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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
59/108

トラウマ

「別に……総合クラスチームが他のクラスの人を倒したっていいはず」

 敵だ。発言から完全に敵だと判断し魔法の媒体とするための杖を取り出す。総合クラス相手に杖は必要ないと他人は言うかもしれないが、その緑の女は杖を持っていたし、何より魔力の保有量が雑魚ではないと訴えている。

「私は、ちょっと間に合わなかったみたいなんだけど、Cクラスの翠」

 翠の目には確かに怒りの色があった。私は侮蔑の笑みを浮かべる。


「復讐のつもり? これはゲームよ、あなたに恨まれるのはおかしいと思うのだけれど」

「ゲームならあなたを倒す事に何の疑問も理由も要らない、でもそういうって事はあなたが時雨ちゃんを倒したって事で間違いはない」

「そう、でもCクラスに私が倒せるの?」

「レベル2、攻撃魔法の<志|4>」


 一瞬で私の周りに張ってあった防御魔法が弾き飛ばされた。この威力なら私ごと潰せただろう、しかしそれをしなかった。つまり、私は今手加減された。しかも、相手は私よりも格上だ。レベル2で攻撃魔法の志を放ってきた。まぁ、それも魔法使いとしての格に置いてのみだが。私はラッキーだ、これで二点目。


「殺す――魔駕れ」

 相手の体を直接狙った。これはどんな魔法も意味を成さない、空間に存在する時点で空間を曲げられたらなすすべ等ない。

「わが友よ、子よ、世界は私を中心に――<夢現の時|アバウトライン>」

 私の攻撃が届く前に呪文を唱えたようだ。ムカつく、脳内で術式を完成させているという事は私の攻撃を甘く見て、まったく動じていないという事に他ならないからだ。まぁ、どんな魔法も意味など無い、捕らえた!

 そして私の世界が歪む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ラフレシアの花言葉は夢現、ドヤッ。効果はあった。っていうかすごい、この人何の能力か知らないけど跡形もない」

 大きな花を咲かせたラフレシアノ前で、無残にも自滅した名も知らぬ女の子に語りかけるように翠は呟いた。

 ラフレシアの成長自体を速めそれに術式を組み込んだ連結3の、魔力を食いつぶす魔法だったが、威力はあったなと自分で自分をすごいな私と褒め称える。もちろん声には出さなかったが。

 ラフレシアの魔法、それは今日、新しく作られた魔法であったが相手の五感を狂わせ、自滅を狙うものだった。結局、敵には見られることもなかった花を撫でながら翠は言う。

「というか、これ強い。Bクラスを瞬殺」

「瞬殺された覚えはないのだけれど」

 耳元で声がした。

 振り返るとさっきのいけ好かない女の子が悠然と佇んでいて、杖はもちろん私の眉間に向けられていた。流石に間に合わないかもしれないなと心のどこかでは思いつつ、術式を頭の中で完成させる。

「正直危なかったのだけれど、私の空間を歪めるという能力は別に空間ごと物を歪めさせるだけの、能の無い物だとでも思って? 他にも第三次世界へ侵入したり、まぁ、瞬間移動とかも出来るわけ。直前で性質を変えたのよ、解ったかしら?」

 なんか無駄口叩いてくれてありがとう! 

「貫け新緑の剣」

 私は感謝の念を込め、蔦を伸ばす。これで相手の体を貫いて私の勝ちだ。

「魔駕れ」

 

 彼女の手前だけ景色が捻じ曲がったようになり、そこを通った私の蔦が私に向かって一直線に向かってきた。直前で静止を掛けたが、なるほど彼女の能力は強力だ。しかし、伊達に私もこの学校に一年もいない。

 もっと広範囲の攻撃なら避けきれないだろう。歪められる空間はせいぜい半径3mってとこだろうし。

「わが友よ、子よ、世界は私を中心に――夢現の時」

 目の前にラフレシアが出現し、一気にはじける。この花粉を吸ったものは幻覚を見るのだ、これなら相手はまた能力で瞬間移動しなきゃいけない。

「ちっ、魔駕れ」

 よし、消えた今のうちだ。

「新緑王と契約を……時間無いから!」

 ニョキっと私の頭から芽が生える。それと同時に新緑王が感じられるようになる。

(契約ぐらいはちゃんと発音せい、ばか者が……そもそもお前が長いというに、特別に数百年の歴史を曲げて短くしたじゃろうに、お前は本当にブツブツ……)

 

 うん、ほんとに話せば解る人でびっくりするくらい甘えさせてもらってるのは解ってるんだけど、敵は空間を曲げてきます!

(空間を超えた次元で勝負するしかあるまいな。空間にとらわれていては勝ち目がない)

「そんな事できるの? やって!!」

「何? いきなり大声を上げて?」

 さっきと同じ場所にまた突然現れた。ラフレシアの粉はまだ舞っているのに平然としているということは、何かしらの魔法を使役してるんだろう。

 やっぱり新緑のじっちゃんに頼るしか方法はない。

(じっちゃんやめい。とにかくお前が使える魔法では無理じゃ、逃げろ)

 それはなんか格好がつかないよ! みんな見てるかも知れないのに、お願い、一生のお願いをここで使います新緑のじっちゃん!

