクピットに流れる。


「近づかなければいいわね」


『……敵フレームウェポンの装甲防御力は、現在貫通力が判明している装備では突破出来ません。滑空砲は未知数により検証の余地はありますが』


「例え滑空砲が効かなくてもごり押しよ? 二二〇ミリ口径のHEAT弾を同じ所にぶちこめばやれると思うの」


 左手に保持した六八ミリのブレードライフルのHE弾は、《ナースホルン》の装甲の表面を僅かになら浸徹している。


 大口径ならあるいは、と思うのだ。


 希望的だけど。


 チハヤは最後にそう付け足して、《プライング》を廃虚となった市街地へと降ろす。

 当日にしては大都市だったのだろう、リンクスが戦うには広い大通り。建物も十階立てクラスのビルが立ち並ぶ廃虚だ。

 廃虚マニアなら喜んで探索しそうな光景も、今では戦場だ。



 反転し、追撃してきた《ナースホルン》に右のマシンガンを向けてフルオート射撃。


 AP弾は当然の如く弾かれる。


 二二〇ミリ口径の滑空砲を展開。すぐに撃てるように準備は済ませておく。


 《ナースホルン》は急上昇し、左右のフェイントから《プライング》の左上を取り、ビルの側面に足をめり込ませて散弾砲を撃つ。


 《プライング》は《ナースホルン》を正面に捕らえつつ、右へ回避。

 お返しに左のブレードライフルを放つ。


 敵機は建物を蹴って鈍重な見た目とは裏腹に鋭い動きでこれを回避。

 ブースターを全開にして《プライング》へ突っ込む。


 こちらは後ろへブースターを吹かして距離をとり、牽制で滑空砲を発砲。さらに両手のマシンガンとライフルを撃つ。


 二二〇ミリの砲弾は避けられ、マシンガンのAP弾とライフルのHE弾はいくつか当たる。

 しかし、当然如くそれに効果はない。


「二二〇ミリの効果がわかりませんね」


 流石に大口径のを撃てば回避行動ぐらいしますか。


 そう一人言を言って、相手に背中を向け、加速する。


『照準警報』


 《ヒビキ》の警告に、チハヤは《プライング》を右へ左へ振って、放たれた弾丸を避ける。

 

 周囲三六〇度見渡せるモニターなので、後ろを見ながら回避が出来る。


 交差点を右へ曲がりすぐに反転。および停止して、


「ビルの影から出てきた所を狙います」


『了解』


 二二〇ミリ滑空砲を構え、《ナースホルン》が飛び出てくるのを待つ。


 そしてすぐに敵リンクスが飛び出してきた。

 滑空砲が瞬時に照準を合わせ、射撃可能と表示される。

 

