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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
61/108

雑魚と野望と無職の愛


 私は宿女の家の長女として産まれた。すでに兄が跡取りとして産まれていたので誰も出産に立ち会わなかった。兄の教育に皆血眼だったのだ。それは兄の才能もあるが、もし私がもっと早く生まれていればと思ったことは大いにある。ほかにも私に魔法を教えてくれる人は少なかった。親はもちろん、数多くの親戚も兄ばかりに魔法を教えてていた。そんな事をされれば自分も魔法をやってみたくなる。朝の7時からやっていた魔法戦隊のテレビを見て感化されたというのもあって、お母さんに魔法を教えてくれと頼み込んだ。


 それが不幸の始まりだ。

 

 私には才能がなかった、魔法の簡略化、暗号化が出来ない、つまりは魔力はあっても魔法を使うという事に対して果てしなく才能がなかった。

 その日から親戚たちは私の利用価値を見出した。


 兄を褒め称える時、妹と違って才能があると言い出した。

 地獄だ。こんな事なら魔法なんて覚えませんよ、だって興味ないしーと言うスタンスを気取っていればよかった。

 さらに悪い事に兄は私を大切な妹として扱ったのだ。宿女の跡取りには誰だって好かれたい、出来の悪い妹に簡単な魔法を教えるだけで好感度が上がるのならと親族もれなく魔法を親切に教えてくれるようになった。しかし、しかしだ。私には解っていた、それまで私なんか気にも留めなかった親戚たちが私に魔法を教えてきてこう陰で言う、お兄ちゃんはこのくらいすぐ出来るんだけどなと。そして兄のところに行ってそれとなく私に魔法を教えたことを報告していることも。


 だから私はここに来た。

 魔力はあれど、呪文が唱えられないのだから魔法使いにはなれない……事もない。私は知っているのだ、ここには魔導書がある。魔道書じゃなく、魔導書だ。魔導書と言うのは昔の大魔法使い、つまり能力者がいない頃に大成した魔法使いがその意識と魔力、魔法を死と引き換えに詰め込んだ本の事で、それがここの図書館にあるらしい。その魔道書に意識に気に入られれば、私にも自由に魔法を使える瞬間が来るかもしれない。しかも、ここの図書館はCクラス以上の人には本を無期限で貸してくれるらしく、私はとにかくCクラスに上がりたかった。肝心の図書館と言うものを見つけることは出来ないでいるのだが、そんな事は些細な事だ。

 でも思ったより辛いよね! まさか合格したのに総合クラスから始まるなんて思いもしなかった、まぁ、DだろうとCの人のバッチを十枚集める事に変わりはないのだから関係ないんだけど。別に私は魔法が使えないわけではないのだから頑張ればなんとかなるだろう。

 皆が、一瞬で唱えている魔法に十分とか時間が掛かるだけだ。たくさんある魔法詠唱短縮のすべてが私には使えない。魔法のもっとも純粋な状態と言われる「祖記」。これがもっとも短い時間で発動できるが、それでは詠唱を聞いたすべての魔術師に秘密がばれる。なので祖記は暗号化して「呪文」になる。私の家ではこう呼んでいるだけで名前はたくさんあるのだが、それを頭の中で唱えたり、魔方陣に上手く組み込んでみたりとかが私には出来ない。魔方陣も原文そのまま書くしかないのだ。

「よし、出来ました」

 

 額の汗を拭い、道路にチョークで書いた魔方陣を眺める。我ながらいい出来ではないだろうか。自分を守る結界を完成させた。ここまでですでに30分も掛かったが、これで安心だ。

「……魔力探知で誰も引っかからないからすごく焦った。でも良かった、一人でも魔法使いが居て」  

 大きなショルダーバックが特徴的な、髪の毛ぼさぼさの女の子が現れた。私の方をぼうっと見ている、もしかして結界を見破っているのだろうか。見破っているんだろうな、目が合ってるし。それと結界を展開した瞬間に現れたという事は結界を作らなければ見つかる事も無かったんじゃないだろうか。

「待ってて、私……優しいから。その、痛くしない。要望があれば聞く」

「あ、それじゃあ逃がしてください」

「…………ごめんなさい」

「ですよね」

 逃がしてはくれなかったが、すごく悩んでいたところを見ると本当に優しい人なのかも知れない。まぁ、形だけなのかもしれないが。

「でも、待ってて」

 バックからパソコンのキーボードを取り出すと、何か打ち込み始めた。キーボードが粉々に砕け散り、半透明の四角い板が代わりにに現れる。霧散したキーボードがまた新しく作り出され、キーボードでまた何か打ち込むと私の結界が壊れた。

