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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
世界ぶっ壊すよの章
107/108

主人公の、名前は壱里(ひとり)


 もう、状況を整理する気力すらなくなり、途方にくれていると、月が駆け寄ってきた。手には血の滴るナイフを持っている。そういえば、ここら一帯にあの時雨から貰った紙ふぶきが散乱していた。何かあったのだろうか。

「月、どうした」

「嘘ぉ。ありがとうつっきー。大好き、夕日を後ろにこう、がしっとなってもおかしくないシチュエーションなんだけどな……まぁ、心の準備できてなかったからいいっちゃいいんだけどさぁ」

 月がナイフを道に投げた。

 月の後ろにかぼちゃ頭が見える。

「あ、さっきの奴」

 夕焼けに照らされながら、最後の瓦礫で出来たウサギが倒れて、その倒れて起きた風で吹き飛ばされた。


  

 ……目を覚ますと朝だった。周りを見渡すと、どこかの家らしい。天井から空が見えているので、ここの家の人は遠くに逃げたか死んだのだろう。靴を探しに、まず玄関を探していると、月が台所で缶詰を開けていたところだった。

「あ、おはよう」

 エプロンをつけて、缶詰を開けているのはなんだか冷め切っているなと思う。

「うん、おはよう」

「電気通ってない」

 月が俺の前にサバ缶を置く。

「ツナ缶の方が良い」

「えー、探しにいくのめんどいなぁ」

 サバ缶で腹を満たし、俺達は死体を捜しに行くことにした。

 世界が壊れてないってことはまだ、誰かが残ってるんだろう。まずはそれを確かめようと思ったのだ。

「ねぇ、疲れたー」

 しかし、死体を捜すのは思ったよりも骨が折れた。

「うわぁぁぁ、嫌だよぉー、ねぇ! とりあえずマイナス2で良いんじゃない? 死体とか見たくないんだけど!」

 瓦礫で埋まってるし、探す範囲が広すぎる。

「ってかさ、テレビとかではきっと大騒ぎなんだろうね、大怪獣降臨! 失われた能力のなぞ! とかさ」

 時雨から連絡が無いってことは、確定しただけで五人は死んでるはずだ。後は何人探すことが出来るかだ。残りは最高でも三人だ。

「そもそも、能力者だっけ。全員倒したら世界が元に戻るかどうか疑問なんだけど」

「他にどうやって世界戻すんだよ」

「えっそういうスタンスなの!?」

「大丈夫だよ、戻るよ」

「えー。嘘でしょ……そもそも、その過去に戻す人って人が死んだら駄目なんでしょ? あ、見つけた」

 駆け寄ると確かに人が死んでいた。しかしこれは誰だ。

「ねぇ、これは能力者かどうか確かめる手段はあるの?」

 ない。

 だが、仰向けに倒れてるから時雨と戦ったってことで、能力者だろう。……多分。

 とりあえずこいつは能力者ってことにしよう、さらに瓦礫あさりをしようとしたところで、月が俺の袖を引いた。

「あ、誰かいるよ」

 指差したほうには確かに人がいた。きっとそういう職業の人だろう。

「あんまり、人を指差さないほうが良いぞ」

「いや、だって……」 

「あ、そっち持って」

 大きな瓦礫を二人で動かした。その下からにあったペンギンの人形がこっちを向く。

「うわ」

「え、何?」

「いや、今こっち見た」

 月がペンギンの人形を持ち上げる。手の中でペンギンが口を開いて、それっきり動かなくなった。

「なにいまの」

 時雨の人形の残り香のようなものだろうか。同じような人形が時雨の家にもあったような気がする。



「ねぇ、おなか減った」

 それからは何も見つからなかった。もうすぐ十二時になってしまうだろう。  

「そうだ! さっきからあそこで、ゴミあさってる人にしたい見ませんでしたかって聞いてみようか!」

「非常識だろ」

「いまさら……。私が聞いてくる」

 月は少し前から俺らと同じように瓦礫をあさっていた人に近づいていった。

 俺も疲れたのであさるのをやめて後ろから付いていく。

「こ、こんにちわ。すいませんここらへんに死体落ちてませんでしたか?」

 酷い質問だ。

「……御家族ですか」

 好意的に解釈してくれたらしい。

「あ、と、友達です」

「……それはかわいそうに、見ませんでしたけど」

 そういったおじさんの顔が大きくなっていく。

「おい」

 絶句してる月の手を引いて数歩下がる。

「ワールドマネージャー、俺は選ばれなかった奴に格下げしてもらったはずだろ」

「いえ! いえいえいえ! 今回はですね、わが主が死にましたので、あ、残る能力者は晴れて一人。つまり貴方の弟君に脅されては従うしかないのですよ、察してください」

「弟?」

 月がこっちを見て、何かを考えるようにあごに手をやる。

「おっと、わたくし何度も注意されているのですが、またやってしまった。余計なことを言ってしまったようです、あ、ちなみにさっき貴方がたが見つけたいウサギは私が処分させていただきました。おぉ、同胞を殺すこの苦しみ! まぁ、私の感慨などせんなきこと。さぁ、来てくださりますか? この、あなた方が話しかけてくださるまで乞食の前をしつづけた私に免じて。本当にそのまま帰られたらどうしようかと思っておりましたー!」

 


