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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
プロローグ
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 ドラックストックナンバー1400000000003


 ドラックストックナンバー1400000000003



「そこで見たのか、お前の腕に埋め込まれた発火装置を。」


 そう、俺の腕にはライターが埋め込まれていただけだった。

 彼の言ったとおりだ。


「そこで、秘密にしたのは正解だったな、

そうでなければ、殺されていたかも知れん、

わしのほうが先に気づいてよかった。」


 その言葉で私は気付いた、私の親友は気付いたのだ。

 能力の秘密に、そして捕まった。

 彼が殺人など犯すはずがない。

「もう一度聞こう、能力についてどう思う?

チャンスは一度だ、間違えれば消す。」


 背筋が凍るような一言。

 だが、私には親友がついている。

 彼の言葉をそのまま伝えればいい。


「人は最も排他的な生き物です。

宇宙人がいる間はいい、能力者はただの英雄だ。

しかし終わればそれは違う。

強大な力を持つ能力者は、恐れの対象です。

実際、能力者はノーマルを支配するだけの力を持っている。

能力者にその意思が無くとも、世界は能力者のものになる。」


 会長は目をつぶり、静かに私の話を聴いている。

 この話が終われば私は逮捕されるかもしれない。 


 危険思想、明らかに捕まる。

 しかし止まることはできない。


「それをとめる方法は2つ。

能力者を支配するか、我らが能力者の振りをするか。

そして前者は無理だった、生きる英雄は強すぎた。」


「もういい。」  


 会長が静かに私の言葉をさえぎる。


「辞表を出せ。」


 私はどこかで間違えたのだろうか。

 まったく見当違いのことを言って自爆したのか?


「お前は今日からわし直属の部下だ。」


 


 

 突然の昇格に戸惑ってはいたが、

 秘書さんに大量の資料を貰った、持つとあごの下まで届くほどだ。

 右も左もわからないまま会長室から退室する。


 一番上の資料を見ると給料明細のようだ。

「あ、間違えました。これは私の給料明細です。」

 わざとらしく、てへっと舌を出す、どうやら名前は篠崎 可憐さんというらしい。

そして給料は私と桁が三つ違った。 

 

「ふっふっふ、やる気でました? すごいお給料ですよね。

あ、でも私こき使いますから。いやー、私、部下もいなくて、仕事がたまってて

大変なんですよ。

何しろトップシークレットですから。」


 意外ときつそうな仕事だ。

 慣れるまでは徹夜の日々かもしれない。

「解りました、明日の朝まででいいですか?」


「あ、いえ、ならべく速くがそりゃいいですけど。」

 なるほど、これはつらい仕事になりそうだ。

 


 案内された部屋には二人分のデスクが用意されていた。

「ここで仕事をします。後、仕事内容はトップシークレットなので、

そこのところを注意してください。」 


 資料には常識すべてを否定する内容だった。

 まず、能力者は人口の7パーセントしか存在しない。

 そして能力者と人では脳の稼働率というものが違う。

 これが能力者とノーマルを分ける基準だそうだ。


 ノーマルには健康診断の時に、どんな能力かを調べるという検査

と偽って私の腕にあったような装置を付けられる。

 つまり、この時に手術で失敗するか、この作業を受けていない人間が

ノーマルとして差別を受けていたことになる。


 ノーマルがノーマルを差別していたのだ。


 そして、能力者とノーマルの戦争が起きようとしている。

 宇宙人の技術から人は多くを学んでいた。


 それによって、ほとんどの人間が自分をノーマルだと気付かないまま、

体を改造され、能力者となる。  

 それに気付いたものは捕まり、報道規制もしかれ、情報はとどかない。


 そうして平和は保たれてきた。

 

 しかし、ノーマルは力を持った。

 技術の進歩で人知れず、能力者と同じ力が手に入るようになった。

 そして、この不自然な状況は打破しなければならない。

 

 人間はあるべき姿に戻るべきだ。


 そのためには戦争だ、いや、ただの虐殺かもしれない。

 国、いや、世界は能力者を全員、消す気だ。



「あのー、速いほうがいいってそう意味じゃないって言うか、

それ、手分けしてかだつける感じって言うか、

一週間かける奴っていうか、

仕事速いですね、山峡、、、、さん。」 


 難易度はそれほど高くない、大丈夫だマニュアルどうりやれば何のことは無い。

 足手まといにならなくて安心した。

  

 あと、あの資料の山は一週間以内に二人で片付ける仕事だそうだ。 


「篠崎さんの方が先輩じゃないですか、

それに二人でやれば今日は11時には帰れますね。」


「山峡さん、私は可憐先輩と呼んでください、

もう私、三日分は働いたんですけど。

定時に帰らせてくださいよー。」


 ? 私が今日、初めての仕事だから気を使っているのだろう。

 だが、先輩より早く帰るわけにはいかないだろう。 


「うわー、なんで残業がさも当然のようにぃーー

今日はあれです! 歓迎会ですから! 飲みましょう、

おごりますから! ね! 」


 なぜか必死になっている、11時に帰れるなんてかなり速いほうだろう。

そんなに酒が好きなのだろうか。



「あ、手伝いますよ。半分ずつだと少しきついでしょう。」


 可憐先輩のデスクから資料を貰おうとすると出した手を叩かれる。

「だめです! なんで今日からの人と同じ量の仕事ってだけでも

立場が無いのに、なんで助けられなきゃいけないんですか!

