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並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第七章]年末にて、龍と狼と魔法少女と
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正体も、真相も、煙の中



 結局のところ。


 連合、帝国問わず攻撃を仕掛けてきたリンクスとその部隊はそれきり、文字通りに姿を消してしまった。


 撤退した、と見るのが妥当だろう。


 両手にシールド型の複合兵装を装備した不明機が彼らの隊長格であり、何かの目的があって交戦したのだろう。


 そして、その機体が負けるなりした時に備えての、回収部隊というわけだ。


 そして、その所属不明の部隊の痕跡は何一つ残っていなかった。


 何一つ、というのは言葉のあやというやつだが、そう言い切ってもいいほどに、彼らの手掛かりは無かったのだ。


 僕が《プライング》で蹴り壊したシールドも。


 《銀狼》が斬ったブレードや右手足も。


 破損し、分断されたそれらは1つ残らず回収されていた。


 そして、彼らが使用した砲弾―――その破片やスモークの弾頭等は回収出来たものの、連合の規格でも、ましてや帝国の規格でもなかった。


 当然、製造時に打たれるシリアルナンバーもなし。

 つまり、のっぺらぼう。


 そして、その空薬莢が一つもないことが、戦闘後すぐの調査でわかった。


「ケースレス弾じゃねぇか? そんなもの、知ってる限りじゃまだ排熱の問題がクリア出来なくて、実戦に耐えれるものなんて出来てないぞ」


 基地への帰還後のデブリーフィング。


 バレットさんに意見を伺ったところ、そんな回答が返ってきた。


 あれだけの量を撃っておきながら、一つも残さず回収できるわけがない。


 なら、回収する必要がない薬莢無し(ケースレス)の砲弾なら出ないだろうという推察だ。


 しかし現状、薬莢とは1つの排熱機構であり、内部の火薬を熱、湿気や衝撃から守る役割もある。


 それを無くした場合、内部に溜まった熱で勝手に発火する―――つまりは暴発する危険性があった。


 つまりは、そして少なくともオルレアン連合の軍事研究内ではまだそのデメリットの解消がどこも出来ていないので実用化すらしていないというのが現状だ。




『そう考えると、その所属不明機は帝国―――と考えたいですが』


「偽装目的とはいえ、身内を攻撃して戦力失うリスクまで犯して交戦する必要があるのか、という話だね」


 夕食後。


 ちょっとした荷物の受け取りと、とあるお使いのお礼と、フィオナさんに頼まれたものや減ったシャンプーやリンスを買いにいくべく購買に向かう途中。


 HALのセントリーロボットと並んで、廊下を歩きながら今日の事を話していた。


 窓の外では、雪がはらはらと降っている。


 一つ一つの塊が多きので朝には一、二メートルは積もってしまうかもしれない。


「特殊部隊だったならわからないこともないけど……。装備がどこのものでもないから余計難しくされてるし……。現状は八方塞がり、かな?」


 現状、今日の事態は軍上層部へと報告済みだし、帝国(むこう)とは『条約違反をした部隊なので庇うことはできない』ってことで手打ちにしてる。



 蛇足として、立場や所属を越えて帝国軍部隊を援護をした僕は向こうの部隊長、ナツメ大尉にお礼の言葉を貰ったけども。


 もちろん、アルペジオも《銀狼》にお礼を言っていた。

 ―――帰還後、どこか不機嫌で面白い顔をしていたけど。



 回収出来た砲弾の欠片などは技研に送って調査待ちとなっている。


 それが現場の精一杯だ。


『目的はなんだったのでしょうか? 理由も無しに条約違反までして交戦とは、それなりの理由があると思います』


 セントリーロボットのアームを組みながら疑問を言うHAL。


「それだよね。見たことのない敵に装備。しかもそれなりの実力者を複数相手にする動機がわからない」


 結局はそれだ。


 捕らえられて洗いざらい情報を吐かされるならまだしも、所属が言えないなら犯罪者として扱われる可能性だってある。

 それすら温い考えなのだけれど。


『ただ、わかることはあります』


「おや。HALはこの段階で犯人に目星が?」


『少なくとも、リンクスや輸送用の武装ヘリを製造可能で、かつ運用可能。そして高度な光学迷彩まで開発し実用化出来る段階までに達するほどの技術を持った国家か企業が背景にいるかと』


