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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第二章]それを止めない
15/439

《XFK039/N53》について。



 デブリーフィングは終わり、僕はリンクス格納庫へと来ていた。


 理由、としてはやっぱり《プライング》で、模擬戦のデータ解析に専属パイロットである僕の意見が聞きたいと言う連絡があったからだ。試作装備のデータの他にも使った感想だって教えてほしいと言うのもある。《プライング》自体、この世界のリンクスとは設計思想から違うようなのだけれど。


「お、来たか。待ってたぞ」


 《プライング》のハンガー、くたびれた白衣を着た男がこちらを見て言った。


 彼はバレット・ウォーカー。オルレアン技術研究所の技師で、《プライング》専属の研究員―――正確にはリンクス専門のエンジニア(本人曰くシステム寄り)としてフォントノア騎士団に出向してきた内の一人だ。顔つきは結構な強面で、サングラスで隠れては居るが右目に火傷の痕があり、余計に恐い印象がある。見た目通りに柄もそこまでよくない。街を歩いてたら職質受けてそう、と僕は思う。


「データ取れました?」


 《プライング》の隣に置かれた機械を見つつ、そう聞いた。

 あの機械、スーパーコンピューターだろうか?


「いや、システムを完全に起動しないとダメだわ。実機の観測データは取れても、システム側のデータが取れねぇ」


 ばつの悪そうな表情でバレットは言う。


「仮で起動しても強制的に待機モードに移るし、コード繋いでも受け付けてくれねぇ。リンクスパイロットに頼んで起動したらしたらで、今度はAIが起動してないわ、アクセス出来ても肝心のデータまで読ませてくれないわでよー」


 溜息混じりだなぁ。


「バレットさんがリンクスに繋いで起動すればいいじゃないですか」


「おめぇの報告とこの前の件で判明した事を覚えてるか? 脳に直?接必要なプログラムを書き込まれるんだろ? んな危険な事したかねぇーよ」


 その言葉に僕は先日、研究者の一人が《プライング》を起動させようと自分に『Links』を繋げたところ、脳への書き込みの負荷で目、耳、鼻、果てには口からも出血―――病院送りとなったのを思い出した。

 運よく命に別状はなかったらしいが、結果として三ヶ月程の記憶が飛んだらしい。最悪死んでいた可能性も示唆された。そう考えると僕はかなり運がよかったらしい。


 まあ、その事から完全に《プライング》は僕専用という状態になっている。


 そして、プログラムを脳に書き込まれた男性でないと《プライング》は完全に起動しない。つまりは。


「ちと起動頼むわ」


「わかりましたよー」


 そう言って僕は《プライング》のコクピットに入り、『Links』接続用のカチューシャ状の端末を頭に着ける。


 コンソールに触れ、機体のシステムを立ち上げる。


 統合型汎用OS『那由多』が起動して、『Links』が立ち上がる。


 簡易適性診断で51.2%と表示され、全てのシステムを起動する旨を伝え、


『おはようございます。メインシステム起動。各診断開始―――。オールグリーン』


 《ヒビキ》が起きて、必要な事をこなしていく。


『システム、通常モードへ移行しました。待機します』


 ロボット好きが狂喜乱舞しそうな行程をへて、《ヒビキ》は起動シーケンスが終わった事を告げた。


「おはようございます、《ヒビキ》。調子はどう?」


『良好です』


「先ほどの演習で使った武装のデータを見たいと、バレットさんが言うので、データをコピーしても?」


『了解』


 《ヒビキ》が了承したので、バレットからゲーブルを受け取りコンソール手前、バイクでいうとガソリンタンクに該当するだろう部分のカバーを開いてコネクタを繋ぐ。私はコンソールを操作して、該当するデータ―――二二〇ミリ滑空砲と球形UAVの運用データを選択し、送り先を設定する。


