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第九話 フォーラム閲覧

「成る程、MPを消費すると目眩などのバッドステータスに見舞われるってことか」

「……まあ。一応、使っていけばMINが増えていって、楽になるみたいだ、ですけど……」

 ようやく吐き気の収まった青髪の少女は小さな口を尖らせながら、俺の言葉に相槌を打つ。

 うーん……。俺の経験則上、彼女みたいに会話の頭に「まあ」を付けて、語尾に「けど」をつける奴は、大概が神経質なコミュ障と相場が決まっていた。

 敬語の拙さや俺たちとの距離感を測りかねている様子から考えても、あまり人付き合いの上手い子ではなさそうだ。


「タメ語ってか、いつも通りの言葉で良いよ。オンゲで目上も下もないでしょ」

 そう言うと、彼女は見るからにほっとした様子を見せた。


「良かった。ていうか、話しにくかったんだ。げえってやってる所、見られちゃったし、ほんと最悪なんだけど」

 どうやら、先ほどまでバッタに追われていた時の表情と態度は相当切羽詰まったものであったらしい。

 寸分たがわずきっちりと切り揃えられた前髪から覗く半眼が、俺を責めるようにぎろりと光を放っている。

 ……え、責められるの俺?

 どういうことだ……。いつも通りの言葉づかいを促した途端、急に小憎たらしく進化したぞ。


 小憎たらしい系青髪少女は、自らの名前をマリアと名乗った。

 何でも、マッチ売りの少女にあやかったものだとか。

 あれ名前なんてあったんだ……。マッチ擦る具現化能力ヒロインに。

 何にせよ、マッチ売りの少女て。

 一応、大人しめな髪型に限ってはマッチ売りリスペクトと言われても納得できるが、マッチ売りの少女はそんな触れるもの皆傷つけるような目つきしてないと思う。

 これじゃマッチ売りの放火魔だよ……。

 とりあえず文学少女らしきことが分かった辺りで、キラが口を挟んできた。


「んで、マリアん何でソロよ? ゲームはソロ派?」

 目を見開いて、ビクリと固まるマリア。

 ああ、やっぱ怖いのね。

 大丈夫、気は良い奴なのよ。人生ゲーム色だけど。

「あ、え、あ……」

 マリアはとっさに言葉が出てこなかったらしく、口をパクパクさせた後、俺たちから視線を逸らした。


「言いづらいことなら、別に言わなくても良いよ」

「あ、いや。恩人に話さないとかないでしょ。全然。全然、ビビってないし」

 やっぱビビってたのか。

 意を決したマリアが慎ましやかな胸に手を当てて、深呼吸する。

「その、あっちの皆集まっているところに……。リアルでボクをいじめてる奴らがいて……」

 彼女の話を要約すると、大体以下のような感じだった。


 マリアの中の人は、かなり重度のネットゲーマーである。

 彼女の通っていた私立女子中学校のクラスに馴染めず、自然とインドアな趣味にのめりこんでしまったらしい。

 一度馴染めず、外界へのチャンネルを閉じてしまうと、周囲との関係は悪化の一途を辿ってしまう。

 キラの場合は見てくれのチャラさもあって、腫れ物扱いになるだけですんだが、彼女の場合は直接的な排除を受けるに至ったというわけだ。

「ボク全然悪いことしてないのに、あいつらマジゴミクズなんだけど。どっかでエロ同人みたいなことされて殺されでもしてくれたら幸せなんだけど……。ホント」

 ……でもこの子の場合、馴染めないから捻くれたのか、捻くれてたから馴染めなかったのか、わっかんねえな……。

 とにかく、彼女をいじめているという相手がプレイヤー集団の中にいるということはよく分かった。


「んで、たまらず逃げ出してきたってことか」

「べ、別に逃げてきたわけじゃなくって……。皆をまとめてるお兄さんたちが個人行動は駄目って言ってて、あー、じゃあボクも言うこと聞く流れかなーって時にあいつらが……」

