ジャガイモ
「うわー! うわー! わー!」
物語も架橋に入り、教頭のきゃらを倒し終わった。
「やったー! なんか最後のキャラだけ弱かったけど、次でラストよね!」
つなぎがかなりハイになっている、なんと言っても身内受けだけを狙ってて、しかもつなぎは身内の中でもかなりの身内といってもいい。ノーヤも血が騒ぐのか、顔を上気させ、画面上で縦横無尽に惨殺を繰り返していた。最終ステージを終え、俺とノーヤの撃墜数はまったく同じ。
「ノーヤ、半端ないな」
「宿敵(そっちこそ、邪魔しないでください)」
「邪魔してんのはそっちだろ」
後半、ノーヤの妨害は少しひどかった。つなぎに注意されるほどだ。
「「くっくっく、良くぞここまで来た! 私が最凶魔王、つなぎ様だー」」
四頭身つなぎが現れる。
「涼、この声は何?」
つなぎの顔を見れない。
「この声はお前の声を録音して、つなぎ合わせた。大変だったぜ」
「おい」
つなぎの声の温度が絶対温度0を突破する。
「来るぞ」
「おい」
あぁ、死んだな俺。
「悪かったよ」
「ほびろん!!!」
「きますよ! 何いい争いしてるんですかっぁ!」
のりのりなノーヤに助けられた。
ノーヤがカッターで切り上げ、つなぎを切る。しかしつなぎは一切ひるまず、退かず、隙はない。周りに針を浮かせ、それを飛ばしてくる。あたれば画面際までずっとコンボだ。最高78コンボで瞬殺もありえる。
「呼び動作で回避! カウンター! ヒットアウェイ!」
ノーヤの動きが卓越してきて、コントローラーが壊れそうだ。
「……なぁ、なんか私が私を殴るって、シュールじゃない?」
つなぎもそんなことを言いながら、クリアはしたいらしい。容赦なく攻撃を当てていく。つなぎもこれまでの戦いでかなりうまくなっていた。
「「ぎはー、やられたー」」
ついに勝った。
勝ってしまった。
このゲームは何度でもコンティニューできるから、勝つまでやれば勝てる。このときが来てしまうことは解っていたが、もう駄目だ。
外はもう暗かった。
「よし、終わったな。消そう! すぐテレビを消そう!」
「え、エンディング……」
ノーヤ……お前は俺のことがそんなに嫌いなのか。
エンディングは、つなぎが絶対言わないことを合成で言わせようっていう、仲間内じゃなければ何も面白くないのが淡々と二時間続く。こんなのこの状況じゃ何も面白くない。ただ寒いだけだ。
つなぎの顔が出てくる。
「「ふぇぇ」」
「ひっく」
大丈夫まだ許容範囲だ。すでにノーヤのHPは赤ゲージのようだが、俺はもうこれを何度も見ている。
場面は雨が降っている中、つなぎが走っている場面に切り替わった。
「「雨が降ってきたぁー。酸性雨で融けちゃうよぉ、うえーん」」
実際は、雨をやませろ! と俺に向かって叫んでいるとても理不尽な状況だ。
「ひゅっ」
ノーヤが喘息のように呼吸が出来なくなっている。
「「めるとだうんしちゃったー。えへへ、雨が甘い飴になれば良いのになぁ」」
「――死者が出るわ」
今つなぎが自分に突っ込んだ。
すぐに襲い掛かってくるかと思ったけど、意外と冷静らしい。怒ってはいないのだろうか。じぶんでもこの口の動きで不自然ではない最高の言葉を選んだから、もしかしてと期待する。
「今日ここで」
あぁ、さっきのって飴が降ってきたら危ないという意味じゃなくって、死者が今日でますよって意味か。
「ただいま」
玉木先輩が帰ってきたときの、あの絶望的な顔を俺は忘れない。
「てめぇもだぁぁぁぁ!!」
※
ゲームはそれなりに面白かった。最終ステージより前のステージは、意外と作りこんであったし、私の武器がハンマーだったのには悪意を感じるけど、使いやすいから許す。ストーリーはあってないようなもので、ひたすら知り合いがボスのステージを倒すだけのものだったけど、そこもあんまりこだわらないから別にいい。ラスボスが私なのも……まぁ、強かったし、許容範囲ぎりぎりでセーフ。
だけどエンディングは絶対に許さない。
はぁ!? スタッフロールそっちのけで、私が出てきてふええーって何だよそれ、そんなこと言った覚えすらないわ!
