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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
53/108

迷いからの逃走

 


 俺は何の縛りも無い時間の使い方が出来る。

 授業を受けなくてもいいのだから当たり前だが、人を集めるという目的の上ではかなり有利になるはずだ。

 しかし、俺は起き上がれない。

「しかし、俺は起き上がれないじゃないよ……、筋肉痛でしょ?」

「月、前々から聞きたかったんだけど、お前の能力って正確に言うと何なんだ?」

 この際、俺の部屋に勝手に上がりこんできた事は許す。

 

 俺が昨日の夜に帰ってきて、鍵を掛け忘れたのが悪いんだし、そんな事よりなんで俺が考えてる事がわかったのかの方が気になる。

「ひっきーが思ってるので十割正解だよ?」

 俺が思っている月の能力とは、相手の目を見ると相手の考えを読めるようになるというものだ。しかし、総合クラスにいるということは、何か致命的な欠点があるんだろうとも思っている。

「じゃ、なんで」

「ひっきーが寝ている間に目をこじ開けて見ただけ」


 もういい。

 どうでもいい。

「今日はミーティングだよ、でもなんか当日にならないとルールとか解んないからチーム名を決める事だけとは言ってたけど」

 じゃ、俺いらないな。

「勇者だね……、名前がひっきーブラザーズとかになってもいいの?」

「よし行くか、教室だろ?」


 俺は規則正しい生活が身についているので、何の苦も無く布団から出る。

「……自分の意思で、思考を曲げるなんて事は不可能なはずなんだけどな」

「何が?」

「なんでもない、私の気のせいだから」

 

 廊下はあいからわず迷宮といっても差し支えないが、教室に行ける位までは俺も経験地を積んでいる。

 俺は迷わず、右手の方向に進む。

「どこ行くの? 教室はこっちだよ?」

 月がニヤニヤしながら、俺の進行方向とは逆方向を指差す。 

 どうやら、俺が道を勘違いしているのだと思っているようだ。

「おぉーい、ひっきー迎えに来てやったぞー」

 赤い髪をもっさもっさしながら、俺の進行方向から現れる蟹吉。

 

 よし、蟹吉は俺の隣の部屋なので、遠くから声を掛けてきた時点で教室に行ってきた事が解る。

 蟹吉は俺を迎えに来た。

 つまり、俺は道を間違っていない。

「迎えに着たんだけど、道にまよっちってさー。焦ったー、さっさと行こうぜ」

 そう言って、俺の横を通り抜ける。

「月、俺こっちに少し用があるんだ」

「誤魔化さなくてもいい」

 

 俺は来た道を戻って、月と蟹吉の後ろを付いて教室に辿り着いた。

 教室には別に知らない顔は無い。

 総合クラス+填最の彼女で、暗い顔をしている奴が多い。

 トリガーの鬱になったという説明が無くとも、表情から読み取れていただろう。


 こうなると、他の奴らが何故鬱にならないのかが気になる。

「死んでないか、心が強いんだよ」

 俺にだけ聞こえる声で、月が呟く。

 月は殺されていないんだろう。

 酒市さんはどうなんだろう、トリガーは? つーか蟹吉元気だったな。


「理解できない」

「何が?」

 いつの間にか後ろにいたトリガーに声を掛けられる。

 どうやら、声を出していたらしい。

「色々と」

「死んだくらいで鬱にはならないって?」

 まぁそれが俺の疑問なわけだが、実際鬱に鳴った奴らの前で言う言葉ではないと思っていたのに。

「死んで元気なのはお前くらいだぜ? まぁ、別のクラスはそうでもないらしいけど、つーか直接の原因はやっぱ死んだって事なんだろうけど、力の差に絶望したからみたいな理由もあるんだろ」

「俺様だってぜんぜん元気だぜ!!」

 填最が教卓にバーンと着地してサムズアップ。

「さすがぎっちゃん!」

 填最の彼女がクラッカーを鳴らす。

 

 一瞬、こんな奴のために嘘を付いた俺を殺したくなったが、そんなことより今はあれだ、力を合わせて調子に乗った能力者を撲滅し、ぎゃふんと言わせるのだ。

「ぎゃふん?」

 月が首をかしげているが、まぁいい、とりあえず時雨も呼んでおこう。

 ケータイで連絡を入れる。


「さて、思ったより人数が揃わなかったというより、ぶっちゃけ絶望的なんだが俺はやる」

 トリガーが前に立って、宣言する。

「名前は他に意見が無ければ、リベンジでいいと思う」

 横にいた蟹吉がおー、と手を上げる。

 蟹吉が出した意見なんだろうか。

 

