表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
62/108

ぎっちゃんのマジ


「見よ! これが三千世界! 俺様の全力、しかと見やがれ!」

「すごいよ、ぎっちゃん!」

 何だこいつは? こいつが総合クラスであることは間違いない。なぜなら自分で言っていたからだ。あちら側は2人、女と男一人ずつ。

 それに対しこちらは3人、俺こと祠堂如月と、茂撫一と茂撫二。AクラスとDクラス、Cクラスで決してあちら側に勝機は無い。なのに何故か全力でこちらに向かって走ってくる。確かに奴の空間を新たに作る能力は素晴らしい。かくれんぼに、これほど適した能力は無いだろう。だが、それも茂撫一がこの場所を見つけるまでの話だ。

 先ほどの放送で、我々は2人を倒している。なのでこちらの一人を倒せば予選クリアだ。しかし、次の対戦や、これから起こるであろう総合クラスを見つけられなかった者の絨毯攻撃にやられる訳にはいかないので、ならべくちからを温存しておきたい。

 敵が目の前まで迫る。

「夕闇」

 呪文詠唱など必要ない単純な魔法。影を作り飛ばす属性魔法だ。魔法的防御の無い奴ならこれでアウトだろう。まぁ、流石にこれで終わりと言うこともないだろうが、様子見の意味も込めてこれくらいが妥当だろうと判断した。

「うがっ」

 

 驚くべき事に、私の手のひらから作った夕闇は彼の顔に直撃した。

 きりもみ回転しながら、後ろに吹き飛ばされる。

「やるな! 俺様の名は填最だ! 名を聞こう!」

「……如月だ」

「次は油断しない!」

 今度は飛んだ。なかなかの跳躍力だ、手にはいつの間にか木刀が握り締められている。奴の自信はなんだ? 俺の方が力は上で、さっきもそれを実感しただろう。なるほど、この空間はあっちの女の能力で、その木刀で何かしらの能力を発動させるのか。

「黒道、夜の道歩けぬ弱さを嘆け」

 それならと、手を握りその中で出来た闇を媒体に魔法を詠唱する。俺はあのレベルとか言う区別の仕方が気に食わない、それなら面倒でも自分で一つ一つ判別する言葉を作った方がいい。

 黒道は、伸縮自在の絶対不可侵領域だ。誰もこの闇を通過する事はできない。

 それを刀のように伸ばし、填最の剣を止める。

 いくつか打ち合うが、何も起こらない。

「はっ、なかなかやるな! だが俺様はこんなもんじゃねぇ! 今の俺はフルパワーを使えるんだ。この前はちょっと厄介ごとかかえていたから本気出せなかっただけだ!」

 

 彼とは初対面のはずである。


「茂撫一、茂撫二、女の方を狙え」

 短く仲間に支持を伝え、填最の木刀を半身で避ける。

「闇喰、飲み込まれる獲物に道は無し」

 影を地面いっぱいに作り出し、それを牙に見立て敵を噛み砕く。逃れるすべはないだろう。

「あめぇ!」


 彼は飲み込まれていった。これで女の方を倒す必要はなくなったのだが、他のチームのポイントを減らすと言う点で潰しておいた方がいいだろう。そう思っても茂撫一、茂撫二の方を見ると茂撫一の方は座ってくつろいでいて、こっちに気付くと手を振っている。

「サボるな」

 まぁ、藻撫二がいったのなら心配はないし、問題もないのだが……。しかし、茂撫二の方を見て自分の失態に気付く。

 女の方に茂撫二は迫っている、もうすぐ彼の攻撃魔法がきまり、女を倒すというところだ。そこはいい、何の疑いも無い。填最が茂撫二の上で木刀を振りかざしていなければ。

「まずは一人!」

 やられた。どうやったかは知らないが、いきなり上空に現れた填最に茂撫二の頭をかち割られてしまった。

 

 油断していたと言う事もあろうが、茂撫二がやられた以上、茂武一を戦わせるわけにはいかない。

「茂撫一、下がれ。能力を使う」

「ん、解った。じゃあ、小粋さんのとこに戻ってるから」 

 彼のすり抜けると言う能力はこういうときに役に立つ。Dクラスなど戦力にならず、むしろ邪魔になると思っていたが、この空間を見つけた事は評価しなければならないだろう。さて、少し本気を出すか。

「<正義失効|アンチジャスティス>!」

 

 俺の能力は、陰と陽があれば陽を無力化できる能力。使い道はほとんど無いが、俺の魔法と果てしなく相性がいい。無力にするのは光、その存在は消えてなくならないので、暗くなったりはしないが、それでも意味はある。光があるから影があるのではない、光が果てしなく弱くなれば影が強くなるのは当然。光は影を打ち消す力を失い、すべての空間は影を持つ。

 俺の魔法、影を触媒として発動する魔法が、どこででも発動できる。

「夕闇」

 敵の周りで夕闇が発動する。その数20、避けられる数ではない。

「雑魚がっ! 俺様空間!」

 床、といっても彼の作った白い箱の中のような空間にはそれしかないが、それがせり出してきて二人を包む。夕闇は床にあたってその形を崩した。何だこいつの能力は、総合クラスにしては自由すぎる。

「はっ、凡人には及びもつかないだろうな、喰らえっ」


 後ろっ!


