巻き込まれ始まる
俺が崖の下に付いた頃には、槙最が吹き飛ばされた後だった。
これもう無理だろ。
「あぅ。」
雑魚が俺の上に落ちてくる。
「あれは、魔道書です、
威力は初歩ですが、最速で魔法の発動が可能です。」
「説明してないで降りろ。後キメ顔うざい。」
槙最を吹き飛ばした奴が、こっちに近づいてくる。
「ちっ、お前は一番速く発動できるやつ唱え始めろ。
俺が行く。」
「えっ何で? 私達を倒してもバッチはもらえないし、
「馬鹿か、いや、雑魚だったな。
危害を加えようとする奴は先に潰すだろ。」
俺の話の意味がわかったのか、
「な、なんか慣れてるね。でもダメージを与えられるかどうか。」
「逃げるんだよ。それに絶対あれ食らったら痛い。」
どのくらい効果があるかは分からないがやるか…。
使えるのは一種類。
勝負は相手のメンタルに寄るな。
「君たちは潰させてもらう。」
こいつ、プレートにEと書いてある。
Eクラスか。
マジかよ…。
相手が呪文を唱え始める。
「レベル6、攻落の戦時! 連
レベルが上がってるな。
俺は開かれた魔道書めがけて真水の入ったビンを投げる。
「しまった。」
そういうと相手は魔道書を抱えるようにしながら後ろに下がる。
やっぱり、あれ貴重なもんなのか。
解るぜ、この真水も買うとかなり高いんだ。
「このっ。」
俺が右に回ると、それを追って魔道所がまた開かれる。
「レベル2、
それ以上は言わせない。
今度はヒトカタ、人の形に熟紙を切り取ったものだ、を投げつける。
相手の周りを回るだけだが、この短い時間では
一体を書き上げるのが精一杯だ。
何よりこれ作るのに時間がかかるので、もったいない。
三度回るように書いた。
一体だけでは何の呪いも効果もない。
大体、千体用意できれば俺の新しい母さんがやったのと同じことが出来る。
そして母さんのことを思い出し、憂鬱になる。
「くそっ、」
よし、相手も魔法なんかに慣れているからか、変な警戒心が生まれていているんだろう。
攻撃を中断してヒトカタに注意を引かれている。
凄く馬鹿にしてやりたいが、今はそんなことをしている暇は無い。
後はあいつにどうに近づいて、かつ、この札をくっつければいい。
惰性の札って言って、無気力になる札だ。
倒す必要の無い俺たちを倒す気力ぐらいは、奪ってくれるはずだ。
「エアーぼむ! 」
さっきより威力は小さかったがヒトカタが吹き飛ばされる。
くそっまだか。
だけど、今ならいける。
次の奴が出る前には、近づけるはずだ。
「レベル11、風牢! 」
相手がそういうと、両足が動かなくなる。
前につんのめるのと同時に、足が刺すように痛い。
何かに締め付けられているようだ。
「くそっ、負けたくねぇ。」
「ノバール、к、シー絽セムガン!妖精たちは靴を作るのをやめない。
第八章ゼラ、ハク 、ji ロード。」
やっと、ボツボツ呟いていた雑魚が声を張り上げる。
「原典!?」
相手が驚いた声を上げるとともに、俺の脚が重くなる。
「なんだ?」
「踏み込んでください! 思い切り相手を殴って! 」
雑魚に言われたとおりに前に進むと、速い、一瞬で相手の間合いに入る。
どうやら、一歩だけ足が速くなるとか、そんなんだろう、
なかなかに愉快だ。
思いっきり相手の腹に打ち上げるように殴りつける。
「グハっ。」
相手が苦悩の声を上げる。
勝った、確信した。
だが、相手はそれでも呟いた。
「レベル4、リザグリッド。」
相手の右手から、よく解らないが、痛い。
火柱が俺の体を貫いていた。
俺は手を伸ばす。
もう一発分殴ってやる。
「レベル12、風の剣。」
俺のこぶしも、最後の頑張りも、全てかき消される。
俺は教室に飛ばされたようだ。
既に槙最もいて、罰の悪そうな顔で、
「油断しただけだ。」
と言った。
ボーっとしていると、雑魚もぽんと小気味いい音を立て、雑魚も現れた。
「惜しかったですね。」
マジで6000円は惜しかった。
