表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
68/108

月のうさぎ

「私、あんたの事嫌い」

 これで何度目だろうか。俺はそんなに怨まれるような思いをした覚えは無い。ダークスロベザードと別れてから、夢塗はストッパーが外れたように、私のほうが上だの嫌いだの言い続けて五月蝿い。嫌いなら話しかけなければいいのではないか。

「私、Aクラスになりたいんだよね。他の人は解るよ? 確かにみんな凄い強そうで、私でも勝てるかどうか怪しいほうだと思う。でもさ、あんただけは違う」

「なにがだ」

 何が違うのか気になった。

「あんた何? 属性魔法は黒って珍しいものらしいけど、それだけでしょ? 別に絶対的な優位性は無いわけじゃん」

 確かに、こいつの言っていることは正しい。そもそも、どっちかというと、日陰に属する。風や土の魔法は、風や土がどこにでもあるので何処でも使えるが、黒魔法は違う。しかも火のように簡単に用意できるといったものでもない。黒魔法は重力魔法などといわれるが、正確にはマイナスの力とかいわれる、つまり良く解っていない、それを使うものにとってもあやふやなものだ。火の魔法が火がないと使えない、まぁ、魔法でそれを出す事が出来るので、わざわざライターなどを持つ奴はいないが、黒魔法に必要なのはマイナス、怒り、嫉妬、恨み。そしてそれは魔法では作り出せない。作り出す魔法が無い。

 黒魔法の家はもう、祠堂家しか残っていない。まぁ、ほかに黒魔法があった家など聞いた事がないので元々無かったのかもしれない。

 さらに黒魔法は、怒り、嫉妬、恨みを消費するので、いつも使えるというものでもなく母は一度も弟も使えた事が無い。 

 こんな事を自分で言うのもあれだが、家の家系自体が黒魔法には向いていない。まず、怒りというものや、嫉妬、恨みという感情を持ち合わせていないのだ。どんなときに感じる感情なのかは知っている、怒りは危険にさらされたときに感じる感情だ。同時に七つの大罪の一つ。だが、それを日常生活で出せといわれて出せるわけが無い。

 もっと言えば、黒魔法の修行は、滝に打たれたりもっぱら精神修行だ。感情を司るものなのだから当然として、そんな鋼の心を持った人間を怒らせるとはどんなものなのだろうか。


「確かに、力は強いらしいけど、研究は進んでないし、使える魔法で言ったら最弱といっても良いよね?」

「力が強いというのも、俺は少し妖しいと思っている。それで何がいいたい」

「まぁ、あんたの能力で、いつでも使える普遍的な魔法にはなったんだろうけど、それでも、他の属性魔法と一緒か、それ以下の性能しかないわけでしょ、それで他には? もしかしてあの黒い木偶が召喚できるだけでAクラスなの? 私はBクラスなのに!」

 こいつが黒魔法を覚えたら、嫉妬でさぞ強力な業を使えるのだろう。こいつの言っている事で、一つだけ間違いがある、それはダークスロベザードの評価である。ダーくスロベキザードは強くは……無いかもしれないが、その、能力も……召喚時にどんな形でも呼べること意外は無い……いや、可愛いし、いつも俺のそばにいて、これまでの人生を支えてくれた。そう、評価とは俺が下すものだ。客観的な評価など意味を成さない、なぜならその評価に従うのはこの俺自身なのだから。それに、逆に魔術耐性とかが下手に無い分、強化魔法を付与しやすいし、それだったら魔力の多く掛かる召喚魔法を使う必要は無いかもしれないが――

「あー、五月蝿い!」

「何? 逆切れ? でさ、もしかしてそれ以外になんか力隠してるとか無いよね?」

「無いな」

 本当に無い、超正義失効は、子供の時に全力で正義失効使ったらどうなるんだろうなと試したところ、全てのプラスエネルギーに対してマイナスエネルギー、つまり力の放出に対して吸収を付与する。要は、正義失効の効果、黒の属性を極限まで高めたものだ。つまり俺と接触したものは、その地点で俺とぶつかった物体上の中で、力を放出と共に吸収。つまり留められる。これのいい所はキャパなど無いところだ。欠点は俺の体力がなくなる。だが、俺は説明が下手だし、これを説明したらきっと見せろとか言われる。それはごめんだ、本当に。

