逃げるときに、後ろを振り向いてはならない
逃げるときには後ろを振り向いてはならない。そんな言葉をどこかで聞いたのを、思い出していた。
「あと、28秒だ!」
「何がですかー?」
「不幸な時間だ!!だからがんばってはしれ! 」
そう俺は度重なるこの呪いの、副作用を受け続けることでどの程度のことをすれば、何秒、不幸時間が来るかを把握していた。このくらいの手伝いなら、そのくらいの時間だ。
「わ、分かりましたー」
だがそんなことを把握していても、魔獣の勢いは止まらない。
林の中をつっきて逃げているので、木をなぎ倒しながら進む魔獣と5分5分といった所だが、
どうやら林ももう終わりで校庭に出るらしい。どうせこれも偶然だはなく運悪くってやつだ。
あと12秒。俺たちは校庭に出た。
複数人、人がいるが運よく助けてもらえるなんてことは起こらない、これは確定だ。
「きゃぁ」
サチが転んだ。
俺は自分の命を投げだしてまで、他人を助けるような出来た人間じゃない。
しかし、俺は、そいつの未来も、家族も、希望も、時間も、友情も、また、そのすべても、奪う覚悟も消す覚悟も、出来ちゃいない。もちろんこいつが能力者だというなら話は別だが。
俺はその時、初めて魔獣を見た。全体的に青い犬って感じだ。牙が大きく、背中は青い焔に包まれている。
なかなかかっこいいじゃないか。
名前も知らないし、初めて見た。
さすがにこれやったら、死ぬんじゃないか? こんな大それたことはじめてやるぜ。
「な、なんで。」
右半身を腕からガッツリかじられた。血が半端ないな、噴水のように出ている。
だが、泣き叫ぶことはしない。痛いのは慣れてるしな。
「なんで助けるの。会ったばかりなのに、私、あなたの学園章持ってるんですよ!それに実はあなたより年上です!!」
言ってることが支離滅裂だし。
人を助けるのに理由なんていらないと、かっこよくいいたいが、俺に罪を着せ、暗闇の中に8年閉じ込めたあいつへのただの当て付けだ。普通の人間に罪は無いんだ。
って言うか、やっぱりおれの学園章奪ったのお前かよ! 助けたのを公開しそうになるからそういう事言うのやめろ。
最初、少し助けられたと思ったからこいつが持ってんだろうなぐらいで、取り返すのは、ちょっと遠慮してたのに!!
まぁどっちにしろ俺はあいつから奪うつもりはなかったから、行動は変わらなかっただろうが。目的と手段を違える必要は無い。
「不幸時間はもうとっくに終わってるでしょ! なんでなんですか!」
いや、普通の運に戻っただけで幸運になるってわけじゃないしな。
「もう、時間は終わってるのに何で、暴走をやめないの!!」
なんでなんで五月蠅い奴だな。それに、
「お前の不幸時間は終わったが俺のは終わってない。お前が手伝ってない呪いもあるからな。あと、18秒はあるな。それに魔獣ってのは、獲物をしとめないと、消えないんだろ?」
まあ、実際雑誌で読んだ情報だから本当のところは知らないんだが。
その時、「おれ」の右腕は引きちぎられた。
死ぬ時ってのはあまり怖くないって話を聞いていたんだが、これは怖いな。完全な無ってのは想像しただけで、怖い。
それとも、まだ死ぬほどの傷じゃないから怖いんだろうか。
「うっ」
そしてさすがに痛い。血も流しすぎたみたいだ。
※
「私はまだあなたの名前も聞いていないのに。」
魔獣を消した後で、サチは呟く。
私はもう不幸では無いらしい。
「粛清の時聖なるものも紺な、、、」
※
そのあとの言葉はもう俺には届かなかった。血がないからってよりも痛すぎて気が遠くなる慣れててもこれは、無理だ。
黒独 尊は、まぶたを閉じた。
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「あ、これは死んだな。大量出血で助からない」