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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第二章]それを止めない
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待機、暇潰し、対策



 さて。


 オルレアン連合軍第八騎士団、通称『フォントノア騎士団』のリンクスパイロットの通常業務について話そう。


 オルレアン連合とランツフート帝国が睨み合う街にしてノーシアフォール発生地である街、レドニカ。


 その街を囲うように両陣営の基地が点在している。北側は帝国が。南側がオルレアン連合。僕が所属しているフォントノア騎士団はその南側でも最東端の基地に駐留している。


 『ノーシアフォール』から異世界の物資が降りだす『コーアズィ』なる現象が発生すると、両陣営で近い基地にいる部隊が即座に展開し、落下地点に急行する。場合によってはこの間に互いが互いを足止めしようと妨害することもある。


 落下地点に到着した部隊は自分達の陣営の色である信号弾を空に打ち上げ、どちらが先に着いたかを証明する。信号弾を確認したら展開中の部隊は戦闘を終了し、物資の回収に移るなり基地へ帰投するなりする。


 ―――が、大まかな業務である。


 『ノーシア条約』で定められた分所々面倒であるけど、なかなかに安全(・・)ではある。


 何せ、交戦せずに済む事が多いのだから。




「緑玉三発。向こうが先、か」


 《プライング》のコクピット内で呟く。


 今日、初の『コーアズィ』争奪戦に参戦したのだけれど、どうやら向こうが先に落下地点を押さえたようだった。


 空中へ《プライング》を飛ばし、帝国のリンクスを視界に入れる。


 三機が揃っており、こちらよりも味方が来る方角を見ている。

 何機かいなければ信号弾を上げてはいけないのだが、向こうはちゃんと揃っていたようです。


「三機揃ってる。これ以上はダメね」


『了解。全機基地へ帰投せよ』


 ベルナデット団長の指示が飛び、参加していた十機は転進しだす。


 私も《プライング》を振り返えそうとした時、ピッ、とアラームがコクピット内で鳴る。


 機体正面、『コーアズィ』落下地点にいるリンクスの一機が拡大表示された。水色、紫、グレーの三色で塗装されたずんむりとしたシルエットのリンクス。


「《ナースホルン》」


 この前仕留め損ねた機体が、こちらを見ていた。


『チハヤ? どうかしたの?』


 アルペジオからの通信が入る。空中でホバリングし続ける《プライング》を見て気になったのでしょう。


「なんでも」


 次、交戦する時はちゃんと殺さないと。


 私はそう思いながら、《プライング》を転進させ、帰路についた。




 待機するのも仕事である。


 前回の出撃から四日。


 リンクス格納庫で僕は今日の当直と共にポーカーに勤しんでいた。因みに現在、僕は二連敗から一勝上げての全チップ賭け。他の皆さまも僕のノリにのってくれてるので同じ賭け金である。負ければ灰になれるかもしれない。そしたら篝火(かがりび)探そうか。


