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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
学校ぶっ壊されるよの章
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忘れてたフラグ



 デイです。物語も佳境に差し掛かるところですが私の話です。

 皆さんが私の事なんて覚えていないのは解ってます、誰も泥のことなんて気にも留めていませんものね。


 しかし、私の話です。


 


 私の家は教会で、といっても教会に拾われたのですが其処で育ち、親は居ません。

 しいて言うなら、私の生みの親は地球ということになるでしょう。

 この学校に来たのは、教会というのが流行らなくなってしまい、教会に住んでいる兄弟たちが餓えに苦しんでいるのを見て、また、私の欠点から遠い目で見れば就職。近い目で見ればBクラス以上に与えられるという学習援助金。各種行事で得られるという金一封を求めてのことでした。

 

 入学試験や、体の一部を持ち去られたりと大変なことも、神の試練だと乗り越えました。

 それでも最大の試練。いや、入学試験と体の一部を持ち去られた件も全てはこの最大の試験のための布石に過ぎなかったのでしょう。もしくは全てが連続した一つの試練だと今になっては思います。

「デイさん、お願いします!」

 酒市美鈴さん。

 今日は今度開催される、学校主催の武道大会に一緒に出場しようと言う話をしに来たらしいです。

「話は解りました。その前に聞かせてください、私の電話番号を何処で知ったのですか?」

「……神様が夢に出てきたんです」

「そ、そうですか」

 何を言っているんでしょうかと思いましたが、言わないのが優しさです。

「ぼ、僕じゃなくて私はですね、お願いに来ているんです、そんな些細なことはどうでもいいと思います」  

 さっき話をされたときも、一人称が僕と私の間で行ったり来たりしていたので、情緒不安定なのでしょう。

 しかし、近くに寄られて頼みごとをされると断りづらく、困りました。





 ――神よ、市民の下僕として神につかえ、人の懺悔なども聞いてきた身としてはこんなことを考える事に罪悪感はあります。言いたいことは一つで、それ以外のことなど正直どうでもいいことのような気さえしてきました。

 っまじで酒市さんからものすごくいい匂いがする。エロい、関係ないけど胸が大きい。

「あ、いや、ごめんなさい。お願いに来てるのに」 

 あー、上目遣いとかエロイな。ぶっちゃけ押し倒したいけど、生殖以外の性行動は禁止だし、いや最後まですればいいわけだけど、私の子供なんて生まれないからどっちにしろアウト、生まれたら生まれたらで、意味わかんない事になる。主にそれは何? となるな。

「落ち着け!」

「はい?」

「あ、いえ、こちらの話です」

 危なかった。

 上目遣い怖いな。スピリットブレイクする所だった。

 冷静に、冷静になろう。

 私は神の下僕。その前に大前提として、性欲とかそういうものの最終目的を果たせないか体ということを思い出そう。

「それで、出てくれませんか?」

「おっぱ、っつぅ、いいですよ」

 あー、死ね! 私!

「ん? なんですか?」

「気のせいでしょう」

 誤魔化すために笑いかけると、えへへとかいいながら酒市さんは顔を赤くした。エロくて、いや、この表現はやめましょう、愛らしくて逆に憎たらしくなる。

「出ます。訳あって私はBクラスにならないといけませんから」 

「ありがとうございます。お腹減ってませんか?」

「お腹?」

 唐突にへんなことを聞かたので、自分の腹を確認する。

 とりあえずお腹の体積は減ってはいない、お腹が減ってたら致命傷なので彼女が平然としているわけはないだろう。きっと言い間違いの類なので、指摘はしないことが優しさというもの。これは秘匿ではなく、微笑みなのだ。

