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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
55/108

翠さんのなんかすごい苦労

死んだ。

 首吊り自殺が一番楽な死に方だと聞いたことはあったが、確かに眠るように意識を失える。

 息が辛いのは初めだけで、後は夢の中だ。

 

「疾駆妖精のことわきの導、命の重さを等しく見、死によって生を得る事叶わぬ方の秩序。いきとしいける我らの罪を許せ、死は芽吹き、生は粛清。新緑王の名の下に――身代わりの神木(ペイントレースシード)

「なにここ」

 俺が作ったわら人形が転がっているので、俺の部屋だ。

 しかし、布団の周りにはμを崩した文字みたいなのとかが散らばるように書かれているし、頭から草をはやした翠が祈るように手を合わせている。

「成功したぁぁぁ」 

 後ろにいたトリガーが大きな声をあげ、それに気付いた翠も目を開ける。

「よかったぁぁぁ」

 トリガーと翠に抱きつかれる。

 正直に言って、生き返った俺のテンションでは、こんな茶番に付き合うほど暖かくならなかった。

「なぁ」 

「うん、ごめん。私ちょっと力んじゃって」

 左手で拳骨を作って、てへっと自分の頭を叩く。

 左利きは珍しい。

 始めて会ったな。

「いや、何で俺殺されたんだよ。怖い怖い怖い怖い怖い怖い」

「あ、それ俺も気になるな。俺が図書館に来た時はひっきーが死にかけてたし、一瞬この翠さんって人にやられたもんだと思ったけど、巨乳に悪い人はいないって言うし勘違いか。でもそしたらひっきーは誰にやられたんだ?」

 

 じゃきっと肩に担げるサイズの銃をどこからとも無く取り出すトリガー。

 ぉぉぉぉとか言いながら翠が震えだす。

「トリガー、俺も何の事だか理解はしてないんだけど」

「あ、生き返ったばかりで安静にしていないと!」

 翠に右頬をしたたかに打ち抜かれる。

 いたっ。

 

「あぁうん。ひっきーの友達? 私、仲間、明日、がんばる」

「仲間? もしかして明日のことか? 名前無かったけど」

「うん! その件! 私! 出たい!」

「おお、じゃあ俺が先生に言って出してきてやるよ」

「解った、今、紙に、必要な情報、書くから」


 トリガーは翠に押されて部屋から出て行く。

「ふう、行ったか。危なかった、もう少しで殺人犯とかレッテル貼られて、社会的に死ぬところだった。あ、何これチョコ落ちてる、食べていい?」

「おぉ、何だお前。マジなんだお前」

「私が聞きたいよ!!!」

 何で逆切れされているんだろうか。

 鉄さんが買って来てくれた菓子を貪り食われながら考える。

 俺がいったい何をしたと言うんだろうか。

 出席番号を聞いたから? 大会に誘ったから? 

「理不尽だ」

「理不尽じゃない。だいたい私は出るって言ってないのに、無理やり参加申込書に名前かいて出そうとしたから!」

「何の話だよ、なんか首に跡が付いてるし……」

「あ、やったー、クッキー見っけ」

「俺べつに、無理やりは誘ってないだろ……」 

「嘘。だって、携帯で私の個人情報を仲間に伝えてた!」

「そんな事してない。何を勘違いしてるか知らんが、俺はトリガーに迎えを頼んだだけだ」

「迎え?」


 なぜか俺は翠にも方向音痴だということを説明しなければなら無くなり、それを聞いて笑いの止まらなくなった翠をひたすら眺める事になった。

 

「私、最低」

 少し経って俺が部屋を掃除し始めたころに、ポツリと翠は言った。

「そうだな、勘違いで俺を殺し、人の部屋の食い物を食い散らかしたんだもんな」

「生きかえらせたからプラマイゼロ」  

「ほう、別に俺はそれでもいいが、人を殺めておいてその言い草な事に君の良心や道徳といったものは果たして耐えられるのか」

「許してください」

 正直まだ俺の部屋を漁っているので反省の色など見ようがないが、許してくれといってるんだ、許してやってもいいっていうか、頭痛いしもう面倒だなぁ、俺の布団どこだよ!


 よみがえりの魔法のためか、壁に落書きはあるし布団とか、俺が最適なところに積み上げていたダンボールも移動されている。

「あーでもそっかぁ、なら仲間とか言わなきゃよかった。憂鬱だなぁ」

「なんだよ、もういいから出てけよ……」

 そう言った時だ。

 翠が俺のほうに手を伸ばし、その伸ばした手の袖からカンパニュラが生えて花を咲かせる。

「その、実はすごく罪悪感を感じていてこうどうにかして仲直りと言うか、なんかこう誤魔化して有耶無耶になるって言うか、もうほんとごめん」

「いや、別にもういいけど」

「それだよ! その態度なんだよ! 全然気にしてないよって感じじゃないじゃん! はっもう俺とお前は関係の無い人間同士だからどうでもいいのニュアンスじゃん! マジギレじゃん! もっと和気藹々なニュアンスで突っ込んできて! その、別に怒りはしないけど許すとも言ってないぜ? みたいなの何!」

「……どうしろって言うんだ。許す許す」

「ほら出た! それだ、その心の底から許してない感じ」

 

