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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第八章]ドッペルゲンガー
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格納庫で③




「そっち―――オルレアン連合側に救助された人で私やゲオルクのような身体的特徴のある人とかいない?」


 話題転換に、ナツメ大尉がそう口を開きました。


 露骨に話題を変えてきましたが、私としても気分のいい話題ではないのは確か。


 渡りに船、と行きましょうか。


「ナツメ大尉やゲオルクさんのような身体的特徴、ですか」


 そう尋ねられて二人を見て、思い当たる人物は一人しかいません。


「ナツメ大尉よりも長い、尖った耳の金髪美女なら」


 その言葉にナツメ大尉が「おお」と嬉しそうな表情を浮かべます。


「連合では初めての人種っぽくて少し騒がれましたね」


 その人(フィオナさん)が来たのはあなた達がここで活動をするようになってすぐの頃です、と思い出しながら答えます。


 そう考えると、彼女がこの世界に来てからそんなに時間が経ってないのですね。


 ―――随分と長く居たような気がします。


 そんな私の発言に、二人はどこか怪訝そうな顔をします。


()()()()ではなくて?」


 次に出た言葉に、私は少し驚きます。


 オルレアン連合―――正確にはフォントノア騎士団内ではフィオナさんは人間の十倍は生きる長命種のエルフという種族ではなく、尖った耳が特長を持つ人種扱いです。


 それは『エルフ』自体がオルレアン連合では確認してないようだったのと、『人間ではない』という理由で非人道的な事をさせない為の嘘―――私もそれを知らない人間という立場―――なのですが。


「お婆様曰く、種族違いもあるけど人間の六倍から十倍ぐらい寿命の長い種族よ?」


 そのオルレアン連合が知らない事実を、あっさりとナツメ大尉は口にしました。


 お婆様―――きっと、ではなくて間違いなくその人は異世界人で。

 それもフィオナさんのようなエルフなのでしょう。


 帝国(こっち)ではエルフは長寿というのは常識なのでしょうか。


「コイツ、嘘をついてたぞ。知っててそう言ったくさい」


 ゲオルクさんが半目で私をにらみます。


 これはもう隠しても仕方ないでしょう。


 そもそも目の前にはその血縁者らしいナツメ大尉がいますし、異種族っぽいゲオルクさんもいますが。


「帝国では、エルフはそれなりの数を確認しているのでしょうか?」


 一先ずの質問。


「私のお婆様を含めて今日までに二十人ちょっと」


 その質問に素直に答えてくれました。


 意外とこの世界にも来ていたようです。


 本当に数える程度ですが。


「俺の親父―――《ドワーフ》っていう種族らしいが、そっちは二十人足らずってところだ」


 今度はゲオルクさんの回答。


 ドワーフ―――背が低くて酒豪ばかりで、採掘や鍛冶が得意な種族だったでしょうか。


 ともかく、ナツメ大尉やゲオルクさんの言動が本当ならば、それなりの数のエルフやドワーフが帝国にはいるのでしょう。


「意外と、こっちにはいるんですね」


「やっぱり知ってた口だ」


 がはは、とどこか愉快そうに笑うゲオルクさん。


 対照的にナツメ大尉は怪訝そうな顔のままで口を開きます。


「知ってて黙ってるっていうのは気になるわね」


「不老不死―――とはいかなくとも不老長寿、と聞いてそのカラクリを暴いて自分をそうしたい―――なんて考える権力者やマッドサイエンティストがいない、なんてことありませんよね?」