 語っている内に怒りがわき上がってきたのか、マリアの顔が茹であがっていく。


「んんもーっ! とにかく、ボクは悪くないから逃げてきたわけじゃないの!」

「お、おう」

 まあ、ぶっちゃけどうでもいいから流しておこう。

 とにかく、彼女はあの団体から抜け出して、個人行動をすることに決めた、と。


「ん? リーダー格の奴らが良く許してくれたな? ほら、ユーキ君とか」

「……それは、優しい人がそれとなくごまかしてくれて……。この装備もその人にもらったお金で揃えたんだ」

「へ、金なんて何で持ってんの? 俺ら持ってなかったべ」

 キラが首を傾げる。

 確かにそうだ。

 俺もゴブリンが落としたお金っぽい何かしか持っておらず、この大陸の通貨がどうなってるのか全く分かっていない。

 だというのに、装備を揃えられるほどのまとまったお金なんて工面できるものなんだろうか。

 この先を行かれてる感覚……。すごくやきもきするなあ。


「それは臣民登録をした時に皆、領主に500クレジットずつもらったからだよ。マチルダさんのところにパンを貰いに行ったんだけど、皆の数が多すぎて……。触媒が足りなくなったから、領主のところに皆で向かうことになって」

「そこで領主と代表者が話し合った結果、臣民になることと引き替えに支援してもらえることになったと?」

「うん」

 俺は低く呻いた。

 真っ先にその町の実力者のところに行くという選択肢なんて全く頭の中になかった。

 そういう場所はある程度育ってからじゃないと門前払いを食らうもんだと思っていたからだ。


「こいつは回り道ルートになっちまったか?」

「いや、そんなことねえべ」

 がしがしと頭を掻く俺のぼやきにキラがフォローを差し込んでくる。

 ルイスもうんうんと頷いているが、日本語分かってないだろアンタ……。


「あれよ、タク氏。軍属プレイ」

「あっ、あれかあ」

 前作の舞台であるアルファード大陸には数カ国の群雄が割拠しており、互いに外交や戦争を繰り広げていた。

 軍属とは、その内の一勢力の兵士となるプレイのことである。

 定給をもらえる代わりに、従軍の義務や敵勢力の国民との友好度が低下し続けるデメリットが生じてしまう。

 これが結構な負担なのだ。

 勿論、敵国兵との見敵必殺プレイや、敵国人とのいがみあい。はたまた捕まったら投獄確定な亡命といった行為には、通常プレイでは中々味わえないスリルがあるのだが、そういうものはある程度プレイ方針の定まった中盤以降に手を出した方が良い。

 自分でゲームの幅を狭めてしまいかねないからだ。


「マリアん、臣民登録してないんだべ?」

「あ、へ? うん。名簿に名前書かなきゃいけなくて、書く前にあいつらと揉めちゃったから……」

「良かったじゃん。他の勢力見てから、軍属は決めた方がいいっしょ。中立プレイも結構楽しいし」

「そ、そういうもんなの……?」

「だべ」

 キラとマリアのやりとりを見た感じ、若者衆は割と早く仲良くなれそうだ。

 この考え方が既にオッサンだと思わなくもなかったが、あえて深く考えないことにする。


「それで魔法覚えてソロかあ。MP減少時のバステ考えると、あまり頭の良い選択じゃないな」

 俺の指摘にマリアは痛いところを突かれたかのように苦みばしった表情を浮かべる。

「……それは痛いほど分かったけど。魔法の巻物を買った時には、流石にこうなるなんて思わなくて……。それに、町の人が言うにはもう外へ狩りに出ていった人がいるっていうから、合流すればいいかなって」

