ジャジャジャ切縫つなぎ
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私にも力の差みたいなのは解る。だから伝説のはずなのに、すぐ会える先輩と有名な茂蕪涼さんの力も知っているはずだった。
何かおかしい。こんなに弱い人だったか? 前、見に行ったときはもっと魔力に満ちていた。まぁ、魔法は専門じゃないらしいと聞いてもいたので油断は出来ない。だが、私でも倒せる感じがするのは何故だろう。
天使の究極魔法が発動する。天使にか使えないとか言う、威力は破壊できないものを破壊できるほどのものらしい。
早口で聞き取れはしなかったが高速で能力を発動させたようだ。しかし全てはDクラスより上は無い能力のようだ。発動したときの余波で解る。
「ジョウキヲイッシテイル」
天使の天輪が三重になって、突然
「天罰、天罰、天罰」
雷を降らせ出した。勝負は一発のはずで、ルール違反だということよりも、涼さんは消しとんだはず。いや、おかしい。あれが炸裂したら、私もただでは済まないはずだ。
何かが落ちてくる。
手首だ。
天使のほうを良く見ると、体がどんどんずれて行く。
「天使の体には傷つけられないはずなのにっ」
ばらばらに崩れ去っていく天使。
その前に、涼さんが現れた。
「存在をずらした。存在すれば無効化は不可能なのだよ、これぞ、友情パワー」
「ジョウキヲイッシテイル」
「……そんな恥ずかしい事を素でやらないで欲しいのに」
天使の声でそう言って、消滅した。きっとセーブロードしたんだろう。
私の空間を歪めるなんて話にならない。
「ハイパージャックトランストチ狂うアウトサークルシンドローム、どうだ? 全法則、法則外を無視して、破壊、俺の好きなように再構築する。常識じゃ考えられないだろ」
「勝てるわけ無いですわ」
「……そうでもないのに」
隣の女の先輩がなにか言ったが、聞き取れなかった。
「次はお前か?」
「……無理ですわ」
勝てるわけが無い。
「いや、戦うのが間違いなだけだ。チェスでも将棋でも何でもいいんだぜ?」
それなら勝てるかもしれない。チェスは子供の頃に習ったことがある。
「じゃあ、そのチェスで」
「……止めといたほうがいいわよ。その人、Sだから。あと、その体を元に戻して」
私はこの先輩の言葉の意味が解らなかったが、三十分で思い知ることになった。
「さぁ何処に動かす?」
駒の数も、私の囲いもかなりいい形ではある。
しかし、これはもう動かせない。いい手というのが残っていない。全てが自爆手といっても過言ではない。
「最低ね、涼」
私がポーンに手を伸ばすと、涼さんはルークの頭を叩く。そのルークを動かされると不味い。この手は駄目だ。
「そういうことするから、もてないのよ」
「此処でいいですわ」
いい手が思いついた。
「ん」
涼さんがクイーンを動かす――すぐに一気に負けそうになる。
「ねぇ、その筋肉。別に出さなくても同じ筋量でしょう? 早く引っ込めないと私が貴方を倒すわよ」
※
つれぇ、つれぇよ。魔力も体力ない状況で、無理しすぎた。というかあの技自体が色々無理なんだよ。そもそもゲシュタルト崩壊は魔法にしか使えない技だし。相手の魔法を邪魔する能力だからさ、もう動けない。
もう誰もくんなよマジで。どのくらい辛いかって? かぼちゃ被ってるから気づかれてないけど、俺今、鼻血出てるし、顔色サイアクだろうし、目も見えないのはかぼちゃ被ってるからだけど、出身不明の血が口から出てきてるし、立ててもいない。元から立ってないから良いんだけどさ。
「チェスは勝ったわね」
「あぁ、余裕だ」
「新しいの作ったから着替えて」
「ジャージ?」
赤いジャージを差し出してくる。いつもは、どうせ筋肉を見せ付けて破くんだから上は自分で買ってというのに。
「かっ勘違しないで」
「ツンデレ?」
「――ふんっ、でも今のは自分でもひどいと思ったわ」
じゃ、なんで蹴るんだよ。
まぁ、足を叩かないだけ優しいけど。というか足叩かれたら洒落にならないんだけどねっ。
「とりあえず、ワイシャツは無いわ」
声色が本気なので、ちょっとへこみながら、ジャージに腕を通す。――これダサいのか、自分ではかっこいいと思ってたんだけど。つなぎだって、かぼちゃ頭なんだから何でもいいんじゃない、と言ってじゃんか。
すると、マントを取り去られてしまった。ついでにかぼちゃの頭も取られる。
「顔洗って」
差し出されたタオルで顔を拭くと、
「おおふ」
斬新な反応だ。
「車椅子も隠すし、貴方の能力も封印するように作ったわ。ちょっとポーズとって、写真撮るから」
何処からか、デジカメを取り出す。つむぎ。
前も、なんか着せ替え人形にされたことがあったな、服屋になるための勉強とか言って。
「キラッ」
「止めて、黙れ」
カシャカシャと何枚も写真を撮っていく。
そういえば、常識封印してるから、筋肉出せるのか……。
ジャージ破ったら殺されそうだな。ちょっと加減しよう。
「ふんっ」
「やめろ! この筋肉変態がっ」