 一人もそういった種族を確認していないならなおさらです。


 その言葉になるほどと二人は相づちを打ちます。


「―――適当に『人間ではないから』って理由をつけて解剖とかするかもしれないってか。まあ、確かにやりかねん話だが」


 ゲオルクさんがバツが悪そうにこっちでもあった動きだからなと、頭を掻きながら言いました。

 そして話が長くなると言って壁際に設けられたベンチや丸イスが置かれた休憩スペースを指差してあそこで話そうと提案してきました。


 チハヤのエンブレムの手直しは時間が掛かるから、とも。


 私はそれに頷いて、私たちはそちらへ移動します。


 私はベンチに座り、その後ろに監視役さんが立ちます。


 そして目の前に丸イスでゲオルクさんとナツメ大尉が座って、話が始まりました。



 曰く、《ノーシアフォール》発生から初期の頃だそうです。


 降ってくるもの全てがまさに宝の山だった時代。


 その頃にも、エルフやドワーフは確認されていたようです。


 そして、同時に来ていた異世界人の伝えた情報が彼らの悲劇の幕開けだったのだとか。


 真っ先に研究所に送られて生体サンプルとしての監禁と、書類から消された非人道的な実験。


 それもたった一年で終わりを告げたのだとか。


 その幸運は、歴代皇帝の中でも温厚だった当時の皇帝が抜き打ち視察でやって来たことだったそうです。


 その非道を知った当時の皇帝はあまりの事態と所業に激怒して関係者全員の処罰と左遷。

 被害者への直接の謝罪と今後の保証の約束とその実行によって丸く収まったのだそうです。



「わたしのお婆様がこの世界に来る前の話だったとか。それでも意識改革は厳しいわよね。その人自身やその家系なんて忌諱の目で見る人のほうが多いし。―――お爺様のおおらかさやお父様の偏見の無さを見習ってほしいものだわ」


 ゲオルクさんの説明に愚痴混じりに補足を入れるナツメ大尉。


「その様子ですと……ナツメ大尉はエルフのクォーターですか?」


「その通り。更に言うとお父様も異世界人よ。あなたやチハヤみたいな黒髪の人間」


 個人的にはその色は羨ましい、と残念そうにナツメ大尉は言いました。


 そうですか、と答えたところで妙な疑問が浮かびました。


 エルフのハーフとかクォーターって、成長速度はどうなのでしょうか?


 そういう物語では人間よりも長命な種族は相応に成長が遅いとされますし、そのハーフとかであればその影響を受けて人間から見れば遅く長命な種族から見れば早い程度となるといいますが。


 その事を考えても、ナツメ大尉の話からして祖母がエルフであるならば母親はそのハーフで。

 その子供がナツメ大尉―――クォーターだというと、変な話になってきます。


 《ノーシアフォール》の発生は80年ほど前。


 その事を考えると、ナツメ大尉の出自はおかしくなります。


 エルフの祖母が子供―――ナツメ大尉の母親を産むのはともかく、成長が人間と比べて遅くなりそうなハーフの子が結婚して、子供(ナツメ大尉)を産むとなるとそれなりの時間が必要では?


 そしてその成長速度も人間と比べれば遅い、と考えるとナツメ大尉の外見上の年齢と実年齢が違うことがありえますが、もしそうであれば成長する時間が無さすぎるのです。


 そんな疑問、聞かないとわかりません。


「……ナツメ大尉はエルフのクォーター。なら、外見の年齢と実年齢は違う……?」


 わざとですが、あえて口に出して呟きます。


「……言っておくけど、実年齢相当に歳はとってるわ。もうちょっと幼く見られがちだけどね」


 ナツメ大尉は半目で睨みつつ答えました。


 付け足しで、母親も実年齢より若く見える容姿だけど耳が長い以外人間と同じように歳をとっている、と言います。


「エルフのハーフなら、人間より歳をとるスピードが遅い、と思ってましたが……」


「あー……。普通ならそう思うわな。何故か、そうじゃないんだよ」


 私の不思議そうな言動に、ゲオルクさんが口を挟みました。


「エルフのハーフとかドワーフのハーフとか、外見の特徴はそれなりに受け継ぐんだが、人間と変わらない速度で歳をとるんだよ」


「……どういうことですか?」


「どういうことって言ったってそのままの意味だよ」


 科学的に解明できていない話だ、と言ってゲオルクさんとナツメ大尉の説明が始まります。


 そもそもの発端は、75年前。

 あるエルフ男性(※自己申告で368歳。外見上は三十代中頃)と人間女性(※27歳)が異種族という壁を越えて結婚して子供が生まれて数年経った時。


 そのエルフの話ではハーフエルフもエルフとは違えど人間と比べれば成長が遅いという話らしく、その女性も覚悟していたそうですが肝心の子供は人間と変わらない速度で成長したそうです。


