不正と母さんの天秤
「おい、6時間終了だ。ルールは6時間終了時点で学生証を持ってることだからな、
持っているか? 」
斉藤先生が聞いてくるが、俺たちは受付に渡してしまったので持っていない。
その説明をすると、さっきまでのはさっきいた金髪の作った擬似空間で、
こんなことは前例が無く教員全員が知らないふりに付き合ったのだが、
それに気付いた生徒が便乗して、成り済ましていたらしい。
俺には何がなんだか分からなかったが、とりあえず頷いた。
「少し複雑なんだが、今年の試験は大変なことになった。
まず最初の放送から魔法でハッキングされるという軽く事件だったからな。」
今年はレベルが高すぎて、先生はついていけんとため息をついている。
「さて、今、先生たちは意外と混乱した状況にある。」
「今こっそりと先生がお前たち学生証を渡しても合格になれるだろう。」
「くれるのか? 」
なんかいい方向に話が進んできた、俺はこの腕がなんで
生えたのかを聞きに来たのだが、合格のほうが大事なので気にしないことにして
話を促す。
多分俺の腕の事を気にしているんだろうか、これはラッキーかもしれない。
「だが、条件がある。」
「なに? 」
意外だ、俺の腕を食いちぎったお詫びというわけじゃないのか?
「お前のお母さんいるだろ、連絡先を教えてくれ。」
「…。」
いや待て、おかしいだろ。
この先生なに俺の母さん狙ってんだよ、
(なんか、話が複雑で黙っていたけどこの先生最低だ!!!
私、こんな速度で人を軽蔑したこと無いよ! )
たしかに、普通ならここで教えないだろう。
しかし、俺の母さんと斉藤先生の間で何があったのかは分からないが、
正直、他人としか思えない何人目かの母さんよりと、
俺の合否を天秤に掛けると悩む。
「よし、教えよう。」
(いいの!? 何かドロッドロな展開しかまってない気がするんだけど。
そして悩んでないよね、即答だったよ。)
「い、いいのか? まぁ安心してくれ、先生は少しだけお前の母さんと
仲良くなりたいだけだからな。黒独、いい奴だな。」
すごくいい笑顔で俺たちのポケットに学生証をねじ込む斉藤先生。
俺は家の電話番号を教えた。
(わ、私も、もらっていいの?
やったー、今からじゃほかの大学捜せないし焦ったよ。
黒独君ありがとう。)
「「学生証を現時点で二枚以上持っている方は、
体育館に集合してください。あと、私の放送にハッキングした、くず生徒は
怒らないから、ちょっと校庭で待っていてください。」
感情の抑揚は声からは判断できないが、明らかに怒ってるだろこれ。
体育館に集まった生徒は初めの十分の一ぐらいに減っていた。
ちょっと半数ぐらいに減らそうとしただけなのにと、
校長先生はぼやいていた。
俺ら以外の奴は、疑似空間ってやつにすぐ抜け出すか気付くかして、
学生証を手に入れていたのか。
鬼はきっと気づかないだろうから、不合格の可能性が高い。
そのあと、持っている学生証の数、能力判定の点数、でクラスを分けられた。
俺は、総合ーAのクラスだそうだ。
隣を見ると、月も同じクラスだった。
「…一緒だね。」
「いや、こういう時だけ喋ってみても好感度はあがらねぇよ。
頬を赤らめんな。」
(何だよー、そんな事いいながらも好感触じゃないかよー。
ちょっと焦ったじゃんかよー。
私はあなたの心まで覗けるからね、隠し事は不可能だよ。)
得意げな月。
「もうやめろよ。」
(いや、私のこれ、ほかの人に対象を入れ替えないとだめだし。)
「知るか、俺が対象になる前までに対象だった奴に戻せよ。」
月は、はぁ、と深いため息を吐いて、分かってないねという風に
お手上げだよ、みたいに手を肩まで上げて首を振る。
(私、お母さんが前の対称だったんだよ?
言ったでしょ、もうあの人の心の中を見続けるのは嫌だよ。)
あぁ、浮気だっけ。
(うん。)
俺には関係ないな。
(あ、ここがそのクラスじゃないかな、早く入ろう。)
クラスに入ったらこいつと話さないようにしないと
いけないな。変な奴だと思われそうだし。
(いきなり、いじめ!?)
「いや、お前と会話すると、独り言を女の子に言い続けるやばい奴だろ。」
(だから心の中で話しかけてくればいいのに。)
いや、なんかその会話方式に慣れたら、お前完全に俺に寄生するだろ。
(もう私、してる気がする。)
俺もそう思うけど、認めたくねぇ。