「送りました」


「確認した。―――うへぇ、ここのプログラム入ってもない同然じゃねぇか……」


 バレットがノートパソコンの画面を見ながらそう言った。きっと未完成の部分があったのだろうと思う。プログラマー怒られるのでしょうね。


「しっかし、おめぇさん。リンクスに繋がるとトーンとか口調とかかなり変わるのな」


 そう言われて、あー、と声に出して考える。淑やかな口調、実はこれが素なんてなかなか言えないのです。


「これの負荷、かも知れませんね……。喋るとこっちが自然、みたいな感じです」


 これが実際そうなのです。喋ると自然な”私”の口調になってしまう。意識して“僕”のしゃべり方をしても、自分自身がそのしゃべり方に違和感を感じてしまう。


「まあ、貴重なデータになるからいいけどな。―――ここのプログラム一切使われてねぇ……。コイツのOSに取り込まられてんじゃねーか」


 どこのプログラムが、とバレットに訊いてみる。すると、滑空砲とUAVの制御周りだと答えが帰ってきた。


「滑空砲で話を進めるが、砲身に熱による歪みが発生してるんだが、この誤差修正を滑空砲のプログラムじゃなくて《プライング》のOSがやってんだ。―――で、このOS自体が凄いんだ」


 そう言う彼の声は、とても喜色が混じっている。


「この《那由多》……だっけか? 滑空砲とUAV、その装備とドライバを解析して、勝手に組み換えて(・・・・・・・・)、自分のOSに取り込んでいるんだ。で、この組み換えられたプログラムは元のプログラムよりもメモリ容量がグッと少ない」


 それはつまり?


「最悪、試作兵器の実物だけを装備しても、ドライバを自分で用意して運用する事が出来るって事だ。敵の装備を奪って使う事も可能だろうよ」


「それでは、この前の襲撃で試作ライフルを使えたのはそれが理由?」


 私はふと思った事を訊ねる。異世界から来てそのままだろう《プライング》が、この世界の装備をなんなく使える事に、少々不思議に思ったからだ。


「いや、手持ち武器とかは関係ない。ライフルとかブレードとかシールドとかは、リンクスにとってはパソコンでいうところのマウスとキーボードみたいなもんだよ」


 手の形状は違うが、規格自体はオルレアン連合軍の規格内であり、掌に使われている銃火器電力供給、及び情報交換システム《ストランディング》も搭載されているから出来た事だとバレットさんは教えてくれた。


「でもまあ手持ち武器に限って、だがな。肩や腰にマウントして使う滑空砲とか電子戦機で使うUAVの情報のやり取りはハードポイントを解してやらなきゃならんが……。コイツはなぁ……」


 彼のその言葉の続きは、私はよく知ってたりします。


 ハードポイントの規格だけはオルレアン連合軍規格とは違うのです。当然ですがもちろんランツフート帝国の規格でもない。


 なので連合軍規格で設計された滑空砲、UAVコンテナと《プライング》のハードポイントは全く噛み合わないのです。それを克服するために、中継パーツを現場で作成して繋ぐという簡単で困難な手段によって《プライング》は滑空砲とUAVを使うことが出来ている。


 ハードポイントを換える―――という手段もあったけれど、そもそもハードポイント内の端子の規格、数からも違うのだから余計に困難を極めた。


 互換の利く端子を選んで滑空砲などに繋いで稼働テストを繰り返してやっと出来たもので、作戦行動中は極力パージするなとバレットやゴーティエから言われてたりしてます。


 端子の問題は、というか大きな問題はそれだけである。滑空砲等の保持自体はサブアームのクロー部がフレキシブルに稼働し、対象を挟むように保持するためそこまで苦労しなかったから。この機構だけは研究課題だ、とはバレットさんの弁です。


「よし、データの引き抜き完了。もういいぞ」


「わかりました。《ヒビキ》、接続解除して、全システム停止」


『了解です。お疲れ様でした、チハヤユウキ』


 そう言って《ヒビキ》は《プライング》の全システムを停止した。


「それで、この機体の解析ってどこまで進みました?」


 バレットを見上げながら、僕の口調で尋ねる。


「おお、口調が戻った」


 バレットさんはニヤニヤとしながらも、その問いに答える。


「《プライング》こと、《XFK39/N53》。こいつはどうやら試作機にして量産を前提としている設計ってことがデータの解析で分かった」


 返ってきたのは驚きの事実だ。


「試作機にして量産機? これが何機もあったってことか」


「製造番号の記載があってな。『先行量産/製造番号127番』って文字の羅列が出てきた」


 それって、この機体と同じ性能の機体が最低でも127機はいたってことか。

 そしてこの世界のリンクスを軽く圧倒するだけの性能を有する。もといた世界はどれ程の技術力を持っていたのだろうか?