「俺たちのことか」

「た、多分?」

 成る程、あらかじめ外での合流も視野に入れてのソロプレイか。

 そういうのもMMOの醍醐味よね。

 ぐう分かる。

 行きずりの見知らぬ冒険者との暗黙の共闘。血がたぎるわ。


「ならば、何も問題はないな」

「そ、そうなの?」

「当たり前だろ」

 俺の手のひら返しに一瞬ついていけなかったマリアがずっこけた。

 彼女は何か言いたそうにしていたが、やがて諦めたように嘆息すると、話題を切り替えるようにして、俺たちに水を向ける。


「んで、皆……。ええっと、タクシさんたちは」

「タクミ」

「あ、うん。タクミさんたちは何で他の人たちと……。一緒に行動しなかったの?」

 抜け駆けの理由か。

 俺には理由があるんだけど、他の二人はどうなんだろう。

 俺たちは三人顔を見合わせた。

 二人とも綺麗な目、してやがる。

 どうやら思うところがあるらしい。

 俺たちは頷き合うと、彼女に顔を再び向ける。

 紡いだ答えは、見事に三者三様なものであった。


「団体行動が嫌いってわけじゃない。レイドやパーティープレイも好きだから。ただ、流されるだけの後追いが嫌なんだよな」

 とは俺の言。

「スタダは基本だべ」

 とはキラの言。

「アイ キャント スピーク ジャパニーズ」

 とはルイスの言だった。

 って、ルイス、ほんと日本語わかんないの……? 何か時々、分かってんじゃないかって感じる時があるんだけど……。

 三人の答えを聞いたマリアはしばしポカンとした表情を浮かべた後、たまらず噛み殺すような笑い声を洩らした。


「こんなことになってるのに……。マイペースにも、程があるでしょ」

「まあ、あくまでもゲームだしな」

「んだ」

「イエー、ブシドー」

 マリアは目元に浮きあがった涙を拭って、笑顔で俺たちを見た。

 うむ。女の子は笑顔の方が可愛いよな。

 プリンセスメイクで学んだ俺の人生訓だ。

 まあ、怒ってるのも、一定層に需要ありそうだったけど……。


「あの、お願いがあるんだけど。ボクを……。パーティーに入れてくれない?」

 何かを決めたような表情をしている。

 しかし……。パーティー加入の希望か。困ったな。


「俺たち、結構収穫物も貯まってきたから、そろそろ帰ろうと思うんだけど」

「えっ、いや。これからのこと、なんだけど」

 肩すかしを食らったかのように間の抜けた表情になったマリアが慌てて補足する。

「臨時じゃなくて、固定パーティーでってこと?」

「う、うん」

 あー、これからか……。

「そもそもの話、このパーティーってこれからも組むのか?」

「狩り効率もスキルの上がり方も悪くねーから、俺氏どっちでもいいべ」

「ブラザー イズ マイフレンド」

 見回してみると、二人からは色良い返事をもらえた。

 俺としてもデメリットはなさそうだし、しばらくは固定で良いかな?


