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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
学校ぶっ壊されるよの章
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リリロームト

 俺は寝てしまった茂武一を背負って洞窟の中、最奥への道を歩いていた。

「こんなの絶対可笑しいよ! せっかく、せっかく如月さんと愛をより深められるような、姿になりましたのに! なんで距離が遠くなるんですか!」

 当たり前だろう。

 確かに俺はダークスじゃなかった、クローフードを愛している。

 この前までは、クローフードを抱きしめながら寝ていたほどだが、クローフードが女性である事を知った今ではそうもいかない。というかその歴史を抹消してしまいたい。

 最低な男だ。クローフードも優しいから何も言わないが、どれほどのストレスを与えていたか解らない。

「手を繋いでくれてたじゃないですか!」

 それは手というか、その時はクローフードの前足に手を当てていただけだ。 

「じゃあ、私の上に跨ってください! いつもやってましたよね!」

 いや、四つんばいになられても、絶対に乗らない。

 というか、これまで乗っていた事に対して申し訳ない気持ちで、潰れてしまいそうだ。

「あんたさ、クローフードだっけ? 返事してやらないの? シュールな格好になってて流石の私でもかわいそうになってきたんだけど」

「あ、クローフードと話すと言う概念が無かった。すまない」

「いいんです! 私たちは通じ合ってますものね!」

 俺も通じ合ってると思ってたんだけど、クローフードを見た。

 黒い髪は足元まで伸びているが、そのほかは日本人にしか見えない。

 全身真っ黒で影のようなものだと思っていた、しかしその実態がこんなにも美しい女性だと引く。

 あ。

 誕生日、肉とかそういったものしかプレゼントしていない。もっとアクセサリーとかの方が良かったのだろうか。この人デリカシーが無いよねーとか思われてないかな。そういえば、喜びようと裏腹にあまり食べていなかった気がする。それでも残さなかったのは俺を慮っての事だと思うと本当に申し訳ない。

「クローフード」

「はいっなんですか?」

「ごめんな」

「はい?」

「おい、あれが最後じゃないのか」

 夢塗が指を指した先には少し開けた場所があるのか、光の様子が他とは違っていた。 

「誰もいませんね」 

 本当に誰もいない。しかし、椅子の上に張り紙があるのを見つけた。

 此処がゴール。しかし学校のほうでテロがあったとか何とかで、詳細不明だがとにかく中止だ。ごめんねと書かれている。二人にそれを見せると夢塗のほうが慌て出した。

「テロ! やばいやばいよ。だって考えてみろよ、ケムケムが壊されちゃう」

「ケムケム?」

 煙でも飼っているのか。

「ケムケムだよ! 部屋に置いたままなんだ。ま、毬藻のことなんだけど……」

「ペットですか」

 飼っていると言うところが当たってびっくりした。

 毬藻って確か湖に住んでる藻の一種だったような気がする。

「それって助けなきゃ駄目なのか?」

「はう」

「はう」

 二人が信じられないと、後ずさる。

 自分の発言を反省しても、何処の言葉が悪かったのかが解らない。

「如月さんは私が同じ状況でも同じ事がいえるんですか?」

「あんたはこいつが同じ状況に置かれていても同じ事がいえるのか?」

 なるほど、俺にとってのクローフードが夢塗にとっての毬藻だということか。いや、ケムケムか。

「助けに行くか」


 魔力というものは体力と同じようなものだと思う。

 息を整えるように、少し時間を置けば魔力は回復したように思えるが、長距離を走った後に息を整えて、また走り出してもスピードが出ないように、魔力もすぐに其処を尽きる。

「やっぱ無理だ」

「頑張れ、如月さん! お前しか知らない場所で転移魔法使えないんだから!」

「私も如月さんは出来ると信じてます!」

 魔法陣は完璧だが、魔力でそれを満たすことが出来ない。

 待てよ、小粋さんを倒した時は明らかに俺のキャパシティを超えて魔力を使役していた。あの感覚でやればいいはずだ。怒りとかを強く感じれば黒の魔力が使えるはずだ。黒の魔力を出すことができれば、それによって俺の体は魔力に満ちる。

「クローフード、俺を怒らせるようなこと言ってみろ」

「ななな、そんなこと言えるわけありません!」

「よし、私が言ってやる。バーカバーカ、屑、雑魚、ばーか」

 語彙少ないなこいつ。

「魔力が足りない。もっと心に響くので頼む」

「お前が正義失効するとき、体が黒くなってゴキブリみたいだよな」

 ……今のは少し良かったな。しかし、さきほどの黒の魔力を奪われたのがまずかったのか、力はさっきほど沸いて来ない。

「如月さんっその、いつもお誕生日に貰ってる肉なんですけど……私生肉は食べられません!」

 思ったよりも急速に体が黒の魔力で包まれ、今なら何でも出来る気がするのは皮肉な話だ。

「黒き朝を見よ、夜は黒き、昼も染める。一歩をその先に進むと思え、我の進む先、それは全て――一寸先の闇」

 何とか出来たな。ワープは二回目だが、こんなに上手く出来るとは思わなかった。

「あ、その、嘘ですからね? 如月さんそんなに落ち込まなくてもいいんですよ?」

「げ、元気出せよ」

 ほっといてくれ。

 俺は座標収集指定確認で忙しいんだから……。

 

 それにしても女ってのは何をあげたら喜ぶんだろうな? 包丁とか無水鍋とか洗濯機だろうか?