私以外で集まってこれをやった後、爆笑している涼とその愉快な仲間達の姿が目に浮かぶわ。どうせ最後に私に見せようと思ったんだけど、出来が良すぎで見せるに見せられなくなったのね。
「いや、違うんだよ。つなぎ。お前の誕生日何がいいかななんてみんなで話し合ってたらこんなものが生まれてだな」
モヒカン、その、にやけた面を直してから弁解しろ。
「そっそうだ。切縫、悪気はなかったんだ」
かぼちゃ頭の無効でこいつも絶対にやけてるだろ。
ゲームになっ注していて気がつかなかったが、いつの間にか夜になっていた。モヒカンが帰ってきたので、涼の隣に正座させる。涼? こいつはどうせ正座させても形だけだし。
「あ?」
「「すいませんでしたー」」
「まぁ許す」
別にこいつらの頭と体をセパレイトしても私は何も得しないし。カセットは叩き割ったあとだしね。
「お前ら三人、私の作った服を着ること」
「まぁ、良いぞ」
「俺も」
「仲間の導き(三人って私もですか?)」
本当は涼だけでもいいんだけど、誤解されると困る。
モヒカンの奥さんにご飯をご馳走になり、割り当てられた部屋でノーヤと二人きりになる。
「速いですね」
私の手先を見ているんだろう。まだ何を作るか考えてないから、これでもかなり遅いほうなのだが、私とその他大勢を一緒にしてもらっては困る。
というか、普通に喋れるのね。
緊張しいなのかしら。どちらかというと、普通に喋ったほうが緊張しなさそうなものだけど。
「どんなのつくって欲しい?」
「あ、十字架」
「中二病はやめて」
そうだった、この子は学校で私がやっていた制服の改造に、もはやそれ制服じゃないだろって言うか、動きづらっていう、痛い感じのを注文してきたのだった。引きちぎられたような袖、高すぎる襟、バラの刺繍に十字に書かれた聖書の一説。うわぁぁぁってなりすぎて、次にふざけて蟹っぽいのとか注文してきた奴の制服を海老マヨって腹のところに書いてしまったくらいだ。
「……あ、ペンギンが好きです」
ペンギン?
「パジャマみたいな奴?」
「あ、そうだ。私パジャマなかった」
……本気かしら。まぁ、なりきりパジャマなら、解りやすくて良いけど。
涼から風呂はいれと下の階から声をかけられた。
「先入っていいわよ」
「あ、それじゃあ、入ります」
普通に何も持たずにいってしまったけど、放置してもいいのかしら。
いや、駄目ね。作り始めていたペンギンなりきりパジャマ完成させて様子を見に行く。
「ノーヤ? 服はいいの」
「精神の崩壊(助けてください)」
「いや、本当になにを言ってるのかさっぱりだわ。パジャマ作ったから置いておくわね」
「ありがとうございます!」
少しして、ペンギンを来て二階に行こうとしていたノーヤを捕まえる。
「似合ってるじゃない」
「謝罪の気持ち(恥ずかしってまだ怒ってたんですか、うわぁぁぁ)」
歯を磨きながら涼とモヒカンが仲良く歩いてやってきた。
「だれ?」
「器用に喋るわね」
涼が歯磨きしながら、ノーヤを指差す。
「ノーヤに決まってるじゃ……誰でしょうね」
よくみると、ノーヤの頬についていた痛げな十字もなくなって、化粧を落としたんだろうけどなんだか別人のようなノーヤだった。……というか、化粧を落としたほうが可愛い……だと……。普通、すごい普通に可愛い。なんだったのよ、さっきまでの変な感じは。
「何? と、もしやこの世界戦では初めてだというのか(もしかして私のことがわからないんですか?)」
よし、やっぱり変な奴だった。
「何でペンギンなんだ?」
モヒカンも器用に歯を磨きながら話す。あれって誰でも出来ることなんだろうか、少なくとも私は多分出来ない。
「つなぎさんが、秘密結社の襲撃で……(つなぎさんが作ってくれたんですけど……)」
「つなぎ、何でペンギン?」
「え? ペンギンパジャマ作ってっていわれたから」
「情報操作(ペンギンの絵が描いてある普通の服って意味だったのに)」
涼に意味を聞いて愕然とする。しまった。これまで涼のわけのわからない注文をそのまま形にしてきたせいで常識が欠けていた! とりあえず涼は後でボコろう。
「似合ってる」
涼が器用に歯を磨きながらフォローを入れるが、それは普通の人間相手なら嬉しくないだろう。大学生にもなってなりきりパジャマが似合うとか、別の意味で痛すぎる。
「ふ、ふふふへ」
作り直してあげようと思ったけど、気に入ったようなのでやめた。
「涼のも作るわ。明日には貴方は爆死するでしょうけどね」
「前後の文脈がまるで合致しない!」
「……あの」
ノーヤ、いや、ペンギンがおずおずと手を上げた。
「なに?」
「いや、それ」
ペンギンが指差したのは、涼の顔。特に何の変哲もない、いつもどおりのかぼちゃ頭だ。
「ん?」
私ともモヒカンは同時に首を傾げ、数十秒。
「あ、かぼちゃじゃない。ジャガイモだ」