「えっと、僕、お弁当的なものを作ったんです」

「遠足ですか? いいですね、楽しそうで」

「違、あ、いや、それでもいいんですけど、その……」

 さっと、文庫本ぐらいの弁当箱が差し出される。蓋が透明なので、色とりどりの料理が見え美味しそうだった。   

「これは、私に?」

「うん!」

 食物はほとんど食べられないが、酒市さんの顔を見ているとそんなことはどうでもいいことに思えてくるから不思議だ。


「その、味の感想とか! 食べてみて欲しいなって」

 是非に、と渡され黄色いのを口に入れる。

 フラグは立っていたのに……おいしい。そもそも私が味なんか解るわけがないのに、美味しい。




 ※



「お、おいしいですか」

「ええ、なんだこれ。美味しいってどういうことだ」

 よし! 初めて作ったけど好感触だ。

 本当に倒れられたりとか、泡吹かれたり、ネタキャラみたいにならなくて本当に良かった!

 まぁ、そうだよね、味見したし。どんな味だったか全然思い出せないけど、確かに味見したはずだし。

「初めて食べた。いや、混ぜる……そう、混ぜた事はあったがこれが食べるということですか」

 ん? 卵掛けご飯しか食べたことが無い人なのかな。

 でも確かに野菜ばっか食べてそう。

 あ、時間が無いや。

「デイく、デイさん、そろそろ始まるんで」

「何がですか?」

「大会」

「今日?」

「早く行かないと、遅れちゃいます」  

「それは……困りますね、行きましょう。あと、デイ君でもいいですよ」



 大会の一回戦は、うさぎと狼みたいなゲームだった。私たちはひたすら逃げる、それを他の人たちが狙ってやってくる。     

 作戦として、皆で離れ離れになろうとのことだったが、デイさんと離れると、キャー怖い、抱きっ作戦が出来ないので、こっそり後を付けて合流した。でも皆二人一組くらいで行動してるからいいよね。


「多分ですけど……私が一番最初にやられる気がします。他の人よりも見つけやすいでしょうし」

 デイ君の言うことには、自分は能力があるので、それを感じ取れる人が居たら見つかってしまう。というか、まず一番にそれを探しにくるだろうということだった。

 翠さんはうまいことやっているが、デイ君は魔法が使えないのでそういった事は出来ないらしい。

「それでも、その、一人だと心細い」 

「なら、途中までは一緒に居ましょうか」

「うん」

 少しでも、有利な場所にいたいということで、川の辺にやって来た。デイ君の能力って何だろうとは思ったが、前もあんまり言いたくないみたいだったので聞かないいい女を演じてみた。


 僕は此処で靴を脱いで、足とか冷やすと好感度アップだろうか。

 そんなことを水面を見ながら真剣に考えていると、十字架を背負った背の高い女の人が後ろに現れた。

 しかし後ろを振り返っても誰もいない。もう一度水面を見て、その人が後ろからデイ君に蹴り飛ばされるのが見えた。

「大丈夫ですか? 酒市さん」

「なるほど、私の姿が見えますか。信心深いのですね、私の自己紹介をしましょう。愛、愛の伝道師ユーリ・ミカエルです」

 蹴り飛ばされて、服が泥だらけになっているが、何事もなかったように話しかけてきた。

「失礼ですが、どちらがお名前ですか?」

 デイ君も普通に接するんだ……。というか其処気になるんだ。

「ユーリです」 

「そうですか、私の名前はデイです。苗字にあたるものはありません」   

 デイ君は姿勢と正して挨拶をした。

「そちらの方は?」

「酒市美鈴さんです」

「よろしく」

 ユーリさんにお辞儀されたが、さっき殴り倒そうとした人に返す言葉も見つからない。


「では、始めましょうか」

「酒市さん、逃げてください」

 デイ君が、私を急かす。

「させません。神のお導きの元に……愛すべきは人」

 ――え?

 ユーリさんは高く飛んで、素早く背負った十字架を振り下ろす。

 

 瞬間、デイ君に抱えられ、そのままデイ君がバックステップする。

 デイ君のアバラがあたって気持ちがいい。でも、お姫様抱っこのほうが良かった。

 

「逃げ切られません、全てを受け入れてください。憎むは罪」

 僕を抱えているせいで、すぐに間合いを詰められ、今度は横薙ぎに十字架が振られる。

 デイ君はしゃがみこんで、私を抱えたままなのに、ユーリさんの手を下から蹴り上げた。

 

 というか、目が回るんですけど!