 母は喜んでいたが、クローフードはまだ若い。やはり相場はよくCMとかでやってる、なりきりパジャマとかが女子に人気らしいから、調べておこう。


「ケムケム!」

 黒の魔力を使うと、体が痛くてしょうがない。もう少しで意識を持っていかれるところだった。

 夢塗は金魚鉢を抱えて嬉しそうにしている。

「よかっ」

「ヶヶケケ!」

 俺の言葉を遮り、ドアを勢いよく開け入ってきたのは、身長は二メートルある巨体の黒いぬいぐるみみたいな奴だった。しかもそいつだけじゃない、後ろにもいくつかの数が見える、十はいるだろう。

「如月さん!」

 そいつの腕が伸びる。

「黒道!」

 駄目だ! 魔力が完全に足りない!

「ってやば!」   


 ※


「如月さん!」

 突然入ってきた黒い人形のような……これはなんでしょう? しかしそんな事はどうでもいいのです。今は如月さんに危害を加えようとしているこの人形たちを止めなければ。

 これまでの私ではせいぜい盾になることしか出来なかったでしょう。しかし、今の私は本当の姿を取り戻し、小粋さんによって一旦はゼロにされた魔力も――




 あ。今、魔力ほとんど無い。



「黒道! ってやば!」

 気合だぁ! もともと魔法に頼ってるような柔な名前じゃないんですよ、魔姫って言うのは!

 やけくそ気味に如月さんを殺そうとする手を掴んで、投げ飛ばします。

「グア?」

 千切れた手を見て人形は首を傾げています。

「すげぇ?」

「クローフード?」

 如月さんを守った達成感に包まれていた私は、一瞬で氷山に叩きつけられたかのようにすっと凍るようなほど体温が下がるのを感じ取ります。

 おそるおそる後ろを見ると、如月さんもぽかんとしています。こんな間の抜けた顔も可愛いですね。

「いまのは、その、魔法です」

「いや、それは無理があるだろ」

 夢塗さん、後で覚えて置いてください。まぁ、私もそんな事で誤魔化せるとは思っていませんでしたけど。

「グアアア」

 今頃になって痛みに吠えた人形たちが、一気に部屋の中に入ってきます。

 正直、恥ずかしさに任せて全てを殴り飛ばしてしまいたいですが、これ以上如月さんにこんなところは見せたくありません。そんなことで、私への愛が変わるなどとはもちろん思っていませんが、私の心が耐え切れそうにありません。

 名前を使いましょう。

「クローフードの名の下に忠誠を示す眷族よ、声に応えよ、クローフードが呼ぶはリリロームノ」

 出てきてくれるかな、と一瞬不安になりましたが、十年くらいじゃ私の名前の力は擦り切れるなんてことは無かったらしいです。

 私の名前が刻んである、門が現れます。

「召喚」

 バンっと両開きの扉から勢いよくリリーが飛び出してきます。

「我を呼ぶとは何事か! その魂を器にしても足らんぞ! この世界ごと喰らってやるわぁ」

 あれ、こんな子だったけなー。

「リリー?」

「あ、フードさん。…………その、登場やり直してもいっすか。――私を呼んでくれてありがとうございます! 拙者、クローフード様の右腕! 愚図ですけどがんばるっす」

 何も変わってないですね。少しだけ安心しました。    

「今度はなんだ?」

「あっ如月さん。紹介します! 私の眷属でリリーです! さぁ、リリー、この人形みたいなのを倒しちゃってください!」

 リリーは人にこうもりの翼をつけた小柄の女の子のような姿をしています。トライデントとかを人間界で拾ってきていたので、戸惑うことなく戦えるはずですし、我ながら完璧な人選だと思います。 

「……あの、私がわざと負けてフードさんを際立たせる敵な感じっすか?」

 こっそりと私に耳打ちしてきたので、私も皆に聞こえないように、

「違う、普通に倒しちゃっていいから」

 と耳打ちします。

「でも、このくらいフードさんなら、素手でも……あ、了解っす。乙女心すね」

 うん。

 よく解ってくれるというか、話せるのがこの子くらいしか居ないのも人選の肝であることも、真実です。他の眷属はデリカシーがないので呼びたくないのです。

「おおし、掛かってこいやぁ!」

 私と話しながらも、リリーの後ろには人形の山が出来上がっていたのですが、それをリリーはトライデントで切り裂いていきます。

「ハハ! この程度で拙者に勝てるとでも思ってるんすか?」

 ザックザックと斬っては刺して外に放り投げていきます。

「凄いなあれ」

「やべぇ」

 リリーが褒められて、私も鼻が高いです。

 リリーの動きは素早く、あんな人形に捕まることは無いでしょう。

「あれ?」

 リリーが突然、ガクッと地面に膝をついてしまいます。それを好機と沢山の人形が一斉に腕を伸ばしますが、そんなものは軽く切り落とします。しかし、様子がおかしい、リリーはもう疲れてしまったかのように、息を肩でして居るし、そう思ってたら、ものすごい速さで人形たちを外に押し込んで、入り口をトライデントで塞いで素早くこっちに戻ってきました。

「あの、ローブさん、、、本当に、なんなんすか、あいつらに触ると、凄い疲れるっす」

「そうなの?」

「尋常じゃないっす」

「運動不足?」

「そんな訳無いじゃないっすか。多分あの人形の中身に秘密があるに違いないっす」


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