「これでどうだ!」


 ベルナデット団長が余裕の表情で手持ちのカードを見せる。

 おお、スペードの9で4カード。もしくはフォー・オブ・ア・カインド。もしかしたら他の二人と比べたらなかなか強いかもしれない。


 そんなことを思いながらも僕は手持ちを見せながら、


「……僕の勝ちかな?」


 ダイヤで揃えた一〇、J、Q、K、Aを出す。つまるところ。

「ロイヤル……ストレート……フラッシュ……」


 団長含む三人と、僕らのポーカーを見ていた騎士団の皆さまの表情が固まる。


 長く感じる短いフリーズ時間を過ぎてから、


「「「だぁぁぁあ!」」」


 団長含む三人が頭抱えだした。どうやらこれ以上の手札は無いようだ。わかってるけど。


「これで最初の賭け金の三倍は得れたね。降りるよ」


 欲言えば三人の財布をもっと薄くしてあげたいけど、やり過ぎは良くない。ので、いいところで勝ち逃げ。


「何故だ……クズしか……」


「団長……サマ使ってこれは……」


「ラッキーなわけが……」


 がっつりとお金を取られた三名が呻き声を上げだした。やっぱりしてたのか。


「チハヤ、なかなかいいカード切れたじゃない?」


 長い金髪を二つに別けた少女、アルペジオ・シェーンフィルダーが訊ねてきた。


「うん。まさか二枚引いたら揃うとかびっくりですよねー。もっというと博打で人からお金巻き上げるのって最高に愉しい」


 もっとやれば良かったかしらんと続けて言ってみる。


「はー……。可愛い顔してホント性格悪いわねー。やり過ぎはよくないわよ? 博打は人をダメにするわ――って貴方にはもう遅いか」


 なかなかに辛辣な事を言ってくれるお姫様だ。


「ひどいなぁ。博打はほどほどにしとくよ」


 そう言いつつテーブルから離れる。程よく離れた辺りで、アルペジオは声を小さくして訊いてきた。


「それで、イカサマしたでしょ?」


 あ、わかったんだ。


「うん。したね」


 声を落として、悪びれもなく肯定する。


「向こうが三人揃ってイカサマしてたのわかった?」


「よく知ってる。団長絡みのポーカーは大体イカサマしてきてるわよ。だから団長がいたらポーカーはやらないのが一番ね」


「そうなんだ……って、みんな知ってるのか。まあ、あの手は二回やれば判るね。だからイカサマ返しさせてもらった」


 もしイカサマだって言われたら相手のイカサマの種明かしするつもりだった、と付け加えておく。あんな解りやすい手はすぐバレるのに。


「タネわかったのね……。というか、イカサマ出来たのね」


 うわぁ……、みたいな表情で言うアルペジオ。


「うん。知り合いにカジノでイカサマしてた人がいて、『勝てばよかろうなのだー』などと言いつつ教えてくれたのよ」


「なんて人と知り合いなのよ」


「神父が異国の人でいろいろな付き合いから」


 正直、僕の知り合いの中で神父の人脈が一番の謎である。たまにやってくる客人に、武器商、元マフィア、現役傭兵、怪しい運び屋、元スペツナズ――なんでもござれな方々が来るのだから。

 血と泥と硝煙の匂いしかしない。堅気じゃないのばっかりである。僕が居た孤児院、社会的な意味で大丈夫なのだろうか? 今となっては確かめる術はないけど。


「それにしてもチハヤって芸達者ね。料理、音楽、トランプでのイカサマ。他に何が出来るのか聞きたいわ」


 アルペジオに言われて見て、確かになぁと思う。まあ、ほとんどが練習に次ぐ練習で習得した、最終的に無意味だったと言える理由による努力の結晶なのだけど。


「錠抜けとかピッキングとかも出来るけど」


「……持ってて使うような場面あるのか聞きたいわ」


 呆れられた。まあこの辺の反応は当然か。


「それにしても、この世界にトランプどころか各種ゲームまで浸透してるとはね。ノーシアフォールは恩恵の宝庫だな」


 異世界から技術から遊びまでなんでも流れてくる、という事実は僕にとっては少々、安堵に近い気分だ。何もかもが全く見たことの無いものだらけよりも、知っている物があるのはある種の安心感がある。


「貴方の世界、もしくは平行世界にもあるってことよね。世界は違えども考える事は同じ。人間はそこまで大差ないってことかしら」


「大差あったら困るよ。美味い食べ物が不味いという認識だったら最悪だ」


「貴方の世界が不味い食べ物だらけじゃなくて良かったわ。お陰で毎日美味しい思いが出来るもの」


 褒めたって何も出ないし出さないぞ。


 そう言ったら、そのうちクッキーとかの焼き菓子ぐらいは出してくれるじゃないとか言い返された。


 ごもっともで。


 そう言って僕は昨日支給されたばかりのタブレットPCを起動させる。

 いくつか操作して、ある機体の映像データを見る。


「《ナースホルン》?」


 そのずんむりとした機体を見て、アルペジオがそう訊いてきた。


「そう。団長に頼んで集めてもらった。この前の襲撃から確認出来るだけ全部」


 もしまた相対する機会があったら、撃破するつもりだからだ。

 その為にも相手を研究し、対策を講じらなければ。


「思ったより《ナースホルン》大きいな。全長は《マーチャー》よりも頭ひとつ分はあるのに、前後どころか横にも大きい」


 この前の襲撃では、それなりに暗くてわかりずらかったが、単純な体積なら、通常リンクスのニ、三倍は、前後や横にも大きい。


「これでいて私たちの《マーチャー》と変わらない機動力で動き回るのよ? 装甲の固さといい、反則レベルよ」


 アルペジオからそんな言葉が出た。

 確かに、戦闘データ内の《ナースホルン》はなかなかきキレのある動きをしていて、瞬く間に《マーチャー》を両断していた。


 重装甲に物を言わせた突撃。ハルバードによる接近戦での一撃離脱。

 それが《ナースホルン》の―――ひいてはフリーダ・ゲストヴィッツの戦法なのだろう。


 映像の一部を拡大し、それを見つけた。


「全身にブースターがあるのか」


「パイロットへの負担考えているのかしら……。動かすとき違和感があるはずだけど……」


「それを理解した上で全身にあるんだろうな。これなら……」


「これなら?」

 

 パッと見だが、《ナースホルン》はかなりの重装甲だ。それを通常リンクスと遜色ない動きが出来るようにするには。

 全身にブースターを設けて機動力の補助、補填にする。

 人工筋肉を出力が高いものにする。

 フェーズジェネレーターを高出力にしてコンデンサも容量を増やせば。

 これなら通常リンクスと同レベルまでいけるだろう。


「うん。そうしよう」


「一人で結論を出さない。貴方の考えを教えなさい」


 一人で解決策を出した僕に、彼女は説明を求めてきた。

 僕は自信満々に答える。


「機動力を奪えばいい。どこの誰だろうが通じる単純な方法だね」


 あとはやって見せるだけである。


 ミスったら?

 僕が死ぬだけだ。

 

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