 軍事兵器である以上、何らかの組織のバックアップがなければ動かせない。

 それは当然のことだ。


「それは、犯人の目星、なのかな?」


『現状レドニカで軍事行動できる国家は限られます。オルレアン連合の主要五か国とランツフート帝国の六か国です』


「…………」


『そして、リンクスを独自に開発できるのは《クナモリアル》と《ソルノープル法国》と《オルレアン技術研究所》。《ランツフート帝国》ですね』


 あくまで、私が知る限りですが、と付け加えるHAL。


 なるほど。


 あの部隊の背後は絞れる、ということか。


「HAL。技研がやると思う?」


『自分の手足を失うわけにはいかないでしょうから、技研の線は薄いですね』


 となると、残り三つか。


 けれど―――。


『もしオルレアン連合陣営の一国ならば、上手いこと揉み消すでしょうね』


「そして帝国に擦り付けるわけか。あるいは」


 そこまで言って、HALのセントリーロボットを見る。


『帝国がこちらに擦り付けるか』


「むこうが連合に擦り付けるか」


 ものの見事に声が揃った。


「結局、現場は真相を知らずに、か」


 真相は闇の中―――煙幕を焚かれたのだから、煙の中か。


『そんなものです。戦時中の政治など、相手への批難と自陣営が正義というプロパガンダの押し付けあいが表面ですから』


 そんなこんな言っている内に、購買部の前についた。


 広さ的にはコンビニより小さいかという程度のスペースで、週刊誌や月刊誌。よく使うような生活必需品。ちょっとした肌着やら下着やら。ペットボトルの飲料やスナック菓子など―――。

