テロバックスロットリボルバー10
「もういやだぁ、火傷がひりひりするぅ、蟹吉に攻撃させんなよー」
「私も……調子乗ってたんで魔力が……」
「使えねぇな」
きっと二人とも、睨みつけてきた。
「なんだよ……」
「一番使えないのはひっきーだと思いまーす」
「蟹吉も思いまーす」
じゃあその木槌貸せよ、と言うと思ったが何度も言った言葉なので、諦める。ふたりとも、道具は渡したくないらしい。
「俺がやってもいいんだぜ? その代わり俺の運がなくなって、洞窟とかが崩れてくるだろうけどな!」
もう何回目かの会話だ。
足も疲れてきてるんだろう。蟹吉と、雑魚子は俺のシャツを掴んでひきづられて居る状態だ。そもそも、これだけ俺に歩かせてもらってるのに使えないとは何事か。
「こうもりが現れたぞ」
「今度は私がやります。鉄砲水」
最初は凄く楽しいですと、はしゃいでいた雑魚子も疲れからか、ぐだっとしている。
現れたこうもりが消えていく。
「何対くらい倒したんだ……」
「今ので62体目だ」
こうもり34体、幽霊23体、狼5体。
「覚えてんの?」
「数えてたからな」
ずるずると歩く。
「なんかさぁ、もっとバーンって出来ないの? ひっきーは」
こいつは、わら人形にくいを打って爆発する可能性があると、本当に思っているんだろうか。
「出来るよ。お前のことを俺の前に膝まづかせるくらいは」
しかし、なんか、自分が出来て俺が出来ないみたいなことを言うので、つい口走った。
「やってみろよ」
めんどくさいな。
まぁ、いいか。別にこのくらいなら問題ないだろう。蟹吉の髪の毛を採取して、わら人形につける。呪いをするときに気をつけることは三つ。本当はもっとあるが、基本的には相手の情報を間違えないことと、自分が何を差し出すか、最後に相手との距離だ。もちろん物理的な意味で。
完全密着なら、何も差し出さなくとも大丈夫だろう。呪いの極意として、人を呪い殺そうと思ったら、普通に殺せる状態にしてから殺せと。たとえば、監禁して包丁を心臓に何時でも差し入れられる状況にすれば、人間を呪い殺せる。
そう、ぶっちゃけ、そのまま刺したほうが早い。道具代はかさむし、何より道具を作る時間が掛かるからだ。
今、こいつを何時でも殴れる距離だ。これなら、使える幅も広がる。
「動くなよ」
「何してんの」
それには答えずに、人形に少しづつ傷をつけていく。
「ん? 何?」
蟹吉は、自分の足を見る。
「虫だ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ」
足に何も付いてないのに地面を転がって、必死に何かを取ろうとする蟹吉。とりあえず地面に膝はつけたな。
「なっ蟹吉さんに何したんですかっ」
「不安にした」
「はい?」
「例えば夜、何も見えないところで、かさかさ音がしたら、虫嫌いじゃなくともうわっとかなるだろ? それ」
簡単に説明するとそうだ。
精神攻撃といったら、聞こえはいいが、なんか不安だと思うだけの呪い。それと、もちろん気のせいで、足に違和感を覚えていたはず。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ! ゆるっ許してぇ」
自分にやった時はこんなに効かなかったはずだが。
「蟹吉さん、気のせいですよ。何も付いてないません」
「でもでも、うわっさっき背中でなんか動いた!」
それは本当に気のせいだ。
「蟹吉さんを助けてあげてください!」
解呪しろってのか、出来ない事も無いが、すぐに直るのに面倒だし、何より解呪の方法を教えるのは禁忌とされている。呪いというのは防ぐのが非常にたやすい。それどころか対象を入れ替えたり、相手に呪いを返したり、利用もしやすい。
だから、そういう情報は誰も教えようとしない。自分で発見するしかないのだ。ただ、呪術師に呪いを込めた場合、絶対に効果を発揮することは無いだろう。
「なんでもっ何でもするからぁっ」
人に掛けたことなんて、この学校に来てが初めてだったが、こんなにも呪いは有用性が高いのか? まぁ、肉体的なものより精神的なほうが呪いの本当の姿だが、こんなに悶えるのか? 蟹吉が特別なのだろうか。いや、呪いが良く効くのは罪を重ねてる奴だかんな。そんな事をしてるなんてことは無い。まぁ、少しかわいそうになってきた。
蟹吉の眉毛を引っこ抜く。
「いた、おおぅ、怖くなくなった」
「感謝しろよ?」
「はいっもう逆らいません」
