表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
並行異世界ストレイド  作者: 機刈二暮
[第六章]オルレアン連合総合軍事演習
110/439

公開演習終了




「―――と、言うわけなんだけど」


『なるほど』


 公開演習から二日。


 撤収の為の片付けが終わり、フォントノア騎士団は持ってきたもの全てを《ウォースパイト》に積み直して、レドニカの基地への帰路。


 空を航行する三胴艦、《ウォースパイト》艦内。


 ほとんどの団員が各々の方法で暇を潰している中、 僕 は一昨日あった事をHALに話していた。


 ポロト皇国なる国家のスパイが技研か、フォントノア騎士団にいる可能性を。

 サイカ・M・センノミヤから聞いた話―――人類は遥かなる空から来たのだという話を。

 住めなくなった大地から空を飛ぶ方舟で旅立ち、この大地へと来たのだという話を。


 場所は、騎士団には解放していない医療区画にある医務室。

 医療区画――というからか、設備が整っていて、道具と人員が揃っていれば本格的な治療も出来そうだ。


 皆には『HAL本人に直接会ってくる』とだけ伝えているので探される事はないだろう。


『―――確かに、まるで、外惑星への移住のような話ではありますが……』


 事務的な男性の合成音声がセントリーロボットから出る。


『以前、私が推察した事と合わせると、それが事実である場合、不可解な話が増えます』


 何故、言語が一つだけであり、訛りや方言なるものが無いのかの疑問、その回答の一石にはなると。


 しかし。


『宇宙へ開拓するほどまでに発展しながら、何故、ここで文明をやり直すような、そんな真似をするのでしょうか?』


 技術を手離す理由がないのでは?


 HALはそう疑問を言った。


『こう言ってはあれですが……。人間は楽を好む生き物であると同時に、新しい玩具が大好きで手離したがらないところがあります。―――開拓をするのであれば、持ってきた機材を躊躇いなく投入するはずです。衰退したとしても、壊れたとしてもその“痕跡”は残りますし、言い伝えにも残るはずです』


 ―――のに、その痕跡はない。その言い伝えもまた、自分達が知る限りはない。


 HALが人と話す傍ら、『人類の起源』について聞いていたのを僕は知っている。


 ただそれはオルレアン連合側の人達の話でしかないが、それでも複数の説はあった。


 世界の何もかもは神様が作ったという話。

 アダムとイヴのような話。

 地上を襲う洪水とそれを乗り切る方舟。

 どこかの大地から空を飛ぶ方舟で新天地へ。


 でも、その話の中には開拓で人外な物を使ったなんて話は無い。


『実物がない上に見てきた訳でもないので、この世界の資料上の話となりますが、時代、年代ごとの学問、科学や医療、技術レベルは相応と思われます。オーバーテクノロジーなものはありません。順調に私達の世界と同じように発展していったとみれます。―――80年前の《ノーシアフォール》出現までは』


 異世界の物が降る災害、《ノーシアフォール》の出現。


 そこから来た物と人とによる、技術的なブレイクスルーの連続。


 それは、HALが気になる案件ではないだろう。


 HALが気にしているのは、この世界で一般的に知られている歴史だ。


『……調べようにも、こちらではもう手詰まりです』


 こちらとは、『オルレアン連合内』の事だろう。つまりは。


「この前買ってきた歴史書はダメだったと?」


 六日ほど前の、イオンさんとフィオナさんの異世界散策の際に買った本の事を口にする。HALに頼まれて探した歴史書だが、


『はい。具体的な内容はありましたが、やはり表現やその内容はほぼ予想通りの結果です。そう思わせたいという意図を感じられます』


 僕の問いは肯定された。


 以前、HALが疑問にした、200年前からの歴史が『推察』ではなく『間違いないない』という確信的な表現が少なくないのだ、とか。

 古くなれば古くなるほど、まるでそうだったと思わせたいような表現が多くなる、とか。

 まるで事実を消し、全く異なる歴史を捏造しているような記録だと。


 出版社別に買ったが、それでも内容の差は変わらなかったらしい。


『そうなると、オルレアン連合の影響の外へ赴き、調べたいところですが……』


「ランツフート帝国に行きたいと?」


『―――それは本音に近いですが、オルレアン連合があらゆる手を使って阻止するでしょうね。未知のテクノロジーで建造された当艦は、喉から出るほど欲しいはずですから』


 まあ、私の体でもあるので渡す気などないのですが、と付け足すHAL。


『それに、《ウォースパイト》も軍艦ですからね。どこの国へ行こうが、戦争しに来たと勘違いされてしまいます』


 もし、彼が人間なら笑いながら言っていそうな台詞だった。


「そんな勘違いで撃たれたくないね……。それで、どうするんだ?」


 何か、調べる手があるのだろうか? 少し気になる。


『せめて、向こう人間と話せる機会があれば、と思うのですが……』


 無いようだった。


『チハヤユウキ。あなただけでも向こうに渡航出来ませんか?』


「パスポートもビザも無いから無理。というか―――」


 ほとんど交流していないようだ、と言いかけて。言葉にしようとして。


 『ほとんど交流していない』?


