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第六話 キャスト

 情報にあった通りに、手近にあった南門へと向かう。

「いらっしゃい。見かけない顔だな。漂流者か?」

「悪い、先を急いでるんで。後でちゃんと話聞く」

「そん内、共闘とかでお世話になりシャス」

 衛兵をスルーして、俺とキラは石造り町並みに挟まれた大通りを駆け抜けていく。

 南門から続く大通りは立派な看板の建物が建ち並んでおり、小ぎれいな印象を受ける。

 何だろう、官庁街のようなお堅い感じだな。

 それにしても、意外なほどにNPCが多い。こうして、走っている間もたまに肩をぶつけてしまう勢いだ。

 これ、全員がアクティブだとすると、話聞くのも一苦労だなあ……


 まあ、今回は後回し。

 しばらく走ると、噴水のある広場に出た。

 中央広場ってところかな?

 広場から東西南北に大通りが伸びていて、東からハンマーの音が聞こえてきた。煙も立ち上っているし、工房のある区画なんだろう。

 北へ続く通りには豪華な屋敷が建ち並んでいて、その更に奥まった場所に大きな砦が見えていた。

 あれがこの町を治めるっていう貴族の住む砦か。

 んで、本題となる西へ続く通りには飲食店がひしめきあっていた。

 成る程、東西南北の区画できっちり役割分けがされてるってことだ。


「うまそうな匂いすんべ。食事効果とかあんのかな」

「どうだろ。出店もないし、高そうな常設店ばかりだから、まあその内開拓しよう」

「うい」

 俺たちは西通りをさっと通り過ぎ、情報にあった貧民街とやらへ足を踏み入れた。


 どうやら、貧民街は沿岸部の開拓港に面しているようだ。

 潮の香りがとりわけ強く感じられる。

 四方から聞こえる海鳥の鳴き声。

 縦横に張り巡らされた水路に沿うようにして、木造の掘ったて小屋が身を寄せあうようにして建っており、小屋の手前には雑多な品物を置いたバザールが至るところで開かれている。

 売られている品物に統一性はない。

 食べ物も武具も、小物も、特にジャンル分けはされずに並べられているみたいだ。

 初心者に必要な全てのものが、ここで手にはいるってところかな。


「あ、タク氏。あれじゃね?」

 キラの指さす方向に、女神像を屋根にくくりつけた石造りの建物が建っていた。

「それっぽいな……行ってみよう」

 近づいてみると、前作でもよく見かけた教会を示す看板が見えてきた。


『ルクシオン創世教会』

 看板を見た瞬間、頭の中にそんな単語が浮かび上がってきた。

「この世界の世界の文字は自動で翻訳されるってことか。キラも読めるか?」

「おー、余裕。アメ語もスワヒリ語も脳内翻訳できるようなんねーかな。外語の暗記だるいべ」

「そんな、ピッとDLできるような記憶や言葉にありがたみなんかないだろ」

「うは。タク氏、ピッて。ウケるわー」

 え……ピッて言い方、オッサン臭いの?

 心なしか肩を落としながら教会に入る。


 教会の中は白壁と赤を基調としたインテリアで彩られた、小さいながらも荘厳さを感じさせる作りになっていた。

 奥の方に、豊満な胸に両手を当てながら優しげに微笑む女神像をまつった礼拝堂が見えているが、肝心の人が見つからない。

 情報にあった、支援をしてくれるNPCはどこにいるのだろう。

 きょろきょろと周囲を見回してみると、礼拝堂の横手に取り付けられた勝手戸が目に入った。


「タク氏、あっちじゃね」

「だな」

 勝手戸から外へ出てみると、粗末な服を着た何人もの子供たちと、白を基調にした修道衣を身にまとった若い女性が一緒に洗濯物を干しているのが見えた。

 多分、この女性がくだんの支援者であろう。


「あの、すいません」

「……あら?」

 女性がこちらへ振り向いた。

 赤い髪を三つ編みにした、そばかすの目立つ素朴なお姉さんという感じだ。

 ちなみに修道衣の上からでも出るところが出ているのが分かる。

 でかい(確信)。

 それは、さておき。

 まずは自己紹介と挨拶。んで、質問の流れかな?

