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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
73/108

クロー如月




 一週回って気分が良いな。何故か感動はあまり無いが。

 小粋さんなんて、ただの雑魚に見えてしょうがない。

「ダークスロベザード。何かされなかったか。されたよな、愚問だった」

 ダークスロベザードは、女の子の姿でこちらを力なく見上げてくる。

「如月さん、駄目です……」

 そうか、安心させてやらなくては。

 黒の回路。震動者心以下略――詠唱終了。

「嘘でしょ?」

 スクリーンにはもう何も表示されていない。

「くっ、晴天! 小粋の名前を此処に表す。土転招神!」

 小粋家は土魔法、最強の家。属性の数だけ最強は存在するが、その中でも最強だといわれる、魔法というのを見れたら勉強になるのだが、黒の回路で魔力を作ったかわりに外に出た黒の魔力のせいで、何も起こらない。

「レベル1120、マッドスタン!」 

 何も起こらない。

「黒三千道」

 自分でも数え切れないほどの、それ一つが黒道の密度をはるかに凌駕するものが手から放たれる。それは伸び、枝分かれし、小粋さんに数え切れないほどの風穴を開ける。

 黒の魔力が、俺の中に戻ってくる。

「うっ」

 激痛で意識が一瞬遠のくが、何か来る――

「イタダキマス。ヤット、コノトキ、コノシュンカン、フラグカイシュウ、イタシマス」

 小粋さんの中から、何かが飛び出してくる。それは口と胴体しかない化け物で、俺の黒三千道を食べつくして、さらに俺の周りにある黒の魔力で戻ってきてないものを食べ始めた。

 「夕月闇」

 何か知らないが、敵だろう。

 弾き飛ばしてやると、放った魔法。

「ドウモ、オキズカイ、アリガトウ」

 それすら食べられた。

 そのまま俺自身にかぶりついてくる。痛みは感じない。痛いというのはある、神経が死んだわけでは無い。ただそれを感じ取れない、それはどんどん強くなっていくようで。

「スルーマテリアル」

 それを眺めていると、茂武一が地面からにゅっと現れて、俺を掴み、沈む。また浮き上がってはダークスロベザード、夢塗も掴んで、地面の中に引きずり込んでいく。

「クソガッユダンシタ」


 


「すいません。寝て良いですか」

 ここが何処だか解らない。顔を真っ赤にした、茂武一が倒れこむように眠ってしまう。体の傷は夢塗が塞いでくれた。ダークスロベザードはなにやら壁に描いている。何かは気になるが、その気力すら今は沸いて来ない。

「如月さん失礼します」  

「な、何してんだよ!」 

 ダークスロベザードが、体を崩しながら近寄ってくる。魔力はほとんど感じないが、その手から腕に掛けて、剣の形に変わって、俺の頭の上に掲げる。

 夢塗が何か喚きたてているが、もう黒い黒い黒い、沈んでいく。

 ダーククロベザードが俺の体に入ってくる。痛みはある。しかし、こいつになら目に入れても潰されようとも抉られようとも痛くは無い。



 ※



 如月さんがついに覚醒した! これこれ、これですよと大歓喜な私でしたが、何しろ感情を基にするのが如月さんの魔法ですから、如月さんの目から表情が失われていくのが怖くもありました。そしてその懸念は、突然の来場者によって決定的なものにされるのです。もし私が、完全な状態でしたら、そんなことは許しはしないのですが、如月さんの黒の魔力を喰らって行きました。黒の魔力は、感情そのものです、それを奪う事は感情を奪うと一緒。そんな事が出来るのが、この世界に居るらしく、油断しました。

 私が、自らの無力を嘆いたその時。なんとか一さんが、私たちを救ってくださいました。やります。尊敬です、大感謝です。この恩義は私は忘れません。ただの寝ぼすけだと思っていましたが、見た感じ飛び起きたのは、大方、小粋の奴にでも無理やり眠らせられていたんでしょう。小粋の魔法は、私にも影響を与えるほど、完成されたものでした。魔法に掛かったこと自体はしょうがないことでしょう、それより褒めるべきはあの迅速な状況判断だと思います。

 こんど、お茶でも入れてあげるべきですね。

 よし、如月さんの状態はよくありません。感情が枯渇してます、ただ、感情がなくなるなんてことは無いのです。これは、突然感情を多量に消費、奪われた事で、感情の放出が止められているんだと思います。救えるのは、身も心も如月さん一筋な私だけでしょう。

 魔力なんて無くても。私の名前があればある程度は補ってくれることでしょう。

 さぁ、一心同体、乗っ取らせてもらいます。感情の放出の仕方を体に覚えさせれば、如月さんも元に戻るはず。

「如月さん、失礼します」

「な、何してんだよ!」

 心配は、如月さんがおとなしく乗っ取られてくれるかですが、黒の魔法を使う人はそっち系の体勢が半端無いということもありますが、如月さんが私を受け入れないはずがありません。――多分。


――――

――


「来るな!」

 ううぇええええーー!?

