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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
65/108

茂蕪涼


 創造漢字とは、俺が誰かを呪うときに、また、その勉強をするときに出てくる変な文字だ。創造漢字という名前は俺が勝手に呼んでいるだけだが、まさに漢字を知らない小学生が書きなぐったような文字で、日本語訳のようなものは無く、これは呪いの効果や、同じ言葉が出てきた呪いからその意味を類推する事しか出来ない。それに、この文字は意味で成り立っていない。音でもなく、なんかもっと低次元なのか高次元なのか、意識とかそんな感じだ。感情のかけらをそのまま文字にした感じで、例えば哀しいの欠片と嬉しいの欠片で、勝利だ。

 この組み合わせで、正直に言って正しいという確証は無い。嬉しいの欠片だけでも数え切れないからだ。

「蟹吉の本名ってさ、蟹谷、キャンサー、吉蟹だっけ」

「そうだけど……私の名前覚えてた?」

 先頭を歩いていた蟹吉が、俺に並ぶ。別に蟹吉の名前なんて、覚えては無いがこの本に書いてあるのだ。

 貰ったもの、贈り物。次の分が良く解らないが、これは何について書いてあるんだ?

「蟹吉って何座?」

「なんだよ、蟹座に決まってるだろ」

「決まっては無いだろ」

 確かにそんな気もしたが。

「お前さ、馬の足に、巨人の体、珍しい羽に心当たりある?」

「ないな。それがどうした。星占いか?」

 本当に心当たりは無さそうだ。やっぱりこれは蟹吉じゃないようだ。

「なんでもない」

 ペラペラとページを捲っても他に目に留まるページは無い。宿女琴葉は天気だか天候だか話が書いてあったが、何故俺の目にそのページが留まったのかも解らなかった。

「「お化けこうもりが現れた」」

「きゃっ」

「何だ?」

「「戦う、逃げる」」

 四角いウィンドウ。また文字が目の前に現れる。しかし、今度は文字だけでなく、でっかくてグロイこうもりも現れた。

「逃げよう」

「「逃げる事に成功」」

 こうもりは消え去った。一体何が起こったのかが、まったく理解できない。一瞬、違うチームの妨害かと思ったが、あっさりし過ぎだ。

「なんだったんですか、今の?」

「俺に聞くなよ」

 前に居て、こうもりを一番近くで見ただろう雑魚子は、俺のことを押して、一番後ろを歩き出した。蟹吉も一番目に戻って、蟹吉、わら人形、俺、雑魚子の順だ。

「「洞窟狼のバックアタック! 後ろから突然襲われた!」」

「痛いっ」

「「戦う、逃げる」」

「逃げる逃げる」

「「逃げる事に成功」」

 逃げるというと、また狼は跡形も無く消えた。 

「ひっきー、私と場所変わってください」

「久々にそれで呼ばれた気がするな、いやだ」

 順番を変わってやって、進んでいく。さっきから分かれ道も何も無いくせに、すごく長いこの道はいったいなんなんだ。

「私気付いたんだけどさ、これゲームじゃないのか?」

 蟹吉が俺の横に来てこっそりと、耳打ちする。

「げーむ?」

「そうだ、名探偵である私には解る。名探偵である私にはな。ちょっとステータス参照ってぼそっと呟いてみろ」

 言われてボソッと呟いてみる。

 パーティ

 蟹吉

 黒独尊(藁)