 太陽が雲に隠れる。

 何か声のようなものが聞こえるが……。

「遅いから俺のほうから出向いてやったぞと、仰っております」

 ああ、あれ、弟か。

「ひっきー。まじで」

「うん、まぁ、弟だよ。あいつの能力は、水を操る。水の概念すらも凌駕する。まぁ、百人のなかじゃ、屑なほうだ。人間の七十パーセントは水分子で構成されてるとか言われたら終わりだけどな」

「本格的にやばい奴じゃん」

 だけど、時雨がよくやってくれた。残り一人。あと一人だ。

 月が俺の袖を引く。

「今聞くことじゃないんだろうけど、弟殺すとか正気の沙汰じゃなくなくない?」

「……いまさら」

 雲が竜の形になって、頭に牟岐、俺の弟をのせて降りてくる。

「よぉ兄貴。結構上手くやったじゃんか。応援してたぜ」

 にっと歯を見せる弟は、前の世界の面影はない。前はもっと……塞いでいた。元気になったのは良いことだが、俺は譲る気なんてない。

「俺が氏ねと思うだけで兄貴は死ぬ。だけどさぁ、ちょっと教えてくれよ。前よりかは幸せだろ? うん、兄貴の考えってのをさ」

 瓦礫の中から椅子が出てきて俺たちの前に落ちる。

 空気中の水分を操ったりしたのか。まぁ、興味なんてない。

 その椅子に座る。月もえーとかずっといいながら結局座った。

 ためしに銃を撃ってみるが、明後日の方向に弾が飛んでいっただけだった。

「……下手糞」

 月がさっきから小声でぶつくさ言い続けているのが多少嫌になってきた。

 しかし、弟が嫌いなわけじゃない。出来ることなら仲良くしたいとも思っているのだ、俺は話してやることにした。もう、過去に戻す奴も能力を使わずに死んだんだから、世界を元に戻すのも、新しく組み立てていくしかないのだ。

「俺達は呪術の家に生まれた」

「あ、それはシチュエートじゃないんだ。ややこしいね」

 牟岐は黙って頷いた。

「呪いってのは安月給だ。収益が月に三万くらいだし、偽者も乱立、さらに偽者のほうが儲かってたりもする。材料費が呪術は掛かるからな」

「それに修行もつらい」

 うんうんと頷きながら、牟岐も相槌を打ちながら答える。

「だが、それなら何故だ。悪いところなら俺だって十分に解っている。まず学校ではいじめられる。親の職業が呪術師とかいじめられなかったら他に誰がいじめられるんだ。家訓にいじめの対処法まで組み込まれている家はおそらく俺らの一家だけだろう。それにだ、修行はつらい、人を呪わば穴二つ。車に引かれたり、建物が倒壊してきたりも日常茶飯事、そんなことのために精神統一で、時間を浪費する毎日。そんな毎日を送っていたとき、俺たち、百人の能力者が選ばれた。正確には百八人、七人は能力の暴発で死に、兄貴も能力を使わないって抜けたから百人だ。これは神の能力だ、一つの才能じゃないか、何も不平等なことなんてない。俺たちが背負わされてきた不幸の清算だ! なのに兄貴は何でこんなことをする。何がしてぇんだ!」

 牟岐の高ぶった感情に呼応するように雲が牟岐にまきついていく。

「俺達は不幸だ。だけど俺はこの能力を不幸の清算だとは思えない。俺たちの不幸を台無しにするものだ」

「そうか、もういい」

 雲は牟岐を取り込み、巨大な雷神の形を取った。

「兄貴は、自分は不幸で不幸でかわいそうなのに酔ってるだけだ。幸せを他人に羨ましがられるのに耐えられない。かわいそうな自分を守ろうとしてるアマちゃんに要は無い!!!」

「うるさい。俺は、自分の力で積み上げたものを全部奪った能力を無かったことにするだけだ。俺はあいつらと、仲間と対等に友達やりたいだけだ」

「そのために何人の人間、いくつの人格を殺したぁ!」

 雷神の拳が迫ってくる。

「ひっきー、死ぬ! 私死ぬよ!」

「速く逃げろよ」

 かばんから一繋ぎに藁で括った釘を数十本引き抜くように取り出す。   

 体にはずっと体に刻んである芯陀墺命しんだおうみょうの七つ字の最終呪術。

「そんなもんで、おれが殺せるかぁ!」

 この呪いは、最初にして最終の、もっともポピュラーな呪いだ。

 体に刻まれた文様に釘を突き刺し、一日に一度の頻度でそれをやることで一週間で呪った相手を衰弱させ、一ヶ月で死に至らしめる。それは牟岐も知っているだろう。それよりもこの呪いは必要な相手の情報が多すぎる。相手を愛していないと相手を呪えないほどだ。

 墨に浸した筆をもう一方の手で取り出し、月のほうを見る。

「月、本当の名前を教えてくれよ」

「こんな時に何言ってんの!? 逃げるよ!」 

「頼むよ」

「……早乙女菫さおとめすみれ

「可愛い名前だな」

 少し意外だ。

「菫、愛してる」

 手の甲に早乙女菫と書き、菫と反対方向に逃げる。雷神の拳は予想通り俺を追ってきた。体に釘を巻きつけ、雷神の拳を受け止める。これで呪いは完遂された。最後まで菫には迷惑をかける。最後の言葉は菫、ごめんなのほうが良かったかもしれない。雷神の拳は俺を貫いた。


 いや、やっぱり死ぬときまで後悔なんかしたくない。

    

     

 ――――四之宮壱里しのみやひとり、死亡。  

 

 

   

      

   

 


  

     


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