 激しく動くからお腹も痛いし。

 

「酒市さんって、水の温度を変えられるんですよね?」

「うん、凄く嫌な予感がするけど、自分の周りだけなら」

「風邪は引きませんね」

「うん、いいよ!」

 私は川に放り投げられる。途中から解ってたけど、しょうがないことだけど、やっぱり辛い。


「逃がしません」

「そうはさせない」

 水から顔を上げると、僕を逃がすために必死に戦うデイ君の姿が見えた。

「自ら体を張って女を逃がす……リア充爆発しろ!」

 遠くに逃げようと、泳ごうとしたとき、何かブツブツ言っている人を見つけた。川の向かい側で、今度は低身長の、手にでっかい大砲……。

 大砲はその人の身長くらいの銃口で、長さは十五メートルくらい離れてるから正確には解らないが、とてつもない大きさだった。

「デイ君逃げて!」

「死ね!」

 というか、どんな弾発射するんだよと思ったが、火柱が発射され、一直線にデイ君とユーリさんを貫く。

「あつい!」

 水の中に潜って、火の粉をやり過ごして、もう一度、顔を出す。

「次はお前だな、リア充の女!」

「僕を付属品みたいに言うな!」

 膝どころか、いろんなとこがガクガク震えていたが、どうせ死ぬんだから精一杯言い返してやった。


「私が名前を言うのは教義に反するので控えますが、とある聖人は火あぶりにあっても復活したそうです。その痛みを共有する機会を与えてくださったことに感謝します」

 え?

 声のした方、見上げると十字架を振り上げ、ユーリさんが高く高くジャンプしていた。

「フルバースト、爆発しろ!」

 少年は目標を素早く切り替え、ユーリさん目掛けて火柱を放つ。ユーリさんは避けることもなく正面からそれにぶつかっていった。

 それどころか、空中で派手に爆発する。

    

「愛せよ人、憎むは罪、痛みは感謝」

 私の隣にいつの間にかびしょ濡れで立っていたユーリさんがそう呟きながら、大砲少年のほうに歩いて行く。

「お前……マゾユーリか!!!」

「心外です。しかし憎むのは罪」

「くっそ、本気で行くぜ――ターゲットボルケーノ、爆発しろ!」

 

 火柱を空に向かって放つ少年。

 空が真っ赤に染まり、火球が沢山振ってくる。そしてそれは全てユーリさんのほうに途中で軌道を変える。

「無駄です、私の能力は慈悲。敵意のある攻撃は全て無効にします。知っているのでしょう」

 何発も顔にマグマの塊みたいなのを喰らっても、びくともしないどころか悠然と間合いを詰めていく。

 完全に僕は置いてけぼりなので、急いで、デイ君が生きていないかの確認に向かう。

「俺もお前と同じBクラス! 無駄なわけねーだろ! これからだ、曲がれ火柱! 大空中魔法陣爆発、一雫」

「これが全力ですか?」

 

 空に巨大な魔法陣、その中心から放たれた本当に細い、白い強烈に発光する糸のような攻撃は、ユーリさんの頭上で当たって砕けた。

「いや、これが全力だ。リア充大爆発!」

 後ろに注意を払いながら、僕はデイ君がいたところにたどり着く。

 その瞬間、ユーリさんの頭が爆発した。



「なるほど、体の内側から爆砕するという方法は、良いですね。ですが、私には効きません」

 自分の体が爆発したにもかかわらず、一切の服の乱れすら無いユーリさん。

 少し引いた。 

 そんなことよりも、デイ君だ。

 あ、これ駄目な奴だ。デイ君の手が転がってるもの。

 

 









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