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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
学校ぶっ壊されるよの章
89/108

ドロップアウト




 体、人間としての体を大きく作りすぎたせいで、感覚による情報がオーバーフローする。ユーリ・ミカエルの場所を探すのに、少し無理をしすぎたかもしれない。

 自分細かく区切って、腕を元の大きさに戻す。密度はいつもの三倍から五倍ほど、少し多いが別段気にはならない。

 後は耳だ、これも無意識にそこら中に作ったが、完全に調子に乗りすぎた。頭が痛い……。

「あの」

 酒市さんが体中を泥だらけにして立っていた。さっき拾い上げた時に人間形成で人間に成りきれなかったらしく、それで付着したのだろう。まぁ、人間らしくない巨大な手の平を作ったのだから不完全で当然なのだが、それでも酒市さんに申し訳ない。

「酒市さん、大丈夫ですか?」

「あ、いや、大丈夫です。でも、大丈夫じゃないかもじゃなくて。うーん」

 そう言って酒市さんは俯いたと思うと、体に付いた泥を集め始めた。ある程度集まったそれを差し出してくる。

「デイさんの能力って……とにかくこれ、お返しします!」   

 差し出されたそれを要らないというのも失礼かと思い、受け取ると、酒市さんの顔はどんどん赤く染まっていく。

「僕の周りに付いてるのって、全部でデイ君なんですか。つまりそれは今、僕がデイ君の中って言うか、こう、全身を触られてるっていうか、僕の靴の中に入ってるのもデイ君で、僕の服の中に入っちゃってるのもデイ君?」

 嘘は不信感を募らせる。本当の事を言うべきだろうか。

 取り合えず、酒市さんが赤面するような、やましいことは無い。しかし酒市さんの靴の中に入っているのも、服の中のも同様に私である。

「そうですね。私です」

「……へ、変態――あ、いや、嘘だよ。そういうのも嫌いじゃない……かな? 僕は理解を持って接っせると思う……うん、いける。大丈夫。バッチコイ!」

 何を勘違いしているのかがよく解らないが、何故か変態だと思われているらしい。

 酒市さんは混乱しているようなので、弁解したところで無駄のようにも思える。しかし人は話し合うことで分かり合える、私自身、自分を隠し通してきたのは、大量の人と話し合う時間が足りないと思ったからだ。人間として扱って欲しいというのもあった。だが酒市さんになら自分の話をしても解ってくれるはずだし、何より酒市さんにはこの事を聞いて欲しい。


「私の能力を知ってください」

「それは、成人指定的な意味!? 待って待って、私本当に何も知らない生娘だけど!? バッチコイとは言ったけどそんなボールは取れっこない!」

 話し合うって難しいんだな。

「私は、」

 泥です。と言おうとした時、日が翳り、風を切る音に空を見上げた。


「心裂刀、廻灯を砕き輪廻を燐音の断りを理と成す為に為す。光を吸い、闇を纏い、天を被り、地を履き、人を持つ。光陰天地人またたきびーと――対刀、幽谷の全てを糧とし、克てぬを真理、審理を勇をもって慄くは森を焼き、羅の捕らえしは万の象。幽谷森羅万象わーるどぷりずん

 太陽を背にし、飛び掛ってきたその人は、普通に着地して、普通にその二本の剣を構えた。

「……またたきびーと」

「……わーるどぷりずん」

 自分と酒市さんがその名前のセンスに二人で呆けていると、先ほど飛び掛ってきた? 男の人は、光陰天地人とかいう刀を私に幽谷森羅万象を酒市さんに向けた。浮かび上がるようにその人の顔にお面が現れる。 

「斬」

 七億を二万六千八百四十とそれらが砕けて約二京。不味い不味い不味い。油断した、これは完全にAクラス以上。酒市さんを何とか助けられないか? 