 もしくは、これだけの性能を要求された、だろうか。ここまでしてまで対抗せざるを得ない何かが相手だったか。

 考えても仕方ないことか。



「そもそも、だ。この機体が回収された時、コクピットに死体が入ってたんだよ」


「うげ……」


 流石にそれは引くわー…。

 南無阿彌陀仏。いや僕の信仰的にここはアーメン、か。


「そいつは男性だったんだが、コイツの設計者か開発者かだったのか……。荷物にこの機体の設計図面のデータがあったんだよ。その図面のお陰で機体の予備パーツがすべての造れるんだが……」


 更には、細かいレベルで各部ユニット化が進んでおり、手が破損したら肘から先を交換するとか、挙げ句の果てには機体中枢部のコクピットブロックと頭部以外を全部交換することが出来るのだとか。

 性能、見た目以上に整備性はかなりいいらしい。


 なるほど、だから予備パーツは造れているといった訳か。

 回収して一年以内で分解して部品の寸法拾って組み立てなんて出来るのだろうかと思っていたのだけれどそんな事情があったとは。納得。


「もし彼が生きてたらいろいろと教えて欲しかったよ」


 ここで彼は一区切りおく。その表情はとても語り気でもあり、どこか不思議そうだ。


「それでな。コイツは、OSはコピー出来ても、AIがコピー出来ない」


「それは意外ですね」


 《プライング》のOSは統合型汎用OS《那由多》が使われている。これは先程語られた通り、勝手に装備を解析して装備のドライバを自分で用意するようなOSである。これを解析しようと量子コンピューターを持ってきてコピーしたという。


 けれど。AI―――つまりプログラムである筈の《ヒビキ》のコピーが出来なかったという。


 OSがコピー出来たのに、AIがコピー出来ない。どちらもプログラムの筈なのに。

 道理に合わないぞ、とバレットは不思議そうに言って腕を組んだ。





 データの引き抜きが終わり、僕は《プライング》から降りる。


 まだ機体自身は整備中であり、専属パイロットであっても整備出来なければ邪魔者でしかない。


 次に話す人を見つけ、とても気が向かないが声を掛ける。


「エリメールさん、来ましたよ」


「お、麗しのユキちゃん。早かったじゃないか」


 先ほどの演習で使ったUAVの前で、つなぎ服を着た美女がこちらの姿を見て言った。


「ユキちゃん言うのやめてもらえますか? 名前がユウキなのは間違いないですが、だからって可愛いからという理由でそう呼ばれるのは抵抗あるんですよ」


 孤児院で諸事情により『ユキ姉』などと呼ばれてはいたけれども。


「いいじゃないか。あたし、かわいい子よー?」


 エリメール・ベルリオーズ。オルレアン技術研究所、リンクス用装備開発部門の設計主任。顔立ちがはっきりしていてプロポーション抜群の美女である。年齢に関してはまだ三〇超えてないとのこと。我らが団長、ベルナデット氏同様独身。


 正直に言おう、僕はこの人にいい印象を持っていない。


 初対面があまりよろしくなかった。


 いや、あまりどころでもないか。


「やーん可愛いー!」などと言われ、その日の内に着せ替え人形じみた洗礼(騎士団の皆さんによる未使用もしくは着なくなった服の積極的な提供。なぜサイズ合うんですか)を受ければ誰でも―――前言撤回、男性として初対面は最悪だった。

 男としての尊厳を踏みじみられた気分である。


 最後は息を荒くしたエリメール女史と女性団員に追いかけられる始末である。スカート上げて全力で逃走するドレス姿の美少女(※女装した僕)と追いかける女性騎士団員の鬼ごっこは傍目には壮絶だったらしい。僕にとっては絶体絶命の熾烈な逃避行だった。

 鬼の副団長の部屋に逃げ込み、助けられなければ僕はあの後もっとひどい目にあっただろう。神様仏様副団長様‼ ホントそんな気分である。


 その後、個人的にちゃんと復讐しましたよ?