 ひっきー

 雑魚子

 目の前に青い窓が出てきて、そう表示された。

 なんとなく見てはいけないものを見た気分だ。

「何だこれ、というか蟹吉はなんで、俺にしか聞こえないように話しているんだ」 

「ちょっと可愛そうだろう、雑魚子と表示されてるし」

 蟹吉が指差すので、雑魚子はきょとんとしている。

「そうか、ところでさっきから前を歩くお前の髪の毛が、みょんみょん動くんだ。毟り取っていいか?」

「解ったよ、持ってるよ。髪の毛持ってればいいんだろ!」

 蟹吉は髪の毛を持って、鼻息を荒くしながら、前を歩く。

「三つ編みにしてやろうか、編むのは得意だ」

「其処に突っ込むと多分蟹吉偏に突入してしまうぞ。私はノーマルだ、それは今も昔も変わらない、何処にでも転がっている話だが、子供がノーマルというだけで両親は」

 こいつ自分で無理やり感想に入ろうといてんな。本当は蟹吉偏を心から望んでいるに違いない。よし、邪魔しよう。

「蟹吉、スカート短くないか? 見えるぞ」

「別にいまどきの女子は、見える事覚悟で短くしてますぅ」

 それは迷惑な話だな。セックスアピールをしたいというなら全裸になっていればいいのに。いや、それだと寒いか。

「スカート短すぎてへそが見えてる」

「それどうなってるのかすごく気になる!」

「「敵が現れ」」

「逃げる」

「戦え!」

 また出てきた文字に、くい気味にそう答えると、今度は洞窟の床、少し離れた所からかぼちゃを被った奴が現れた。声から男だろう、ランタンを持って蟹吉とは違うが、一風変わった制服を着ている。黒地のズボンにワイシャツ、そしてバッサバッサとした銀色のマント。

「お前らなんだ! 俺に恨みでもあるのか? 戦ってくれよ、終わらないよ? お前たちが一定のモンスターを倒してくれないと次のステージに行けないよ? ちゃんとそれなりのアイテム落ちてただろ、いや、お前たち以外の奴らは一切拾おうともしてないんだけども!」

「あの、誰ですか?」

 雑魚子が、おそるおそるといったふうに尋ねる。

「くっくっく、はっはっは、っはーっはっはー。我が名を知らぬと? この顔が薄いのかなと思ってかぼちゃに穴開けてハロウィンでもなんでもないのに、年中これを被っている俺に対して、俺のことを知らないと言うのか、いや、そんなことは言えない筈だ! ヒント、もから始まる名前の?」

 蟹吉は肩をすくめて、俺ももちろん知らない。雑魚子がこういうことには一番詳しそうだが、

「ごめんなさい」

「この学校の希少種とも言われる四年生の?」

「えっすごい。四年生なんですか?」

 雑魚子は尊敬のまなざしで、かぼちゃ頭を見たが、かぼちゃ頭の方は、その言葉で自分が本当に知られていないことを悟ったのだろう。ガクッと肩を落とした。しかし、すぐにマントをばさっとさせ、

「我が名はジャック・ザ・ランタン! またの名を茂蕪、涼。Sクラス四年生、ちなみに今回このステージは俺監修、俺企画、俺制作、アシスタントゼロの泣きたくなるような環境の中制作されている。称号は何故か貰えないから無い! ジャック・ザ・ランタンというのも実は自分で勝手に名乗っているだけだ!」