「えぇ!?」

 結界って言うのは壊すのは難しいはずだ。無力化出来ても壊すのには私の魔法をすべて解っていないと壊しようが無い。これは結界に限らずすべての魔法に言える事で、そもそも、魔法の研究の大半が大昔に発動して残っている魔法の解析である事からもそれは言える。

「安心して……今書き換えてるから」

 何を? と聞くまでも無く、四角い板にどんどん何かの文字が羅列されていく。どうやらスクリーンだったようで何かを書き込んでいるようだった。今なら逃げられるかなと思って足を動かそうとするとじっとこっちを見てくるので動けなかった。今の私はただの人間と変わりない戦闘力で、やっぱり死ぬのは怖かったから。


「何してるんですか?」

 手持ち無沙汰になってしまったので、質問する事にした。何より興味があった。これは能力じゃなくて魔法だ、魔力を感じるから。しかもめちゃくちゃ速い。もしかしたら私の試してない魔法発動の短縮方法かもしれない。

「…………き、聞きたい?」

「あ、っはい」

「……セーブロードはこの空間に掛かっているから、空間のプログラミン、えっと空間にある情報を書きなおしてセーブロードを無効にして、私があなたを生き返らせるように魔法を掛けてる。これで、セーブロードの副作用は起動しないから貴方は何も失わないでしょう。……これなら、死んでくれる?」

 実に至れり尽くせりだが、そんな事ができるのか。翠さんはそういう事が出来ないから死ぬのが怖いといっていたんだし、校長先生の能力を無効化出来るならAクラスくらいはかたいんじゃないだろうか。

 そう思って、ほんの少し打算的に質問してみようと思った。

「あの、ごめんなさい。安心したいんで魔法の、その、どんな風に展開するのか教えてくれませんか?」

「死ぬのはいいの? 魔法って過不足原理の使用方法ぐらいから教えて欲しいって事?」

「無理ですよね! ごめんなさい変なこと言って!」

 ぼーっと私の顔を見ているぼさぼさの人。少し引かれてしまったかもしれない、それはそうだ、魔法の信用性なんて「祖記」から公開されないとと知りえない。というか、過不足原理ってなんだろう、すごく知りたい。なんかすごそうなんだけど。

「いいよ」

「にゅ、いいんですか?」

「うん」

 ちょっと噛んでしまったのが恥ずかしかったが、なんかものすごい事になってきた。最高機密をそんなに簡単に教えてしまっていいのかと、逆に心配になってくるが、喉から手が出るほど教えて欲しい。

「魔法は文字。暗号化されていても、暗号化されているからこそ「魔祖」はどこかで解読できる」

「はい」

 もうすでに半端ない新事実で質問とか今までの私の常識とかを覆らされた感じだったが、その次を聞きたかったので解っている振りをした。

「魔祖って祖記のことでしたよね?」

「そう、それでこれを応用すると、逆に貴方がここに存在しているという事も「祖記」に出来る。つまり、魔法と言う事象を構成する「祖記」は全ての事象を表せると言えば納得できるだろう? 問題は祖記で表す事のできた事象は全て魔法に変換してその事象を起こし得るのではないかと言うことだ」

 ふにゃー。

「すべての現象が祖記によって起きていると言う事。魔力はそれを書き換える事ができる力。……あ、うっかりしてたけどこれって最重要機密だった。あぁ、残念だけどこれ以上は言えない。興味があるなら私の部屋に来て欲しい」


 い、今のは、その家独自と言うより、なんかもっと高度な次元の魔法原理だったのではないか、興味があるくらいで聞いていい話しではないと思う。これが実際に聞く前で、このことを教えるといわれたら何か罠があるとしか考えられないようなおいしい話だ。

「ねぇ、私のこと好き?」

「え? あ、好きです」

「解った」

 唐突に好きかと問われて戸惑ったが、正直、こんなことを教えてくれた彼女のことを嫌いなわけが無い。それに顔も良く見ると綺麗な方だし、私が男だったら絶対にほっとかないだろう。

 彼女は両手を広げて私に寄りかかってきた。

「私の名前は、小粋無職。宿女琴葉さんでいいんだよね、好き」

 抱きかかえられるようにして私は死んだ。その際、無職さんがなにかを言っていたが、聞こえなかった。

 そう、無職さんが何か言ったけどよく聞こえなかった。

 あと、耳たぶをあまがみされた気もするが、気のせいだし、何も覚えていない。

 

  


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