 後ろに突然現れた填最の木刀を避ける。今のは危なかった。

「俺さまを知りな。三千世界、俺は空間を重ねるように三千作った。もちろん俺様は創造主だからどの空間にも行き来できる。たとえばっ」 

 木刀が振られる、俺は黒道を用いてそれを防ぐ。

「消えた?」

 木刀と黒道がぶつかる瞬間、填最が消える。その直後に俺の背中に鈍痛が走る。

「今のは他の空間でお前を追い越し、この空間に戻ってきたのさ。他にも!」


 俺は填最から距離をとる。こいつが総合クラス程度の能力じゃない事はわかった。しかし、まだ俺が負けるほどではない。俺を攻撃するときにカウンターする事は可能だ。

「漆黒、削り取れ、闇に落とせ、食い破れ――ブラックホール!」

 今度は上級魔法だ。出し惜しみはもうしない。

「はっ、やっと本気出しやがったな!」

 地面が飛び出し、その上にいた填最と飛び上がらせる。もう説明など受けなくとも解る、こいつはこの空間すべてを自由に動かす事ができるのだろう。空間を作ったのなら出来ない方がおかしい。

 しかし、俺の狙いはこいつの空間そのもの。

 ブラックホールで叩き壊す!

  

 ガラスの割れるような、音がして空間が壊れたのを感じ取る。

「止めだ、暗黒舞踏」

 巨大な人型の影。触れば闇に飲まれる漆黒の兵士。莫大な影が必要だが、俺の能力がある限り影には困らない。

「俺様も本気を出さなきゃいけねぇようだな! いくぜ! 必殺! 三千世界!」

 暗黒舞踏が消える。どうやら他のものも自分が作り出した空間に移動できるらしい。しかし、そんな事は予測できた。暗黒舞踏はあんな空間すぐに壊していくだろう。3000の世界だろうとも戻ってくるのはそう遅くないはずだ。

「夕闇。今度は200だ。これであいつは八方塞。自分が作った空間には暗黒舞踏、こっちには俺の夕闇がある。チェックメイトだな」

「勘違いしてるぜ。ここは俺が元の世界に似せて作った空間だぁ!」

 暗黒舞踏が、空を割る。この空間を壊しに入ったらしい。しかし、填最は床を弾ませて飛んでくる。夕闇を放つが、壁が地面からはえてきて捉えることができない。

「俺様は目がいいんでなぁ! 止まって見えるぜ!」

「チッ、これならどうだ! ダークカーテン」

 大きな帯状の夕闇を填最に放つ。しかし、填最は壁を飛び出させ、上に逃げる。しかし今のであいつの空間はもう残っていない事がわかった。暗黒舞踏はこの空間以外すべての空間を壊したんだろう。

「止めだ、ブラックホール」

 空中にいるあいつに避けるすべはない。この空間ごと粉々にしてやる!


 ブラックホールはすべてを飲み込み、今度こそ俺は元の空間に戻ってきた。

「俺様の空間をすべて壊した事は褒めてやるが、足りなかったな!」

 しまったと思ったときにはもう遅かった。奴の木刀が俺を捕らえている。奴は寸前で元の空間に戻ってきていたのだ。元の空間の事を数に入れていなかった。木刀が俺の額を捕らえる。



「超正義失効!!!」

 


 捕らえたが、それだけだった。すべての正義は力を失う。本気の本気、秘密兵器だ。こんな雑魚に使う事になるとは思わなかった。

 魔法の補助としてじゃない、正義失効。 

 例えて言うなら第三者の正当性。銀行強盗が入るとする、それを防いだ奴は正義、強盗を騙くらかそうが良心に付け込もうが惨殺しようが正義だ。周りにいた一般市民も正義だ。悪ではない。罪悪感も何も感じない、ただ見ていただけなのだから。それが何かを見捨てる行為でもだ。

 つまり、正義と悪、見方によっては悪は限りなく少ない。そして正義はとても多い。


 こいつの木刀での攻撃は悪か正義か。

 こいつに先に攻撃したのは俺。つまり正当防衛。正当は正義、よって失効。

 木刀が俺に当たる。

 しかし、正義はもう力を失った、俺に傷を与える事は出来ない。

「能力を使っても魔法を使っても同じように、体力は減るんだ。だから、体力を膨大に使うこの能力は使いたくなかったんだが」

「はっ! 俺様がナンバーワンだ!」

「夕闇連弾」

 力を失った敵に容赦なく攻撃を放つ。ここで情けなど掛ける様なら自らも力を失ってしまう。それが魔力を著しく削る行為でも悪に徹さなければならない。 


「「天野填最、アウト。 コロッケパン、一ポイント」」 

    

 放送が流れ、初めてそこで攻撃を止める。能力を断ち切り、座り込む。

「総合クラスにしてはなかなか強かった……な。茂撫一、出でこい」

「んーー、立てる?」

 無職が見つからなかったのか、見つける気がなかったのか、木の陰からゆっくりと歩いてくる茂撫一。

「立てないことも無い……しかし、立ちたくないな」

「女の子の方、追う? 完全逃げられたけど」

「お前はいったい何していたんだ」

「女の子が逃げていくのを眺めていました。女の子を苛める趣味は無いんですんで」

 こいつ……、真面目さが足りない。よく見ると寝ていたらしく涎の後が見える。そもそもこんな短時間でよく眠れたものだ。

「まぁ、いいだろう。別に規定は満たしているんだしな」

「ん」

 小さく茂撫一は言って、アイマスクを付け始めた。さらにまくらを取り出す。

「お前、何しに来たんだ」


 答えは無かった。 


 

 

 


 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