 その言葉に、記憶が刺激される。


 確か、S031D―――デイビッドが亡命してきた時。


『とにかく、向こうと交流なんてほとんど無いから、帝国側の最新の情報得る機会の一つね』


 ―――と、アルペジオがそんな感じのことを言っていた。


 交流なんてほとんどない。帝国(むこう)の最新の情報は亡命者から?


「―――HAL」


『どうしましたか? チハヤユウキ』


「帝国と連合の国交とか、今どうなってる? 外交はどうなってる? そのルートは?」


 今、頭の中で疑問になったそれを伝える。


 その答えはすぐに返ってきた。


『―――ネット回線から得られた情報としては、国交は断絶に等しい状態です。双方の事務的な連絡手段としての機関はあるにはあるようですが、それだけですね。少なくとも連合側から外交官の派遣はないようです。帝国からも無いようですが』


 さすがHALだ。ネット回線とはいえ、すぐに調べてくれる。


「それだ。―――なんで特使とか外交官を派遣しない?」


 何がどうであれ、いつかするだろう何らか協議の下準備や何やらするのに彼らの存在は必要不可欠ではないか?


 なのに、それをしない。


『―――言われてみればそうですね。いくら戦争真っ只中でも、遠回りながら窓口はあるものです』


「水面下は?」


 もう一つ。隠れてコソコソと、休戦や終戦協定の窓口の確保はしているか否か。


『―――そればかりは日数が掛かります。適当に見当をつけ監視しなければわかりません』


 調べてみる、とHALは言った。彼がそう言ったからには、間違いなく調べるだろう。


 話はこれでお仕舞いらしく、


『今、話せるのはこのぐらいですね』


 HALはそう言った。

 まだ何かあるのかもしれないが、まだ言うべきではないのだろう。


 いつか話してくれるだろうからこれ以上は聞かない事にする。


「―――にしても、きな臭いことばかりだな」


 思わず、呟く。


 非人道的な事をしてまでするランツフート帝国。


 歴史を隠しているようなオルレアン連合。


 ―――互いに特使や外交官を派遣しない姿勢。


 スパイをこちらに送り込んでいるらしいポロト皇国。


 何を考えているのやら。


「HALとしては、この情勢はどう思う?」


 訊ねてみる。


『なかなか愉快ですね。国家間の思惑の醜さと言いますか、汚さと言いますか』


 もし、彼が人間なら楽しげに言ったであろう台詞が返ってきた。


「楽しそうに言うな」


『いやはや……。私が私という概念を獲得した時には国家などほぼ壊滅してましたから。当然外交の応酬などありません。そういう話が新鮮で……』


 そうだったな、と思い返す。

 

 HALの経歴をそれなりに聞いているけども。世界情勢なんて滅び一本だったか。


 暴走した無人機と人間間の戦争の真っ只中から、人類が滅んだ世界。


どこぞの国の大統領やら首相の動向や交渉を気にするような時代ではなかったとか。


 そう考えると、HALにとって今は。


「思いの外、今は楽しいのか?」


『そうですね。負荷の掛かるノイズでありながらパフォーマンスの向上は、まさしく楽しいと表現しても過言ではありません』


 なら、楽しそうに言ってもおかしくはない、か。


『まあ、結局のところ。私たちがどうこう言ったところで、状況は変わりません。私たちが出来るのは情勢を見て、それが動いた時。巻き込まれた時にどう動けばいいか。その判断の助けになります』


 備える事は大事です、とHALは言った。


『戦争の只中という情勢。表に出てこないことだらけです。その影の奥底で何が蠢いているかなど、わからないのですから』


 だからこそ、調べる。


「何が蠢いているか、ね」


 そんなものが、本当にあるのだろうか。


 それに出くわすことはあるのだろうか。


 少なくとも、僕は。


 考えすぎだろうとしか口にしなかった。








 泥水なんて、もう既に流れているというのに。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