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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
学校ぶっ壊されるよの章
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教本とピエロの戦い



「いや、お前は実にいい。実に我らの扱いが理に適っていた。我らを乱用しようともしない。だからこそ逃げて欲しかったのだが、死ぬ気なら話は別だ。今日だけでしゃばるとしよう」

 立っていたのは、三メートルくらいのおじさんだった。

「この姿では始めまして。我が名は魔道教本完結版。この図書館の本代表に選ばれ此処に立つ、本が自ら行動することは禁忌なのだ。他の本を薄情と思わないでくれ」

 そんな事思うわけ無い。本に意思があることは知っていた、隣同士においてはいけない本や、分けて置いてはいけない本があるのだ、そう考えないとやってられないと思った私の想像だったが、こうして本物を見ても何も不思議に思えない。

「おい、この量に勝てるのか」

「ふむ、黒独尊か、魔術師ロンドゲルトの冒険全二十巻をよく飛ばさずに完読した。お前が始めてだそうだ。――勝てる。もはや底は見えた」

 魔道教本完結版さんは手を掲げて、なんだか聞いたことの在る呪文を唱える。

「四つ目の睨みは全てを跳ね返す。形成されし大剣に柄は無い。裏切る事の無い忠義を示す。瞳を開け、忠義を尽くせ、装備心霊――オリジンスペル――フーラル・コレストレイさぁ、授業を始めようか」

 私と同じ魔法で、四つの目がせわしなく動くと思ったら、黒い人形は勢いよく弾けとんだ。

 というか私の魔法が解析されてしかも使われてる!?

「剣では遅い。それに固く作りすぎだ。ん? 何を暗い顔をしている、我々に書いてあることを習って作ったのだから我らが使えるは当然のこと」

 私が作っていた剣でなく、矢のようなものを空気で作り出す。

「曲げるという事に執着しすぎだ。矢は確かに目標を貫いて、次も、とは行かないが、こうやって使える」

 矢が一直線に飛んでいく。人形にぶつかった矢は、空気の圧縮が溶けたのか、激しい音ともに周りの人形を巻き込んでなぎ倒していく。矢の数が何より多い。

「ありがとうございます」

 図書館に近づく黒い人形はまだ要るが、片っ端から消し飛んでく。

「さて、逃げる算段を立てねばなるまい。ここにいても敵は何時までもやってくるだろう。負けるとは言わんが、本としては落ち着いたところに移りたい」

「お前らが居たら、何処に居ても見つかるだろ」

「確かに、魔力を追ってきているのだったな。しょうがない、代理、生きる限り本を守護せよ。まぁ、それもそんなに長い間ではないだろう」

「えっはい?」

 代理とは私のことだろう。

 一冊の本を懐から出した教本さんはそれを私に差し出した。

「な、なんですか?」

「お前の中に、全ての本をいったん封印する。これから少しの間、お前の使命は生き残ることのみとなる。それを読めば、私たちは自らの力を封印し、お前の中に入る。出す方法はその本を逆から読めばいい」

 それが出来るのなら、本棚よりは安全だ。

 しかしそれは私に皆さんの命を預けるという信頼の証であり、多分、私がいろんな人から狙われるようになるという事だ。絶対に死ぬわけにはいかなくなる。

「黒独尊、本泥棒は見逃す。真解思書はお前のものだ。だが、その恩の分はフーラルを守るように」

「あ! まさか、私に偽者を返しましたね!」

「いや、やっぱ本物じゃないと誤字が目立つんだよ」

 うう、偽者を見抜けなかった私も悪いが、この仕返しは絶対にする。

 私がその本を読み始めたその時だった。

「な!」

 教本さんが、黒い人形――それは幾分か身長が低く、手がグローブをしているように膨らんでいた――に吹き飛ばされた。

「速く読み終えろ!」

 すぐに戻ってきて、その新しい黒い人形と組み合う。

「なるほど、魔力だけでなく、エネルギーなら何でも消す性質を持つらしい。余計に力が必要だな」

 教本さんが黒い人形を投げ飛ばす。しかし空中で、方向転換した黒い人形は私のほうに突っ込んでくる。

「騎士道」

 黒い人形の動きがとまり、教本さんと向き合った。

「さぁ、私をまず倒す事だ」

 きっと、何かしらの魔法なのだろう。まだ本のページは半分を進んだところだが、これが読み終わったら私はどうすればいいんだろうか。

 黒い人形は、跳んで跳ねて教本さんに迫っていく。

「必殺」

 そう短く唱えた教本さんの一撃は言葉通り必殺だった。こっちにも内包された魔力がわかるほど濃い槍で黒い人形は貫かれ、消え去るはずだった。

 しかし貫かれていたのは教本さんもだった。

「速い……な」

 腕が伸び、教本さんの体は貫かれ、また、黒い人形もやりに貫かれて霧散した。

 残ったのは穴の開いた本だけだ。

 本が読み終わった。

 教本以外の本が私の中に入ってきた。魔力は感じない。本一つ一つ自体が自分に封印を施しているのだろう。

「この本は俺が持って行ってやるよ」

 それを持っていると、魔力によって来る黒い人形が居ると言おうとして止めた。私だって持って行きたい。

 ――――売ったら多分億はくだらないだろうし。いや、売らないけども。       

「あげませんから」

「解ってるよ」

 手が空いたので、紅茶の葉の缶を持てるだけ持って準備は整った。

 どっちにしろ此処は離れたほうがいい。

 黒い人形が一匹図書館の中に入ってくるが、私の前を素通りした。 

「お前も魔力消せるのか?」

「自分のだけなら」

 寝込みを襲うためにものすごい練習したし、自分程度のものならすぐに消すことが出来る。

「とりあえず、この学校にはほとんど人間は残ってない。宛てはあるか? 送ってってもいい」

 そういえば、こんな中、いくら自分は狙われていないからって、助けに来てくれるのだろうか。あ、そういえば本を盗まれたんだった。

 というか、私は宿無しだ。ねずみには下水道がお似合いということか……。

「無いなら家に来てもいい。その代わりねずみになってくれないか」

「どういう意味なのか教えてもらえますか」

「君のねずみ姿は美しい」

 何か視線が熱っぽい……。

「キャラぶっ壊れてますね。お断りします」

「冗談だよ、さっき頼まれたしな。お前を守るようにって」

 なんだか信用できない。

「じゃあ、私が別に人型でもいいじゃないですか」

「…………」

「おい」

 即答しろよ。

 絶対付いていかないからな。どんな好条件を出されようと絶対!


「本当に、本当にご飯をご馳走になったらすぐに帰りますから!」

「そんなに腹減ってんの?」

「減ってませんよ!」 

 黒独家、なんか古い家ではあるというから、大きな平屋を勝手に想像していたが、高層マンションだった。くそっすき焼きとか卑怯じゃないか。

 

         


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