集合
※
俺の名前は黒独尊。
しかし、それは嘘だ。
真解思書によればこの世界自体がシチュエートという能力をかけられている。
とりあえずこれをかけられていない人間が、俺の敵か味方のどちらかだ。鬼といるか、イチと俺は前の記憶もある。蟹吉、前の世界ではいるかというか、あいつは蟹吉という名前すら自分で作ったのだろう。そんなへんてこな名前が実在するはずが無い。
そして今日、時雨がいなくなった。同時にシチュエートって言う能力が時雨の項目から消えたから、俺達の敵だったんだろう。別に責めるつもりは無い、お互いにそれを知らなかったということで気持ちの整理は付いた。
世界を元に戻す方法はいろいろあるが、シチュエートしてる能力者を殺すか、世界自体をぶっ壊すのが比較的簡単だろう。
「と、思うんだが」
「そんな話をされてもさっぱりだ」
俺達は六人で一つ。記憶を取り戻さなくてもふーらるはマスコットだからいいんだが、こいつは駄目だ。一番最初に死んだことを大爆笑してやらねばならないからだ。
「実はお前の名前はモノだ」
「それは痛い」
庸介は一向に俺の話の本質、つまりは記憶を取り戻さない。
「お前の趣味は自転車収集」
「……そもそもの意味が解らない」
それは俺もわからない。自転車を集めてどうするんだ。あんな高いもの、十台も持っていたらそれだけで一大財産だろう。
記憶を取り戻させるようなワードがほかにあったかな、モノの好きなものとかほかに知らないし、こういうのは俺の役目では本来無いはずだ。
「もういいや……でも、いいたいことだけいっていい?」
記憶を取り戻すのは諦めた。あとでいるかあたりにやってもらえばいい。俺の例を見るに、記憶を取り戻しても、記憶を失っていた間の記憶が消えるわけではない。だから後でいおうと先にいおうと一緒だということに今気が付いた。
「何?」
時雨がいなくなって、戸惑っているところにこんなことを突然言われて戸惑いが臨界点を超えているんだろう、怯えきった表情だが、モノはまだ話を聞いてくれる。チャンスは今しかない。
「僕の能力が一番あいつらに効果的だとかいって、一人で能力者と戦おうとしてたけどさ。一瞬で爆裂するとかうけるわー。マジうけるわー、ねぇ、恥ずかしくないの? ねぇ? どんな気持ち? うかつに僕には攻撃できないとかいっといてどんな気持ち? 全然瞬殺でしたけど? 俺らの仲で一番強いみたいなこといっといて、全然モブキャラ以下の死に様ありがとうございました!」
「はい思い出した! せい! 黙れ黙れ黙れ思い出しました!!!」
「それは良かった」
「よくないよ」
これでふーらるを除いて全員が記憶を取り戻した。
「あの、何の話をしているんですか?」
台所で紅茶を入れていたふーらるが、それを大事そうに飲みながら俺の横に座る。
「あ、ふーらるってふーらるか?」
「そうだ、なぜかこいつだけそのままの名前だったな」
「そこじゃないんだ。ふーらるって鼠だろ」
モノはふーらるの耳を指差して、わけのわからないことを言い出した。
「そうだけど?」
「えっ? いや、違いますけど? ねずみ憑きなだけなんですけど? べしっ」
芸人のように俺の胸を叩いてきた手を掴む。
「いや、お前は記憶喪失で本当はねずみなんだよ」
俺が諭すようにいうと、ふーらるは俺の手を振り払った。
「ちょ、私のお父さんとお母さんに謝ってくださいよ……」
ふーらるのポケットからチョコが出てきて、口の中に消えていく。
「全部全知全能の能力シチュエートの記憶改ざんだってんだからびっくりだわ。さっきまで俺悲壮にかられてたもん」
