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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
学校ぶっ壊されるよの章
88/108

デイ君、酒に溺れる


 

 

 

 酒市さんが私を踏みつける。

 少しの間は目に涙を溜め、悲しんでくれていたようだったが、少し時間を置くと首を傾げ始めた。     

 これは不味いな、きっと私が明らかに死んでいるにもかかわらず、セーブロードされずに腕が残っているのが疑問なのだろう。

 あまり怪しまれるようなことはしたくない。特に酒市さんの前では。

 ユーリ・ミカエルさんと、突然現れて私を焼き払った腕が大砲の男の人が戦っているので、時間的猶予はありそうだ。しかし酒市さんには早く逃げて欲しい。

「「鳥山 雄武さんアウト。ドラゴンズに一ポイント」」

 放送が入った。ここは屋外なのに良く響く声だ。やはり何かの能力のおかげということになるのだろうか。

 どうやら倒されるとそれを発表されてしまうらしい。これで私が死んでいない事が白日の下にさらされてしまった。そういえば逆に私があの二人を倒した場合は放送が入るのだろうか。そんなことをすれば、もしチーム内で居場所を教えあっていれば敵の仲間である敵が集まってくる事は確実。さらに魔力の保有量から見つけやすいこともあり、逃げ切るのは難しい。そんなことはないと信じたいが、説明されたルールはそれほど詳しいものではなかった。

 まぁ、私は人殺しなど、それが死なないと解っていてもしたくは無い。これは聖書を読み返さずとも当然のことだ。

 だが同時に其処が考え物だ。Bクラスになるためには、Bクラスの人を十を倒さねばならず、そんなことはしたくない。しかし、しなければ教会の皆の飢えをを満たす事はできないし、他の仕事といっても、学校に行っていない私が、誰が働かせてくれるのだろうか。やはりここで、学歴というものを手に入れなければなるまい。つまりやるしかない、だが、その難易度を考えると、下手にそういったことをして罪を重ねるよりは、卒業まで何とか耐え忍んでもらえないかとも思う。 

 


 あの二人の勝負はユーリ・ミカエルが勝つだろう。ユーリのほうが何故か攻撃を喰らってもびくともせず、十字架を振り回しているので、大砲を腕につけている方が押されていた。

 ユーリ・ミカエルの能力は一体何なのだろうか。さっき蹴り飛ばした時、異様に軽かったし、ジャンプ力もただの人にあらざるほどではあった。

「デイ君、死んで無いよね」

 酒市さんは、私の腕に話しかけている。

「僕は、その、言いたく無いなら聞かないけど、そう言えばあの時も矢とか刺さってもその後ちゃんと合格したんだから、その、遠慮しないでいいんだよ?」

 あの時とは、入学試験のときだろう。反射的に矢に手を出して、酒市さんを助ける形になった。

「デイ君がプラナリア憑きでも、僕は大丈夫だから!」

 違う。

「次はあなたです。えっと、美鈴さんでしたか?」

 いつのまにか、ユーリさんが大砲の人を撲殺していたらしく、川の向こうから大声で叫んだ。抱えた十字架は赤く滴っている。

 やはり、私たち以外が死んでも別に放送は入らないのか。 

人間形成ヒューマニズムクリエイト

 私は酒市さんを上に乗せたまま立ち上がる。右手、右腕、両足、胴体に顔。やはり屋外では私の絶対量が違う。それでもやはり酒市さんが持っている腕のところは見せ掛けという感が拭えない。馴染まないのだ、人間形成は水を使う、人間形成の質は水分量に比例するといっていい。

「その、腕をもらえますか?」

 肩に乗っていた酒市さんは、呆然とした様子で腕を差し出してくる。それを受け取って右腕にはめ、ユーリ・ミカエルを見据える。

 やらなければならないのは、誤魔化すことか、騙すことか。

「ユーリ・ミカエル。勝負しましょう」

 酒市さんを肩から降ろし、やったことの無いボクシングの構えを取る。

 強さの基準として、アルファベットで順位を付けられてはいるものの、それは入学試験の結果からなのだろう。あの時はなかった水があるので、私の量は無限に達する。それに濡れた酒市さんのおかげで、私との繋がりも出来た。

