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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
51/108

酒市 美鈴


 酒市美鈴は落胆して席に着く。始めは皆、僕のことをからかっているんだと思っていた。そうでなくとも悪乗り的な――なのに何これって感じだ。


 入学当初から、前の学校ではそんな事ぜんぜんなかったのに、僕っ子、僕っ子と総突っ込みを受け、ひとまずこれから改善していこうと気合を入れたものだ。

 まだ私というのはなんか違和感があるので、僕と言わないことから慣れていくつもりだった。

 なのに!

「よーし、名前決めようぜ」

 僕の思考は似鳥君の掛け声で遮られた。


 皆が黒板の前に集まって行ったので、僕も小走りで追いかける。しかし、皆、何も言わない。僕は、これから自分の言う台詞を一回頭の中で黙読し、不自然出ないことを確認してから、女の子っぽさを採点する。

 まぁ誰も気づいてくれなかったんだけどね!

「どうしたの?」


 僕は皆に向かって話しかけた。

 だけど誰も答えてくれず、気まずい沈黙が流れた。

「保留でいいだろ」

 頭をかきながら、黒独君が呟いた。


 そうだな、一番の問題はこのチームと言うのに人数制限が無いことだ、つまり人数を揃えれば勝てると言って、似鳥君は黒板に人数と書いた。

 人数と書く必要はあるのかどうか解らなかったが、何気に達筆なのでなのか、誰も何も言わなかった。 

  

「どうやら、他の参加者は多くて10人いないくらい、平均して三人くらいだそうだ」

 つまり、二十人くらい集めれば勝てる! と黒板に二十人と書いた。だからそれを書く意味はあるのか。


「よし、俺はこのクラスの皆のところ回るから、人数を集めよう」

 似鳥君がそう言って、解散になった。

 他の皆は違うクラスの奴を何とか集めてくれといって似鳥君は走っていった。


 教室を出た僕は友達かぁ、とため息をつく。

 違うクラスの人となんて話したことなんて無い、私は入学式の時に助けてくれた人のことを思い出す。

 その人は名前も言わず、矢とか剣とかを私の変わりに受けて死んでしまった。だけど、式で死んだ人はいないって言うし、あの人も俺はこのくらいじゃ死なないからと言っていた。その後、学生証を玄関まで持ってくるようにとの放送はあったが、そんな気分ではなかったので、あの人に渡された学生証を持ったまま泣いていた。

 

 そして、よく解らないままに合格を告げられ、あの人のことを聞いて回ったが、見つからなかった。後で、あの場所に戻って荷物を拾って来た。

 中には聖書と土が入ったビンがあった。

 Cクラスには死んでも、棺おけから復活する人がいるらしく、会いにも行ったが、あの人とは似ても似つかないようなデブだった。


 もう一度会えたらお礼を言いたい。顔が熱くなっているのに気づいて何を考えているんだと自分を戒めた。お礼を言いたいと思っただけなのに、顔が赤くなるのはおかしい。

 

 ぺたっと私のではない足音が聞こえた。

 浮かれていた僕の気分は一瞬で最小値を記録した。

 僕の気のせいかもしれないが、どうやらストーカーが居るらしい。私が廊下を歩いていると、時々、私を追ってくるような足音が聞こえるのだ。


 僕は呼吸を整えて、靴紐を確認する。

 小中高と陸上部で、試合前はささみしか食べなかったこともある。だから足には自信がある。

 角を曲がってから自分の部屋に向かって走り出す。

 ぺたぺたと特徴のある足音が後ろから追いかけてくる。わけが解らない、ストーカーするならもっと可愛い子にすればいい。たとえば姫井さんとか、宿女ちゃんとかのほうが絶対可愛いし、この足音はいったいなんなのだ。

 ぐるぐると頭の中で考えながら、次の角で曲がったら立ち止まって顔を見てやろうと考えた。

       

「うわっ」

 どこかで聞いたことのある声がして、ストーカーが私とぶつかると思った。顔を見るだけだったら、ぶつかる所にたってないで、後ろを見ればよかったんじゃないかとも思ったが遅かった。


「んっ」

 何が起こったのかわからない。ぶつかった感触はあったが痛くなく、ストーカーもそこには居なかった。

 周りを見渡しても誰も居ない。

 廊下には、泥だらけになって突っ立ている私しか居なかった。


「何で泥が……」

 私が何かしたというのか、泥だらけにされるような何かをしたのか、そう考えると腹が立ってきた。大体能力ってのはいったいなんなのだ。

 

 私がいくら努力しようと、すべてを賭けて望んだ陸上大会では、能力者でジャージを着ているような人に負けた。ほんとに馬鹿みたい。

 そのくせ今度は僕に嫌がらせか。

 あぁ、勝ちたい勝ちたい勝ちたい。

 