勝てないなら初めから挑むんじゃなかった。
真水は高いのだ。
「そういえば、あいつが原典とか何とか言って驚いてたけど? 」
あーといった後、雑魚は、
「漢字とか略語とか使って短くまとめるのを競ってる時に、
ひらがなどころか、漢文でいったみたいなものですから。」
解りづらいたとえだ。
「あれか? スーパーコンピューターと戦うのに、
ノートパソコン持ってきましたてきな? 」
「いえ、そろばん持って来たかこいつって感じです。」
「でも結構、使える魔法だったじゃないか。」
「うーん、私も驚きました。圧倒的に時間が足りないから、やけくそで
貴方の靴の加護を高める魔法ってのを使ったんですよ。
少し靴に対する魔法が聞きにくくなる程度の魔法のはずなんですけど…。」
「いや、なんか速くなったぞ。
ってかお前そんな効果の魔法で、良く踏み込めとか言えたな。」
雑魚が多少は足が速くなるはずなんですよ、と言った後、
「もしかしてその靴凄く大事にしたりしませんか? 」
「いや、まぁ三年くらいずっとこの靴はいてるけど。」
「もしかしたら、その所為かも知れませんね。」
うんうんと唸っている。
そういえば、
「槙最、お前、能力使えよ。」
「俺の能力はまず、発動するところの地理とか風の流れとか、
その他もろもろを完全に意識しないと発動しない。」
じゃぁ何で突っ込んでいったんだよ。
使えないな。
「意外と不便なのか。」
「神も俺様に嫉妬したのさ。」
「まぁ、いいや。なんとなく俺が嫌いなタイプじゃないことはわかったし、
教えてやる、魔法、まぁ、俺も人から聞いたのと、本で読んだのだけだけどな。」
しつこく聞かれるのもうっとうしいし。
こうして俺は、調べた事と、人から聞いたことを教えてやった。
時々、雑魚が訂正を入れてくるというかこいつが話せばいいと思う。
「二年生に会うなんて凄いですね。」
感想はそこかよ。
「ふむ、じゃ、何か書いてあるのに気をつけながら、
何か言い出したら注意。
書き出したら更に注意ってとこか。」
まぁ、そうだけどさ。
もう少し詳しく話したんだけど。
「黒独、お前は、意外と話が解る奴だな。
今日一日、話して信用できる。
そこで、頼みがあるんだが、俺様には時間が無い。」
手を握られる。
すると世界が変わった。
一面花畑だ。
こいつにこんな趣味が合ったとは。
「ここも俺様空間って奴か? 」
「来てくれ。」
そういって、花畑の中を連れて行かれた先には、
医者と、花畑には不釣合いな病院のベット、そしてそこに横たわる女の子がいた。
そして、俺の嫌いな如何しようもならない事ってのがそこに在った。
「あぁ。君か。 娘の見舞いかい? すまないな。
既にこんなに力になって貰っているって言うのに。
…お友達かい? 」
蒸発している、今も煙を上げながら、足が、手が。
女の子、俺より少し小さいくらいの、髪の毛は身長ほどまであり、金色の軽く掛かったカール、
そこまではいい。
手と足が、体の中心から離れたところから、ゆっくりと解けていっている。
「黒独、これを見て表情も変えないか。いい奴だな。」
槙最、それは勘違いだ。
そんなんじゃない。
少し思い出に浸ってただけだ。
流石にここまで、絶望的じゃなかったかもしれないけどさ。
手と足から蒸発していってる女の子が、声を出す。
「もう、殺して、外に出して、楽になりたいの。
ぎっちゃん、殺して殺して殺して殺して殺して。
ぎっちゃんのことなんか嫌い。」
「また来る。」
槙最が顔を背けて、そういった。
そういうとまた世界が変わる。
元の世界に戻ってきたらしい。
雑魚が居た。
「あー二時間もどこに行っていたんですか。」
二時間? 5分くらいだと思ったんだが。
「おい、俺の部屋で話すぞ。」
「えっあれ、私は? どうしてー。」
俺たちは雑魚を教室に置いて、槙最の部屋に連れて行かれた。
槙最の部屋は意外とものが無い部屋だ。
そもそも、布団すら見当たらない、ものがひとつも無い部屋だった。