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第七話 パーティープレイ

 東門にたどり着くと、熊みたいに大柄な男に声をかけられた。

「ヘイ、ガイズ!」

 マチルダさんみたいな赤毛の長い髪を後ろで一つにまとめている。

 顔の作りは……。すげえ濃い。明らかに外国の人だ。


「おー、外人だべ」

 キラが興味津々といった態度とは対照的に、俺は思わず身構えた。

 VRMMOの中には、モブではなく同じプレイヤーを狩る行為――いわゆるプレイヤー・キルがシステム上許可されているものがある。

 ビヨオンもその一つだ。

 初心者ゾーンや町ゾーンは衛兵の目があるため、そうした行為も目立たないが、一時期は宿屋の前を衛兵をはねのけるほどのバンディットプレイヤーが群れをなして占拠したこともあった。

 あの時はほんと地獄だったな……。

 宿屋の前に死体が何十人分も放置されてんだもん。

 町中は危険だからと、町の外に避難キャンプができて、そこを襲撃するバンディットプレイヤーとのプチ戦争イベントにまで発展した大事件だった。

 そんなわけで、PKは警戒してし過ぎるということはないのだ。

 文化の違いか分からないけど、何故かPKって外国人に多いしな。

 だが、経験に基づくこの警戒は杞憂に終わったようで、目の前の外国人は至極紳士的な態度で、こちらに野太くも柔らかな声を投げかけてきた。


「フェア アーユー ゴー? イズ デア ザ サービスポイント ニア?」

 俺は困り顔で固まってしまう。

 聞くからに外国語だ。

 外国語なんて、学校出てから、ほとんど使う機会がなかった。

 一応、仕事上使うRUNとかACTIONSCRIPTとかは覚えているんだが、文法の類は壊滅的だ。

 え、ええっと何て答えよう……。


「お、生のアメ語だべ」

 だが、ここには現役で外国語を習っている学生がいた。

 俺はここぞとばかりにキラを頼ることにする。

「悪い、会話頼んだ」

「うい」

 キラの背中が大きく見えた。


「ファック ヌーブ。フォロー マイ アス。レッツ ゴー ハントゲーム」

 ファックとかアスとか。

 いきなり、日常会話にそぐわない単語が飛び出してきた。

 ……絶対、これ会話成り立ってないと思う。


「……キラ、ほんと英語わかってんの? お前」

「洋ゲーで必要な単語なんて、ファックとヌーブとグッドゲームくらいだべ。後は組み合わせで意味通じるんじゃね」

「オウ、イエッサー。サージェント」

 意外なことに赤毛の外国人は今の冒涜的な英語力による言葉を耳にしても、俺たちについてくることにしたようだ。

 道中に単語だけで意志疎通を図ったところ、彼のキャラネームはルイスと判明した。

 どうやら、言葉の壁が原因で気づかぬ間にプレイヤー集団からはぐれてしまったらしい。

 先だっての黒幕然とした影の言葉も、オール日本語なおかげで全く理解できなかったとか。

 あの壮大なドヤ台詞。通じてないプレイヤーいたのかよ。

 黒幕赤っ恥すぎるだろ。


 俺たちがお腰につけた弁当パンを半分ずつ分け与えてやると、ルイスは喜んで狩りの手伝いを申し出てきた。

 彼がパーティーに加われば、スリーマンセルを組めるな。

 トップと遊軍が機能する、最低限度の人数は確保できたわけだけど。

 初ハントとしては無難なところかな?


 始まりの町、ルクシオンから東に広がる草原地帯へと出る。

 遠くの方には雲に囲まれて山頂の見えない峻険な山脈が見えており、山へ向かう馬車道が整備されていた。

 道から外れたところは、腰まで届く背の高い草で覆われており、道を外れての歩行は中々骨が折れそうだ。

 俺たちはしばらく馬車道を進んだ後に、道から外れて魔物を捜すことにした。

 探索すること三十分ほど。

 目当ての魔物はすぐに見つかった。


「あー、タク氏。あいつじゃね」

 藪の向こう側に、背の高い草を巨体でへし折って、もさもさと草を食んでいる芋虫がいる。

 マチルダさんの言っていたビッグ・スラッグに間違いないだろう。

 体長は1メートルほど。

 頭部は、見るからに硬そうな緑色の外骨格で覆われており、防御力が高そうに見える。

 とは言え、その分動きは緩慢そうだし、目立った攻撃手段もなさそうだ。

 これは被ダメなしでいけるか……?