 と自己紹介を始めた。なかなかの鋼のハートだ。

「何でしょう、何かすごい親近感が!」

 雑魚子は何かを感じ取って、喜んでいる。

 何しに出てきたのかは知らないが、とりあえずなんかかわいそうな奴だというのは解った。     

「確かに、Sクラスだというのに、覇気の欠片も感じ取れない……」

 蟹吉がそう呟いて、やっと雑魚子が何故親近感を感じているのかが解った。そう言われてみれば、あんまり強そうではない。

「くっくっく、果たしてそうかな? 伝説の四年生クラスである俺に、そしてこのゲームのゴールである魔王の俺に、そんな事を言っても。というかなんで三人なの?」

「こいつ倒せばいいのか」

「そうみたいだな!」

 蟹吉は木槌を振り回す。

「俺そんなに強く見えない? なんでそんなにやる気出してんだよ。いっそ泣くぞ! いいのか、お前らの先輩が号泣してもいいのかー」 

 床をどんどん叩く。こいつは何がしたいんだ。

 とにかくこいつを倒せばゲームクリアだ。それに隙だらけに見える。

「おらぁ!」

 走り出して、かぼちゃ頭を蹴り飛ばす。

「いたっ」

「えい」

 蟹吉が転がっていったかぼちゃ頭に木槌を振りかぶる。

「待てそれ、ミョルニルだから!!!」

 寸でのところで避けられる。すると、床に当った木槌が激しい音を立て、床を粉砕した。

「何これ、すごいってあっつい!」

 その木槌が赤く光り、蟹吉はそれを離してしまった。

「それ俺が必死こいて手に入れてきた、ミョルニル三十乗分の一ミニチュアだかんな。大切に使えよ! 一撃必殺を冠する――」

「あのあの、じゃあこっちの杖は何の杖なんですか?」

「お前ら人の話聞かないな! それは、魔法の杖だよ。杖に魔法描かれてるだろ? それを読み上げるだけであら不思議、魔術製偶数の法則を顕現できるっつう優れもの! 魔術製偶数ってわかんねぇか? えっとだな、簡単に言うと魔法陣の組み立て、省略および、魔術詠唱の暗号化を勝手にやってくれるから、願い事を言えば叶っちゃうって奴だな。まぁ、魔力限界が在るから――」

「ライトボルトライン!」

 雑魚子の杖の先から四角い枠のようなもの、その中に文字式が書き加えられた。

「お前ら、モラルとか」

 パシンと乾いた音がして、かぼちゃ頭が思いっきり吹き飛ぶ。

「すごい」

 ゆらりと吹き飛ばされたかぼちゃ頭が立ちあがって、こっちに近づいてくる。かぼちゃの焼けたいい匂いがしてくる。

「教えてやろう。俺の能力はコスプレイト! 土くれどもにゴーストのコスプレを!」

 地面から、ゆったりと半透明の照る照る坊主の首のところを解いたような、化け物が出てくる。

「じゃあ、俺は奥で待ってるから、ちゃんと倒せよ! あと魔法の杖は魔力結構使うから、計画的に使えよ! 後、戦闘はすべてリードにしたがって行なってな!」

 少しすすの付いた銀のマントをばさばささせながら、かぼちゃ頭は去っていった。


 何だあいつ。

「うらめしやー」

 ウインドウがまた出てくる。今度は戦うかどうかではなく、まず矢印が俺のほうに向く。そして通常攻撃、技、魔法の文字が記される。魔法の文字は薄くなっていて、どうやら選べないらしい。この手のゲームならやったことがある、もちろんゲーム機でだが。

「技」

 何となく、これも音声認識だろうとあたりをつける。

「文ツガイ。磔悼。気紛い。魔除」

 どうなるものかと、見ていると、これは大雑把に分類してきたな。というかもしかしてこれ言うと、使えたりするのか? 簡単に言って、文ツガイは縁、磔悼は体、気紛いは精神、魔除はそのまま魔除けだ。こういうと凄そうに聞こえるので不思議だが、足をつったような気持ちにさせたり、なんか耳鳴りのするような気がしたりとかまぁ、そんなものだ。

 しかし、これはあれか? 宣言してからそれを行なうみたいなものか? だったら、そのあとの副作用というか、一気にこっちに返ってくるので使いたくない。

「魔除」

 とりあえず、おまじない程度の奴でお茶を濁しておこう。

「何してるんだ?」

 必要なのは丹精込めて描いた札。そして水だ。凡人には、人型に切り取った札に四角を描いたようにしか見えないだろうが、これはひたすら怨む怨むと創造漢字で書いてある。その数百と二十八。これを水で溶かすと、悪い霊が付いたりしない。まぁ、幽霊に付かれた事も見たことも、いや、目の前に入るが、見たことも無い。

「うがぁぁぁ」

 ゴーストが、苦しみ、沈んで行く。意外と効果があって、自分が一番驚いた。 

  










   

 

 

 


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