ふーらる
「ネズミ……」
「さしもの私も少し気になり始めました。何故さっきから何度もここを出たり入ったりしているんですか」
「部屋に帰れない」
「そうですか」
「助けて」
「嫌です」
もう二十回も図書館に辿り着いてしまった。
前はちゃんと部屋に行けていたのに、ん? 俺、一人で部屋に戻ったこと無いかもしれない。 いやいやいやいやいや、それは無い。
待てよ、俺がいつも帰る時トリガーとかと会ってた気がする。
「もう、俺にはねずみしか居ないんだ」
「他の人にもそういう事言ってるんでしょう?」
俺はねずみを撫でながら、考える。
どうにかして部屋には帰りたい。
ぶっちゃけ、今ねずみにすら見放されたら俺は孤独だ。
それだけは避けたい。
「ねずみって好きなもの何?」
「買収はされません」
くそっ、何とかならないか。
「仕事の邪魔です」
俺の手の中から、ねずみが逃げ出そうとする。
「助けてくれたら、放す」
俺は、ねずみの尻尾を掴んで放さない。
「卑怯ですよ、どちらにしろ私が仕事できない、あっぁ、尻尾を強く掴まないで、抜けるからっ」
「ひっきー、変態臭い」
翠が立っていた、本を借りに来たのだろう。
ラフレシアの飼い方という本を持っていた。
それにこいつも俺の事をひっきーって言う。
何故だ、いったいどのルートで俺の悪口的あだ名が広まっているんだ。
「ふーらるさんを苛めるの、よくない」
「ふーらるさん?」
このねずみはふーらるさんって言うのか、すごい発見だ。
ふーらるさんは俺が感激している間に、逃げてしまいどこにも居ない。
「で、何してたの」
翠が俺にラフレシアの育て方などの本を渡しながら聞いてくる。
「おもっ、いや、ちょっと部屋に帰れ無くなった」
「なんで」
「色々事情があって」
雑魚子の反応から学んだ。
本当のことをいったら笑われる。
「そんな事より聞いてよ。瞳がさ、私の相手してくれない。今度の大会に出るらしい。なんか勝手に名前かかれて提出されたんだ。紙に名前とクラス、学年と出席番号書けば出る事になっちゃうから。しょうがなくラフレシアを育てようと思うんだけど、手伝ってくれてもいい」
何でラフレシアなんだろうか。
そもそもそんなお手軽にラフレシアは育たないし、育ったとしてもそんなものが部屋に在ったら鼻が曲がる。
「ボイコットすればいいじゃん。もしくは無視するとか」
「あ、瞳の事? でも、参加申込書に名前があるから、出なくともチームで負けるとバッチ取られちゃうし出るしかない」
「その手があったか」
こんな簡単な事に気づかなかったとは。
ぶっちゃけ、クラスと出席番号を聞き出せば人数を確保できたのだ。
明日がその日だからせっかくこの事に気づいたのに確保できないのがつらい。
「? 大会出るの? 止めといたほうがいい。いつもSクラスの独壇場だし、ときどきAクラスが集まってがんばったりもするけど、結局はSが勝つ。でも、結構迫力あるから見る分には楽しい。ポップコーンも売られる。一緒に行ってあげてもいい、先輩がいろいろ教えてあげる。そのかわりポップコーン買って」
へぇ、なんか野球観戦みたいだ。
行った事も見たことも無いけど……。
そういえば、大会とかの俺の情報源はトリガーだ。
トリガーが何も言わなければ、何も知らずに日々を過ごしていただろう。
普通こういうのは、先生がなぜかあるホームルームとかで伝えるべきなのではないか、そうでなくとも何かしら目に入るように配慮されるべきだ。
「でもそしたら、どこで落ち合う? 私ケータイとか電子機器持ってない」
「なんで?」
「色々と在るんだけど、やっぱり一番はキャラづくり」
「じゃあ、出席番号何番?」
「? 七だけど」
じゃ、明日の朝に二年の教室まで行くと言おうとして自分が方向音痴であることに気が付く。
まぁ、トリガーに聞けばいいか、なんでも知ってそうだし。
俺はトリガーに方向音痴だったらしく、部屋までの道すら解らないのでちょっと来て欲しいとメールする。
突然、翠にそのケータイをがしっと掴まれる。
「ねぇ、もしかしてだけど実はひっき―がSとかAのクラスで、かつ二年生とかで大会とかのことをよく知る人をチームに入れて勝率を上げようとか思ってないよね」
「俺、総合クラス」
そう聞くと、翠はそっか、そうだよねと納得し、ケータイから手を離す。
俺は送信ボタンを押す。
「まぁいいや、明日ポップコーンおごってくれるなら、能力解説を交えながら翠お姉さんが大会の楽しみ方を伝授するけど」
そこまで聞いて、明日俺はその大会に出ることを思い出した。
今日の俺は本当に疲れているらしい。
「いや、俺明日それに出るんだ。総合クラスの皆で」
翠の顔から血の気が引くのが解った。
その理由までは解らないが。
「ねぇ、さっきなんで出席番号聞いたの? そしてどこにメールした? うわぁぁぁ」
俺の方を持って揺さぶり始める翠。
「そういうの駄目なんだよ? やられたら嫌なことは他人にしない!」
「なぁ、それでさ、明日の大会俺たちと一緒に出ようぜ」
翠は返事をせずに何かを紙に書き込んでいく。
その紙からつたが生えてきて、俺の首に巻きつく。
「首苦しい」
「誰にメールしたか、そしてその人がどこに居るか言って」
そんな事言ってもトリガーがどこにいるか知らないし、だんだん首の締め付けが強くなってきて喋れない。
「うあー、そんなことする人だとは思ってなかった。失望。やだーでたくないよー」
翠が何か言っているが、理解できない。
酸素が無くて苦しい、意識が飛びそうになる。
「うぉ! ひっきー、死ぬな!」
トリガーの声が聞こえる。
さっきのメールを見て、部屋にも帰れないと書いたから俺のことを迎えに来てくれたらしい。
やべっなんかフワフワする。
意識が途切れた。