呪いってこんなのだっけ? もう少し試してみるか。人間に試すことなんて無かったし、あっても自分に位だ。自分にやると威力が弱まるというのも在るんだろうきっと。
「雑魚子」
「はい?」
肩を二回叩く。背中に素早く札を貼り付けて、雑魚子にもう一枚の札を持たせる。
今度は視線を感じる気がするって呪いだ。その中でもかなり弱いものなので、俺が試した時は何も感じなかった。
「な、なんですかこれ? ん?」
雑魚子が後ろを振り返る。背中の札を取って、また肩を二回叩き、今度はその札を頭の上に置いてみる。
「上!」
雑魚子は突然上を見上げる。
――――これは面白い。いたずら程度でこんなに効果があるとは。緋色が足をつったと上手く感じてくれた時は、運が良かったと思ったんだが、これはもしかして、呪いを知らない奴にこれをやると効果が上がるとかだろうか。
紙をびりびりに破いて捨てる。
そして捨てる。
最後に雑魚子の肩を三回叩く。
「さっきからなんですか? 今それどころじゃって、なんかしましたね! 気配が消えましたもん!」
「ミーツケタ、サッキハスコシシッパイシタ。タリナイタリナイ、タリテルケドホメテホシィィィ」
何? 口と胴体だけの芋虫みたいなのが、高速で走ってくる。
さっきまでの緩い敵みたいに、攻撃を待つみたいな態度はとらず、一直線に俺のほうに向かってくる。
「雑魚子!」
「きゃっ、ライトニング・ライン・サン」
俺に押されながらも、黒いのを見ると、すぐに魔法を打つのは凄いな。
感心しながらも、その幾分にも枝分かれして、避けられないだろうって攻撃を、芋虫は華麗に避ける。そして思いっきり、俺のほうに突っ込んでくる。
左手を出して、体を守ろうとしたら、その左手にかみつかれる。
「うっ」
麻痺するような感覚。
「ひっきー!」
蟹吉が木槌を振り上げる
「モウユダンシナイ」
一瞬では馴れて、今度は、俺の体に噛み付いてくる。
そいつに鞄から出した釘を刺す。
しかしそれすらも避けられてしまう。
「加護、絶対命中! ダブルエレキライン」
雑魚子が撃った雷が、今度は的確に芋虫に当たって、体から離れる。
「ユダンシタ」
蟹吉が、もう一度、其処に向けて木槌を振り下ろす前に、来た道を引き返すように一目散で帰ってしまった。
「なんだったんだ?」
「腹から血が出てるぞ!」
「知ってる」
「そうじゃなくね? 馬鹿なの?」
何を混乱してるんだ。
俺は馬鹿じゃない。
お前の方が馬鹿だ。いや、見た目で人は判断できないからな一応聞いておくかな。
「お前、入試いくつだった?」
「こんなときになんだよ! お前、腹から血が出てるぞ!」
「言いたくないのか」
「私ノーマルだって言ってなかったっけ? 満点だよ」
……嘘だろ――――――――
「そうか」
「どうした? 元気が無いぞ、しししっかりしろ」
いや、このくらい別になれてるからいいんだが、それより心の傷は当分癒えそうも無い。
「魔力ないので、止血しかできませんけど……雨雲の精霊……スポイルダメージ」
血が止まった。すごいな、魔法を掛けられるのはいい気分ではないが。
それよりもさっきのなんだったんだ? 俺だけに冷たすぎるだろ。流石に芋虫に恨みをもたれることは無いはずなんだけどな。
「さっきのなんだったんでしょう。魔力を感じませんでした。逆に不自然なくらいに」
「魔力って感じ取れるもんなの?」
まず其処だよな。
「多少は」
そうすか。結構当然のことらしい。サキとか言う奴のアイデンティティなくなったな。
「知らん」
結局其処だ。知らないってことで片付いた。
「手が痛いよー。乙女の手なのにー」
「追いついた! 酷いよ! 置いてかないでよ!」
誰だ?
あぁ、蟹吉の友達か。
蟹吉の友達は、突然立ち止まって、髪型を整え始めた。深呼吸して、左手でピース。右手は腰に。最後に左手で左目を隠すようにしてから、ぎりぎり見えるところまで持ってくる。
「淑やかですっ」
努力は認めよう。
だが、俺の隣に居る雑魚子はあれ、誰? とか俺に聞いてきてるぞ。
「すいません。ひっきー、こっそり教えて」
「いや、名前言われて思い出せなかったら、何を説明しろと」
「もういいんです……」
とぼとぼ近づいてきて、何も無いところですっ転ぶ。
「そんなことより大変なんですよっ、襲われてるんです! 絶対死なないようにしてください。今からはセーブロードが使えません! 校長先生が、襲われちゃったんです!」
話の内容よりも、転んだまま、叫ぶこいつが不憫でならない。