 外見的な特徴も受け継いでいるので純粋に人間とエルフの間の子供でしたが、成長速度はその人の予想より早かったのです。


 本人たちは成長速度の違いから来る差別やイジメに関しては安心を得たそうですが、今度は別の現象がその家族に降り掛かりました。


 そのエルフ男性は今から30年前に、まるで寿命を迎えるように息を引き取るという“事件”が起きたそうです。


 そして同時期、あるいは数年遅れで来たエルフやドワーフも似たように死んでいったとか。


 まだ十件にも満たない話ですが、どうにもこの世界に来たエルフやドワーフは容姿は来た時のままの外観年齢―――例えば人間で25歳あたりの容姿だとしたら60年後あたりに―――例外なく人間みたいに寿命を迎えるのだそうです。


 容姿は来た時のまま、だそうですが。


「簡単には信じられないでしょけど、それが事実よ」


 ナツメ大尉がそう話を締めくくりました。


 大変失礼ですが―――二人が嘘を言っている可能性も考えましたが、そう語る二人の様子は嘘を言っているようには見えません。


 HALならばあっさり裏を取ってくれるでしょうが……。


 それは無い物ねだり、ですね。


「貴重なお話、ありがとうございます」


 真実か否かはさておき、礼を述べて頭を軽く下げます。


 気がつけばチハヤと名乗る少女が私の隣に座って、スケッチブックを膝の上に置いてどこか退屈そうにしていました。


 《十字架を咥えた銀の狼》のエンブレムの手直しが終わったのでしょう。


「本当なら、あなたの知るエルフの女性に話すべきことなんだろうけど……」


「いえいえ。新鮮なお話で助かりました。部屋でじっとしているのは暇ですから」


 それに拍車を掛けるように話しかけても反応しない人の監視。


 これで退屈しないとか暇ではないとかいうのは無理な話です。


「もう少し話したらどう? アンディ」


 その私の言動に、ナツメ大尉は私の背後に立っている監視役さんを半目で睨みます。


 初めて聞きましたよ、監視役さんの名前。


 そう思っている私を尻目に、アンディと呼ばれた監視役さんはぶっきらぼうに口を開きます。


「任務に支障が出ることは極力避けるべきだ」


「真面目ねぇ……」


 その回答に呆れたのかため息混じりに言うナツメ大尉。


 その言葉に同意します。


 これでお話はおしまいでしょうと思うのと、隣に座る少女がスケッチブックを持ち上げるのが同時でした。


『用事はこれで終わり?』


 そのページにはそう書かれていました。


 書いて、ずっとそのままにしていたのでしょう。


「ああ、終わりだ。いいぞ、どこへでも連れてってかまわん」


 それを見たゲオルクさんはうなずきました。


「どこへでもはやめてほしいがな」


「アンディ、お前は少し空気を読め。五年ぶりに再開した姉弟だぞ」


「そうよ。一応捕虜だけどチハヤの家族よ? 足枷はしてるんだしちょっとぐらい大目に見なさいよ」


『黙ってろゴミクズ』


 アンディさんの発言に総員フルボッコです。


 特にチハヤを名乗る少女のは最早暴言。


 私は見逃しますけど。


 散々に言われたアンディさんですが忽然と言い放ちます。


「俺は自分の任務に忠実なだけだ。―――それに、血の繋がった家族と言えど究極的には他人だ。腹の内なんて誰にもわからん」


 そう言いきる彼を私の隣に座る少女とナツメ大尉が睨みます。


 睨まれてる本人はふん、と鼻を鳴らします。


 デリカシーがないとも、空気を読まないともいえる発言でしたが「腹の内は読めない」という発言は、私は否定できません。

 実際、企んではいますし。


 ―――もし脱走するならこの人が一番の障害かもしれません。


 そう表情に出さずにいる考えている私の服を、私に似た少女が引っ張って気を引いてきました。


 そういえばこの人、私に用事があるんでしたか。


「そうそう、何か用事があるんでしたっけ」


 なんですか、と尋ねてその人はスケッチブックに何かを書き始めたした


『そろそろ夕飯の時間。今日の夕食のメニューにハンバーグがある。ここのは美味しいから、あなたも味わうべき』

 

 そうスケッチブックで教えてくれました。


 時計は、五時半を指していました。


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