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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
64/108

4人パーティ


 自分でも多少変態臭いとは思う。ただ、ねずみの尻尾ってこういう感触なのか。もう少し触って居たかった。あれからもう十分は経った。それでも誰も上がってこないということは、翠もドッペルゲンガーも死んだに違いない。思ったほどの高揚感はないが、自身の目的を今、達成しているといえるだろう。

 後もう少しで、制限時間一杯になるが、それまで死なないでいられるか。問題は其処だ。どうせなら、このままクリアしたいが、これはあれだ。肋骨が一、二本位いかれている感じだ。実際そんな事になったら即死間違いなしだが、感覚としてはそんな感じで、一旦座ってしまうと動くのが怖い。骨の位置が変わりそうだし。

 それにしても暇だ。敵が来たら不味い事は当然だが、暇だ。

「「――ランドに一ポイント」」

 放送が入り目を覚ます。危ない、もう少しで寝るところだった。


「「――時間になりました。それでは、集計結果を発表します。二回戦に進めるのは……でっでろでろでん、で、ん、でん!」」

 緊張の発表の間、俺の目の前に一つの文字列が現れた。

「「続けますか? Yes Or No」」

 続けるかどうか? そりゃあ、勝ったんだから続けるだろう。

 Yesを連打する。

「「音声認識です」」

 連打に反応して、文字が変わったんだから、音声認識でなくとも……と思うが、こういうのは案外かたちが大切だったりするのかもしれない。

「イエス」

「「発音が悪い。もう一度」」

「Yes」

 何だこの茶番は。

「「OK、張り切っていこうぜ」」

「お前誰だ」

 音も無く、その文字は消えていった。一瞬で風景が変わり、地面もごつごつとした岩肌で、目の前には洞窟がある。

「夢か」

「転移魔法ですよ。寝ようとしないでください。なんで寝ようとしてるのかも解んないですけど……」

 横になって目をつぶると、背中に軽い衝撃が来て、雑魚子が話しかけてきた。

「みんなは?」

 そういえば、続けるかどうかと聞かれた。二回戦って奴か。だが周りには雑魚子しかいない。

「さぁ? 私一人だけあの選択にYesって答えたのかとすごく不安になってたとこなんです」

 肩をすくめる雑魚子。

「おし、とりあえず行くか」

「あわ、待って下さい、待ってましょうよ、他の人も来ると思うんです」

 洞窟の中に入ろうとする、すると、入り口のところに看板が生えてきた。

「「4人パーティを組んで下さい」」

「ほら、やっぱり待つべきなんです」

 雑魚子に引っ張られて、元の場所まで戻される。そこで始めて、地面に何かが書いてある事に気付く。

「何だこれ」

「あ、これですか? いや、時間がありそうなんで加護付けておこうと思いましてですね」

 雑魚子は頭を掻いて恥ずかしそうにする。いくつもの円を線でつないであって、円の周りに文字がたくさん並んでいる。なにを照れてるのかは知らないが、魔方陣だろう。

「ふっふっふ、すごいでしょう。レベル20相当ですよ」

 ん? 翠がレベル300とかすぐやってたな。確かレベルってのは数字が大きいほうがすごい気がしたのだが、こいつの誇らしげな顔からすると、俺の勘違いかもしれない。暇なので雑魚子が地面に図形を書いていくのを観察する。

「この文字は何だ?」

「何って、魔法文字です。ルーンみたいなものです。昔の人が使ってた文字らしいですね」

 なんか見たことがあるのがあるというか、どう見たって創造漢字、呪いの言葉もこれで書かれている。呪いはこれを唱えながら道具を作る。しかし、自信満々にそう説明されると、自分が間違っているかもしれないと思うから不思議である。それにしてもこれは――

「自分勝手だな」

「へ?」

「いや、なんかこれ雨の精霊さんは、雨降らしてないから暇だろ? ちょっと手伝えよって意味だろ?」

「え? 何言ってるんですか」

 間違えたかもしれない。確かに俺がわら人形を作るときはこういう感じではない。確かに初めから相手の事がわかっている時は、多少複雑に言葉を詰めるが、基本は怨むとか嫉むとかの意味の言葉をひたすら呟きながら、藁を紡ぐだけだ。

「でも、確かに雨の精霊の加護です。もしかして魔法使いの家ですかってそんな訳無いですよね、黒独家なんて聞いたことないですし……」

 聞いたこと無いのか。世界一大きな呪術大家だというのに。

 それにしても、フリーハンドなのに、綺麗な円を書くな。呪術の才能があるといってもいいだろう。呪術は手先の器用さが最も求められるからだ。俺が感心していると、魔方陣は完成したらしく、今度は何かを唱え始めた。

