逃亡劇
少し前は、意外と普通だと思っていたこの校舎だったが、広い。
とてつもなく広い。
先ず3階まで上がってきたが、まだ階段は続いているし、
廊下も長く、一人でいると何か不安になるようだ。
人影もなく、廊下を走りたい衝動に駆り立てられるが、
あまり廊下などの見晴らしのいいところにいるのは得策ではない。
そもそも、何人ぐらいで追ってきたのだろうか。
完全に逃げ切ったと思ったのに、どこで俺の居場所をつかんだのか、
謎は多い。
そして、母さんが変わっていたことは衝撃だった。
俺は父さんの名前を知らない。
あいつは自分の子供にさえ自分の名前を教えなかった。
名前さえ解れば、いつも呪ってやろうと準備しているので、
すぐに呪ってやれるのに。
俺はとりあえず、どこかの教室に入るのがいいと思い、
理科室みたいなところに入った。
窓際にビーカーがあるので間違いないだろう。
廊下から足音が近づいてくる
誰かが、この教室に近づいてくるのだろう。
急いで、机の下に身を隠す。
誰であろうと見つかるのはまずいからだ。
俺の家の人間でなければ大丈夫だが、俺の家の人間かどうかは近づかないとわからない。
幸い、俺の家の人間には共通点がある、初対面の俺の母さんに気付いたのもこれのおかげだ。
親指に家紋が付いた指輪。これは、家の人間すべてがつける事を義務とされている。
理由としては、呪いで跳ね返ってくる不幸から、親を守るためらしい。
要は、ただのおまじないみたいなものだが、みんなつけている。
俺はつけてないが。
机の下に隠れたところで目があった。