勝算はマイナス
目を覚ますと、後頭部をぶつけいたらしく、ズキズキする。周りが木ばかりなので森の中に落とされたのだろう。どの程度気絶していたのかと心配になるが、日の落ちていないことを見ると、時間はまだあるようだ。
「いてぇな、覚えてろよ」
つばを吐いたら、血が出てきた。
相手の姿も鞄も無い。鞄の中に学生証は入れていたので、鞄ごと奪っていったのかもしれない。
「あ、気が付いたんですか。死んだらどうしようかと思ってたんですよー」
笑顔で怖いことを言うやつだな。
「大丈夫だ、あ、鞄拾ってくれたのか」
中身だけ抜きとって捨てて行ったのだろう。確認するとやはり学生証は入ってなかった。しかし他のものは奪われていない。藁人形とくぎと札があるのは良かった。これは作るのに時間がかかるので、奪われたらそれなりにショックだった。
「あの、これからどうするんですか」
心配そうな顔でサキは聞いてくる。そういえばこいつはなんでついてくるのだろうか。俺に利用価値など無いはずだ。それはもう十分理解しているはずだが。
「その、人形はお守りですか?」
藁人形のことを言って居るのだろうか。これか? とバックの中から俺の自信作を出すと、見たくは無いと顔を手で覆ってしまった。なんだそれ。というか、見たくないまでの判断が迅速すぎるだろ、もう一寸眺めてから……あ。
俺の推測が正しければこういうやつは好きだ。正直、親切とか正義とかは大嫌いで自分を見下されてる気分になっていいもんじゃない。まぁそれも推測だ。
「どうしたんですか?」
だが、もう少し友好的に会話してやってもいいと思った。
「いやすこし考え事をしていただけだ。それよりあの始業式であいさつしていた奴の名前ってなんだか解るか?」
「千代緋色さんだったはずです」
よし、名前が解ればまずまずだ。
「よし、そいつはどこにいるか解らないか?」
だめもとで聞いてみたが、意外にも待ってください、と言ってサキは少しだけ開けた場所を見に行った。
「分かりましたよ、あっちのほうですね」
いや、いくらなんでも分かるの速いな! どうやら驚きが顔に出ていたらしく、
「強い人は、力みたいなのがわかりやすく出ていて遠くからでも見えるんです」
となぜか言い訳をするように説明された。
「そこに行くぞ」
「えぇ! その人能力試験で一番点数取った人じゃないですか。その人のとこ行くって……勝てませんよ!」
「俺がこの試験に受かるためにはそいつしかいない。」
能力試験一番だったら、そいつは有名人だろう。メディアへの露出もそれなりにあるはずだ。
ケータイを取り出してそいつの記事を探し出す。
見出しは天才、千代緋色の秘密に迫るだった。さすが、宇宙人に囲まれたにもかかわらずそれらをすべて倒してしまうような才能を持っている英雄は違う。
しかし、勝つと考えるとこいつしかいない。他に血液型も生年月日も好きなものも嫌いなものも簡単に分かるやつがいるとは思えないからだ。って嫌いなものはきゅうりか、意外だな。じゃあスイカも嫌いか。
だが都合のいい情報だけではなかった。本来喜ぶべきなのかもしれないが、その記事には彼女の能力も記されていた。
そう、核兵器でもびくともしない鎧と、ダイヤモンドを豆腐のように切り刻む剣を出現させる能力。
化け物でしかないなこいつ。
そもそも、剣と鎧を出現させるって、リアル錬金術じないか。