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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第七章]年末にて、龍と狼と魔法少女と
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?????




「おーおー。言い争ってる言い争ってる」


 人型のロボットがスピーカーで言い合っている姿を、遠くから見ている人間がいた。


 性別は男。

 見た目では、年齢は十代後半。


 顔立ちは中性的で整っていて左目は青い。

 右目は眼帯の代わりか五枚の花弁を持つ花が咲くように生えている。

 長く伸ばした黒髪はポニーテール状に結っている。

 黒いロングコートを着ていて、編み上げのブーツを履いている。

 背中には一本の幅も厚みもある大刀を背負っていた。全長は少年の背とそう変わらない。


「まあ、殺しあわずにちゃんと対話による解決を目指しているだけ、俺たちの世界の大多数の皆様よりはマシか」


 そう言って少年は一息ついてから瓦礫の上に腰をかける。

 ちょっと休憩という気楽さだ。


「間に合ってよかったね、わたしの可愛いメルツェル」


 どこからともなく、舌足らずな少女の声がした。

 声だけで年齢を推察するなら、少年と同世代だろう。


 しかし、少年の周りには誰もいない。


 周りにはあるのは瓦礫と土くれだけだ。


「ホント、びっくりと冷や汗ものの連続だよ。繋がっちゃいけない異世界がこの世界と繋がっちゃってるのもアレだけど、そこからあんなものが来るなんてさ」


 メルツェルと呼ばれた少年は、急いで跳んで来て正解だったと安堵する。


「あの機龍と戦うことになる、と思ってたけど―――この世界(・・・・)の兵器も、なかなかやるね」


 そう言って遠くの人型兵器を見る。


「ホント、うまくやったよ彼女たち。その蛮勇と根性を讃えてあげたいね」


「……メルツェルがもっと早くこの世界に来ていれば彼女たちも苦労しなかったと思うんだよね?」


「無理言わないでくれよ。あの異空間、時間の流れが面白いぐらい乱れてるんだから、分単位の遅れは勘弁してほしいよ」


 実際、軍艦のレールガン発射には間に合ったんだし、と空に浮かぶ三胴艦を指差す。


「ギリギリもいいところだけどね……」


 げんなりした声音で少女は言う。


「あとちょっと遅れて、機龍のジェネレータのケーブル切断してポッド二つ引っこ抜いて緊急停止させてなかったら、核爆発だったよ? 間に合ってよかったけど……」


「……常温核融合炉が動力源とか、何考えてるんだか」


「しかも、元々兵器じゃなくてモータースポーツみたいな競技用だっていうね」


 その少女の言いぶりはどことなく愉快そうだった。


「新しいおもちゃで遊びだすのがヒトなんだろうけど、限度はあるだろ……」


 メルツェルは呆れてら大きくため息を吐く。


「暇をもて余してたんだよきっと。あれを造った人たちはね」


「少しは加減しろってんだ。処分するのが自分たちじゃないことを考えてさ。面倒は嫌いだよ」


「そう言いながらやってくれるあたり、メルツェルはお人好しさんだね」


 放っておけばいいのに魔法少女と少年をプラズマキャノンから守ったんだから、と面白そうに少女は言う。


「助ける義理はあったろ? ―――しかし、よくもまあ、あんな防御魔法でプラズマキャノンを防ごうとするとは無謀もいいところだね。こっちが『(シールド)』を張らなかったら消滅してたぞ」


「間に合わなかったら、じゃないの?」


「見えていれば間に合う場所だったからね。今なら姉さんのバックアップ有りでノータイムの時空間跳躍できるし。それで―――」


 メルツェルはそこまで言って、振り返って見上げる。


 そこには何も無いが、彼はそこに誰かがいるかのように尋ねる。


「機龍を回収して正解?」


「正解も正解。常温核融合だけじゃなかったよ。―――人間の脳を使ったコアユニットに、金属侵蝕細菌と殺人バクテリアが封入されたポッドが二つずつ。どちらもこの世界には存在しないものだよ」


 それを聞いたメルツェルは表情を引きつかせる。


 そして、足元にある二つの円柱状のポッドを見た。


「姉さん。いくつか聞いていい?」


「いいでしょう。なんでも聞いて?」


「姉さんは最初、あの異空間で機龍を見た時、あの中身とそれが装備された事情を全て把握してた?」


「うん。そうじゃないと、メルツェルを急がせないよ?」


「そうだね。そして、それらってこれ?」


 目の前に転がる二つのポッドを指す。


「そうだよ。それらの漏出もなし」


 その回答に、メルツェルは競技用を兵器転用かよと呟いて大きく息を吐く。


 その上に二つの四角形の図形とアルファベット文字が書かれた魔方陣が展開して、二つのポッドを飲み込む。


「それは正解だった。―――心臓に悪いから先に教えてくれよ」


「ふふふ……。次からは気を付けるよ」


 その含みがある言葉に、メルツェルはどっと疲れを感じた。


 姉さんはいつもそうだ、と思う。


 思わせ振りなことを言って自分を振り回す。


「とりあえず、疲れた」


 メルツェルは背中から倒れ、地面に寝そべる。


 空は、次元の穴の影の影響で黒い球体に見える。


 聞くに、この世界ではそれが開いてから80年近く経過しているという。


 自分がこの事件の発端となる、ある世界の計画―――《並行異世界接続計画》阻止とその成功と。

 その装置の故意的な暴走とその阻止から始まったこの事件。


 その後始末を始めたのは、半年前(・・・)


 自分が本来いるべき世界の時間の流れと、この世界の時間の流れのズレがすごいな、と思う。

 世界によって、時間の流れが違いすぎるともいうか。


「お疲れ様、と言いたいけどまだ閉じる世界はあるよ? あと少しだけ、だよ」


 姉と慕う少女の声が、メルツェルの思考を現実へと戻させる。


「その通りだ。もう残りは手の指で数えれる数だ。それで、この後始末は終わる」


 頷いて、文字通り跳ね起きる。


「あの魔法少女に、あの子がいた世界の“紐”、繋いだ? あの子を元の世界に戻す為の下準備で、あなたがこの世界にまた来るためのしるべだから大事だよ?」


「その辺に抜かりないよ。ちゃんと繋いだ」


「ならよし。―――それじゃ、準備はいい?」


「もちろん」


 メルツェルは再度頷いて、身体を伸ばす。


「さて、残りの世界に空いた穴を閉じてまわるとするか」


 少年がそう呟くのと、その姿が霧散するのが同時だった。


 その場には何一つ残さず、少年は消えていった。



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