 どうやら、俺が来る前に結構論議が交わされたのだろう、黒板には候補がたくさん書いてある。

「ほかには、デイ君って言うDクラスの人が居るから。今は授業があるから来てないけど」 

 そういったトリガーがこっちに来る。

「えっと、一応聞くけど、お前は誰か誘えたか?」

「まぁ」

「おぉ、マジか!」

「いや、強くは無いって言ってたぞ」

「何言ってんだ? 俺たちより弱い奴はこの学校にいないんだから必然的に、俺たちより強いってことになるだろ」


 気付かなかった。

 ん? そしたら何であんなとこで嘘付いたんだ? 時雨は自分のことを弱いといっていたはずだけど……。

 タイミングよく、メールをしてから幾分も立ってはいないのだがちょうど、時雨が教室に入ってきた。

「総合クラスはここか? ずいぶん人が集まっているな」

「お、助っ人か?」

「やっほー、蟹吉のことは蟹吉とよんでくれ」

 トリガーと蟹吉が寄っていく。

「む、期待されても困る。私は何もできないぞ?」

 非難するような視線が俺に投げかけられる。

 期待させるような事を言っただろうという事だと思う。

「俺たちよりは上のクラスだろ? 何言ってんだよ」

「私か? ……Eだ。だから、そんなに君たちと変わらないと思う。それにしてもリベンジか、いいな、かっこいい」

 

 黒板の字と、机の上に集まっている参加申込書から判断したんだろう。

 感慨深くそう言うと、自分の参加申し込みだろうそれに書き込んだ。

「ひっきーやるじゃん」

 蟹吉が戻ってきて俺の頭をげしげししながら褒める。

 月は、口をあけて固まっている。

 開いた口が塞がらないと言う奴か……失礼な奴だ。


「約束通り来たぞ、その……ひっきーでいいのか?」

「だめだ、黒独と苗字で呼んでくれ」

「……そうか」

「よし時雨っち、蟹吉が今こいつの頭を潰してやるからな。そしてひっきーって呼ぶと良い、これはあれだから、逆にひっきーって呼ばなかったりすると拗ねるから」

 蟹吉の握力はたいした事ないが、掴まれると髪の毛が引っ張られて痛い。

「ひっきー」

 時雨が呼んでくる。

 俺の名前はこれで確定なのか。

「ひっきー」

 もう一度かみ締めるように時雨が俺の名前を呼ぶ。

「なんだよ」

「いや、呼んだだけだ。気にしなくて良い、うん」

「よし! これで全員揃ったな? 仲間の顔は覚えたか? 解散!」

 最後にトリガーが、皆から申込書を貰って解散となった。

 

「私はいい」

 時雨が頑なに拒んだので時雨が全員分を職員室に持っていく事になった。


 皆が教室から出て行った後、時雨が近づいてくる。

「ひっきー、私は職員室の場所を知らない。連れて行ってくれ」

「何でだよ!」

「黙秘だ」

 胸をそらして誇らしげなのは何故なのだろうか。

 まぁ、俺が誘ったんだし場所くらい教えても良い。

「よし、こっちだ」


 俺が歩き出すと、袖を引かれる。

 蟹吉だ。

「どうした」

「いや、職員室いくのなら蟹吉が案内するよ! さぁ時雨っち、ひっきーに付いて行ったらいつまで経っても職員室にはいけないから蟹吉が案内してやろう」

 そう言って俺が進もうとしていた方向とは逆のほうに歩き出す。


 俺は少し考える。

 そしてある可能性に辿り着いた。

 教室を覗くと、ちょうど良いところに雑魚子がまだ残っていた。

「おい、雑魚子」

 本を読んでいた雑魚子がこっちを見て心配そうに聞いてくる。

「何か、つらい事でもありました?」

 心配されるような顔をしていたらしい。

「俺ってさ、方向音痴かもしれないんだ」

「はぁ」

 よく解っていないようで、曖昧にうなずく雑魚子。


 二人の間に流れる静寂。

 耐え切れ無くなったのが雑魚子が口を開く。

「それがどうかしたんですか?」

「ちょっと部屋に帰れないかもしれない」

 首をかしげる雑魚子。

「なぁ、俺の部屋って教室出て右手だよな」

「左のはずですけど」



「そうか」

 

 そう言って立ち去ろうとすると、本をかばんの中にしまって、立ち上がる雑魚子。

「私、案内しますか? 疲れてるんですよ。この前も寝てなさそうだったし」


 雑魚子はいい奴だな。

 果てしなく不安になっていた俺には天使に見えないことも無い。

 しかし、左だという事さえ解れば何とかなる。

 俺が教室を出ると、雑魚子が追いかけてきたので道案内はもう必要ないと、同時に感謝の言葉を告げようと振り返る。


「そっちは右です!!」

 俺の脳に激震が走る。

 俺はただの馬鹿だったのか? これまではそんな事はなかったはずだ。

 無いよな? 

 その時は部屋に帰れなくても良いと思えた。

 ただただ現実を認めたくなかったし、困惑した顔の雑魚子も見たくなかったから走った。

 それに前は運よく辿り着いたんだ、いける、右手の壁に手を突いていけば何とかなる!


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