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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
52/108

佐々波時雨



「俺は、能力者に対し、人間的優位性を覆したいと言う気持ちの下、われわれのような人間の価値を再確認するために、また、信じるために、その事を対世界に表すための参加だと思うんだ」

 俺は食堂で出される、変な野菜を月に食わせながら呟く。

「何言ってるかは解んないけど、あれでしょ? 私たちと戦ってくれるような物好きは居ない。そして、見つからない。そもそも、能力者に協力を求めるのは、目的と矛盾してしまうのではないか? 何これ、すっごいまずい、まずいまずいまずい」

 さすが、俺の頭ん中を覗いた事があるだけはある。

 ……こいつ本当に、もう俺の頭ん中除いてないんだろうな?


「でもさ、明後日だよ? なんか皆、それなりに頑張ってるっぽいし、私たちだけ成果無しなのはどうなんだろう」

 そうなのだ。

 俺たち、月とこの俺は、一向に人が集められていない。

「つーかさ、無理じゃね? ここきてろくに授業も受けていない俺に友達なんてできるわけない」

「友達居なさそうだもんね」

「お前もな」  


 虚しい。

 何だこの変な野菜、くそ不味い。

 リアルに吐きそうになる味だ。

「顔見知りでもいいからさ、一回顔見ただけの人でもいいから行かない? なんかやってないと、罪悪感が半端ないんだけど」

 俺は、食堂で出される、変な魚を月に食わせながら思案する。

 緋色、それとあのメイド。

「いや、まず、会えないだろ。だってどこに居るかわかんないわけだし」

「そうなんだよね。Bから上のクラスは、私たちが入れない校舎で授業を受けてるって話しだし。この変な魚、なんか臭い」

 月も同じ事を考えていたのか。


 つまり、何もできない。

 魚は、なんか泥臭かった。

「どうせ食べるんなら、私に毒見させないで欲しいんだけど? その、シェフの八つ当たり定食」

「交換しないか?」

「絶対嫌」


 月はうどんを食べている。

 どうでもいい話だが、月見うどんが好きなんだそうだ。

 

「午後どうする?」

「俺、本返さなきゃいけないから、図書館行きたい」

「……解った」

 何か釈然としていないようだったが、じゃぁ、私もいくから置いてかないでと言って、食器を片付けに行った。

 食べるの早いな。

 いや、俺が遅いのだろう。

「もう、食べたくない」


「私が貰ってもいいか?」

 そういいながら、魚にスプーンを伸ばしているのは、誰だ?

 手にはカレーライスを持っていて、月が座っていたところに腰掛けた。

「お前強いのか?」

「私か? ふむ、私の戦闘力を客観的に分析すると、一般的な女子よりも、多少低い程度だ」

 

 弱いのか、なるほど。

「止めておいたほうがいい。泥臭い魚と、よく解らない苦味のある野菜なんて食べたくないだろ」

 よくみれば見るほど、女子だか男子だか解らない。

 中性的だ。

 色は白く、確かに運動はできそうにない。 

 しかし、女子を引き合いに出したのだから、多分女子だろう。

「いや、それは知っているのだが、好奇心が抑えられない。さっきは我慢したのだが、実物の、この緑の魚、そして、真っ赤な葉物の野菜の味が気になってしょうがないのだ」

 

 グッとこぶしを握って力説される。

 俺も、地雷だと知りながら頼んだのだからその気持ちには共感できる。

 皿を、彼女のほうに寄せてやると、スプーンで魚を掬って口に運んだ。

「ふみぅ!」

「…………………………………………………」

「すまない!」


 泥臭い魚を顔に吐き出される。

 初対面でこんな好感度が下がる事があっていいのだろうか?

 俺は、使う事はあまりないが、エチケットとして持っているハンカチで自分の顔を拭う。

「こんなに不味いとは思わなかったんだ。これは、いったいなんと言う魚なんだろうか?」

「野菜も食べるか?」

「あぁ、いいのか? ありがとう」

 

 俺が箸で野菜を持つと、口をあける。

 容赦なく、残っていたすべての野菜を口の中に放り込んでやる。

 無防備にあけた口を今度は無理やり閉じさせる。

「ん」

 目をかっと開いて、俺の腕を掴み抵抗した後、目をつぶって動かなくなった。


 俺は、食堂で出されたものを分け与えただけだ。

 それで、女の子が目を回したとしてもそれは俺の責任ではなく、シェフの八つ当たりのせいである。

 これは事故だ。

「ねぇ、私は優しいから、聞いてあげるんだけどさ、その女の子に何か乱暴したり、犯罪的なことをしたよね?」


 月が携帯を握り締め、俺の後ろで怯えていた。

 いったいどこに電話する気だ。

「誤解だ」

「嘘付かなくてもいいよ?」

「誤解だ」

「説明してみて?」

 

 魚を顔に吐かれたので、不味い野菜を口に詰め込んで、気絶させました。

 うん、自分言うのもなんだが、最低な所業だな。

「誤解だ、一瞬だけ川が見えた気がするが、彼は私の知的好奇心を満たしてくれようとしただけなのだ」

「ドMの人ですか?!」

 

 気絶は浅かったらしく、すぐに起きた彼女。

 月は何かトチ狂っていて、収拾が付かなくなっていた。



 疲れた。

 何とか、図書館にたどり着く。

 月と彼女、佐々波時雨までが何故か俺に付いて来た。

「図書館が存在したのか」

「私も来るの始めて」

「そうか、よし、俺がすごいものを見せてやろう」

 