 支援者フラグの立て方が分からないけど。

 自動でたつものなのか?


「俺はタクミ。こっちはキラです。質問、あなたの名前は何ですか?」

「ああ、やっぱり。プレイヤーの方ね。先ほどの女の子と同じ」

 ん……?

 俺は予期せぬ反応に、思わず面食らってしまった。

 彼女のした返事が……まるで血の通った人間のものに思えたからだ。


「えっと……」

 戸惑う俺を見て、修道衣の女性がクスクスと笑う。

「その反応もさっきの女の子と同じ! やっぱり、単純なAIだと思っていたキャラクターが、人間みたいな返しをしてくると驚くわよね。私だってそんな反応しそう」

「おっぱいシスター姉さん、NPCじゃねえの?」

「それ、セクハラ!」

 失言をやらかしたキラの額を、修道衣の女性が笑いながらこつんと拳で叩く。

 ……生きている人間としか思えない返しだ。

 俺もキラも唖然とするしかない。


「まずは自己紹介を。私は創世教会のシスター、マチルダと言います。教会のお仕事をする傍ら、支援の必要な方々にパンとお水を分け与えていたりします」

 修道衣の裾を持ち、淑やかなカーテシーを見せるマチルダさん。


「一応、分類上は恐らくNPCってことになっているわ。ただし、“キャスト”だけど。この世界にはただのNPCとキャストがいるのよ」

「キャスト?」

 どのVRゲームでも聞いたことのない用語であった。

「ええと、タクミさん? あなた、現実世界のテーマパークに行ったことはない? 私ももう知識でしか知らないんだけどね?」

 残念ながらと、首を横に振った。

 高校大学社会人とゲーム三昧の日々だったせいで、現実世界の常識がかなり欠落してきている気がするな……

 まあ、いいのよ。ゲーム世界の住人として、わたし生きるんだから。


「今の子って、そうなのねえ。えっと、現実世界のテーマパークには世界観にあった住人が働いていてね。その人たちをキャストって言うのよ。ちなみに、お客様はゲストね」

「キラ、知ってた?」

「エロゲで聞いたことあるかな? くらいっぽい?」

 そんな俺たちのやりとりに、マチルダさんが微苦笑する。

 孫を見るような生暖かい目だ。

 正直、背中がこそばゆい。


「それでね。運営――創世の神様の手をもってしても、やっぱり完全な人の再現って難しいらしいのよ。だから、“既に電子データとして完成している”故人のコピーデータを流用しているってわけ」

「ちょ、ちょっと待ってください。それって法律的に色々と大丈夫なんです!? ……いや、法律なんか気にしてないのか……」

 慌てて突っ込むが、自己完結してしまう。

 そうだよな。五感の再現にプレイヤーの拉致監禁までやらかしてるのに、今更法律なんて気にするはずがない。 

 しかし、そうするとNPCの一部には“中の人”がいるってことなのか……やりにくいなあ。


「一応、キャストの皆は分かった上で受け入れているからいいんじゃないかしら。私、現実世界だと故人なのよね。平成、だったかしら。だいぶ大昔に生まれた元おばあちゃんだから」

「タク氏、平成っていつだべ」

「俺の死んだ祖母ちゃんが生まれた時代だよ」

「超古代きたこれ」

「あちらも悪くない世界だったけど、こちらの生活も楽しいわよ?」

 気軽にそんなことを言うマチルダさんの表情は、何て言うか新たな人生を謳歌してます! っていう喜びが全面に現れていた。


「まあ、そういうことだから。キャストもNPCもなるべく人として扱ってあげてね? それじゃあ、迷える子羊にパンを差し上げましょう~。ルクス・フォーケイン・ロード……」

