解ける人間
「正直、あそこまでする必要は無かった。
俺様が入学するのには、あそこまで大掛かりにする必要は無い。」
何も無い部屋で、家具はあるが、使った感が無い。
箪笥にはテープが張ったままだし、机も隅にほっぽって在るだけだ。
「実際、毎年ここの入学試験は五段階に分けられる。
一段階目はかなり甘い、入ろうと思えばノーマルでもパスできるほどだ。
本来なら、後三段階、試験があるはずだった。
しかし、俺様には時間が無い。その理由は解って貰えたと思う。
だから手っ取り早く、潰す必要があったんだ。
あんなにうまく行くとは思ってなかったんだけどな。」
「まぁな、あれは何があったんだ? 」
大体は解る、能力を人間が食い殺す、ジェノ。
ここ十年で、流行り出した病気、違う、能力に耐えられなくなった人間の末路があれだ。
あと、ぎっちゃんぎっちゃん言っていたのも聞きたいが、
流石に空気を呼んだ。
「そうだな、実は俺様が能力者だとわかったのも最近なんだ。
今は健康診断ってので解るらしいが、サボってたからな。
フリィも、あぁ、あいつの名前はシラバハンヒ、田崎、フィルノートって言うんだが、」
あー、ぜってぇ覚えられねぇ。
「その、田崎さんを助けたいのか? 」
よく解らんが、ここなら不治の病をお手軽に治せそうな奴がいそうだ。
それにあれは、能力の発動する部位、つまり、手から火を出せる能力なら手を切りはなせば、
なおるはずだ。
「あいつは突然溶け出した。理由は解らない、フリィの親は医者なんだが、
いたって健康な体らしい。しかし、体は消えていっている。
実際後、一日で消えてしまいそうだ。まぁ、俺様空間の中での時間を極限まで
遅くしているから、後24日、しかし、生体機能が持つかどうか解らないラインまでだと、
たったの2週間だ。」
詰んでるな。
「あー、助ける方法ってか、俺は何をすればいいんだ。」
「手伝ってくれるのか!! 」
「まぁ、同情程度でいいのなら。」
まぁ、野球は2アウトかららしいしな。
野球のルールも知らないが。
「と、言うより、何で俺なんだ?
そもそも、先生に言えばいいじゃないか。」
「駄目だ、そもそもそれで済むならここには来ない。あいつは特別なんだ。
世界で数人のノスって長いんだが、聞くか? 」
「いや、いい。」
これは経験から学んだんだが、特別な人間のことはあまり知らないほうがいい。
「とりあえず、クラスってあるだろ。
あれは、えーと、待ってろ。…よしこれ読め。」
隅から薄い冊子を持ってくる。
驚くことに手書きだ。
クラス、判断基準と書かれている。
E、火器を持った相手に気付かれて、無ければ制圧できる。
D、火器を持った相手と対峙しても、制圧できる。
C、火器を持った相手に襲撃されても、無効化、制圧できる。
B、戦車、戦闘機を制圧できる。
「まてぇ!! 」
槙最がビクッとなる。
「あ、すまない。少し取り乱した。」
Bクラスから人間じゃなくないか、
いや、Eクラスから化け物で、絶対、あぁ、もう。
A、戦略兵器の無効化が可能。
「いや、ねぇよ。流石にそれはねぇよ。」
「ちなみに、それ複数形だからな。」
槙最がいう。
「何が? 」
「正確には火器を持った複数のって感じだ。」
もうしらん。
俺は最後の項目を読む。
S、国家の制圧可能、もしくはその攻撃の無効化。
その冊子を床に叩きつけた。
「よし、解った、とりあえず、正規のルートじゃなくあいつを救うには、
ってか正規のルートは使えないんだろ? それで、ここにいるであろう
治せる奴に、頼み込めばいいんだな?