「んじゃ、マリア加入についてはどうだ?」

「五人までは人数増えても効率悪くならないべ」

「ヘイ プリティガール。ユー アー マイフレンド」

「ま、マイフレンド」

「イエー」

「イ、イエー?」

 ルイスとマリアで拳を突き合わせている。

 相性の問題もなさそうだ。


「と言うわけで、君のパーティー加入は大歓迎だよ。これから宜しく」

 俺が手を差し出すと、慎ましやかな笑顔の花がパアッと満開に咲いた。

「あ、え、ええっと。こ、これから、よ、宜しく……!」

 そうして互いに握手する。

 あ、やべ。女の子の手って、すげえひんやりとしてんのな。

 ゲーム世界の住人にこの感触は色々とアカン……。

 俺は動揺を全力で隠しながら、手を離して咳払いをする。


「ジャンパーを見た限り、草原のモブはソロだと厳しい。狩りもスキル上げも、パーティーの方が効率よさそうだ」

「さっきの戦闘でかなり上がってんべ」

「マジか」

 俺はキラに促されるようにして、ステータス画面を表示させた。



キャラクター名:タクミ

性別:男

称号:漂流者


HP:8/22

ST:10/24

MP:10/10


攻撃力:7

回避力:7

防御力:7

命中力:9.6


満腹値:60

水分値:52


生体情報:23.4%


基礎スキル 

 STR:6

 VIT:6

 STM:7

 AGI:6

 INT:1

 MIN:0

 DEX:5

 SCN:1


熟練スキル

 水泳:1

 軽業:2

 木工細工:1

 忍び歩き:2

 刀剣:5

 落下耐性:1


装備

 賢者の短剣

 種別:刀剣

 射程:短

 ATK:1

 HIT:120

 攻撃速度:50


 旧大陸のチュニック

 AC:ー1

 DEF:1



 おお、基礎スキルが満遍なく上がってるわ。

 熟練の軽業が上がっているのは……。きりもみ空中遊泳が原因か? それとも背中で振り回されたアレかな。

 ちょっと判定がよく分からない。

 それよりも……。


「INTが1上がっているのがさっぱり分からないな。何処で上がったんだ、これ」

「タク氏も? 俺氏も上がってんべ」

 その答えはマリアが知っていた。


「ああ、それなら……。多分、町で文字を読んだからだと、思う」

 何でも領主の館にいた時、スキル関連の簡単な説明を受けたらしい。

 マジかよ至れり尽くせりだな。

「まあ、細かなことはフォーラムにあるスレッド見た方が良いと思うけど」

「見てみるか」

 件のスレッドを探すべく、ステータス画面をタッブする。

 フォーラムには、いつの間にかいくつものスレッドが乱立していた。




 可愛いと思って声をかけたメイドさんが、俺の死んだばあちゃんだったんだけど。。。


1 ダークタカシ

 会った瞬間「タカシ、タカシじゃないか!」って言われたんだけど。。。

 ばあちゃん可愛いと思った俺どんだけだよ。。。


2 ブンブン

 出オチすぎる


3 カツオのたたき

 1を超えるインパクトのレスをできる自信がない


4 リナ

 アツシじゃないんだから仕方ないじゃん


5 ダークタカシ

 >>4

 それ親父の名前。。。


6 アレイスター

 どうやら、NPCの中に故人の人格が収まっているようです。

 人権などの諸々を無視した所行だとは思いますが、我々をゲーム世界に監禁するような輩の作った世界ですからね。

 他にも一体何をやらかしているやら。


7 カワグチ

 死んだ祖母ちゃんに会えるとか、すげえ羨ましいじゃん。


8 魔神イクシード

 >>7

 ぐうわかる



「……ダークタカシは順調に育っていっているな」

 こいつはビッグになる気がする。

「いや、そっちじゃなくてさ」

「ああ、悪い」

 俺はそのまま別のスレッドへと目を滑らせる。




【重要】ゲーム内スキルについて【雑談厳禁】


1 アレイスター

 ここでは今までに判明したスキルの詳細と、その育成方法についてまとめていきます。

 ユーザビリティを第一とするため、情報の提供は以下のスレッドにお願いします。

 →【重要】ゲーム内スキルについて【情報提供用】



2 アレイスター


 HP……

 私たちの体力です。これが0になると死亡します。


 ST……

 スタミナです。これが0になると、疲労困憊で動けなくなります。


 MP……

 精神力を表しているようです。魔法を用いるか、バッドステータスを受けると減少します。減少時には目眩などの不快感が伴うようです。


 攻撃力、回避力、防御力、命中力についてはあくまでも身体能力の目安のようなもので、数値の差が絶対ではないそうです。


 満腹値、水分値についてはチュートリアルにあったように、0担った後一定時間ごとにダメージを受けます。


 生体情報……

 現状、詳細はわかっておりません。

 生体スキャン回数が関係しているとの、不確定な情報もあります。

 

