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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
学校ぶっ壊されるよの章
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偽物のラスボス



 私は、大神財閥、本社の地下小さな部屋。セキュリティだけは、この国の中で一番だろうと思わせる、おかしな空間に足を踏み入れた。


「よぉ、チョコは?」

「これで良かったですか?」


 なぜか、自費で買って来いとお達しだったので、デパートで初めて買い物することになった。

 離婚しても、仕事人間というのはなかなか直らないらしく、誰も喜ぶ人なんていないのに、ひたすら残業を繰り返した結果、貯金額が見たこと無い桁に膨れ上がっていたので、一番良いものを買ってきた。

 本社は残業手当が出るのか、としみじみ感動してきたところだ。

 私は、それを白衣姿で、一人でその部屋にいた彼女に手渡す。

「これなら糖分は、当分いらないなっと。何ちゃって」

「はぁ……」

 こんなのが、ピエロとバルーンの開発者というのだから、世の中見た目では夢現の世界を生きるわけだ。

 私の娘と同じくらいだろうか。


 肌は白いが、駅前とかに居そうだ。

 

「で、何? 怒ってる? やり過ぎた? どうせお前は焦ってこっちに着たんだろ? 解ってる必要なのはこれだな」


 天才とは彼女の事を言うんだと、可憐は言っていたが、その意味を正しく理解したのは今かもしれない。私が考えていた事は全てお見通しといった感じだ。

 一つの黒い箱を取り出してきた。  

「何か勘違いしてんな。そのスーツには、ミクロサイズの盗聴器が数万個付いている」

「何っ、何時の間に!」

「何時って、最初に会ったときに、バルーンに魅入ってるお前の後ろから」

 このスーツは、高かったのだが、捨てなければならないらしい。


「ちなみにその盗聴器は、拡散し、お前の部屋、他の服にまで付着している。お前がどれだけ気をつけようとも取り除くのは不可能!」

「……何故そんなことを?」

「その顔が見たかった」

 この小娘が。

「まぁいいじゃん。この黒い箱開けてみてよ」

 投げられた箱をおそるおそる開けると、La n'est pas la questionと蓋の後ろに書かれていた。

「外れって事。とまぁ、こっちが本物なんだけど、此処で開けたら大変なことになるのさ。えっと、とりあえずあんたは、このままじゃ勝てないと思ってる。そう思って無くても、寝首をかくのが理想だと思ってる。それがこの戦争に勝つための唯一の方法だ。どっちが生き残るか。勝ちに拘るあんたは、とりあえず此処で能力者どもに一勝を奉げてやろうと思ってるんだろ」

「……そうだ」

「其処で私が、寝ずに、いや、それは嘘だな。昨日は八時間寝た。まぁとにかく作ったこれは、要塞一号、チューリップだ」

 チューリップ?

「さぁ、解りやすいイルカちゃん講座ー」

 バルーン、ピエロを作ったときもこのイルカちゃん講座が在った。此処で盛り上がらないと、仕事が一ヶ月は遅れる。パソコンが爆発したりするんだ。

「イエー!」

 二度の失敗を踏まえ、発声練習を行なったかいがあった。

「おし来た。このチューリップは、魔力を吸って成長する。その魔力は黒の魔力にも変換される。能力者が、気付いたときには、膨れ上がり内包された黒の魔力はチューリップを破壊した瞬間バン!!! その力はまさに核爆弾の七億倍! は言い過ぎだな。でも結構な爆発にはなるし、元が黒の魔力だから魔法防壁は無効だ。一般人はそもそも、チューリップを倒そうと思わないし、被害を受けるのはそういう奴らだけ。完璧だろ」

 よく考えられている。原理はわからないし、実際に配置してみないことにはどんな効果があるか不明な点は多いが、言葉を聞いている限りはラスボスに相応しい。

 これなら、これを倒してフィニッシュという感じを得られるだろう。最後が爆発で終わるのもいい。

「これ実は、四日で七個作れたんだけど、一つだけのほうが良いよな」

「そんな簡単に作れるものが、効果を発揮するのか?」

「それ、ピエロ作ったときにも言ってたろ?」

 まぁ、確かに。


「計画を詰めよう。その合間で、チューリップの詳しい説明もする」

「それなら、可憐さんも」

「頭の悪そうな奴は呼ばなくていい」

 可憐がばっさりと切られた。

「始める、私は一回しか言わないからよく聞けよ」

「メモを……」

「ん、忘れたら私が覚えてるからもう一度言う。それよか、この資料をまず読んでくれ」

 資料は、栃木の美味しいもの。宮城の美味しいもの。広島、北海道、滋賀県などの観光地の紹介だった。ホームページを丸写ししてあるようだ。

「……これは?」

「実地には私も同行する。しかし、あまり都会だと目立つし、迅速な対応をされるとつまらない」

 それは理解できる。

 魔力を吸って成長するなら、成長する前に潰されてしまえば、我々のもくろみは破綻する。

「何処がお勧めか調べて来い。私は東京を出た事が無いんだ」



 ※



「どうでした? あの小娘、私のこと嫌いみたいですから、変なことされませんでしたか?」

「……あ、この五個の県で可憐さんなら何処に行きますか」

 オフィスに戻ると、可憐が駆け寄ってきたので、エレベーターに乗っている間に読み込んだ上で、その資料を渡した。

「何ですかこれ?」

「旅行の計画です」

「え! 旅行? 行きたいんですか、行きましょう! 私も一緒ですよね?」

「もちろん」

「……いよっしゃぁぁぁ」  

 何かを勘違いされたこも知れないが、楽しく仕事ができるのはいい事だ。

「やっぱり、温泉とか行きたいですよね。旅館とかに泊まって美味しいもの食べましょう」

 温泉宿か。

 自分よりも、若くて女性である彼女と、あの研究者の好みは、私よりも近いだろう。

「じゃ、そこで。決行は早いほうが良いですね。宿の確保をお願いします。明日行きますよ」

「えぇ!? き、着ていく服が無いですよぉ」

 それを言われたら、私は外を出歩けなくなりそうなのだが、女性は特にそういうものが大事と聞いた。

 だが、この騒ぎがこのまま収まって、潜伏期間だという疑念をもたれたらまずい。

 並べくなら、此処で全力を出して、負ける。物語はひとまず終結したというのが理想的だ。

「いえ、早いほうが良いですね。明日で」

「は、はい。解りました。服を買いにいっても良いですか!」

 仕事中……、いや、ここでごねられても困る。

「あぁ、いいですよ」

「はいって、此処の責任者、私なんですけど!」


  


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