仕事速すぎですよ!! 手加減してください。」


 最後の頃には声が聞き取れないほど小さくなった。

 可憐先輩は 話しながらもパソコンにデータを入れていく、

慣れている感じはあるが、私の会社では生き残れないのは間違えない、 

入力するところをミスっているのを見つけた。

「あ、そこ、間違ってますよ。」

 

指摘すると、その箇所を直しながらも睨まれる。


「私二年目なのに、追い抜かれた。

って言うか私より断然仕事速い。」


「いや、教え方がお上手だったんですよ。」


「私! デスクの場所教えただけじゃないですか!!!!! 」


 最後のは絶叫に近かった。


「手が止まってますよ。」


「もう話しかけないでください、仕事が終わったんなら

お茶でも持ってきてください。私は先輩ですから。」


 先輩の所をかなり強調する。


 給仕など何年ぶりだろうか、もしかしたらやったこと無いかもしれない。

 コーヒーがある、しかもインスタントではない。

 本社は違うな。

 名前はわからないが、横にあった説明書どうりに機械を動かしコーヒーを入れる。


「どうぞ。」


「あ、ありがとうございます。ムカつきますけどおいしいです。」

 

 これは本格的に嫌われたかもしれない。

 今日できる仕事が無くなってしまったので、帰る準備を始める。

 そういえば定時って8時だっけか、定時どうりに帰れるなんて何年ぶりだろうか。


「あ、残業手当でますんで、記入しといてください。」


「はい? 定時ですよね。」


「本気でいってます? 朝8時からだって言いましたよね。」


 何かがかみ合わない、いったい何が言いたいんだろう。

 コーヒーを飲みながら首をかしげる。

「…定時は5時ですよ。」

「都市伝説ですよ。」

「真顔で何言ってんですか、やっぱり飲みましょう。

なんで私まで残業しなきゃいけないんですか!! 」


 別に私は何の強制もしていないのに、なぜ怒鳴られているのか。

「今日はおごります! おごらせてください! そして明日から

仕事を教えてください! 」

 

 明日は前の会社に戻って引継ぎと、社長に挨拶と、このことを報告したら

送別会を開いてくれるというメールが来たので、早く帰って明日のために寝なくてはいけないのだが、

勢いに押され、入ったことの無いような店に連れてこれられてしまった。

 飲んだことの無いような高級な酒を飲んだ。

 

「それにしてもすごいですねー、仕事できて、私のことなんかもう軽蔑してますよねー。」

 完全なからみ酒だ、

 まぁ、同僚にもこういう奴がいたから扱いには慣れている。

 うまく話を逸らせばいい。

「ははっ、私の同僚の方が、私なんかより仕事できましたよ。」

「あ、その同僚って布谷さんの事ですよね、その人の為に左手切り落としたんでしょー。」


 なぜか隣に座って、近くによってから話し始める。

「い、いや、そういう訳ではないですよ。」

 肩に手を乗せてくる。

「隠してることありますよね、普通、親友がいくら

会社を辞めさせられたって手を切ろうとしませんよねぇ、ホモさんですかぁ。」

  

 ミントの香りがする。

 中年になると、細かいことが気になる。

 まぁ、彼女の息に興味があっただけじゃないかと聞かれると返す言葉は無い。

「教えてくださいよー。」


 布谷、なんか解らんがありがとう。

「いやいや、特別なことなんて無いよ、ただ、私の能力なんて

100円分の力なんだなーって。」

「あー教えてくれないんですかー。」


 店員さんがワインを持ってくる。

「ふふふふふ、40年物ですよぉ。」

「まだ飲むんですか? 可憐先輩、顔が真っ赤ですよ。」


 また睨まれてしまった。

 

「あー、なんで手を切ったかでしたよね、

いらなかったんであげたんですよ。」


「誰にですか!! 」

 ぐいっと身を乗り出す可憐先輩、近い。


「あ、終電です。足りないと思いますけどこれ置いておくんで、

後で埋め合わせはします。」

 逃げるようにして帰った。

 終電までまだちょっと時間はあったが私が耐え切れない。

 妻とは離婚したばかりだったが、なにより、欲情してしまったら大学生になる娘

を思い出してしまい、罪悪感が芽生えてしまう。


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