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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
学校ぶっ壊されるよの章
91/108

世界が力を持つということ




 


血と涙。私には、酒市さんが何をそんなに必死になっているのか解らない。私は元々生きてはいないんだ。死んだところで、変化はないし、なによりもそれが自然だ。ただ、初めての感覚だ。ユーリ・ミカエルにも同じ様な感情を覚えたが、もっと強いもので、不思議と全身に力が入る。

「問題は……この感情をどう扱っていいか解らない」

 酒市さんは、目を覚まさない。息をしているが、ひどい怪我だ。怪我というものにも、私はあまり共感できず、痛みも感じたことがないが、酒市さんのそれが限界を超えているものだということは解った。これ以上は絶対に傷を付けさせはしない。

 酒市さんを抱きしめ、心臓の音を聞いた後、四体の黒い人形を連れた男を見る。

「よくも……」

 搾り出すように発せられた私の声。私はまず彼の名前を聞き、こんなことをした理由を聞き、それから行動を起こそうと思っていたはずだ。どうもさっきから、この初めての感覚が私を勝手に動かす。酒市さんの吐いた血と流した涙を吸収し、その水分から人間形成を発動する。これだけの水分なら、近くの水源まで私の人としての体を作れる。

「人間形成」

 私の全身が脈動する。体の中で何かが音を立てる。体の隅々までを何かが廻って、私は人になった。

 そこでさっきまでの私が、人の形をしていなかったのに気がつく。どうやって酒市さんを抱きしめたのかが不明だが、その感触は確かに両手に残っている。

「血が疼く! 俺は鬼だ、鬼と呼べ!」

 男は鬼と名乗り、何かを喚く。 

 ちょうど真後ろにいた人形が、地を蹴って私に迫った。

 私が気がついたことは二つ。私の全身が正しく機能しているということと、私の認識は常人よりも優れているということだ。黒い人形の速度は、時速168キロで、殴られた私はきっと73に砕け散る。もちろん、少し前の私の話だ。 

 普通の人間の速度では反応するのも難しい攻撃。

 ――ならば、人間をやめるべきだ。今が選択のときなのだろう、人としてを目指すのか、泥としてを目指すのか。しかし、選択のときと言っても選択肢などない。酒市さんを守るには、私が人間を完全に捨てるしかない。私は意識を持った星として生きる。これ以上は酒市さんを傷つけさせない。

「私の重さは6000000000兆トン。私はもう泥ではありません。さらに水を取り込むこと膨大。私は地球だ」

「世界が力を持ったな」

 鬼が笑う。

 自分の重さを拳に集める。速さは筋肉を幾重にも作ればいい。拳に集めた重量は重力を呼び、いとも簡単に黒い人形を引き裂いた。

 私の全身。つまりはこの地球に存在する泥はすべて私という意識を持ち、岩石の類も砕けば泥と密度を上げた泥と見て、水も十二分にあり、問題なく私は全身を能力の対象にする。私の全身とは地球だ。しかし、これを人間の形に整えることをしたら、世界が終わる。

 だから、私は人間を捨てる。人間形成で脳をいじって、人の形等言うものを、球型の、地球の形そのものに代えた。これでもう、私が人になれる確率はゼロだ。人間の姿が何か解らなくなった。元に戻すことは出来ないだろう、人の姿が解らなければ同じ様に差し替えることは不可能だ。


 黒い人形の三体が同時に、的確に私の死角を突いて狙ってくる。

 しかし、その黒い人形が立っているのは私であり、一体は足場を失い、一体は突然隆起した岩山に体を強く打ち、最後の一体は私の目の前で私の拳によって消し飛んだ。

 ほかの二体は、そのまま地面の中に引きずり込む。頭だけ出すといったことはもうしない。残ったのは、さっきの鬼と名乗った男だけだった。

「邪魔なのは片付いたな」

 嬉々として、自らの連れていた人形がやられたことをそう言って、

「タイマンだ」

 とその拳を私に叩き込んだ。

「痛くも痒くもない」

 そもそも、人間の形をしたのはすでに私の体の一部分に過ぎない。これなら、そこらへんの地面を掘り返したほうが私にダメージを与えられる。

 

 ややこしいが、私は地球だ。倒そうと思うのなら、地球を壊すしかない。

 そして、殴ってきたのだからそのような能力かと思ったが、威力はさほどない。人より少し強いくらいだ。ただ、私は少しだけ迷っていた。彼は明らかに人間だ、酒市さんをこのように痛めつけた根源だとしても、私が反撃すれば同程度の怪我を負わせてしまう。目には目をと言うが、その役目は法にあって、私が行使していいものではないからだ。

「なんだこれ? 土? お前強いんだろ?」

 えっと、多分私は解りにくい性格なんだろう。酒市さんとも、彼とも話が通じている感がない。もっとちゃんと分かり合えれば、酒市さんはさっさと私を捨てて逃げるはずだし、彼も立ち向かおうとは思わないはずだ。やはり私が人間でないから、視点が違うからなのか。とりあえずは教会に酒市さんを持っていくか、治癒を持つ能力者を探さなければならない。

「どいてください」

「かかってこいよ」

 会話って難しい。

 無視して、進もうとすると、すがってくるように攻撃してくる。今度は痛みを感じないと言うわけでなく、痛みが小さすぎて何の問題もない。地面に拳をぶつけているようなものだ。 