 まあ、コンビニかな? と言って説明しても多くの人が納得しそうな、そんなところだ。

 違うところを挙げるなら、弁当とかそういった食品が置いていないことぐらいか。


 自動ドアが開いて、左隣から聞き覚えのあるメロディが流れてくる。


「…………」


『コンビニ入店音はやはりこれかと』


 そんな事はスルーして店内へ。


 HALは外でお待ちしていますと言って入口の横に。


 店内には人は一人もいない。


 なら、と向かう先はレジ。


 レジには、無精髭の軍人らしい体格の男が丸イスに座り、足を組んで新聞を読んでいた。よく見れば美丈夫なのだけれど、髪は短いくボサボサ。気だるげな目付きの人だ。

 深夜のコンビニのような、そんな空気がある。


「おう。チハヤか」


 すぐに僕の存在に気づき、持っていた新聞―――正確にはその中に隠されたアダルト雑誌を新聞ごと引き出しにしまった。


「こんばんは、モーリスさん。いつものです」


 何も見なかったことにして、手提げ鞄の中からプリンが入ったタッパーと、クッキーが入ったタッパーを二つ、カウンターの上に置く。


 モーリスさんは中身を確認してから、カウンター下の冷蔵庫にしまう。


「確かに受け取った。―――山吹色のお菓子とは、お主もワルよのぅ」


「確かに山吹色ですが、誤解されそうな言い方はやめてください。それ言うと、王族の方が成敗に来ますよ」


 誤解の無いように説明すると、モーリスさんは兵站部門の人で時々、僕がちょっとしたお使いを頼むことがあり、その見返りという名のお礼のお菓子を渡しにきただけです。

 お菓子の量が多いのは、モーリスさんの同僚と同期の協力もあるからで、彼らにもお礼がなくては、というだけのお話です。


「しっかし、まさかお前さんが自腹切るなんてな。それぐらい経費で出せそうだが……」


「騎士団の財布はアシュリーさんが握ってるから、それだと盛大にはやれないでしょう」


 それに、高いお酒は経費じゃ落とせないでしょうと諦め気味に答える。


「それもそうだな。その食材と家庭用のフライヤーだったか? それらは厨房に配達済みなのは知ってるな? あと―――」


 そう言ってモーリスさんはカウンターの下を手探りでなにかを探しだす。

 そして、カウンターの上にウイスキーの瓶がことりと置かれた。

 名の知れたメーカーの15年もので、自分へのご褒美として買うにはちょうどいい値段のもの。それも四本。


「―――これ。貰っておくぞ」


 流石に今回は量が多くて、いつものじゃ割に合わないと悪びれずに言うモーリスさん。


 まあ、確かに今回はいつもと違って量が多かったし、輸送コンテナに紛れ込ませるのも一苦労しただろう。


 それだけの対価として見ると、確かにお菓子だけでは足りないだろう。

 このウイスキー四本だとお釣りがありそうだけれども。


「……わかりました。ちゃんと一人一本づつですよ?」


「わかってるって。―――それとこれらだな」


 そう言って今度は後ろの棚に置かれた、強化プラスチック製の台形のケースと横に長いダンボールを一つ、カウンターに置く。

 どちらも張り紙が貼ってあって、届け先と受取人である僕の名前が書かれている。


 ダンボールの方は身に覚えがないが、伝票を見るに弓の修理を依頼したメーカーからだ。


 中身は矢筒らしい。もちろん、注文した覚えはない。


「どうもね」


 受け取りのサインを書いて、ケースのバックルを外して中身を確認する。


 中には、滑車が使われた機械式の弓―――コンパウンドボウが収まっていた。


 これは僕の私物―――ではなく、《ノーシアフォール》で回収し、倉庫で埋もれて埃を被りかけてたスクラップだ。


 見つけたフィオナさんが欲しがったものの、破損が酷い。

 破損だけならまだしも、欠損した部品が多いため、修理費が高くつくのは間違いない。


 試しに、直せそうな複数のメーカーに見積りをしてもらったが、はっきりと言ってどれも高い。


 弓本体の修理だけで、新品の弓と必要な装備を一式買うのと同じぐらいの値段だ。


 騎士団に入ったばっかりで薄給なフィオナさんでは払えないのは目にも明らかだ。


 ―――あまりにも落ち込んでたので、『大して使わないお金だし』と言って僕が代わりに修理費を出したのだけれど。


 そういった経緯でメーカーに依頼して修理に出していたものが今日帰ってきたのである。


 その弓はピカピカの新品同然にまで修理されていた。

 失くなっていた部品はちゃんと新品を装着されていたし、金属のフレームも磨いて塗装もし直されていた。

 矢など、本来なら無かったものまで付属しているどころか、各種予備の部品まで揃っている。

 そこまでの代金は支払ってないのだけれど、同封されていた紙にはサービスで必要用具一式を付けてくれたようだ。

 なるほど、素敵なサービス精神だ。


 しっかりとバックルを閉めて、カウンターの横に置く。


「ん? 持ってかないのか?」


「買い物のついでだからね」


 会計済ませててからでもいいでしょう、と言ってカウンターを離れる。


 かごを手にとって、本来の目的である買い物だ。


 詰め替え用のシャンプー、リンス。


 あとはフィオナさんのお頼みの品もかごに入れまして……。


「あら、チハヤ」


 聞き慣れた、お腹を空かせてそうな王女様の声。


 振り向くと予想通り金髪青目の少女、アルペジオが立っていた。

 普段、二つに分けて括っている長い金髪は下ろされている。


「アルペジオ。なにか買うものでも?」


「アイスを買いに来たのよ」


 こんな寒い雪の日でも食べるのか。

 甘味を楽しむのに、気温に関係はないけども―――人気商品だしあるだろうか?


「言えば作るのに」


「そうだけど、こういうのは流石にチハヤでも作れないでしょ?」


 そう言って彼女は運良く残っていたチョコミントのソフトクリームを手に取る。


 まあ、確かにそういうソフトクリームは機械がないと作れない。

 チョコレートとかクッキーを混ぜたりすることは出来ても、ミントなんて混ぜないし、ましてや着色料なんて滅多に使わない。


 そろそろ、そういう着色料にも手を出すべきか。


「チハヤは何を―――」


 聞いてきたのだから聞いてもいいよね、といった感じで尋ねてくるアルペジオ。


 そして彼女はかごを見て目を開いて固まった。


 ……うん。男の僕がこんなの買ってたら困惑するよね。


 僕の容姿からすれば何も知らなければ違和感も何もないのだけれど。

 知っている、もしくは知った場合のこの中身はインパクトがあるわけでして。


 アルペジオは少し固まったあと、頷いてから口を開く。


「フィオナさんのお使いね?」


 真っ当な質問で助かった。


「そうだよ。見ての通り、シャンプーとかリンスとか買いにいくついでに頼まれた」


 ここに来る前も似たようなお使いよくしていたしね。


「奇異の目で見ら―――いえ、チハヤなら気付かれないわね」


「ホント、気付かれなかったね。容姿と性別の剥離具合は」


「……セクハラだって言いなさいよ」


 そんな事を言いながらレジへ。


 実のところ、こんなことはさりげなく三度目なので、モーリスさんの奇異の視線もなくスムーズに会計が終わり、ビニール袋とケースは右手に、ダンボールは左の脇に挟んで店を出る。


「HAL。お待たせ。いくつか荷物を頼む」


 そう言って、重たいケースとダンボールをセントリーロボットに持ってもらう。


「ああ、それ。帰ってきたのね」


 中身を知っているアルペジオがそう言った。


 壊れていた弓を見て、直すのに大金がいることにショックを受け、しょぼくれていたフィオナさんの姿は皆の知るところである。


「うん。思ったより早かったし、ほぼ新品になってた。他にもサービスで必要な用具が一式」


 中身の具合を伝える。安くない料金だったが、それ相応かそれ以上なのは間違いない。


 渡せば明日すぐにでも地下のシューティングレンジに赴いて射だすだろうことは、想像に難くない。


「それは良かったわね」


 彼女はそう言ってソフトクリームの蓋を取ろうと手に力を入れる。


 でも、なかなか取れないらしい。


「……固そうだね」


「……そうなのよね」


 そしてさらに力を入れるアルペジオ。


 そろそろマズそうだ、と口を開いたところで。


 ガパッとも、カポッとも取れる音がして。


「あっ…」


『あっ』


「あっ!」


 多くは語らないけれど。


 よくある悲劇が起きた。






 これは蛇足だが、このちょっと不幸な(・・・・・・・)事件の後。

 モーリスさんに頼んで『アイスクリームのレシピ本』を取り寄せたのは言うまでもない。




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