「いいでしょう。まずはあなた。怒りは罪」

 十字架を高々と掲げ、駆け寄ってくる。十字架の素材は木を白く塗ったもので、重さは見かけだけでは判別しにくい。走る速さは人より速いくらいだ。能力で助長はしているだろうが、しかし、それが本命の能力ではないだろう。Bクラスとしてはいささか弱い。十字架を腕で受け止める。先ほど人間になる時に密度を上げたので、形が崩れることも無い。

「硬いですね」

 素早くユーリ・ミカエルの懐に入って下から突き上げるように殴りつける。

 しかし手ごたえは無い。殴っのは当たった、しかし手ごたえはまるで発泡スチロールを殴った時のように軽い。

「あなたは柔らかいんですんね」

「其処に気が付いたのはあなたが初めてです。罪は許される」

 十字架で横薙ぎに叩かれる。

 しかし密度を上げた私には効きはしない。

「ですけれど、あなたは一人。気付いたところでもう遅いのです。洗練されし、力の大地、反逆は今――土竜崩し」

「キャッ」

 地面に亀裂が入り、それは私の足元を越えて行く。

 酒市さんの足元までそれが及び、大穴が開くとき、私はすでに地面に手を突っ込んでいた。

「人間形成!」

 どうやら、私は酒市さんの事となると、思考よりも先に手が出るらしい。手の平で酒市さんを拾う。

「神よ、私ほど、我を出してはいけないものもいないと思っていましたが、今は気分がいいんです」

「なるほど、魔力は感じませんね。ただの土を操る能力。それにDクラスでしょう、私に勝てると」

 ユーリ・ミカエルの言葉を遮るように神経を意識し、私の体に目覚めるように奮い立てる。

「デイさん、地面が揺れてる!」


 自分でも何をやっているんだとおもう。しかし、女のためにかっこよく決めると言う事をしてみてもいいじゃないか。というか、許せないな。酒市さんを先に片付けようなんて思ったなんて。

 ユーリ・ミカエルが何かを唱え、手を前に突き出す。

「突き刺せ、地獄の針を作るは定め――顕在土剣」


 ユーリ・ミカエルが放った魔法はかなり遠くで土を隆起させようと、魔力が動く。

「さっきから何をしてるんですか。もう魔法は使わせません」

 だがそもそも、土を操ろうなどおかしな話だ。私には自虐の趣味は無い。

 酒市さんを手の平から降ろし、手を基本の大きさまで圧縮する。私が強いのか、人間が強いのか、主としての優位性は解らないが、行動できるのは人間の特権、いや、生物の特権だろう。しかし知覚するのは、意外と辛い。

 神経を私自身に通して、五感に神経を集中すると、頭痛が襲い掛かる。情報量が多すぎるんだろう、これは脳を大きくすれば解決するんだろうか、しかしそれだと人間というよりも巨人になってしまう。

「空間操作、いや、私が干渉を受けているのでしょうか、どちらにしても本気を出さなくてはならないでしょう」

「それよりも自分の身を心配してください。人間形成」

 手を自分につっこんで、人間形成を発動する。人間形成は、人間になる、俗に言う人間憑きだ。私は私の一部を連続的に手にしていく。先ほどから魔法の発動をしていたところに手を伸ばし、足首を掴む。このように長い手を持つものを人間だというのは無理がある気がするが、出来るんだからしょうがない。

「なっ」

 魔法が精神に依存することは知っている。精神を乱され魔法、もしかしたら能力なのかもしれないが、目の前にいたユーリ・ミカエルが消滅する。残ったのは十字架だ。おそらく十字架を遠隔操作で操って、幻影を見せ、自らに攻撃が気か無い何かしらの能力を持っていると錯覚させていたのだろう。

 彼女のミスは土魔法を使ったことだ。流石に自分が操られたら気が付く。

 地面の中に引きずり込む。顔だけ出して呼吸ができるようにして、十字架を砕く。

「神罰が下りますよ」

「神罰が下るなど言うのは異教徒だけです。神は全てを許してくださいます」     

 特にそれを自分の感情に任せて言う方には。

 

   

  

  


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