音野 響
私だって、人並みには颯爽とやってくる白馬の王子様、いや、ほんとに白馬で着たらそれはそれで引くけども憧れてる女の子だ。
絶体絶命のピンチに敵を一掃してくれて、さらにお姫様抱っこで助けてもらったらそれは、王子様だ。例えば、それほど顔がかっこよくなかったって一目惚れとかすると思う。
「ハイパージャックトランストチ狂うアウトサークルシンドローム!」
しかし、私の王子様は、かぼちゃを被っていた。
――都会の流行かぁ。栃木じゃ見たこと無いからびっくりしたべさー。はっはっは。
そんな訳あるかぁー。
「誰だ? 名を名乗れ、私は黒、元の名前は捨てた、闇に生きるものとして当然のことだ」
って違う! これじゃ伝わらない! 方言を隠そう隠そうと思ったら、やばいのが出ちゃった! 方言の数十倍やばい。住む地域が違ったから世界が違ったにランク上がってる。
「ちょっと、御礼も無いの?」
「え、あ、」
少し目つきが怖い女の人が、かぼちゃさんの後ろから顔を出して私に駄目出しする。ですよね、わぁぁ、でも、あ、なんて話せばと思ってたらドモって今度は全然話せない。
「俺はジャック・ザ・ランタン。俺と同じ道を行くものさ。同士よ、これは戦争だ。生死の境を飛び越えることは出来ん。死ぬなよ……安心しろ、俺は味方だ」
あぁー。ジャックさんが多分気を使ってくださってるよー。悶え死んでしまいそうだー。
「状況を説明してくれ、私はこの世界戦は始めてでな」
違うんです。本当はこんな話し方では無いんですけど、ごめんなさい、馬鹿でごめんなさい、日本語不自由であがり症でごめんなさい。
「新しい機関の宴が始まっちまったようだぜ。今から其処の女の友達、俺達の失ったもんを取り戻しにな、お前も俺の背中でも追いかけな(テロが始まったらしい、今からこいつの友達を助けに行くから、いっしょに来るといい)」
おばあちゃん、この前送った手紙には、都会の人は田舎の人より優しくないとか書いてしまいましたが、今日私は、宇宙のような優しさを持った人に出会うことが出来たよ。
そしてテロ? 思ったより都会はバイオレンスのようです。
「所属は?(あの、なんで助けてくれるんですか)」
もうこのままで言ってしまおう。
「前の世界線を覚えてないのか?(俺達はもう友達だろ)」
今日はパーティだー。やっぱり服でしょうか、大幅なイメチェンが功をなしたのでしょうか。女の人は私たちの言葉が多分伝わっていないのでしょう。さっきからしきりに首を傾げてて私のライフが減っていく。
「ふっ(うわぁぁぁ、私初めて友達出来ましたよぉ。だって皆ギスギスしてて、都会って怖いところだと思ってたけど。そんな中で助けてくれるなんて、私、泣きそうです)」
「ふっ(おおげさだぜキラッ)」
「ねぇ私、バベられたのかしら。不安になってきたのだけれど。其処のあなたもあなたよ、普通に喋れないの」
いや、どちらかというとこれは全て私のせいなのに、ごめんなさい。そうだ、甘えてちゃ駄目だよ。この人には謝らなきゃ!
「あ、え、と」
私の馬鹿ー。そんなことも言えないのか、だから友達も出来ないんだよ!
「黒を苛めるなよ」
「なんか釈然としないわ。私が悪いみたいじゃない」
ジャックさんの優しさが染みる……。
これで、かぼちゃ頭じゃなければ……いや、もしかして何かしらの意味があるのかもしれない。さっき、黒い、人形みたいなのを一瞬で消し去ったし。能力の発動に何か制約があるのだ。ここはEクラスの階だし、相当この人も苦労してるんだろう。
「つなぎ、お前の友達は何処に居る?」
「放送室よ」
「特殊教室じゃん、俺行き着けない」
「……あ」
何の話だろう? 特殊教室?
