コロッケパン
俺の名前は祠堂如月、無事二回戦に出れたのはいい。だが、やはり俺は何か、こう、手を組む人間を間違ったかもしれない。実力、そう、力は申し分ないのだ。残念ながら、茂撫二はやられてしまったが、それでも最初五人で始めたのだから4人残る事はチームの水準の高さを示している。
Sクラスの小粋さん、Dの茂武、そしてBの夢塗。俺が知っているのは小粋さんだけだ、これは魔術総会などの集まりの中で、この学校に来るまで話したことは無いが正直尊敬も出来る。なんと言っても小粋家は魔法の最高結社として有名だし、小粋さん自身も勉強家だ。だが、他の奴は駄目だ。別に人格否定するわけでも、さっきも言ったとおり、実力がないと蔑んでいる訳でもない。やる気の問題だ!
「替わろうか」
「いえ、結構です」
「顔……」
小粋さんに言われて、自分の顔が引きつっている事に気付く。いかん、こんな事では。気を使われてしまったではないか、しっかりするんだ祠堂如月!
「グググ?」
洞窟の中にはそれほどまでに暗闇は存在しない。意外と照明の数が多く、これを作った奴の人柄が伺えるといってもいいだろう。それでも我が正義失効の前では闇が存在しない事などありえない。俺がAクラスに入るのは、やはり能力と我が家で伝えられる魔法の相性によるものだろう。俺はいつでも魔法を条件下に左右されずに使える。
心配そうに俺を見るのは召喚魔法によって呼び出した我が分身といっても過言ではないダークストロベルザード、こいつの名前を呼んだときに、あぁ、若気の至りですよね、契約を結ぶのは中学生のじきですもんね。と夢塗が爆笑していたが、自分では正直この名前は気に入っているし、それにこいつと契約したのは五歳のときで、その時にこの名前も付けた。
ダークストロベルザードは、召喚時の魔力条件によって姿が変わる。要は、多く魔力をつぎ込めばそれだけ大きくなり、形も意のままなのだ、そして今は巨大な四本足の動物の形にした。何故か? それは夢塗という奴が、足が痛くて動けないなどと抜かし、さらに茂武一はこの洞窟の通路で寝たからだ。
「如月ー?」
「なんだ」
夢塗がダークストロベルザードの上から話しかけてくる。
「これってさぁ、お前の全力?」
「意味が解らん」
もっと言えば馴れ馴れしい。
「いや、だからね? これを倒せたら、あんたより私は上だって証明できたりしない?」
もちろん、これが全力、全ての力を出し切ったかと言われればそうとは言いづらい。だが、確かに倒されれば俺と対等に渡り合える程度の力を持っていることにはなる。
「まぁ、倒せれば、そうだといってもいい」
ダークストロベルザードが負けるわけが無いとは思うが。
「へぇ、ちょっと試してもいいかな」
顔は見えないというのに、何か敵意のようなものを感じさせるような声色だった。
「止めといた方がいい。ストロベリーは貴方が、如月君の友達だと思っているから、あえてその干渉を受けているだけ。貴方はそれで御しやすいなどと勘違いしたのかもしれないけど、流石にそれ以上は抵抗されるし、多分怒らせる」
小粋さんが鋭く、そう言った。
まさかこいつ、俺のダークストロベルザードに何かしようとしていたのか? 小粋さんがストロベリーと名前を間違えていたのも気になるが、そんな事よりダークストロベルザードのことが心配だ。
「なぁ」
ダークストロベザードに声を掛ける。
「グガァ」
大丈夫だと言っている様だ。俺も最初の頃は、こいつがなにを言っているかなど見当も付かなかったが、三年ほど一緒に、ずっと生活していたところ、俺もダークストロベザ―ドも、お互いに、言葉無くともお互いの言わんとすることが理解できる程度にはなっていた。他に、こういう例は聞かないので、決して契約者との関係が及ぼすといったものではなく、正真正銘俺達の絆が生むものだろう。
だが、それとこれとは話が別だ。
「降りろ、夢塗。お前の能力なんて知らんが、俺のダークスロベザ―ドに危害を加えようとした罪は重い」
「グアア」
顔を、といっても影なので、形しかないが、多分心配するなと笑いかけているのだろう。
「お前がよくても俺の虫の居所が悪い」
「ガァァ」
む、其処まで言うのならしょうがない。
「夢塗、次、そういった事をしたら、潰すからな」
「ほいほーいっと、でも凄いよねぇ、どうやってこの黒いのと会話してるわけ? いや、乗り心地はいいんだけど化け物じゃん?」