 俺はルイスをフレンドリストに登録すると、二人に向けて念話を発した。

『背後や側面攻撃のボーナスがあるか確認したい。囲んで、倒そう』

 二人が無言でうなずいた。

 でも、ルイス。これ通じてんのかな……。

 俺とキラは賢者の短剣を片手に、忍び足でビッグ・スラッグの死角へと移動する。

 俺は背後。キラは側面。

 忍び足スキルのせいか、俺の方がキラよりもスムーズに移動できていた。

 全員が、絶好の配置につく。


『よし、やろう』

『ファックヌーブ、アタックムーブ。ゴーゴーゴー!』

 俺の合図に応えるようにして、キラがルイスに突撃を指示した。

「ンアーッ!」

 その声に従い、ルイスが巨体を前傾姿勢にして、アメフトのタックルを思わせる勢いで、ビッグ・スラッグへ突進する。

 その手には道中で拾った太い木の枝が握られていた。



木の棍棒

種別:棍棒

射程:短

ATK:3

HIT:80

攻撃速度:30



 ビッグ・スラッグがルイスの突進に気がついた。

 その体を慌てて彼の方へと向け、何やら頭を持ち上げている。

 迎撃の手段があるのかもしれない……が、


「せいっ!」

「うし、スニークアタック成功っと」

 ルイスに気を取られたビッグ・スラッグの死角から、俺とキラが奇襲をかける。

 短剣を一閃。さらに、返す刀で一閃。


「ピキイイイッ」

 青い体液をまき散らし、ビッグ・スラッグが苦痛にもだえる。

 与ダメが増えてるかは分からない……けど、有効っぽいのは確かだな。

 窮地に陥ったビッグ・スラッグは必死で頭を振り回し、なにやら粘着性のある糸を吐き出し始めた。


「うおっ」

「うへっ、debuffテクか。これ」

 俺とキラは粘着性の糸に捕らわれ、四肢の動きを封じられてしまう。

 二人プレイなら、ここで仕切り直しとすべき手詰まりだ。

 だが、スリーマンセルをとった俺たちには、二人が攻めあぐねたところで、まだ次の手札が残されている。

 赤毛をたなびかせた巨大な三本目の矢によって、この勝負の趨勢は決した。


「パワアアアアアァ!」

 渾身の力を込めたルイスの一撃が、ビッグ・スラッグの頭部を見事に陥没させる。

 ビッグ・スラッグは二、三度けいれんを起こした後、力を失いぴくりとも動かなくなった。


「プチ乙。キラ。ルイスさん」

「うぇい。ファックヌーブ。グッドゲーム」

「グッドハント! ブラザー。サージェント」

 糸まみれのままハイタッチを決めて、俺たちは初勝利を労いあった。


「今の戦闘MVPは、間違いなくルイスさんだったな」

 べたつく糸を剥がしながら、先程の戦闘を振り返ってみる。

 ルイスの動きは見事の一言で、モブのタゲ引きが妙に手慣れていた。

 敵の注意を引き付ける技術というのは、一朝一夕で身につけられるものじゃない。

 洋ゲーは詳しくないんだが、他のVRゲームでメイン盾をやってたりしたのかな。


「このパターンなら、時間効率かなりいいべ。さっさと、次いこうぜ」

「まあ、待ってくれ。敵の死体を回収ルートしないと……って、どうやるんだ?」

 俺は体液にまみれた緑色の巨体を呆然と見下ろした。


 ゴブリンの死体→持ち物を剥ぐ→ぐう分かる。

 芋虫の死体→持ち物を剥ぐ→どうやって?