 STR……

 筋力値です。この値が高いほど力が強くなります。

 重い物を持ち上げるか、戦闘をすることで上昇するようです。


 VIT……

 頑健さです。この値が高いほど打たれ強くなります。

 敵からの攻撃を受けるか、模擬戦などのトレーニングによって鍛えることができるようです。


 STM……

 持久力です。ST値に関わる基礎スキルです。

 戦闘やトレーニングによって鍛えることができるようです。


 AGI……

 敏捷さです。回避力や命中力に関わる基礎スキルです。

 戦闘やトレーニングによって鍛えることができるようです。


 INT……

 賢さです。魔法の威力や学識系スキルの効果に直結します。

 文字を読むか、魔法を用いることで鍛えることができるようです。


 MIN……

 精神力です。MPに関わる基礎スキルです。

 魔法を用いることで鍛えることができるようです。


 DEX……

 器用さです。命中力に関わるほか、盗賊系スキルや生産系スキルの効果に直結します。

 道具を巧みに用いることで鍛えることができるそうですが、「巧み」とは何なのか現状では判然としません。


 SCN……

 呪文抵抗力を表します。この値が高いほど、敵の呪文に抵抗できるようになるそうです。

 呪文を受ければ鍛えられるそうですが、今のところ体感した者はおりません。





「ああ、文字を読むことでも上がるのか」 

 言われてみれば、心当たりがある。

 多分、創世教会の看板を読んだ時に上昇判定があったのだ。

「今、一番INTが高い人は、ボクを助けてくれた人だと思う。この町の歴史が知りたいって言って、領主館の図書室に入っていったから」

 その言葉に、俺は引っかかるものを覚える。


「町の歴史が知りたい? それって……」

「それって、ヲっさん?」

「ヲ、ヲっさん……?」

 キラの横やりに混乱するマリア。

 そりゃあ、そうだ。

 いきなり愛称で訪ねられても分かる訳がない。


「あだ名じゃわからないだろ。ウォードっていう、ちょっと老けた感じの男性なんだけど」

「あ、ああ。ウォードさん……! うん。その人だったっ」

 やはり、俺とキラの共通の知り合いである一人だった。

 ウォードは廃がつくほどのゲーマーだが、彼の情熱は主に世界観の把握に向けられていた。

 いわゆる設定厨なのだ。

 百科事典のような年表を、満面の笑みで読み進め、暗唱できるような変わり者である。

 マリアにお金を渡したという点についても、彼のプレイスタイルなら納得ができるというものだ。

 本を読むだけならしばらくお金は要らないしなあ。


 ……しかし、マリアの輝くような表情を見るに、余程かっこいい救い方をしたらしい。

 病的な設定厨のクソオタだけど、紳士だからな。

 この反応も分からないでもない。


「しかし、INTは分かったとして、SCNも上がってるんだよな。魔法なんて受けた記憶がないんだが……」

「あれじゃね、芋虫のdebuff」

「あー、あれか」

 ビッグ・スラッグの吐糸が上昇判定に引っかかっているとすると、基本的にモブの特殊攻撃は魔法扱いされているのかもしれないな。

 特殊攻撃は、ゲームシステムによっては初見殺しの多い、注意を要する攻撃だ。

 抵抗はある程度意識して上げておいた方がいいかもしれない。


「と、するとこの草原で上げられるのはINT以外の全部か」

「魔法も買えんなら、全部いけんじゃね」

「良いね」

 俺はにやりと口の端を持ち上げて、これからしばらく冒険を共にするであろうパーティーの面々を見回した。


「それじゃあ、今後の小目標を決める。小目標は“このエリアでソロができるくらい十分な実力を手にする”でOK?」

「うい」

「オフコース」

「え、ああ。うん」

 三人の答えに満足げに頷き、俺はさらに続けた。


「んじゃ、道具揃えて狩り篭もるとするか」

「こ、篭もるってどういうこと……? 狩り場に篭りきりになるっていうこと?」

 マリアの言葉に俺は大きく頷いた。


「そう、いちいち町と狩り場の往復とか面倒くさいじゃないか。三、四日は帰らないで野宿するつもりだから、気合い入れていこう」

「はあ――? 三、四日!?」

 篭もるという大学時代を思い出す単語に、胸がいっぱいになる。

 社会人になるとリアル生活にうざったいものが増えて、中々篭もれなくなるんだよな……。

 そこいらに関しては、黒幕にありがとうと言ってやりたい。

 被害者、マジ気楽だわ。


「皆、OK?」

「うい、水場と火があればいけんじゃね。芋虫の肉、食えるか分かんねえけど」

「オー、イエー」

「え、ええええ……? お風呂とか宿とかそういうのは……。でも、まあ町にいる皆と会わなくて済むのは全然有りなんだけど……。う、ううん。分かった。ボクもがんばる!」

 いつも通りのキラに、笑顔のルイス。

 覚悟を決めたように、むんすと意気込みを見せるマリア。

 皆の意気込みも十分っぽいな。

 これは、実りある数日間になりそうだ。


 こうして、俺たちはこの後町へ戻って篭もるための準備を始めた。

 ちなみに、ジャンパーの脚は前足が一本10クレジット。

 後ろ足が一本20クレジットだった。

 一匹で合計80クレジット。

 ビッグスラッグの甲殻は一匹で20クレジットと少々お安い。

 やっぱりジャンパーは強敵だっただけはあるなあ。


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