「悔しいなぁ」

 もう、全部が嫌になって泥だらけなのも気にせず自分の部屋に戻ってベットに倒れこんだ。自分が間違ってるからなおさらだ。僕にはただ才能が無かっただけで、どうしようもないことなんだ。

 

「私、何してるんだろ」

 寝返りを打って気づく、泥がベットについてない。服にも、顔にも。

 床を見ると泥が一箇所に集まって、机の上に置いておいたあの人の鞄に掛かっている、じっと見ていると鞄が泥に押されて外にゆっくりと出て行く。

「何これ……きもい」


 しかし、あの人の鞄をこんなのに取られるわけにはいかない。掃除機を持ってきて泥を一気に吸い込んだ。

「これ、どうしよう」

 吸い込んでから僕は頭を抱える。

「うわぁぁぁ」

 

 外で声がする、だけど、この泣きはらした顔で外には出れないと思い、ごめんなさいと思いながらも化粧をしてから外に出る。

 

 そこには四つんばいで、荒い呼吸をしたあの人が居た。

「わわっ」

 ばたんとドアを閉める。化粧道具を手に取り、待たせては悪いとそれを置く、そしてもう一度ドアに向かおうとするが、部屋を片付けなくてはと思い、

「だめだーーー」


 なんか逆に部屋が汚くなった気がする。

 観念してもう一度ドアを開ける。


 

「やぁ、よ、良かったね、受かって」

 はにかみながら立っていたのは、あの人だった。何で居るのとか、さっきうめき声とかはもうどうでも良かった。

 

 だけどちょっと違和感があった、なんか目の位置って言うか……

「なんか、縮んでませんか?」

「いや! 気のせいだろう」

 

 もっと大きかった気もするんだけど、僕も女の子にしては背が高いほうだし、僕と同じくらいなら別に普通か。

 あの人は瞳が右上に動いて、首に手をやる。

「えっと、私のバックを美鈴さんが持ってると聞いて……」

 あぁ、僕のことを探していてくれたのか。少し感動していると、何も言わない私に戸惑ってか、あの人が困ったような顔をしている。


「あ、すいません、どうぞ、あがってください」

 ナチュラルだ! 僕すごいよ! ここで渡せばいい話だが、なんか話的に部屋に上がるのが自然な空気を作った僕はすごい。


 あの人は、美鈴さんの部屋……などと呟きながら上がってきた。

 バックを渡すとうれしそうに、この本は私のうちで作ってるんですよと教えてくれた。

「あ、そういう家の方なんですか?」

 しどろもどろで何を言ってるのか自分でも解らないのだが、何とか伝わったらしく、

「はい、私のうちは教会です」

 と答えてくれた。

「えっと、日本人ですよね?」

 教会っていったら外人ってイメージがあったので意外だった。

「あ、日本で生まれましたよ、親は日本人です」

 言い方が変だなと思ったけど、なんか焦っているようなので聞くのをやめた。追々聞いていけばいいし。

 いいんだし、追々なんて存在しなくなくなくないし。


「あ、お名前聞いてませんでしたよね?」

「あっと、デイ……です」

「デイ?」

「あっと、苗字とかは無くって、はい、デイです」

「えっと、日本の方ですよね?」

「……はい、親父が、つけたんで」

 ぜんぜん話が弾まない! 何だこれ、初対面か! 

 ほとんど初対面だった、と頭を抱えていると、

「あ、これで」

 とデイさんが帰ろうとしてしまう。


「ちょっと待って、あ、そういえばあの後どうなったの? なんか色々刺さってたよね!」

「あ、あのくらいぜんぜん大丈夫です。まったく、婦女子を陰から襲おうとするなんて最低ですよね」

「え、僕、襲われたのって男の人だったんですか」

「えぇ、最低の奴でした、あの後も、あー」

 突然、デイさんは慌てだした、どうしたんだろう。

「いや、最低の奴に違いない、だって美鈴さんを襲うような奴ですから」

「どうやって生き返ったんですか? 死んでましたよね?」

 言い方が悪いかなと思ったが、気になってしょうがない所でもある。


「あ、授業が」

 そう言ってデイさんが立ち上がった。

 出て行ってしまう前に、最も気になっていたことを聞くことにした。

「あの、僕の名前って言ったっけ?」

 デイさんが転んだ。

「大丈夫?」

「あ、はい、大丈夫です、ありがとう」

 そう言って走って出て行ってしまった。僕にはわからないが、やっぱり能力について聞くのは失礼だったのかと思い反省した。


 転んだ時に落としたのだろう。このすぐ後、彼のケータイを見つけてしまい、こっそりとメルアドをメモッたのはしょうがないと思う。 

 デイ君の過失だ、ケータイにセキュリティを掛けないのが悪い。

 

 

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