 俺はカウンターに行って、鈴を鳴らす。

 ここの図書館の司書のねずみが現れる。

「何か御用ですか?」

 俺は二人の方にどうだ! と手振りで示す。

 ここの図書館は驚くべき事にねずみなのだ。

 TV番組なんて、子供のころに見た限りだが、ツチノコ、ネッシーなんかより、こいつのほうがぜんぜん珍しい。

「あー、興味深いとは思うが、その程度の怪異なら、いくらでも居ると思うのだが?」

「ねずみはちょっと……」

 

 時雨は、本のほうが珍しい、すばらしいものだといわんばかりに周りを見渡しているし、月はねずみは嫌いだと、見ようともしない。「お前ら、ねずみだぞ? 夢だろ? ねずみに話しかけるだけでなく、もし、返事が帰ってきたらと思った事はないのか? あるよな! 全人類の友であるねずみと、コミュニケーションを取れるなんてすばらしいと思わないか? 俺なんて、許されるなら頬ずりしたいくらいなのに」

「困ります」

 ねずみに遮られる。

 俺の力説虚しく、二人ともねずみのよさに気付いた様子はなかった。


 俺は新しく二冊の本を借り、部屋に戻ろうと、月に声を掛けた。

「また明日」

「え? 何で帰ろうとしてるの?」

 何でと聞かれても答えようがない、それが自然だ。

 俺が、つきの言葉の意味を探っていると、意味解んないのはこっちだよと言って、時雨を指差した。


「誘わないの? 友達でしょ」

「初対面だけど」

「――ありえない」

 失礼な事にわなわなと震える手で、口を押さえて後ずさる。

 驚いている事を隠しもせず、それが本当に驚いている事が容易に解るだけにこいつの俺に対する認識が、不条理に落とされている事にいらつく。


「まさか、私が食器を片付ける間に女のこと仲良くなるような甲斐性がひっき―に在るなんて……」

「はっ、社交性の塊みた」

「それだけは無い!」   

 図書館に居た、他の数人の生徒が月を見る。

 見られて居るぞと教えてやると、誰のせいだとかぶつぶつ言った後、とりあえずちゃんと誘っておいてと言って、顔は真っ赤に走って出て行ってしまった。    

  

 忙しい奴だ。

 しかし、使えない奴と白い目で周りから見られるのはいい気分ではないので、何とか誘ってしまおう。

「時雨、やぁ」

 俺はモダン建築とジャンクフードの関係性という本を読んでいた時雨に、爽やかに声を掛けた。

「気持ち悪いな」

「………………」

「ん? なぜ涙目なんだ?」

 

 俺、こいつのこと嫌いだ。

 そもそも、気持ち悪いと思っていてもその事を口に出すのはどういった用件だろう。

 本当の事でも言っていい事と悪い事がある、昔から言われている事なのだから、相応の理由があるのであろう事は確実だ。

 その規定を破っているのだから、社会的に未熟であるといわざるを得ない。

「あぁ、違うんだ。この、現代の建築の中でのハンバーガーの超絶進化の図解が気持ち悪いという事でだな、君の事ではない」

「いや、別に気にしてない、気にしてない」

「それは良かった」

 時雨はまた、本に目をもどす。

「それ、面白いか」

「まったく面白くない」

 そういいながら、本から目は離さない。

「お前と俺はもう友達だな?」

「友達が、人間同士の認識から形成される関係の事を指すのなら、そして君が私のことを友達だと思ってくれているのなら私もやぶさかではない」

 

 よく解らないが、悪くは思われていないと思う。

 さて、どうやって切り出そうか。

 正直な事を言えば十中八九断られる。

「ここに名前書いてくれないか?」

 俺は、迷った挙句、参加用紙を手で隠しながら差し出した。

「悪い予感がするな、断っても?」

「友達だろー」

 棒読みで言ってみたがそれなりに効果は在ったらしく、本を閉じた後、見せてくれと手を出した。 

 

 それを出すと少しの間考えた後、

「なぜ私を誘うんだ?」

 なんか睨まれている気がする、やはり力が無い人を誘うのは変な話なのだろう。

「人数が多いほうが勝てる確率が上がるから」

「ふっ、面白いな。馬鹿か」

「本の話か?」

「違う、君だ。だがいい、気持ちのいい馬鹿だ。ちなみに私は何もできないぞ? 戦力になれない」

 今度はすごく機嫌がよさそうだ。

 それが俺の悪口を言ったからだとするとかなり性格が悪いのかもしれない。


「よしいいだろう。私なんかでいいならいくらでも力を貸そう」

 そう言って、名前とか出席番号とかを書いていく。

「ありがとう、その紙渡してくれ、まだ俺たちの名前決まってないから後で書き足して提出しておくから」

「それはだめだ。名前が決まったら私に言ってくれればこちらで提出する。代わりにメールアドレスを教えよう」

 早口で言って、本を破いてそこのメルアドを書き込んで渡される。

「なんで? 面倒じゃないか?」

「さて、私はそろそろ帰ろう」

 そそくさと出て行った。

 何か誤魔化された気はするが、まぁ参加してくれるんだ、感謝しよう。


「でも、本を破くのはだめだろう」

「そのとうりです」

 俺の目線の本棚に、ねずみがいつの間にか居た。

「一緒に来てください」

 おぉ、ねずみになんか誘われた! 

「どこに?」

「反省してもらいます」

「いや、これ破ったの俺じゃ」

「えぇ、知っています。ですが、弱いものは常に強者によって虐げられるものです」

 何言ってるのかわからない。俺とねずみの関係性だろうか? 俺は対等の関係だと思っていたのにショックだ。


「速く!」

 俺が筋肉痛できしむ体を部屋に入れたのは、夜九時のことだった。   


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