 しかしそれも、酒市さんに危害を加えない限りにおいてだ。酒市さんに攻撃されたら、問題はある。

 わざとではないのだろうが、酒市さんを触りそうだったので、何度目かの攻撃を手で払う。

「伏虎流、時計回り」

 腕を払われた彼は、バク転して私の体、人間を真似した形の顔を蹴る。しかし彼には形を崩すことすら出来ないだろうと、見ていたら吹き飛んだ。視界が一瞬だけ奪われるが、すぐに作り直す。異常な威力だった、私の手を払う力を利用しての攻撃なのだろうが、そこまで威力を高めることが出来るものなのだろうかと思う。

「おい、戦えよ。その女のことを攻撃してそんなにしたのは俺だぜ? と言うか、そいつ死んでないか?」

「何を言いたいのか解らないんですが」

 まるで、死んだら彼と戦わないといけないみたいな物言いだ。

「……そいつを殺したのは俺だ」

「罪滅ぼしをしたいと言うことですか? しかし私は今、急いでいます」

 教会に行かなくてはならない。酒市さんをこんなに痛々しい姿で放っては置けないからだ。

「解らないな。そいつは大事か?」

 そう聞かれて酒市を見る。ここで言うことではないが、愛していると言ってもいい。

「大事です」

「立ったら何で俺を憎まない」

「憎む理由がありません」

「なんでだ?」

 理由を聞かれても困る。罪を恨んで人を恨まずと言うし、そもそも酒市さんを死なせる気はない。

「まだ間に合います」

 まだ息はある。それに死んだとしても、状態を保てれば……。

「なるほど、知らないのか、間に会わないぞ。ここら辺の能力者はほとんど壊滅してる。その女みたいな大怪我を治せるような奴は残っちゃいない」

「どういうことですか?」

「こういうことだ」

 彼はボールを私投げた。

「能力に反応して、魔法を打ち消すバルーンが出来るんだ。魔法に反応すると能力を打ち消すのが出来るんだが、共通して力を打ち消す体を持つ特性を持つ」

 そのボールが割れて、黒い人形が大量に出てくる。さっきの黒い人形よりも身長が高く、手が長い。何より数が多く、ひとつのボールから三十の黒い人形が現れた。

「こいつらで、全国一斉に攻め立てた。ターゲットは能力者に魔法使い、俺は強い奴を探してただけだから、どのくらいそれが進んでるのか解らない。だが、お前は優先撃破対称だ。強くないわけがないからな。さっきの奴と戦ってこっちの戦力は解ったはずだ。嘘ではないぜ」

 確かに人形が大量に放たれれば、確かに莫大な損害が出る。そんなに簡単に戦力を生み出せるのかと驚くばかりだ。

 事情は解った。例え酒市さんを治すことの出来る人間が生き残っていても、そう簡単には見つからない状況だろう。その人間を探す時間が惜しい。

 ――倒すか。

「お、やる気になったか?」

「えぇ。力の加減は出来ないかもしれません」

 地面から手を生やすようにして、足首をつかみ、地面に引きずり込む。

「伏虎流、ばね計り」

 鬼の足首をつかんだ手だけは逆に引き抜かれ、土が地面を舞う。

 おかしい。人間に抵抗できる力ではなかったはずだ。

「全力でこいよ」

 黒い人形は、全部始末し、残るは鬼だけだ。そうは見えないが、意外と力があるらしいので、今度はもうひとつ人の体を作って攻撃することにする。これも星をすべて人間形成で体にしたから出来る技だ。名前とかつけたほうがいいんだろうか?

 殴る瞬間、拳の重さを適当に百キロくらいにする。元から土で出来ているんだから、圧縮して重さを変えるのだ。鬼がそれを手で受け止めようとするが関係ない、どこだろうと当たればただじゃすまない。

「表返し」

 殴った私の腕が弾き飛ばされる。   

 

 もう一度同じ様にして、今度は拳の重さを 倍にして殴る。速さもさっきより速くだ。

「伏虎流、表返し」

 しかしそれでも同じ様に私の作った体が吹き飛ばされるだけだった。

「伏虎流こそ最強……本気でこいよ」

 能力だろう、力をそのまま相手に返すとかの。まぁ、それなら最初の攻撃の説明がつかないが、とにかく時間がない。閉じ込めてしまえばいいか。巨大な手を作って、その手で包み込むように、鬼を閉じ込める。

 中で、鬼が、外に出ようと壁を殴ったが、普通の人間程度の威力で壊せるものではない。

 

 さてと、酒市さんをどうにかして助けよう。今なら解る、地面を歩いているのは大半があの黒い人形だ。だが、この学校という好条件。能力者の最も足るものが集まっているんだ、探せばまだ何とかなるはず。まずこの場所は、学校の南、とりあえずは校舎に向かおう。酒市さんの体に障るのでゆっくりとだ、どうせ私を直接踏めば大体解る、黒い人形が学校に入ってから少し立っているようで、近くに黒い人形以外は見当たらなかった。

 問題は後は私の姿だが……。

 こうなったら全員だ。全員に話を聞いてやる。

 私の姿をもう私は認識できない。

 話せば解るはずなんだ……。

 

     

    

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