「ダークネス、生徒手帳見せて」
あ、普通に話すんですねジャックさん。
「……はい、どうぞ」
顔が赤くなる。さっきのほうがよほど恥ずかしいだろう私。
「来た、こいつ放送室だ」
「ほんと? 凄い偶然ね」
ジャックさんに求められて、ハイタッチします。
「……あ、あの、な、なんで?」
「世界に飲み込ませなくともいい。自分は常に一人、自信を見失っては生き残れない(普通に喋っていいよ、意味解んないから)」
普通に喋った方が伝わりにくいってどういうことだよ。気を使われちゃってるじゃん。私のスタンダードが痛いほうだと完全に思われてるよ! いや、ありがたいけど。
「深遠、印の意味。無知を責めることは罪……(私の生徒手帳がどうかしたんですか? 無知でごめんなさい)」
「あぁ、特殊教室って言って、例えば俺なら娯楽室なんだけど、一人に一つ、特別に利用できる教室があるんだ。図書館とか、家庭科室とかもそうなんだけど、其処にいける人と一緒じゃ無いとどうやっても行き着くことが出来ないようになってんの」
「はぅ」
「どうかした?」
いや、その、普通で返されると恥ずかしさが一気にこみ上げてきて逃げ出したい。もう顔がカーッと赤くなってくるのが解る。
「一気に行きましょう」
「そうだな、ランタンの灯火!」
魔法使い? 手を引かれて、何故かジャックさんに顔を抑えられて、その中には一緒に入っていきます。転移魔法ってCクラスでも使える人少ないのに。
放送室の前に一瞬で到着する。扉にはちゃんと放送室と書いてあるのですぐに解った。
「来た! かぼちゃ頭とついでにつなぎ、と誰?」
「おいこら、私をついでとかいったわね?」
「紹介しよう! 黒崎ダークネス、本名黒崎ノーヤちゃんだ」
ちょ、ジャックさん私のコンプレックスをなんで知ってるんですか! 親はどっちも日本人なのに、しかも栃木なのに、ロシアとかのハーフ? 肌白いもんねって聞かれて違うって答えて空気を悪くするDQNネームの最先端の私の本名がぁぁぁ。あ、さっき生徒手帳渡してしまったんだった! しまったぁぁぁ。
「私は音野響、放送係、それにしても聞かない名前ね。こんな格好だったら私が見逃すはず無いんだけど」
「この子、Eクラスだから貴方が知らなくても無理は無いわ」
「なるほどー。納得納得? こんな言い方あれだけど、接点とかないでしょ?」
あれ、みなさんは同じクラスの人じゃないのかな。そうだよね、ワープなんて高等魔法だし。いや、其処まで魔法に詳しいわけじゃないからよく知らないけど。
「私もDよ、そんな言い方は無いんじゃないの? というか、私じゃなくて、涼の……この子、思春期が遅れてやってきちゃったのよ」
そんなはっきり言わなくともいいのに!
「あぁ、思春期仲間か。良かったんじゃない? かぼちゃファミリーが増えて。皆卒業か就職して貴方一人なんでしょ? あ、でも女の子は不味いか」
「響? どういうこと?」
「またまたぁ、痛いっ、足を踏み潰してる! 踏んでるなんて目じゃない! タバコの火じゃないんだから!」
かぼちゃファミリー?
お友達の輪みたいな奴かな。
ジャックさんに聞こうと思って見回しても、放送室の中でジャックさんは蹲っていた。
「き、機関の攻撃(だ、大丈夫ですか? どこか痛いんですか?)」
「このくらいどうってこと無い」
「いつもの事だからほっておいていいわよ、自業自得だし」
つむぎさん? はいたって冷静で、かぼちゃのオレンジが、少しだけ赤く色づいてるのが見て取れてしまって血の色、私は頭を殴られたような感覚になって、必死にどうにかしようとしたけど、カッターを強くすることしか出来ない私にはわたわたすることしか出来なかった。
「はい、新しい顔」
えぇぇ、もしかしてこの顔を付け替えると元気が百倍になったりするのか! でも此処は能力者たちが沢山いるし、そういう事も在るのかもしれない、急がなくちゃ。
かぼちゃの顔を取ると、思ったより血塗れの顔が出てきたので、ハンカチでふき取る。
「あ、すまん」
はわわ。
王子様出て来たー。
王子様の顔を私触ってる、ハンカチ越しだけど触ってるよ、破壊力がやばい。
「あー、ノーヤちゃんだっけ。つなぎ、あれは完全にやられた顔だわ」
「……大丈夫よ、どうせ筋肉見せられて其処で終わりだわ。大丈夫よ」
「それなら、私の足の骨がまだ潰れていないうちに、足をどけてよ」