「絶対私のほうが上なのになー」

「夢塗の力は何なんだ?」

 其処まで言うならどんなものなのか聞いてみたい。夢塗など聞いた事がないから、魔法ではないのだろう。能力でさぞ自身があると見える。

「は? 私はね、あんたから十個バッチ奪ってやるつもりなんだから、教えるわけ無いじゃん」

「そうか」

 十回も戦ったらどの道ばれるだろ。

「ねぇ、私のこと可愛いと思う?」

 こいつ何言ってるんだ……。

「その顔はまだか……」

「精神干渉で、自分のことを可愛く見せようとしているのか?」

 黒魔法のことをよく知らないみたいだな。

「ばっ、ばっかじゃねーの?」

「あぁ、可愛く見えてきたー」

「っは、掛かったな。その程度の抵抗しか持ってないのかよ、ちょろすぎんだろ」

 ちょろいのはお前だろ。

「というか、チームメイトを洗脳するな」

「何故洗脳とばれた! というか、怒らねぇの?」

 怒れたら俺はさぞ苦労しない。

 ん、百メートル先に出現した巨大なこうもりをまた潰すと、歩いていた近くの壁に穴があいた。

「おい、これ」

 夢塗も気がついたんだろう。

「は、入れよ」

 びびりか。まぁ、ゲームだし、いきなりゲームオーバーということも無いはずだ。

「は、入るのか?」 

「先に入りたいのか?」

 ぶんぶんと首を横に振ったので、よっと、そのまま体全部を入り込ませる。どうやらワープゲートの類だったらしく、少し広めの……なるほど、ボスの間と言った所だろう。

 その証拠に、ボスの登場だ。これが雑魚だったら、人間はとっくに滅びている。

 獣の闘気が体を撫でる。

 そして、おずおずと俺に続いて夢塗が出てきた。

「な、なんか居たか? ん、可愛いウサギじゃん」

「いや、月のウサギだ」

 月のウサギとは、与えられた力に掛け算できるウサギだ。月のウサギの能力を一言で表そうとすると、どうしてもそう言うしかない。

 特徴はその額に輝く青い×。他はウサギとなんら違いは無いが、その危険度は比較にならない。宇宙人の侵略兵器だったやつだ。奴に対する攻撃は、マイナスに掛け算され、自らのこぶしは爆発し、奴の体当たりはもちろんプラスに掛けられ、大地が割れる。

 厄介なのは、与えられた力は摩擦力だろうと、重力だろうと自分に向けられていればその全てを操る事だ。つまり、全てのこっちの攻撃は無効、そしてあっちは無限の攻撃力を持ってるって事になる。なんでこんなのがここにいるんだ。確かに小粋さんと相性はいいが。此処に小粋さん居ないんだけど。

「月のウサギって……まじでか」

 夢塗も流石に月のウサギは知っていたらしい。さすがにそれも知らなかったら俺はこいつを見捨てた。

 まぁ、第一形態なら大丈夫だ。逃げる事が出来る。

「ワタシハアト、ヘンシンヲニカイ、ノコシテイル」

 ウサギが立ち上がった。

「終わった……」

 月のウサギ第二形態。別名殺戮モード。二本足で経ち、物を破壊しようとする意思を持つ。それだけで並の人間なら即死。もちろん俺も並の人間だ。

「私に任せな! レベル321、死神の子守唄――連結――霧きり」

 毒霧? に意思を持たせて、ウサギを襲わせる。なかなかいい案では在る。これなら他の魔法と違って、威力を何倍にもされてこっちに帰ってくるという事はない。

 しかし、それはマイナスで掛けるという能力を潰しただけだ。

「ハハハ、コノテイドカ、ハラワタヲクライツクス」

 毒霧がウサギを包んで、夢塗がガッツポーズをした時、ウサギが足踏みを一つすると、突風が吹いて霧は吹き飛ばされる。

「おい、Aクラス! お前は何かウサギに勝てる技ないのか?」

 技も何も、こんな強敵が出てくるなんて想定してないから魔力はほとんどダークスロベザードに別れ際にやってきてしまった。

「ない」

「な、何冷静になってるんだよ、私にも、相手がウサギじゃ……」

「諦めるな、とりあえずやってみろ」

「つ、使えねぇな! くっそこんなのじゃ作戦も何もあったもんじゃねぇ」   

 夢塗は頭をかきむしって、

「あー、もういい! 一分でいい、そいつの動きを止めろ! 私の取って置きをくらわす」

 と言った。何かの秘策があるんだろう、だが、心配する点は多くある。

「月のうさぎは、月が落ちてきても無傷だから月のうさぎって呼ばれてる。お前に地球が半壊する以上の威力を作り出せるのか? なにより俺に一分もこいつを止める力はない、もって二秒だ」

「少なっ」

 いや、常識で考えてくれ。無理なものは無理だ。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