 発砲。轟音が市街地に響く。


 近距離で放たれた砲弾は、《ナースホルン》の左脇下に着弾。

 敵機の勢いを止め、仰け反らせた。


 モンロー/ノイマン効果は装甲を浸徹し、しかし。


『防ぎきりましたね』


 《ヒビキ》の言う通り、装甲に穴は空いていない。

 浸徹はしているものの、そこまで深くない。


 《ナースホルン》は何とか倒れないよう踏みとどまり、


『あっぶねぇ……なぁ!』


 外部スピーカーでフリーダはそう言って、再度突撃をかける。


 《プライング》はバックブースターを噴かして距離をとる。


 敵機の散弾砲が火を噴く。


 上にメインブースターで急上昇。

 放たれた散弾は地面を穿った。


 それを見計らったように《ナースホルン》も跳躍し、ハルバードを降り下ろしてくる。


 寸前で左へ回避。

 ハルバードは空を切り地面を穿った


 さらに《プライング》は敵機へクイックブーストで突撃、左膝で蹴り飛ばす。


 《ナースホルン》は仰け反るだけ。地面に食い込ませたハルバードを保持し続けることで耐えたのだ。

 左腕にマウントされたそれがこちらへ向けられる。


『照準警報』


「―――――っ!」


 今度は右へ回避。子弾にも掠りさえしなかったが、チハヤには冷や汗ものだ。


 クイックブーストを連発して相手の背後へ。


 それぐらいの手は相手には当然の如くお見通しで、すぐに振り返って、ハルバードを振るわれる。


 下がってこれをやり過ごし、反転。

 ブースターを全開にして距離を取る。


 再度、突撃。

 両手のマシンガンやライフル撃たず、である。


 《ナースホルン》はハルバードを構え、ブースターを全開にして突撃。


 交錯は一瞬。


 《ナースホルン》は突きを繰り出すが、《プライング》は寸前で、回避とアンダーバレルのフラッシュロケットを放った。


 ハルバードに当り、眩い光を放った。


 カメラアイ保護シャッターが寸前で閉じて、《プライング》の光学センサは焼き切れることはなかった。


 だがしかし、《ナースホルン》は。


『がぁぁぁあああっ!』


 linksシステムで繋がっていれば、搭乗者にもダメージがフィードバックされる。脳に機体が得た視角情報を投影していれば、光学センサが焼き切れたとすれば。


 それはアーク溶接の光か、閃光手榴弾の発光を直接見たような、目に光が焼き付くだろう。


 それと同じ感覚が、パイロットであるフリーダに降りかかった。



 この隙を、チハヤは逃さなかった。


 敵機の周りを回るように《プライング》をブースト機動させ、背後のメインブースターを、肩のサイドブースターを、脹脛のブースターを、両腰のブースターも。

 さらには右手や左腕の散弾砲まで。

 ブレードライフルで狙い撃つ。

 マシンガンはアンダーバレルに次のフラッシュロケットを装填しておく。



 これだけの装甲。重量もあるでしょう。

 linksシステムによる反応性の高さで高い機動力を得ていただろうけど、それだけじゃ重いはずの機体がきびきびと動けるはずがない。

 人工筋肉の高出力化、全身に配置したブースターで、低下しただろう機動力を補っている。


 それが《ナースホルン》というリンクスだ。


『視認出来る推進機の九〇%を破壊。敵右手破損を確認。左腕散弾砲大破を確認。敵フレームウェポン戦闘能力喪失は確定』


 《ヒビキ》の報告を聞きつつ、《ナースホルン》の正面に回る。


 ブースター最大出力で突貫。


 ブースターを併用した蹴りを、ビルにぶつかるまで何度も叩き込む。


 敵機ごとビルへ突っ込む。

 これで相手のこれからの動きに制限をかけた。


 バックブースターで下り、滑空砲を構える。


 《ナースホルン》のサブカメラだろうか、頭部のスリットから光が明滅する。


 即座にフラッシュロケットを再度撃ち込む。


 こちらはまた保護シャッターが閉じて、カメラが焼き切れるのを防ぐ。

 相手はまた、目が眩むだろう。


 そしてHEAT弾が当たった箇所へ再度撃ち込む。

 一発、一発と続けて当てていく。


『滑空砲、残弾無し』


 三発目で、弾切れだ。もともと装填数が少ないのだから仕方ない。


 《ナースホルン》はというと、ビルへ機体を委託しているが、すぐに動くような様子はない。

 装甲は、浸徹しているとはいえ、まだ内部フレームが見えない。どれだけ分厚いのだろうか?


 両手の武器を脇下のサブアームで保持。

 腕部のエネルギーバンカー兼補助腕を展開。

 内部に格納していた折り畳み式コンバットナイフを展開して、突撃。


 浸徹し、HEAT弾が何度も当り、薄くなったその場所へナイフを突き刺した。


 補助腕からナイフを外し、左手でグリップを握って左へ走らせる。


 これで内部が見えれば、マシンガンを突きつけて射撃しようとチハヤは考えていたが―――。


『敵フレームウェポン、装甲はかなり厚い模様』


 切り込みが入ったが、内部がまだ見えないのだ。


『この……!』


 フリーダの声と共に《ナースホルン》の左腕が上がる。


「《ヒビキ》! 背部サブアームの武装全部パージ! それで奴の腕を掴みなさい!」


 チハヤがそう命令するのと、《プライング》が背部サブアームの装備を外すのがほぼ同時だった。


 殴られる寸前で左腕を右のサブアームのクロー部が掴み、ひねり上げる。

 右腕も、ほぼ同様に掴み上げる。


 ただ、これでは相手を捕縛しただけだ。只の拮抗状態。殺しきれない、とチハヤは思う。


『チハヤユウキ。当機のデータベースから敵のフレームウェポンを特定しました』


 いきなり、《ヒビキ》がそう切り出した。


「はい? 特定?」


『肯定。敵フレームウェポンは型式番号《DZ106》の派生機と推定。胴部の装甲は特殊合金、及び一体鋳造により非常に強固です』


 なら、この《ナースホルン》は元々《プライング》と同じ世界から来た機体のなのだろうか? あるいはその設計書を元に造ったか。


 それよりも、チハヤは《ヒビキ》にキツい口調で訊ねる。


「なんでそれを先に教えてくれないんですか!」


『原型機と外装が大きく異なるため、こちらが未知の機体と判定を下していたからです。先程、原型機と骨格が似ていると判断したためバックグラウンドで照合した結果、胴部装甲が全周に渡ってかなり分厚くなっているのと拡張フレーム以外は一致、と結論しました』


 全く、今までの対策案は何だったのかしらとチハヤは悪態をつく。


「それで? 弱点はありますか?」


『関節―――または装甲の隙間なら。このフレームウェポンは頭部真下にコクピットがあります』


 流石、と。聞きたかった情報だ、とチハヤは一人ごち、《プライング》を次の行動へ走らせる。


 左手をナイフから手放し、ブレードライフルを握らせる。

 そして正面から装甲の隙間を狙って、《ナースホルン》の首を狙って、ブレードを横に寝かせて突き刺した。


 敵リンクスの頭部が浮き上がり、ブレードを持ち上げるだけで切り取る。


 モニターに、構造材の隙間からコクピットらしい物が映る。


「ここね」


 チハヤはこのままブレードライフルを叩きつけようと思ったが、ブレードライフルの長さでは首周囲の装甲に阻まれてしまいそうだ。


 ならこうしましょうと、マシンガンの銃身を右手で掴み、振り上げる。


 そして、コクピットの上からマシンガンのストックを叩きつけた。


 マシンガンは程よく食い込み、潰していく。


『敵フレームウェポンのジェネレーター駆動音の低下を確認―――熱源反応消失』


 マシンガンから手を離し、サブアームも相手の腕を離してから《プライング》は下がった。


 首から上をブルパップ式のマシンガンに変えた《ナースホルン》は前へと力なく倒れた。


『敵機撃破を確認』


「ええ、そうね。これで安心して寝られるわ」


 チハヤは凶悪な笑みで誰かに言うつもりでもなく続けて言った。


「なかなかいい墓標ね。一人の人間には贅沢すぎるかしら」



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