 芝居がかった所作で、マチルダさんが空を仰いで祈り始める。

 ぶつぶつと小声で何かをつぶやくと、彼女の両手にパンが出現する。

 これは前作でも見たな。

 善性の宗教勢力にいくらか寄付すると覚えられる、中級神聖魔法『コーリング・ブレッド』だ。


「はい、二人分。味は保証しないし、お腹のもち具合も良くないから気をつけて。お水は、そこの離れの横にある井戸で汲んでちょうだいね」

「あ、ありがとうございます」

「あざす、あざす」

 手渡された拳大の堅パンを持って、井戸の前に座り込む。

 地べたに直接座り込むってのが、行儀的にどうなのかわからないけど、もう満腹値が一桁台なんだよな。

 堅パンをかじってみると、全然おいしくなかった。

 そりゃ、魔法で出したパンがうまかったら料理人が死滅するもんな。

 何か納得だわ。


「これ、うまいもんの匂い嗅ぎながら食ったら、マシになんじゃね」

 汲み上げた井戸水を柄杓ひしゃくでがぶ飲みしながら、キラがそんなことを言う。

 あ、俺も水分値100にしとかないと。

「いちいち、飲食街区まで移動するのか?」

「バザーも食いもん売ってたべ」

「食いもの屋の前で召喚パン食うとか、喧嘩売ってるようなもんだろ」

「あー、確かにヘイト溜めそうだわ。さっさとスキル上げした方が良いわ。今のボツで」

 満腹値と水分値が共に100になったところで、俺たちはマチルダさんに別れを告げることにした。

「ありがとうございました。この後、団体さんがここを訪れると思いますんで、がんばってください。……ちなみに、手頃な狩り場とかって知ってます?」

「はいはい、どういたしまして。狩り場って、獣の? 魚の? それとも魔物の? えーっと……例えば、さっき来た女の子には海岸部に生息するストーン・キャンサーの素材がバザールでよく売れるって教えたわよ。ここから隣接しているから、行き来もしやすいわね」

「それ以外のところ教えてほしいです」

 ポニーテールを誇らしげに揺らす、先行者のドヤ顔がちらついた俺は、即答で別の場所を希望する。


「うーん……それなら東門を出た草原地帯に、草食の獣や猛獣が生息しているわ。ただ、フォーケインの獣って危険なのが多い上、警戒心が強いから……ビッグ・スラッグやジャンパーといった魔物を狩ってみたらどうかしら」

「そいつらは草原地帯にいるんですか?」

「ええ、芋虫とバッタのお化けみたいな魔物ね。芋虫は逃げ足が遅いし、バッタは人を見るとあちらから襲いかかってくるからおすすめよ」

 俺は一瞬だけ思考の海に意識を落とす。

 獣型モブが強いというのは、前作からの踏襲だ。

 何故か、ビヨオン世界では怪物じみた姿をしてない獣型が生態系の上位を占めている。

 ウサギを見て狩ろうとしたら、一撃で首をはねられたり、鹿を見て狩ろうとしたら、一撃でパーティーが蹴散らされたり、森に踏み入ったパーティーがオオヤマネコに食い散らかされたり……ふえぇ、思い出しただけでトラウマだよぉ……するのがビヨオン世界の日常だった。

 そう考えると、昆虫型に的を絞るのはそう悪くないチョイスに思える。

 いや、昆虫型にもクソやばいのはたくさんいたんだけど……バッタと芋虫なら平気だろう(慢心)


「草原に行ってみますね。先立つものをうまく稼げたら、何かお礼します」

「弁当に召喚パンおなシャス」

「あら、うふふ。楽しみに待ってるわねー。お弁当ね。ちょっと待ってて……」

 再び『コーリング・ブレッド』を唱えるマチルダさん。

 弁当パンを受け取った俺たちは、それをナイフの入っていた小袋に詰め込んだ。

 彼女に見送られながら東門へと向かう。


「……それにしても“中の人”なんてなあ」

 あの黒幕は一体何を考えているんだろう。

 確か“実験”と称していたな。

 プレイヤーを閉じこめて、故人の人格をコピーした住人をNPCに使う……うーん。

 何考えてるか、全くわからん。


「衛兵使って共闘。もしかして、きちーかな」

「まあ、今回はやめとけ。な?」

「うい」

 俺たちは煙と槌の音立ちこめる工房区をさっと駆け抜ける。

 槌を振るい、客と談笑しているNPCたちの笑い声がやけに耳にこびりついた。

 彼らの中にも……人は宿っているんだろうか?


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