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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
4/108

敗北

 体育館からは出た。とりあえず移動しなくてはならない。あの竜が、こっちを狙って無いとしてもあまり近くに居たいものでは無いからだ。

 俺が選べる道は3つ。校庭か校舎か、またこの学校の周りを囲むように生えている林の中か。生徒が流れ込んでいるように見えるのは校舎の中だ。

 

 学校の敷地外はさすがに一発退学ということもありえそうなので、この三つくらいしか思い浮かばない。こんな事ならもう少しこの学校の事を調べてくれば良かった。

 そもそも2つ以上の学生証の所持となると学生から学生証を奪い取る必要がある。そう考えても、敷地外はない。俺は合格しなければならないのだから。


「あの、私考えたんですけど」


 学園章を奪うにはここにいる人ならざる奴らを倒すしかない。

 俺に可能なのか? とりあえずあの竜には正面から戦っても絶対に勝ち目は無い。絡め手でも怪しいところだ。


「やっぱり単純な力じゃあなたも私もかなり、不利だと思うんです」


 どうすればいい。

 切れるカードがない。

 せめて準備する時間と材料があれば、いやそれでも、人ひとりをぼこぼこにするのはかなり難しい。



「泣きたい……」

 そろそろ、移動する場所を決めるか。俺が学生証を奪うには、何か道具がいる。素手で人、一人を倒すのは難しい。

 バールのようなものを手に入れて、建物の中で身を隠し、後ろから一振りするのが一番可能性がありそうだ。

「よし、とりあえず校内に行くぞ」


 サキの泣きそうな顔が、ぱぁっと花が咲くように笑顔になる。

 これが女の武器って奴かと感心していると、ぺらぺらと話し出した。


「あ、私もそう思ってました。校舎内なら、相手も自分もあまり派手な攻撃は出来ないですし。私たちはもともとそんなことできませんしね。まさにノーリスク・ハイ・リターン。そうと決まれば急ぎましょう。ここにいると危ないですよ?」 


 本当に饒舌になったな。

 そういえば俺が炎や雷を出せるとは思わないのだろうか。此処では出せる奴の方が多いのだから、派手な攻撃が元々出来ないと言い切るのはおかしい。


「そもそもなんでそう思うんだ?」

「はい!なんでしょう。何のことですか」

「だからなんで、俺に派手な攻撃が出来ないと思うんだ?」

 サキは不意を突かれたような顔をした後、すぐにふっふっふと不敵に笑い始めた。少し気持ち悪い。


「私は超能力者なんですよ」

 おい、能力ないって言っていたじゃないか、嘘ついてたのかよ。

「私見えるんです。その、力! みたいなのが?」

「なんだそれ」

 力!とか言われても何もぴんと来ない。

「えっと魔法使いに会ったことあります?」

 無い、しかし会った事があるのが普通みたいに聞かれると、何となく首を横には振りづらかった。


「私はまず魔力が見えるんです。こう一人でファミレスいったりすると、あ、あの人魔法使いだって解るんです」

 誇らしげにファミレスに一人で行った話をされても反応に困る。それに魔法使いは魔法の箒とか持っているんだろう? だったら俺にも簡単に見分けられる。

「おい、そこのお前たち!おいらの名前は駈足駿だ!!」

 誰だ? このもっさりした坊主頭は。なんか野球部に入ってますって感じだ。高校のときは甲子園で活躍したことだろう。

「な、なんですかいきなり、私は鈴木サチです!」

 あ、そこ自己紹介するのか。なるほど、第一印象ってのは大切らしいからな。


「お前たち学生証は持っているか。持っていないなら別にいいんだが、持っているなら置いていけ、そうすれば痛い目見ずに済む」

 持っているが、そう聞かれて、持ってるなんて答える奴はいないだろ。

「持ってますけど、置いて行きません!」

 こいつは馬鹿なのか、馬鹿なんだな。


「おい駈足、まずは話をしようじゃ」

「問答無用!!」

 駈足は右足を大きく踏み出した。そして膝に両手を乗せる。あいつからここまでの距離は約5メートルだ。

 さすがに何か来ても避けられるだろう。

 魔法ってのは呪文を唱えないと発動出来ないらしいし、その間に物陰に隠れるくらいは出来る。問題は敵がどんな攻撃をしてくるかを見極めることだ。


「き、来ますよ!」

 サチが叫ぶ。なんだと聞き返す暇なく、駈足にタックルされていた。速いなんてもんじゃない、こんなの避けられるわけが無かった。

 肺の中の空気を無理やり吐き出させられる。そのまま妙な浮遊感に襲われて、前も後ろも解らなくなった。

 

 能力者って、こんなに人間越えてんの?

 




 昔の事だが、俺の家のことを周りの奴は馬鹿にして、恐れて、化け物だの人にいろいろ言われてきた。あとで、そういうやつに教えてやろう。

 こういう奴こそが化け物というんだ。

 そのはずなのに、なんでこいつらは英雄で俺たちが化け物なんだ。

「おいらの力は黄金の右足。右足が無敵になる超能力だ」

 どうやら俺は空中まで、こいつに押し上げられていたらしい。しかし、それも此処までだった。空中で、地面、いや、森のほうに思いっきり投げられて、血が頭に回らなくなる。俺は意識を失った。


 それよりも、そのネーミングセンスはどうなんだ? サッカー少年じゃないか。



 ◆◇◆◇◆◇



 おいらのこの黄金の右足という能力には弱点がある。

 強すぎる力はリスクをはらむものだ。


 右足が最強になる代わりにこの能力は、使うと30分は右足が動かなくなる。

 相手は、林の中に吹っ飛ばしてしまったので、学園章の回収は不可能かもしれない。

「くそっ、タックルした右肩がすごく痛い」

 駈足は誰にも聞こえないような声で一人呟いた。


 これも弱点だ、右足以外は強化されない。

 


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