(これで4度目じゃよ。お前の一生はいくつあるんじゃ、ったく) 


「さて、あなたももう打つ手などないでしょう?――魔駕れ」

 

 魔法と違って能力に座標指定から発動までのタイムラグはない。決して無いほどではないので銃を避けられるほどの素早さがあれば避けられるのだろうけど、私はそこまで人間をやめてない。だから私は避けようともしなかった。

(みなしごのういるすことやみのししくれたとそしいうる)

 だが、新緑王は私のことを助けてくれるらしい。魔法のもっとも純粋な奴だ。これを知らなければ、誰かが言った呪文を丸暗記して唱えても魔法は発動しない。逆にこれさえ知っていれば魔法は発動できるのだ。私はそのまま頭の中で組み立てる。情報量が多すぎて頭が痛くなるが、こんなのはいつもの事だ。

(間に合わん、体をもう少し貸せ)   

 しかし間に合わないと判断した新緑王は、途中で打ち切って私の体を要求する。

 

「嫌! それやると胸が小さくなる!」

(しょうがないじゃろう。お前の体から養分を取るとなると、一番無駄な脂肪が)

「ワンカップ取られたときは殺してやろうかとって無駄じゃない、もっとお腹周りとか」

(なら太れ、それよりも相手を見ろ)

 あ、やばい。新緑王が変なこと言うから敵の事を忘れていた。

 しかしおかしい。私は歪んでないし、相手は何してるんだろう。

(盆踊りじゃ)

 そんな訳無いと思うが、確かに盆踊りみたいだ。 

 なにか、見えないものを確かめるように虚空を手で押している。あ、倒れた。

「くっやるわね。だけどこれで!――魔駕れ!」

 

 私の右半分が一気に歪んで引きちぎられる。

(はぁ、わしの右半分じゃろ。今日までお前が死ななかったのは誰のおかげじゃと思っとる。わしがこうやって気転を利かせて身代わりになってやってるから)

 わー体乗っ取られたー。

(本当におぬしには感謝が足らん!)

 新緑王のじっちゃんが何か切れてるが、そんなことは今関係ないので頭の中から排斥する。

 新緑王は私の頭から生えているであろう草なのだが、それと私の意識を交換するのだ。つまりは私が新緑王で私は新緑王になってしまうのだが、こうしておいて新緑王がゆっくりと私の体を再生していってくれる。それにいつも時間が来ると私の傷も全部なくなるようにこのゲームはなっているので、何とかなるのだ。


「死んだの? おかしいわね、体は消えるはずなのに」

 新緑王さんがんばって!

(おぬしはほんとに感謝が……ブツブツ)

 いつも思うのだが、親からは新緑王はとても気難しく受け継いでも現れないこともあるので気を落とすなと何度もいわれ、正直私は憂鬱な気分で新緑王を継承したのだが、儀式で新緑王が私の体に宿ったとき私は戦慄した。何か悩みはないかと閉口一番に聞かれ、恐縮しながらもやはり私はまだ未熟なので魔法の研究に努めたいと思いますと、テンパって少しずれた回答をしてしまった所、そうか大変だなと、新緑王が魔力とか魔法とかを教えてくれてすごく怖かった。

 他にも魔法をいくつか、、、さらに聞けば何でも教えてくれるので、後ちょっとでうちの家つぶれちゃうねが母の口癖だった私の家は、やべぇ、マジ忙しいわ今日の会合はなんかまた、名家の人と会合だよ。父さんこんなに出世できるなんてっ! 翠は何が欲しいんだ? 帰りにお土産をたくさん買ってきてやるからな、お前はお菓子が好きだもんな! とサイン色紙を手に持って小躍りしながら家を出て行くのが父さんの日課になるほどまでに成長した。


(だが、これだけ肉が残っているなら、わしの体を再現できるな。してもいいか?)

 一瞬いいよって言いそうになったけど駄目! だって私の体からまた養分取る。

(いいじゃないか、減るもんでもなかろうに)

 EからDに減ったよ! お腹周りは変わらなかったのに!

(……まぁいいわい。最後にこれだけはやっておこう、友達は大切にせにゃならんからな)

 新緑王は彼女の足に私の死体から伸ばした蔓を巻きつけてから、私の死体を小さな綿毛にして飛ばしてしまった。これで消えたように見えるはずだ。私の本体となる草だけがその場に残る。

「ん? 死に際に何かしていったようね、これは何かしら。ただの草のようだけど」


 新緑王にあの草はなんなのか聞く。私たちは離れていても一心同体なのだ。

(ただの草じゃよ)

「あ゛ぁ」

 なにそれとさらに聞こうとした時、ゾンビのようなうめき声がして、血塗れの生徒が足に絡まった蔦を取ろうとしていた彼女を机でフルスイングした。幸い机で彼女の姿は見えなかったが、今は完全に魔法結界の類も無く、能力もあれでは発動使用とする暇さえなかったろう。何よりも明らかに鈍い音がした。……トラウマになりそうだ。


「ははっ、雑魚」

 力なくそう言って床に倒れた。頭を床に打ち付けていたがまだ息はあるらしい、すごいタフだなと思ってその顔を注意深く見ると、見たことがあることに気付く。


 私は口から血を溢れさせているひっきーを見てトラウマになった。


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