モノは陰陽師とか胡散臭いことこの上ない、みんなにいわせると呪術師が一番胡散臭いらしいが、職業で、普通じゃないこと全てを知ることが出来るらしい。理の外のものに敏感なのが陰陽師のなんとかとかいう説明を受けたが、さっぱりだ。イチが魔法使いで、魔法は魂の力でとかいったときもちんぷんかんぷんだったので、よくあることなのだろう。
「ちょっと、傭介さんもその変な設定に乗らないでくださいよ……え、何ですかこのマジな感じ。少し不安になるのでやめてください」
「解った」
最終的には五人でどっちかをやるというか、作戦は勝手にいるかあたりが立てているだろうから、こっちはそれに備えて準備だけしていればいい。
「解ったてなんですか! 怖い! 怖いんですけど!」
「そんなことより、パンはこれからどうするんだ。やっぱ戦うのか」
「もちろんだ。絶対に勝つ」
俺は実は前々から作っていたわら人形達を取り出してモノに見せる。
「……お前のそれさ、使うと不幸になるっていうか、俺たちが死ぬのが確定的明らかになるよね」
まさかいまさら俺の呪術にけちをつけようというのか。
「その通りだけど」
しかし否定は出来ない。
「使い道ないよね」
「今探してんだよ、俺達友達だろ?」
「まぁ」
くそ、誰かを絶対かっこよく呪ってやる。
「あのー、さっきから何の話をしてるんですか、混ぜてくださいよ」
「……」
「……」
「えっ、なんで無視するんですか。紅茶入れてきます!」
ふーらるは泣きながら、台所のほうへ走っていった。
紅茶のいい香りがし始める頃、いるかからメールがあった。連絡といってもメールで暇? ということだけではあったが、暇なので暇と返すと場所を指定されたので何か出来たんだろう。
「行く?」
モノが俺のケータイを覗き込みながら、お茶を入れてきたふーらるに聞く。
「はい、行きます」
二十分ほど移動して、指定の場所に着いた。街中には、まだ黒い人形がたくさんいるので、便利な魔法的交通機関が一切死んで、すごく不便だ。俺達が呼ばれたのは、でっかいビルの前だった。ぼろぼろだったが、中に入ろうとすると、自動ドアはちゃんと作動した。
「えっ、何の躊躇もなく入らないでくださいよ。お金持ちってのはみんな怖い人なんですから」
しかし、ふーらるが服の袖を掴んで止めてくる。
「大丈夫だろ。その怖い人ってのはみんな逃げてるよ」
「まぁ、そうですけど」
能力の高さが、権力と比例するこの世界では黒い人形に一番に狙われるのは金持ちだ。
俺達がそこでもたもたしてると、イチがビルの中から迎えに来てくれた。
「なにしてんの? 入りなよ」
「あ、ひさしぶり」
「ひさしぶり」
「こ、こんにちわ」
「あ」
ふーらるの耳とかをみて合点がいったのだろう口をパクパクさせるイチをおいて、俺達はビルの中に入る。
だだっ広いエントランスホールの端っこにあいつらはいた。知らない奴が二人いたが、他はまごうことなき俺の仲間だ。こっちに気が付いたいるかが、俺の知らない二人を手で指し示す。
「あー、こちらが私の研究資金と場所を用意してくれた社員AそしてBだ」
いるかのあの変な髪ばかりを見ていたから、逆に今のまったく縛っていない髪型に違和感を覚える。
紹介された大人の男女二人はこっちに軽く会釈したので、返すと、俺達は床に座った。
「まずは相手をどう倒すかだ」
鬼が一番初めにそういった。この話し合いは前の世界でもやったのだ。これにイチが賛成して、モノは自分達がどう攻撃するか、俺は誰を攻撃するか、そしているかは秘密兵器を出す。しかし今回は二回目だ、そんな話し合いに意味は無い。
「鬼、待ってくれ。今回は前の経験を生かそう。まずは何よりも先にどう死ぬかだ」
「そうだな。じゃあ爆死で」
「ちょっと待ってくれ、爆死はいるかが前の世界でかっこよく決めたからインパクト薄いぞ」