ぶち殺す。
「黒道、夜の道歩けぬ弱さを嘆け」
「落ち着いて」
小粋さんに魔法を分解される。彼女の魔法は、主に解析だ。魔法といっていいのか解らないが、とにかく全ての事象を分析し、再現したり、消せる。基本的には魔術だといっているが、俺には早々及びも付かない考え方だ。なのでよく知らないが、魔法を解除されてしまった。
ただ、いくら小粋さんでも、やめろといわれて、そうですかとは首を縦にはふれない。
「正義失効」
「グガガガ」
お前まで止めろというのか。
「グルルルル」
俺は伸ばした影を元に戻す。こいつが其処まで言うのなら、もういいだろう。腹の虫は収まらないが、こいつの言うとおり、今はチームの輪をみだすべきではない。
「「敵が現れた」」
「夕闇」
パンと軽い音がして、出てきたこうもりは消えた。さっきから何度も出てくるが、まるで手ごたえが無い。人に当てるわけではないので、黒の属性を乗せてはいるが、もう少し頑張って欲しいものだ。黒の属性とはぶっちゃければ力の無効なので、基本的に防御力無視攻撃だ。しかし、徹底している防御力向こうなので、重力に耐え切れなくなったりもする。これを人にやって、流石に相手の体が豆腐のように崩れていくの見たくは無いし、かすっただけで効果は十分あるので、なんだか卑怯な気がするのでいつもはやってはいない。
「如月君、さっきから魔法使いまくってるけど大丈夫?」
「えぇ、小粋さんの手を煩わせる程のものでもないですし」
小粋さんが気遣ってくれる。
「へー、じゃあさ。ちょっと私に魔力分けてよ」
夢塗がまた話しかけてきた。一瞬気が狂うほどくれてやろうかとも思ったが、チームの輪を乱すことはなによりダークスロベザ―ドが望んでいない。
「ん? あれ、マジでくれんの? やっさしー。もしかして私の事好きとか?」
「ガウッ」
夢塗に魔力を分けてやると、そんな事をほざく。すると、何を思ったのか、ダークスロベザ―ドが器用に夢塗だけを振り落とした。
「いったーい。何すんだよっ」
「夢塗さん、今のは貴方が悪い。歩いて、足はどうとでもないはず」
小粋さんにそう言われ、しぶしぶながら夢塗も歩き出す。
其処から少しだけ経って、分かれ道が現れた。これは比喩ではなく、本当に突然現れたのだ。
これはいい。
「よし二手に分かれましょう」
「うわあ、何? そんなに私のこと嫌いなの?」
嫌いだ。これで二手に分かれることになれば、寝ている茂武一は俺のダークスロベザ―ドが背中に乗せている。なので必然的に、お前と小粋さん。俺と茂武という組み分けになるはず。
「解った、戦力はランクを参考にして、私と一君は右に行く」
小粋さんがそう言う。そんな馬鹿な。
「いや、」
「そーしよー」
夢塗が俺の声を遮るように、手を上げて賛成した。これでは、多数決でも、家のしがらみ的にも小粋さんには逆らいがたい。
「じゃ、ストロベリーは借りていくから」
「えっ」
それは駄目だ。と大声を出そうとするのを抑え、なんとか頭をめぐらせる。しかし、考えれば考えるほど、小粋さんとの衝突は避けておきたい。自分一人なら、ダークスロベザ―ドと離れるくらいなら、誰であろうと戦う覚悟はある。しかし、家のことを考えると……いや、それでも
「グギグルウ」
「ダークスロベザード!」
俺とダーグスロベザードは抱き合った。なんていい奴なんだ、俺の事をそこまで考えてくれるなんて……。
「グルルゥ」
「すまない。本当に、俺が不甲斐ないばっかりにいつも苦労を」
「あのー、きもいんですけど。っていうかその、使い魔、自分で姿を変えられるんでしょ? せめてそう言うのは人型にしてからやってくんない? いや、それはそれできもいな。犬とかに愛してるとか言うのと一緒でしょ?」
流石にこれは許せない。いや、これは理解が足りないだけなのだ。いくらこいつでも、ダークスロベザードを畜生と同列に並べるなどできはしない。そう、だから何も怒る事はない。
「夢塗、構えろ。打ち殺す」
「グガァッ」
ダークスロベザードが俺に影を飛ばし、体の自由を奪う。それほど強いわけではないが、俺にはこの拘束を振りほどき、ダークスロベザ―ドを傷つける事は出来ない。
「もう行こう。それから、夢塗ちゃんに乱暴しないでね、如月君」
小粋さんが、鋭く、少なくとも俺にはそう聞こえた声で号令をかける。さらに釘を刺されてしまった。