「人間形成」

 酒市さんが崩れてしまう前に酒市さんに手を伸ばす。

 酒市さんの切れ端がデイの手の中で結合していった。

 なるほど、人間形成は他人を形作ることも出来たのか、まぁ、使い時が限られすぎている気もするが。

「我輩の斬撃、耐えたか。しかし、これが本気とは思うなよ」

 素早く自分の腕をもぎ取る。

 それを投げて、酒市さんの手を取った。

「? あれ、何が起きたの!?」

 圧縮されていた泥が制御を失って一気に膨張し、爆発した。

 目指すは下流。体を集めなければ。


「デイ君!?」

「酒市さん、聞いてください。私は泥。泥です。あ、これ秘密ですよ」

 どうやらあまり話している時間は無いらしい。目の前にさっきのお面の男の人が蜃気楼のように現れる。

「なかなかの奇策。しかし」

 相手が其処まで言ったところで、川の中に手を突っ込む。男の人が立っている地面をくりぬくように地面を人間の姿に変化させていく。    

「むっ落とし穴か!」

 男の人は飛んで、穴に落ちるのを避ける。デイはその泥で作った腕を投げつけた。


 ※





 気が付いた時、其処は地面の下だった。

 デイ君はへたり込んでいて、片腕は無い。

「デイ君。そのー、腕は?」

「大丈夫です、こっちのほうが自然ですから」

 そうなの!? デイ君って片手無いのが普通なの? 事故とかでなくしてもあるのがどちらかと言うと普通だと思うんだけどな。

「それよりも酒市さん。私は泥です。岩石が風化・浸食・運搬され生じた陸源の砕屑物のうち、礫や砂よりも細かいもの全般は私です」

 どういうことだろうか、能力の説明をしてくれているのかな。

「ぶっちゃけ、人間でもなければ、生物ですらありません」

 ……もしかして、本当の意味でデイ君って泥なの? 誰かの作った泥人形ってことかも。

「その、もっと詳しく教えてくれない?」

 デイ君は僕だけにと、なぜかは解らないが能力のことを教えてくれた。

 自分は元々泥で、自我も無かったが、何故か能力が芽生え、あるとき突然自分を発見したんだという。能力が無意識に発動することはよくあることだが、人間以外にも能力が発現するのは聞いた事がなかった。デイ君の能力は人間形成、人を作る能力だそうだ。意識は作れないから、自分を人間の形にすることしか出来ないし、一度自分の意識を手放すと、そのままいつまでも元の土のままらしく、人間形成をしようとする意識を持っていないとか。

 水と土を七対三がもっとも、人間に近づける割合で、ある程度大きくなれば岩を砕けるので全ての土は自分とすることも出来るそうだ。 

 



 ふむー。ちょっと、難しくて何言ってるのか解んないなー。

 つまりあれだよね、全部泥になるとなんかまずいけど、体を泥にしたり、泥を体にすることとか出来るんだよね。それにデイ君は何の能力持っててもデイ君だし。


「ところで、、すいません酒市さん。敷地の外に出たからどうやら私たちは失格だそうです」

 そういえば、お面を被った人にデイ君が自分の腕を投げつけて、自分で作ったらしい穴に一緒に落ちたんだった。でも、失格だそうですってどこでそれをデイ君は知ったんだろうか。

「後もう一つ謝らなければいけませんね、どうやって出たらいいか私には解らないんです」

 上を見上げると、ものすごい上に小さく光が見えた。きっとあそこから落ちたんだろう。

「ここに落ちてきた時はどうしたの?」

「それは、人間形成で作った自分の手で優しくキャッチしました。私の自我が泥に触らなければ成らないので、思いっきり体が削れましたが、神経なんて元から作って無いので問題ないですし」

 もしかして私のために、ものすごい頑張ってくれているのではないか。というか、その記憶がない。つまり私は気を失っていたのか。――良かった、起きれて。

「……デイ君の力で戻れないの?」

「距離が遠すぎて……あと、並べく人間の振りをしておきたいので、あんまり能力を使いすぎるのは……」

「さっきまで使ってたじゃん」 

「それは酒市さんを守るためですから」

 

 惚れた。

 ……でも、戸籍とかどうなってんだろ。泥から生まれた人間ってことででしょ? 最終的に結婚とか出来んのかな。いや別に僕は結婚式とか挙げて一緒に住めれば、僕は戸籍上のことなんかどうでもいいんだけど。それにデイ君の家は教会らしいし、何とかなりそう……かな。    

 

 

 ――僕とデイ君が、穴に落ちてから数時間は立ったと思う。二人きりなのはまぁ、ちょっと、いいかな、とは思うけど、やっぱし暗い中で、いや暗いってのも中々いいんだけれども、心細い。

 デイ君は、泥を自分の体にして、地面に穴を開けていく。それで地上へ行くための坂道を作っているのだが、水が少しは無いと体を作れないということで、進みは遅い。水分を含んだ土を探しているんだろう。しかし何もする事が無いと、デイ君のことについて色々考えてしまう。

「デイ君ってさ、泥風呂とかどう思うの」

「どうとは?」

 能力もやっぱり体力を使うのだろう、僕は能力は使いすぎるということが無いのでそういう感覚が解らないのだが、デイ君は振り返って、汗だくな顔をこちらに向けた。

「よく女の人とか、入ってるじゃん」

「あぁ、私は温泉とかは化学反応を起こしてしまいそうなので、旅行に行ったらそういうのに入ってみたいとは思ってます」

 デイ君はにこやかに笑ってそう答える。

 なんか自分が、そういう事考えてるばっかりな屑みたいに思えてくる。でも、相手は聖職者なんだ。それで当然じゃん。聖職者ってちょっとエロいよねとか、今、一瞬でも思った僕は多分末期だし、こうなったらとことんまで突き詰めよう。

「あれさ、要は女の人をデイ君の中に入れてるわけでしょ」

「あー、確かに、周りを自分で囲んだだけですからね。なんか変な感じではあります。あ、実は私、お風呂とかも怖いんですよね。溶けそうで」

 話を逸らされている。だけど、ここは絶対に問い詰める。というか、デイ君にエロいことを言わせてやる。僕の誇りに掛けて。

「酒市さん、まだ歩けますか? 辛くなったら言って下さい」

 ……でもそれは後にしよう。デイ君の顔は汗だくで、僕の誇りは吹き飛んでしまった。というか、そんな状況で僕の心配をするのはずるい。

「僕は大丈夫だけど、デイ君、そんなに頑張らなくていいよ。急いでないし、悪いよ」

「あ、あぁ。私は疲れるとか無いんで大丈夫です」

 僕の気のせいじゃなく、デイ君の笑顔には力が無かった。

 

 その時、僕はデイ君を休憩させられる、とてもいい考えを思いついた。

「デイ君、デイ君、僕、足捻った。休憩したい」

 デイ君の手を掴んで言うと、その手が崩れ落ちる。

「きゃぁぁぁ」 





 


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