「歩みのkw止まった星空の――」

 聞かれたくないのか、小声で、しかも一々俺に距離を取りながら唱えている。それなりに準備に時間がかかっていそうだし、俺も呪いの下準備を邪魔されるのは嫌なので、呪文がどんなものなのか聞くのは諦めた。

「――精霊の加護」

「終わった?」

「あ、はいっ」

 この魔法って奴、何よりもまず、地面に色々と書いていた奴が一瞬で消えた事がすごい。加護とかいわれても、目に見える変化は無いが、きっと何かが変わっているんだろう。まぁそんな事は正直どうでもよかった。問題は、まだ誰も来ないところだ。雑魚子が近づいてきたところで、

「もう行こうぜ、誰もこないし」

 と言った。 

「でも、看板みたいなのに四人で行けって書いてありますよ」

「きっと、その看板を無視する事が最初の試練みたいな感じな奴だよ」

「あぁ、なるほど!」

 納得されてしまったが、今言ったことは適当だ。ただ、暇で暇でしょうがなかった。

「痛っ」

 さり気なく雑魚子を先に行かせて見ると、何も無いところで、頭をぶつけて、戻ってきた。

「痛いです。出鱈目だったんですね、」

「蟹吉参上!」

 大きな声をだしながら、その後の雑魚子の言葉をかき消すように蟹吉が現れた。

「あっ蟹吉さん。これであと一人ですね」

 蟹吉が来て、残り一人だが、正直これ以上待つのは嫌だ。

「最後の一人出来たぞ」

「出来たってなんですか?」

 俺はわら人形に自分の毛と、それに筆ペンで目を書く。自分で言うのははばかられるので、口には出さないが、完璧な出来だ。緋色にいわれた事を思い出し、気まぐれにくまの人形を藁で作ったときにも薄々感じてはいたが、俺のセンスは素晴らしい。

「あの、ごめんなさい。なんて言って良いかちょっと解んないですね……」

「なんでだよ、何だよその微妙な反応。一切ささくれの無い、この完成度!」

 雑魚子の癖に、気まずそうに目を逸らす。

「後で欲しいとか言っても絶対やんないからな!」   

「あ、蟹吉ちょっと欲しい。鞄とかに付けたい」

「よし、蟹吉お前は解ってる。進呈しよう」

 気分が良いので、蟹吉にわら人形をくれてやった。俺の毛がついてるから銀の釘で打たれると、それなりに俺が痛い事になるが、そんな事は基本的にありえないので良いだろう。

「よし、行こうぜ。これで4人揃った」

「揃ってないですよね」

 看板がずずずっと、地面に埋まって行く。

「嘘ですよね、嘘といってください」

「行こうぜ」


 今度は透明な壁に阻まれる事なく、洞窟の中に入っていけた。

「おぉー、蟹吉、ここまで洞窟してる洞窟初めて見た」

 洞窟の中は、両側に松明が在り、足場は決して悪くは無く、何より――

「おっ蟹吉また見つけた!」

 宝箱がそこらに落ちている。

 先ほどまでに宝箱は三つ。でっかい木槌と、本、説明書だ。説明書とはこのゲームの説明書で、これを見つけていなければ、ゲームが成立しない事になるところだった。説明書にはこう在る、洞窟を進んでラスボスを倒せと。勝ったらそいつが優勝ということだ。

 チームは半分に分かれ、半分はラスボスを倒す。そしてまた半分は敵として活動するらしい。もちろんチーム内では戦闘は行なわず、他のラスボスを倒すチームを邪魔するのが仕事だ。

「もう突っ込みませんよ」

 木槌は蟹吉がどうしてもと持っている。本は何のものだか解らないが、雑魚子がこれもどうしてもというので持っていて、俺は説明書を読む係りだ。何か釈然としないが、別に欲しいというわけでもないので、どうしようもない。

「今度はなんか杖が出てきたぞ」

「あっ本物ですこれ!」

 何が本物なのか解らないが、うっとりと雑魚子が握り締めているので、なんかこう、価値あるものなのだろう。  

「雑魚子、どっちか貸せよ。って言うか本貸せよ、暇」

「良いですけど、これ、読めないと思いますよ。魔道書、魔導書かと思ってたんですけど、どうやら違うみたいで、魔力あてても反応しませんし。書いてあるのも魔法文字なんで、解読するには結構レベル高い魔法で、一文字ずつ意味とっていくしか方法がないものですし」

 最初の執着はどこに行ったのか、すぐに渡されて、拍子抜けだ。それで貰った本の表紙には創造漢字で、意訳すると自己紹介と書いてあった。何だそれ。

  

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