 此処は如月さんの内面です。いきなり此処に飛ばされるとは。さすが如月さん、乗っ取ろうとする私を同じ立場に置く事自体、才能の塊です。

 そうです、これは私のことを強く拒絶しているわけではないのです、才能のなせる業なのです! うぐっ。

「な、何を言っているんですか? 私ですよ?」

「ダークスロベザードが女のはずが無い」

 やっぱり、私の事女の子と思ってなかったんですか。そんなことだろうと思ってましたよ、私が始めて召喚された召喚記念日にはいつもこれでもかと肉とか、肉とか用意してくれるだけだったし、一緒に滝で修行とかしましたもんね! おかしいと思ってたんだよ、如月さん、女の子にそんなデリカシーない事する人じゃないですもの! それに夜は一緒に寝てたけど、そういう事は一切無いんだもの!

「でも、解ってくれますよね? あれだけ一緒に居たんですもの。姿が変わったくらいじゃ……」

「確かに、お前は何処からどう見ても、ダークスロベザードだ」

「じゃあ!」

「名前……」

「はい?」

「お前、名前はストロベリーなのか? 俺はお前の名前も知らなかったって言うのか」

 きっと、小粋さんが私の本当の姿を知っていたから、名前ももしかしたらと思っているのでしょう。私はダークストロベザ―ドで間違いはありません、ストロベリーなんてふざけた名前であるもんですか。……ですが、本当の名前といわれると、私の名前は実はクローフードです。でもこれは言えないっ、名前なんてどうでも良いじゃないですか! でも、魔法を使役するときは、特に本気出すとやっぱり私の名前を書き入れるわけで、その時にばれると、如月さんを裏切ることになってしまうかもしれません……。

「クローフードです……」

「何?」

「私の本当の名前はクローフード、です、ベルゼブブの第二十九子孫、何も残さない完全漆黒創造の魔姫、クローフードです!」

「……」

 遂に言ってしまいました。大叔父は何故かこっちでは最近になってものすごく評判は悪いのですが、其処も含めて言ってしまいました。どうしてももう嘘だけは付きたくなかったのです。 

「待て、そんなものが俺に召喚できたのか? 魔姫? よく解らないが、位は……俺の名前で呼べるほどは、しかも俺がかなり小さいときだぞ召喚したのは、学校にも行っていないが……」

 怒ってない。疑問が先行していい感じに、考え込んでます。此処に畳み掛けましょう。

「愛の力です! 私と如月さんの愛の力です! 実際、私のほうから多少はこじ開けてます!」

「待て、もしかしてお前、強いのか?」

 えっ、素朴な疑問優先ですか。まぁいいです。最初の来るなに比べたらものすごい進歩です。しかし、これはどうやって答えましょうか、なんてったって強さは相対的なものですし、如月さんよりは弱いですし。

「答えにくいか? じゃあ、俺の親父のシロロームとどっちが強い?」

 シロローム? あ、見たことはあります。あのこうもりですね、でも、そこらへんに沢山居るこうもりと比べられても……。

「そ、それよりは強いと思います」

「……俺の知ってる召喚されてきてる奴の中で、どれと同じくらいだ?」

 えぇ!? そもそも、誰が呼ばれてるかなんて知りませんし、あっ、そういえば同じクラスの人がドラドン召喚してましたね。

「その、予選で山を吹き飛ばしたドラゴン居ましたよね。あれよりは……まぁ」

 正直に言うと、あんなの雑魚なんですが、少しくらいは謙虚になっておいたほうがいいでしょう。

「いや、あれと比べられないだろ。もっと低いのでいい、どのくらいの力なんだ? 実際」

「その、ドラドンよりは強いです」

 というか、正面から戦ったら、二秒で二十折りにできます。

「……お前、そんな冗談を言う奴だったのか?」

 あれ? なんか反応がおかしいですね。

 引かれてる?

「えっ、あ、冗談じゃないですよ!」 

「クローフード、お前が山を吹き飛ばせるとは流石に思えない」

「それは、吹き飛ばせんけど」

 息では。

「それにお前、なら、これまではどうして弱い振りをしていたんだ?」

「振りって言うか、流石に形まで変えられると、力出せないっていうか……」

「……ごめん」

 あぁ、凹んでしまった!

「いや、それでも、私は嬉しかったですよ! 一緒にいれて!」

「その、あー、さて、本題だが。夜についてだ」

「はい?」

 神妙な顔をしてどうしたのでしょう? 本題が夜?

「いつも一緒に寝てるよな」

 そうですね、私を枕にしてる感じですけど。私の形を大きく召喚するから自然と……。まさか、今度から一緒に布団の中で寝ようと!?

「すまん」

「もちろんっ、ってあれ? いや、全然気にしてないって言うかバッチこいって言うか」

「気を使ってくれなくてもいい。最低だ、死ぬ」

「死なないでください。せめて、地獄に落ちてこれるように悪いことしてから来て!」

「……お前、地獄から来てるのか?」

 疑問には忠実ですね。知ってましたけど。

「いえ、友達が居るんで、頼めばなんとかなるかなと」

「ファンタジー…………」

「隙あり!」

 よし、乗っ取った!

「解ったよ、なるほどな、もう大丈夫だ。お前の気持ちは解った」

 あれ? あれれ?

 如月さんの体からはじかれてしまいます。

「出てきた!」

 夢塗さんが私を受け止めて、一緒に倒れこみます。

「おはよう」

 申し分けなさそうな如月さんの声が聞こえました。

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