鬼対竜
そこはもう、体育館とは言えなかった。
鉄骨は剥き出し、嫌なにおいが漂って、完全に火事の跡だ。
「はっはっはー。」
中にひとがいる。後姿だけが見えている。
そしてそいつは、笑いながら、倒れた。
「おう、黒独。とりあえず魔法使いってのには勝ったぜ。」
奥から、よく知った顔が現れた。焦げていたが。
いや燃えていたといったほうが正しい。
もう制服の袖はないし、こうなんかいろいろ大変なことになってはいたが、
こいつが勝ったというんだ。
勝ったのだろう。
「なにを。われはまだ負けては…いない。
われの名を借りココに存在を記せ。」
しかし、負け犬はまだ負けを認めない。
「ドラゴン!!! 」
「「グァァァァ」」
青いドラゴン。その頭の上に負け犬は乗っていた。
どういう仕組みかはわからない。
召喚術ってやつだろうか。
しかし今になっては意味をなさない。
鬼が笑っていたからだ。
どんなピンチもこいつが笑ってれば何とかなる。…はずだ。
俺が、ヤンキーに絡まれていた時も、犬に追いかけられた時も助けてくれた。
そしてあいつは言っていた。
俺は銃には負けないと。
なんたって伏虎は最強の武術だからだと。
魔法や超能力なんてものが現れる前は。
「噛み砕け! 」
まっすぐ、大きく口を開け、鬼にドラゴンが迫る。
鬼は、思いっきりドラゴンの上に載っている負け犬めがけて、
大きく振りかぶって石を投げた。
「ふぎゃ、」
負け犬にヒットすると同時に、ドラゴンは煙と化した。
「さぁ、帰るか。」
勝利を収めて、満足したのかそんなことを言い出す。
「いや、この学校に入るんじゃなかったのかよ。」
「忘れていた。」
どうせそんな事だろうと思っていた。
俺はいいといったんだが、負け犬にも、学園章をわけてやった。
いい戦いだったからだそうだ。
どうやら、二人で6時間ずっと戦い続けていたらしい。
他にも巻き込まれたのか気絶した奴がいたが、
俺は鬼をむかえに来たのだ。助ける義理などない。
「…すごい。…何の能力なの? 」
それまで何も言わなかった月が鬼に尋ねる。
「誰だ。」
月は俺のことを指さし、
「…友達。」
鬼が怪訝な顔で俺を見るから、しょうがなく、
頷いてやった。
「うん。そうか、名前はなんて言うんだ俺は鬼だ。」
それにしても変なことを聞く、そんなこと聞かなくても、
月にはわかっているはずだ。
(いや、心を勝手に見るのは、失礼でしょ、目を合わせなければ
いいんだし。)
俺に失礼だから。
「…月。」
「つき? 」
「…そう。」
無視され始めた。
そしてお前は、それキャラ作ってんのか。
(ち、違うよ。人と話す時はいつもテンパってこうなっちゃうんだよ。)
「ない。能力などない。俺が出来ることは努力のみ。」
「…本当に? 」
「なぁ、黒独、お前喋らないな。どうしたんだ? 」
月のせいで喋る必要がなくなってつい無口になっていたらしい。
「いや、なんでもないんだ。
早くいこうぜ。受付にはまだ時間があるけど、こんなとこでゆっくり
してたら、燃える。」
そうだな。といって俺たちは校舎に戻った。
負け犬は置いて行った。
気絶したまま起きなかったらそれはそいつのせいだ。
そう、基本俺たちにやさしさは必要ない。
そうにきまってる。
まぁどうでもいい。
すべてはこれから、これからだ。