 逆切れ極めるとこういう感じだろう。

 いったいこいつは何を言っているんだ、心の底から許すって何だ。

「うー、そういう態度だよ。呆れてますよみたいな、そう! 無関心な感じ!」

 翠は自分の言葉に納得して、何度もうなずいている。  

「はぁ、もっと簡単に説明しろよ」

 このままでは埒が明かない、まずはこいつのことを知ることから始めるべきだ。

「だからね、もし、あなたがお花屋さんだとして」

 どんな設定だそれはと突っ込みそうになったが、それをしたら多分話を理解できないまま話が終わる気がしたので、ただ頷いた。

「大きな仕事、結婚式。あなたは花を並べる仕事をしてるとして、転んで花を台無しにするとする。――しかもカトレアの花束!」

 確かピンクとか紫といった色の花だったと思う。

 一輪五百円くらいはするだろう。

「それは大変だな」

「それで、店長に謝ったんだけど、今度は俺がやるからお前はなにもするなって言われたらどう?」

「いい店長だな」

「バカーーーーー」  

 

 わざわざ俺の耳元で叫ぶことはないだろ。

 なんだろう、今の話で店長が避難されるポイントはどこだ? 

 しかし翠が目の前で頬を膨らませ、少しではあれど頬を紅潮させているのを眺めていると、何となく俺が悪い気もして来ないでもなくなくない。

「解った、紙とペン貸して」

 何が解ったんだろう? とりあえず鉄さんが送ってくれたがはいいが、使う機会の無かったノートとペンを貸す。

「森の妖精さん靴以外も作ってください、私の手足となって――木妖精の徹夜フェアリーハッシュトリートメント

 ノートが光る。

「なぁ、レベルとか連結とか言わねぇの?」

 魔法使いは皆、そう言うという話だったはずだ。

「いや、レベルとかはすっごい頭使うんだよ。こういう前呪文は他の魔法使いに聞かれると、本呪文まで予測されてってかこれ興味ある?」

「あるある!」

「意外と食いついてきた! よし、お姉さんが優しく教えてあげる。まず魔法と言うのは言葉の発音だけで成り立つのだ。しかし、それだと時間が掛かりすぎる。そのため文字の使用、しかしこれは脳内で記号と術式の完全な一致が……、これはいいか、とにかく! 図解するとこう!」


 魔法で光りだしたノートを開く。 

 そこにはへたくそな字でこう書かれていた。


 発音による詠唱<文字による術式<脳内での術式完成


「何これ?」

「左にあるほうが時間が掛かる、そして右に行くほうが難しい、ちなみに今やったのは脳内での完成。この脳内での奴が複雑で、色々意識が混じったりして危険だからレベル何々って言って区別してる。でも今は回りにひっき―しかいないから前呪文で意識の固定化をしてるのでした。説明終わり、よし妖精の仕事も終わった。それ台本だから、私の代わりに妖精に書かせた台本だからそれの通りにやってね」   

 言ってる事はさっぱりだったが、とりあえずノートを更に捲る。

 劇の台本みたいなのが汚い字で書いてあって、俺の名前にはマーカーが引かれていた。

 といってもたった一行。

 一、ひっきーは翠を殴る

 と書かれているだけではあったが。

「…………」

 翠は殴りやすいようにだろう、頬をこちらに向けて立っている。

 グーでやると本格的に起こられる気がしたので、指先で撫でるようにビンタする。

「痛い」

「……」

 何かアクションがあると思っていたのだが、翠はただ非難めいた視線を送ってくるだけで、何もしない。

 二、謝る

 手元のノートに文字が追加された。

 これに従えという事だろう。

「ごめん」    

「べつにいい」

 そう言って翠は部屋を出て行く。

「……腹減ったな」


 少し考えて、食堂に行くのも面倒なので、鉄さんが持ってきてくれた中にあったカップラーメンにお湯指そうと思い、何故食堂があるのに、あるのかわからないキッチンでお湯を沸かす。

 よし、カップラーメンにお湯を入れ、ふたを閉め、やかんを上から押し付ける。こうすると、発布スチロールが溶けて、ふたとくっ付くのだ。


 俺がラーメンをすすり始めたころに、翠は帰ってきた。

「どう、許されたのに許されてない感じを味わっ、なんかラーメン味わってる!」

 翠はひざから崩れ落ち、動かなくなった。


「翠?」

「もうどうでもいい、でも不安だからきくけど、ほんとにもう怒ってない?」

 しつこいのでその話題は無視する。

「ラフレシアは育てるの止めたほうがいいぞ」

「だって花言葉が夢現だよ」

「まず栽培不可能だし、ラフレシアの育て方なんて本があったのが驚きだ」

「そうなの?」


 翠は始めて知ったと顔を上げる。

「そういえば、カンパニュラの花言葉は誠意だろ」

「よく知ってるね、詳しいの?」

「本で読んだ。でもさ、謝罪の意味をこめて誠意の花言葉を持つカンパニュラを送るのはちょっと狙いすぎだろ」

「これ! このかんじだよ、仲直りって言うのはぁ!」


 感極まったように叫ぶ翠。

 どうやら気が済んだらしい。

「でも、私魔法でラフレシアを育てられると思うんだよね。みてて」

「出てけぇ!」

 なんか球根みたいなのとか、土とかを出し始めた翠を無理やり外に締め出す。

「わー冗談。冗談だからー」

 何で棒読みなのかが本当に理解できないが、多分部屋に入れた瞬間、俺の部屋が臭くなる。

「あ」

 ドアの外で、何かをミスったという声が聞こえる。

「ねぇ、見て見て。ラフレシアちゃんと育ったおえっよー、あけてぇうっ」

 最後に涙声になる翠に、ちゃんと片付けろと言ってからしっかりと鍵を閉め、部屋に戻った。 


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