第一章 ノベルチィスクラブZトリガー0000000000006
第一章 ノベルチィスクラプZトリガー0000000000006
この国を牛耳るとある財閥、私はそのグループ傘下の保険会社の管理職だ。
恐れ多くも、その財閥の会長が私に会いたいといってきた。
この国の約3割はこの会社、またはこの会社の傘下の会社だ。
雲の上の人だ、そもそも私のような小さい会社の人間にいったい何のようだろうか。
「山峡様、お入りください。」
少なくとも、私の5倍の給料を貰っているであろう本社の秘書が私を呼ぶ。
こんなに緊張したのはいつ以来だろうか、秘書に連れられ荘厳な赤い扉をくぐり、
会長室へと足を踏み入れた。
でかい部屋だ、壁には大きく天上と墨で書かれている。
中央に鎮座しているのが日本でもっとも金を持っているであろう大神 聡だ。
「大神会長、お客様です。」
「忙しいところ来てもらってすまないな。」
彼の話は、これまでの私の人生と、これからの人生を捻じ曲げるものだった。
戦争の始まり。終わりの始まりの第一歩はここで始まる。
「能力、これに何か違和感を感じたことはないか? 」
大神会長は私にある資料を渡した。
私は黙って受け取る、何のことはない、能力者の増加のグラフだ。
「宇宙人の襲来、この時、約3パーセントの能力者がいたという。
つまり宇宙人を撃退したのは、この3パーセントだ。」
歴史の教科書にもすでに載っていることだ。
彼らは、生きる英雄と言われ、国から、地位、金、名声すべてが手に入るという。
私には会長が何を言いたいのか解らなかった。
「そして宇宙人撤退から、8ヵ月後、人類が急激に能力を開花させ始める。
だったかな。」
「そのとおりでございます、会長。」
私の緊張をほぐそうとしたのだろうか、厳しそうな顔をひきつけながら笑う。
しかし、怖い。
「おかしいとは思わんかね。危機が去ってから人間の才能が開花している。
君の意見を聞きたい。」
いよいよ私が何のために呼ばれたのか解らない。
しかし、会長の機嫌を損ねたら私の会社自体が危なくなる。
「あと、はい、それは能力の開花に人間の体が準備期間を必要としたからかと。」
「違う。そんな教科書どうりの話をさせるために呼んだと思うのか? 」
会長の言葉が私を射抜く。
ここで間違えたら、私一人の首が飛ぶどころではない。
「わしは、あんたの話を聞きたいんだ。わしはあんたの事で知らないことなどない。
だがお前の言葉で聞きたいのだ。なぜ、自分の左手を切り落とした? 」
そうか、そういうことか。
「私はくびですか。」
「それは今から判断する。」
「無能力者と同じになった私は、会社から追い出されるのですか! 」
これじゃ、彼に顔向けできないじゃないか。
「違う! まぁ座れ、これが私の能力、エアークリエイトだ。
横文字は苦手なんだが、娘がこちらのほうが言いというのでな。」
空気で物体を作る、つまり空気の圧縮だ。
触れている空気をこね回して何でも作れるらしい。
秘書が空気で作られたいすを持ってくる、色がないので座るのに苦労した。
「わしの意見から言おう、わしも含めて、少なくとも9割がノーマルだ。」
これは、突拍子もない話で、私以外の人間は信じようとすら思わないだろう。
私は過去を話すことに決めた。
私は幸運な男だった。
不況のどん底まで落ち込んだこの国で、就職できたのだから。
彼は不幸な男だった。
私よりもよい成績を残しながらも、就職は出来なかった。
能力開花、それは人間の生存本能が引き起こした一種の奇跡といっていい。
私は指先から炎を出せる。
くそみたいな能力だが、ステータスだ。
在るのと無いのでは全然違う。
初め、私と彼は同じ会社に就職した。
しかし、彼には能力がなく、私にはあった。
仕事は彼のほうが出来、性格もよかった。
本当に、本当に、いい奴だった、あいつと私は幼馴染で、親友だった。
この会社は大手の保険会社だ。
能力などほとんど意味を成さない、能力を活かせる仕事のほうが少ない世の中なのだ。
確かに先輩で、移動能力のある人がいたが、車を使っていて、
特に仕事に活かしている感じはなかった。
能力を持っていても仕事には何の影響もない。
せいぜい、魔法使いくらいだろう。
しかし、魔法使いも魔法を覚えなければただの人。
そう、そもそも手から炎など出せても意味などない、ライターが在ればいいのだ。
能力で人の価値が決まるのなら俺はライターほどの価値しかない。
しかし、能力を持つ人が8割、ノーマルといわれる一般人は2割。
差別の対象となるのはすぐだった。
彼は会社を辞めた、いや、辞めさせられた。
彼が無能の烙印を押され、その待遇に激怒し、会社を辞めるときの言葉は
今も忘れられない。
「お前らに出来て、俺に出来ないことなんてひとつも無い。」
会社を出るとき、彼はこう言った。
私は何もいえなかった、その頃にはもう俺は部長にまでなっていた。
私は止めた、お前は私なんかより全然ここにいるべきだ、と。
彼の送別会の時、彼は私に向けてマッチをすって見せ、
よく能力で紙をバラバラにしていた秘書の前で、シュレッダーを使って見せ、
よくコーヒーを能力で沸かしていた女子社員に、コーヒーをいれてやり、
文字媒体に触るだけですべての文章を理解してしまうやり手の社員には
自分の業績をプリントアウトして、、、
誰も何もいえなかった、影で彼のことをノーマルだと馬鹿にしていた人間
もそうでない人間も、誰もが彼の行動を理解しなかった。
彼が帰った後、
「俺、業績あいつより悪い…。」
やり手の社員が凹んだだけだった。
しかし、私には解る。
彼は私たちをあざ笑っていたのだ。
お前たちは、能力とやらで何ができるんだ?
それは本当に俺に出来ないことか?
彼の業績を超えた社員はまだいない。
そして私は、その日、ある真実を知る。
だから私は、能力者のいない世界を夢見てきた。