 ええ、夕食を唐辛子やら何やらで赤く染めてあげましたとも。

 炊事係怒らせたらどうなるかを身をもって経験してもらいましたとも。


 そんな蛇足はさておき。リンクス用装備開発部門、といえば予想はつくだろうけど《プライング》が使用してる二丁の試作ライフル、二二〇ミリ滑空砲、試作UAVを開発したところである。


「早速だが、どうだった? このUAV」


「いいですね。作戦地域上空から索敵出来て、各種観測データを収集出来て」


 滑空砲による狙撃で先手打てたのはこれのお蔭と僕は答える。


「それは良かった。《マーチャーC3型》用に作った甲斐があった」


「《C3型》?」


「《マーチャー》の電子戦仕様、C系列機の三つ目。複座の航空型索敵機だよ」


 知らないのか、と言われたら肯定するしかない。この世界の兵器事情どころか軍の構成すら知らない文字通り素人だ。訓練していてもリンクスによる演習ぐらいで、座学なんぞ一切していない。


「それじゃ、《マーチャー》の派生機知らない訳だ」


 その言葉からエリメールさんによる《マーチャー》に関する授業が始まった。



 オルレアン連合軍の主力量産機が一つ、《マーチャー》。型式番号は《OML-07》。


 四十年ほど前から使われている機体であり、オルレアン連合軍では最も使われている機体でもある。


 初期型と言われる《マーチャー》(無印、オリジナルとも)。


 装甲防御力、及び火力支援用に調整された《A系列機》。


 対リンクス戦を想定し、軽量化、高出力化した《B系列機》。


 エリメール氏が言った、索敵を目的とした電子戦仕様にして複座仕様《C系列機》。


 《A系列機》と《B系列機》を代替する目的で新規設計、製造された《D系列機》(通常仕様、隊長機仕様、装甲防御力強化仕様、火力支援仕様など)。


 そして《D系列機》をベースにした《マーチャー》シリーズのハイエンドモデルと言える、特殊部隊及び騎士団仕様の《E系列機》。


 《マーチャーE2型》の『E』はE系列を示し、『2』は細部の仕様を示すとのこと。つまり、先ほどエリメール氏が話に出した《マーチャーC3型》は電子戦仕様のC系列、三つ目の仕様機ということになる。



 ここまで話を聞いて、ふと疑問―――どちらかといえば気になったところがある。


「《マーチャー》のオリジナルとA系列とB系列はどうなったんです? D系列が代替したんですよね?」


「そいつらは退役済みだよ。一部は訓練機になってる。オルレアン連合の辺境とか、連合外の国に売られた機体もあるな」


 耐久年数はまだあるからオーバーホールすれば現役でも使える、とエリメールさんは言う。どれだけ耐久年数あるのやら、と言ったら五、六〇年はあるとのこと。


「今のオルレアン連合軍の……いやこの世界の技術じゃそれぐらいだな。回収したリンクスの中じゃ、数百年ぐらいの骨董品まで存在してる」


 どんな工業製品だ。


「細かい話はいずれ誰かが教えてくれるさ。私の専門は兵器開発だし」


 そう言ってエリメールさんは手元のタブレット端末に視線を落とす。


「それしても、よく《プライング》に載せる武装ありましたね、滑空砲とか。僕のリクエストとはいえ、すぐ作れるものじゃないでしょうに」


 これも疑問の一つだ。《プライング》の専属パイロットにされてすぐに、武装の選択でライフル以外に滑空砲も欲しいと言ったらすぐに来た装備だからだ。


「二二〇ミリ滑空砲かい? あれは元々《マーチャーD3型》、火力支援仕様の固定兵装として開発したものなんだよ」


 返ってきたのは意外な経緯だった。


「《マーチャーD3型》の? 元々って、じゃあ今は?」


「一八〇ミリ滑空砲を装備してる。開発トライアルで、一八〇ミリか二二〇ミリかで争ってねー。どちらも大差ない射撃精度だったんだけど、二二〇ミリが反動軽減機構アリの癖にバイポッド無しじゃ反動に耐えれないのと、携行出来る弾数の差と重量で一八〇ミリになったのよ」


 じゃあ、《プライング》が使った二二〇ミリの滑空砲は、トライアルでは一八〇ミリに負けて採用が見送られているのに何故あるのだろうか。


「まあ作ったのはいいけど、トライアル結果が見送りだったのが悔しかったのか。開発担当者が研究課題として倉庫に大事に仕舞ってたのよ。そしたら貴方が滑空砲欲しいって言った時に、これ使えって持ち出したの」


 そしたら大当たりだったわけか。その開発担当者、自分が開発担当し採用見送りされた滑空砲が、訓練とはいえ最新の《マーチャーE2型》を相手に次から次へと撃破判定を叩き出すという結果に、嬉しくて嬉しくて泣いてるだろうな。


