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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
世界ぶっ壊すよの章
106/108

かぼちゃの人


 風呂敷を開ける。

 風呂敷の中身は、驚くべきことに、普通に時雨が俺たちに送ったものだった。たくさんの紙ふぶきがその中に入っていた。後は厚紙に電話番号と大切に使ってねとの言葉だけ。

「何だこれ」

「さぁ?」

 電話番号は多分時雨のものだろう。今でも怪獣大決戦の爆音がするこんな時に電話するのは非常識なので、その風呂敷を持って、外に出た。

「これからどうすればいいんだろう」

「電話かけたら?」

「今は駄目だろ」

「なんで」

「戦ってるじゃん」

 遠くのほうで、ウサギとライオン、新たにたくさんのペンギンが空を待っている。

「それ、時雨のじゃないんじゃないの? だってさ、それだったら違うものを用意するでしょ」

 月が携帯に番号を入れ始める。

 電話の声がこっちにも聞こえてくる。そういう昨日があるのは知っていたが、使うのは初めてだ。日ごろからケータイは無駄な機能ばっかりつくなと思っていたが、友達のいないであろう月にも使いこなされているようなので、意外とそう思っていたのは俺だけみたいだ。

「つなぎか?」

「だ、誰ですか?」

 電話に出たのは男の声だった。

 時雨ではないだろう。まだウサギは戦っている。

「俺は……誰なんだろうな」

 ずいぶんめんどくさそうな奴が電話に出たな。

「月、名前を聞け」

「名前はジャックだ。名前はない。名無しのジャックだ」

 俺の声も聞こえるようだった。しかし、めんどくさそうな奴だ。

「そうか、その声……。かかってこいよ、俺とお前は相容れない。その電話から入ってこい」

 

 

 月のケータイが両開きの扉に変化する。

「私のケータイ……じゃない。これ、完全に罠だよね」

 残った能力でこれを出来るのは……。まあ、行けば解るか。というかこのくらい全員出来そうだ。

「ちょちょちょ」

 俺が扉に手をかけると、月はあわてたように半分開きかけた扉を押さえつける。

「馬鹿なんじゃないの、罠に決まってるじゃん」

「時雨が罠を?」

「いやいやいや、明らかに違う人じゃん。準備は!?」

 俺はその扉を開けた。

 月は突然いなくなり、目の前にはかぼちゃ頭の男が一人。確か学校でもあったことがある。こいつが能力者だったのか。

 周りの景色がハロウィンチックというか、海外のステレオタイプの町並みになってしまったが、大丈夫だ。準備はしてある。

「俺の今の力じゃ、君の常識を変えるといったって、この幻影が限界だ。だが、俺は……そうだな、この世界を守る」

 ポケットから銃を取り出し、撃ち込む。撃ったことはないが、いるかの作ったものだ。簡単に標準はあった。かぼちゃの頭に風穴を開けて、二発目は胸、そして三発目は俺の腕に当たった。

「どういうことだよ」

「そういうことだよ」

 俺はどうやら俺を撃ち殺そうとしていたらしい。

 ――危なかった。しかしおかしい、幻覚くらい奴らには造作もないことだろうが、何故幻覚なのか。その気になればもっと派手に俺の頭を弾け飛ばせるはずだ。何故それをしないのだろう。

「運がいいな」 

 かぼちゃ頭が近づいてくる。

 俺はわら人形を取り出して、その姿を目に焼き付けた。

 顔も名前もわからない状況じゃ、効果は最高に薄くなるが、そんなこと言ってられない。

「双子の痣打ち――――――」

 姿かたちを似せたわら人形を作り、その首を思いっきり釘で切り裂く。自慢じゃないが、これはマジでプロフェッショナルだ。かなりの技術を必要する。

「いて」

 幻影で三人に分かれたかぼちゃ頭はそう呟いて、斧を取り出した。

 効果薄っ。

 何処に避ければいいのか解らないが、とりあえず飛ぶ。運よく手や足は、まだ繋がっている。銃創が残っていて死にそうなくらい以外影響はない。

 ……銃創が体に刻まれてて動けるわけないよな。

「これも幻か」

「そのとおり」 

 風景が、ぐるぐると絵の具をかき混ぜるように混じって、周りの景色が黒になる。

 吹くような音がして、俺の前、五メートルくらいのところにかぼちゃ頭が姿を現し、懐から取り出したランタンを投げた。

 目が回りそうだし、いつ刺されるか解らないので、精神がすり減らされる。

 それにもうラッキーはないだろう、呪えば呪われる、全ての幸運は絶対に俺には起こらない。

「まったく。こんな幻しか出せないような能力じゃ、勝ち目も薄いってもんだけど。可能性がある限り俺は戦うよ。真実の光を身に宿すほろいの灯火――マッドスカル」

 こいつ、まだシチュエートが死んだことを知らないらしい。

 目の前にいる奴が本物かは定かじゃないが、チャンスはここしかない、かぼちゃ頭に向かって釘を構えて走り出す。

「あぐっ」

 右足を踏み込んだとき何かに足を取られて、あごを強く打った。 

 見えないが、触るとわさわさと音がする。

「くそっ」

 今はそんなものに気をとられている場合じゃない。

 立ち上がる。

「宿すは古の英雄!」

 地面から骸骨が現れて、俺の手を取り、後ろから羽交い絞めにした。

「やば」

「封印の贄!」

 鎖が俺と髑髏をくくりつける。

 ――魔法は使えないはずだろ!

 しかし、俺は髑髏に括り付けられ、腕は幻などでなく痛みに軋んでいた。

 かぼちゃ頭が、魔方陣を描く。

「俺は世界を守る。太陽の矢――死生けるものを死のものにする怪物にする月の光の権現に天元」

 やばい。あれはもう呪いとか全部ひっくるめて消し飛ばしていしまいそうだ。

 かぼちゃ頭の奴が空に掲げた魔方陣から、二メートルはあるだろう光り輝く矢じりが顔を出す。

「さぁ! もう終わりだ。お前がどんなにがんばっても、もう、お前の理想の世界はやってこなっぁ。あ……使ったか、ふっ、使ったんだな。お前は結局俺たちの理想は正しかったと証明した。理想論より理想なんだ」

 魔方陣が砕け散り、かぼちゃ頭が倒れこむ。

 血が地面を濡らし、黒い地面の上に淡い光に照らされた赤い血が、黒を染めていく。

「俺の勝ちだな」

 かぼちゃ頭が倒れてもなお、何の変わりも無くそう言って、それっきり呻く事も無くなった。


 一体何が起きたのか解らない、俺は死ぬつもりだったのに。

 風景が溶け、元の瓦礫だらけの町に戻っていく。

「なんなんだよ。俺、置いてきぼりじゃん」

  

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