 どうしたものかと途方に暮れる俺に助け船を出したのは、ビッグ・スラッグの返り血を、毛むくじゃらの腕でぬぐっていたルイスだった。


「ヘイ、チームリーダー。シャル アイ テイク スラッグ アパート トゥー ピーシズ」

「ん、回収の仕方分かるの」

「イエー」

 ルイスは賢者の短剣を取り出すと、目の前の巨大芋虫を文字通り“解体”し始めた。

 そう、“解体”だ。

 NHKやBBCのドキュメンタリー映像でよく見るアレである。

 パッと念じたらアイテムに変わってくれるんじゃないのか……。効率悪いなあ。

 ルイスが何処の部位が必要かと問うてくるので、とりあえず頭部の外骨格を持ち帰ることにした。

 これも反省点だな。

 ドロップアイテムに変わるもんだとばかり思っていたから、何が町で売れるかという情報収集を怠ってしまった。

 次、狩りに行く前には町中でもっと詳細な情報収集をすることにしよう。そうしよう。

 そんなことを考えている内に、ルイスは見事な手際でビッグ・スラッグをバラバラにしてしまった。

 チェーンソーもないのにすごいよ、この外国人。


「……洋ゲーでは、こういう回収法がデフォなのか……?」

「ノゥ、アイム ハンター イン ケベック」

 あ、本職さんだったのか。

 でも、リアルハンターが何でまたVRゲームやってんの……?

 そんな疑問が顔にでていたらしく、彼は苦笑いして自分の身の上を語ってくれた。

 おぼつかない意志疎通で聞くところによると、彼は丁度日本に長期旅行に来ていて、知人に「これが日本の独占技術だ」と自慢げにVR機器を渡されたのだという。

 はあ、それで試しにとビヨオン2に手を出してみたのか。

 いきなり、手を出すゲームがファンタジーというのは中々ハードルが高いと思うけど。

 ……いや、あっちの国々は小人族が指輪を火口に投げ捨てる古典物語とかが大人気を博する土壌があったな。

 何にせよ、全く言葉の分からないゲームに手を出す根性は、ゲーマーとして見習う点が多々ある。

 このゲームをクリアしたら、洋ゲーにも手を出してみるか。


「ヘイ、リーダー。ネクストハント ライト?」

 俺が一念発起していると、ルイスが遠方を指し示した。

 先ほどの戦闘音を聞いたからか、がさごそとこの場から離れていこうと地面を這う巨体の音が聞こえる。

 まだ近くにビッグ・スラッグがいたんだな。


「んー……。折角町の外に出たのに、収穫が頭の甲殻一個だけじゃ物足りない気がするし、後二、三体は狩ってから帰ろうか」

「うい」

「イエー」

 収穫物ドロップアイテムは、大柄なルイスが背中に担ぐようにして持ち歩くことにした。

 これ、背負うタイプの大袋も必要だな……。

 こうして、俺たちは特につまづくこともなく二体目の獲物を仕留めることに成功する。

 三体目は流石に近くをうろついておらず、再び草原を練り歩くことになった。

 それから更に一時間程経ち――芋虫の三体目をようやく見つけ、無事に狩り終えた直後、俺たちのいる場所から、そう遠くない場所で年若い女の子の悲鳴のようなものが聞こえた。



キャラクター名:タクミ

性別:男

称号:漂流者


HP:18/18

ST:20/20

MP:10/10


攻撃力:7

回避力:6

防御力:4

命中力:7.8


満腹値:72

水分値:69


生体情報:23.4%


基礎スキル 

 STR:6

 VIT:4

 STM:5

 AGI:5

 INT:1

 MIN:0

 DEX:4

 SCN:1


熟練スキル

 水泳:1

 軽業:1

 木工細工:1

 忍び歩き:2

 刀剣:3

 落下耐性:1


装備

 賢者の短剣

 種別:刀剣

 射程:短

 ATK:1

 HIT:120

 攻撃速度:50


 旧大陸のチュニック

 AC:ー1

 DEF:1


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