 なるほどと頷きつつ、次の話に移らないと。長話していたら何をされるかわかったものじゃない。


「UAVはなかなかよかったですよ。展開が早かったし、相手を常に上から見れたのは大きかった」


「それは良かった。ノーシアフォールで回収したUAVを大型化してリンクス用に改造しただけだったんだけどね」


 先ほどの演習で使った球形UAV。プロペラ一枚でホバリングし(反動トルクはフレーム内部の翼等で姿勢制御に利用しているらしい)、急加速、急停止、地面を転がるなど変態的な機動が出来るんだとか。なんかどっかで見たことあるような気がしなくもない。


「このテスト結果なら採用トライアルで採用確定ね……。うふふふ……」


 エリメールさんが気持ち悪い笑いを上げ始めた。


 そんなことよりも、何か訊くことが他にもあった気がするのだけれど、それが何かが思い出せない。まだ十七なのにこの記憶力では先が不安だ。二十代前半でおっさんかと言われてしまうかもしれない。


「そうそう、良くないお知らせがあるんだけど……」


「話を聞く前に、警察か秘密警察か憲兵か副団長か。この中で一番嫌なのを選んで貰いましょうか。この前みたいなことはお断りだ」


 変なこと言われる前に釘を刺しておく。


「どれも嫌だわー。―――ってそうじゃないわよ《プライング》が装備だからしてた、プラズマブレードの件」


 それを聞いて、それが聞きたかったんだと思い出して納得する。

 この前の襲撃で、帝国軍のリンクス、《ナースホルン》の腕を切り裂いた後に煙を吹いた装備が修理可能かどうか。もしくは修理で何日掛かるかの話がしたかったのだ。


 現状、あのリンクスの装甲は既存の火器、実体ブレードでは貫く事も出来ない。腕だけとはいえ、唯一切り裂く事が出来たのは《プライング》が装備していたプラズマブレードだけだ。

 これがあれば、と僕は思っている。


「でも、良くない知らせって……」


「ええ。残念だけど、プラズマブレードは修理出来ないレベルまで内部が焼けてる」。


 現状を話ながら、カバーが外されたプラズマブレードの発振器へと足を進める。


「生産については可能よ? 触媒の金属も調達出来る。でも……」


「でも?」


「プラズマ生成、ブレード維持に発生する膨大な電力に耐えれるトランジスタやら半導体がない」


「ん? さっき生産可能って言いませんでしたか?」


 ちゃんとその言葉は聞いてる。


「ええ、“《プライング》が回収された時点での装備だったプラズマブレードと同じ物”なら生産は可能よ。でも、これが使用に耐えれなかったの」


 つまり、装備してたブレードの回路自体が駄目だったってことだ。同じ物を作っても、同じように壊れる。


「だから、耐えれる物を作らないといけないんだけど、プラズマ兵器の研究開発状況は良くないのよねぇ」


 砲にしても回路が焼ける、サーベルにしても回路が焼ける。それどころか消費電力も高すぎて電力供給及び情報交換システム《ストランディング》の許容量を超えてるためリンクスで扱うなら電力供給用のケーブルが必要になる。そもそもフェーズジェネレーターの出力が足りない―――等々、課題だらけ。


「だから、この子が持ってた発振器は宝のようだったわ。これでプラズマ周りの兵器が実用化出来る、って」


 そしてプラズマブレードの発振器の前に来た。


「そしたらどう? 使ったら回路が焼けました? それって中の半導体まわりは全然完成されてないものじゃない……」


 そこまで言ってエリメールさんは頭を抱えて、


「なんで欠陥品を装備してきてるのよ! 来るなら完成品にしなさいよ! 装備させた奴がいたらモンキースパナでぶん殴ってやりたい!」


 挙げ句の果てには怒り出す始末。ぶつける相手が居ないのだから、怒りのやり場に困る。


 僕は逆に使い捨てにすればいいじゃないとか思うわけだけども、流石に高価になるだろう装備を振る毎に壊して棄てるのはなぁ、とも思った。積載出来る量だって限られるわけだし。


「じゃあ、これは使えないくて、なおかつ作っても欠陥品な訳か」


 あの機体(ナースホルン)の装甲を相手するのに対抗手段がない、と言うわけか。もし、欠陥品を装備して出たとしても、向こうはこれを警戒して対策してくるだろう。使用に短時間しか使えないのならばそれでお仕舞いだ。


 ならば何か、他にいい手は無いだろうか?


 僕は中が真っ黒になった発振器を見ながら、思考を巡らせた。

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