それだけじゃない気もするが、そうだといってくれ! 」
「あいつの周りでは、正確には半径一メートルで、全ての能力が発動できない。
それがあいつの能力らしい。更に、あいつの能力は心臓だ、心臓から発せられている。」
どうしようもない。
…いや、まだこいつは諦めてない。
何か穴があるはずだ。
「いや、待ってくれ。じゃぁ何であいつはあの空間の中に居たんだ? 」
「あいつの能力が始めて発動し始め、体が解け始めるのが、俺の空間に入った後だったんだ。」
「そうか、発動が出来ないだけで、無効化は出来ないんだな。
なら、一メールはなれたところから、そいつを治せる奴を探せばいいんだろ。」
もうやけくそだ、こんなもん聞いてしまったら、やるしかない。
化け物だろうがなんだろうが友達、いや、親友になってやる。
しかし槙最はまだ言いよどむ。
「ちなみに、Cクラスまで全員に話を聞いたが、それらしい能力は居なかった。
まぁ、隠してるのかもしれないが、可能性は低い。
だが、Bクラス以上なら俺様はいると思ってる。」
そういえば、Bクラス以上は別の校舎で会うことは無いとか、
トリガーが言っていた。
だからおれはBクラスになるんだとか言っていたっけ。
なんか、Bクラスにメイドが居るとか何とかで。
「あー、俺にどうしろと? 」
「Bクラスのバッチを10集めたい。」
なるほど、Bクラスに編入するのか。
「そういえば、さっきも聞いたが、何で俺に言うんだよ。」
「お前が一番信用できる。あいつの事は政府の人間に知られるとやばいんだ。の
「それ以上は言うな。巻き込まれたくない。」
「ああ、すまない。」
いや、でも既に結構巻き込まれてるのか?
「つーか、何で俺が信用できるんだよ。お前、知ってんだろ俺ノーマルだぜ。」
「少なくとも、人を見殺しにするような奴じゃない。
それに…二年に会ったんだろ。
俺様も二年は調べられなかったし、力になってくれそうなのはお前しかいないんだ。」
二年って、あの痛い女か…。
どうすれば会えるのかも解らない。
「そもそもバッチ集めって無理じゃないか。
お前も俺も一瞬でやられたし。」
「俺様に不可能はねぇといいたい所だが、一理あるな。」
「八方塞りじゃねぇか。」
とりあえず、今日俺が出来ることはない。
田崎さんのことを口止めされながらも、帰ることにした。
帰り際、少し気になったことが在ったので聞いてみた。
「お前の部屋、布団とか無いし、俺の部屋もそうだけど収納スペースとかも無いだろ。
どこで寝てるんだ? 」
「俺様が寝たら能力が保てない。気絶も振りをするのは辛かったぜ。
まぁ、ばれてもうワンバトル早川とやったんだけどな。」
俺は帰りながら、今日得た情報をかみ砕く。
つまり、槙最は、能力を誇示したいとか、就職するのに能力に依存したりとか、
そんな理由でここに来た訳ではなく、ノーマルの俺を見下すことなく頼り、
最後に、少なくとも一週間以上、寝てないのか。
俺の部屋の前に月がいた。
「…宿女さんから聞いた。」
「…なぜ誘わない。」
怒っている様だ。
きっと大会場に行ったことを雑魚から聞いたんだろう。
そんなことを言われても俺はお前の部屋がどこにあるのかも知らない。
しかし、丁度いい。
「なぁ、つっきー。たとえばさ、なんか他人なんだけど、死にそうなやつがいるんだよ。
それで、助けるのは、すっゲー辛そうなんだけど、どうしたらいい? 」
「…そんなことを言われても。」
月は、首をかしげる。
「いや、助けたほうがいいか、助けないほうがいいか、って話だ、どっちかいえ。」
「…助ける方法を聞かれたのかと思った。」
つきは目を指差す。
話すのがめんどくさいから、眼を見ろってことだろう。
部屋の鍵を開け、自分の部屋に入って鍵を掛けた。
そして、段ボールの中から藁を四分の一ほど取って、墨につける。
ドアをドンドン叩く音がするが無視する。
「はぁ。」
きっと、世界中でこれより深いため息をつける奴はいないだろうというくらい深い深いため息をついた。