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最弱の英雄伝   作者: かぼちゃの骸
世界ぶっ壊すよの章
105/108

東京までは走れない




 数十分後。


 世界の中で大きな混乱。みんながみんな能力を失い、立場の逆転や下克上。思いつくだけでも大変な混乱だろう。

 しかし、俺と月は奇跡的に生きていた電車という交通機関を使って、東京に戻ろうとしていた。隣同士、電車に揺られているのだが、少し気まずい。全部月のせいだ。

「いや、いるよ」

「なにが」

 向かいにいるおっさんが、紙に何か書いては杖を振って、出ろ出ろとうわごとのように呟いている。月のほうを見ると、手をわしゃわしゃさせて駅で買ったみかんをもんでいた。

「だから、友達」

「あぁ、うん。いや、信じてるって。友達百人いたんだろ?」

「うんいた。佐藤君に鈴木ちゃんに紫藤ちゃんに佐々木君に斉藤ちゃんに……」

 お前の友達、サ行ばっかだな。

「な、何笑ってるの。本当にいたんだから」

「まぁ、その話はやめようぜ」

「あぁ! 信じてない! 信じてないでしょ!」

「信じてる、信じてる」 

 月はみかんを揉むと甘くなるといって、俺に揉んでいたみかんを半分くれた。

「すごいぐにゃぐにゃしてるんだけど」

「食べてみなって」

 痛んでるような感触なんだが、本当に食べられるのだろうか。

 しかし月がおいしそうに食べるから、一緒に食べながら外の景色を眺める。

「甘くなったでしょ?」

「いや、比較対象がないから知らん。元からこんな甘さかもしれないし。生暖かいのは解るけど」

 ふーらるは電車に乗る前に、丘の上に墓を立てて埋めてきた。

 いるかとモノも見に行ったのだが、大きな爆発で跡形もなかった。

「これから世界はどうなるんだろ」

 月が呟く。

 月も目の前にいて、出もしない魔法の呪文を唱え続けるおっさんを見ていたのだろう。俺としては夢を諦めず、もう一度あの能力者たち、といっても残り五人なのだが、それが世界征服に乗り出してくれるといいんだが、さすがにそこまで心の強い奴らはいないと思いたい。もしかしたら、このまま十年二十年と何も進展がないかもしれない。

 多分、平和に今ある状況に満足して妥協して過ごすに違いないのだ。

「これから世界は崩壊の一途をたどる」

「あ、そうだったね。よかった、就職しないですみそうで」

 ふふっと鼻に掛かる笑い方をして、二つ目のみかんを揉み始めた。

 それでも絶対に探し出してやり直させる。

 俺たちの意味も意義も取り返す。



 電車を降りて、学校に向かう。

 学校の場所はそれまで道順は解っても、何処にあるのか解らなかったが、魔法がいったん解けてしまえばあれほど解りやすい場所はなく、また、異様な光景だ。

 東京の真上に構える校舎が落ちてきたんだろう。国会議事堂をぶっ壊し、ビルの上に木が転がっている。

「意外と近かったな」

「……私たち、空中で授業を受けてたんだね」

 さすがに人も多く、暴動が起こっているのかいないのか、魔力を帰せだの世界の崩壊だの、神さまーだの声が聞こえてくるが、一体何に対しての暴動かと聞かれたら、答えられないので、嘆きの類なのだろう。

 そんな中、学校のほうにいくと、なぜか学校の周りには人がいなかった。

「すごい罠の香りがしない?」

「いや、ここまで学校が崩れてたらいないのも当然だろ。というか、能力者もいなさそうなんだけど」

 そもそもどのくらいの高さから落ちたのか知らないが、周辺の建物や、校舎の周りに生えていた木や、土などで破壊されている。こんなところには誰でも近づきたくないはずだ。

 俺たちは学校の中を進む。といっても瓦礫の中心に向かってだが。

「ねぇ緊張してきた。会ったら私はどうやって戦えばいいのかな」

 あ、やっべ、どうやって戦うかを考えてなかった。

「え!? 待ってよ。今の、能力を無くした私でも解るよ、やばいよ!」

「いや、大丈夫。道具はそろってるし、いるかから銃も貰ってるし」

「銃なんか通用する相手じゃないよ……」

 そして、意外なほどあっけなく、瓦礫の奥から時雨が歩いてきた。

「やぁ」

 偶然道で会ったように、時雨はごく自然に手を上げて挨拶する。

「うわぁぁぁ。逃げよう! ひっきーの馬鹿!」

 月が俺の手を引いて、来た道を戻ろうとする。

「待ってくれ。友達だろ」

 時雨は、目を真っ赤に腫らして俺の頭の上に手を置いた。

「もう、なんで逃げないの!」

 月が叫ぶ。

「記憶をみんな取り戻したみたいだね。私はさ、君の考えには賛同する。友達は大切だからね。でも……なんというか、君は不幸だったんだろう? だから資格を得た。それにこんなことをしなくても……」

「それじゃ、偽者だろ」

「……君は……付き合わされるこっちの身にもなってくれ」 

 時雨は大きくため息をついて、ウサギの人形を手渡してきた。

「爆発しないだろうな」

「私の最後の手助けだよ」

「手助けされた覚えはないけど」

「今からするのさ」

 瓦礫が動き出す。その数は一体一体が巨大すぎて、多いということしか解らないが、全部ウサギやライオンの可愛い怪物だ。

 遠くのほうで、ライオンの遠吠えが聞こえ、同時に爆発する。

「さぁ、逃げろ」

 時雨がそういった時、俺は月の力に抗うのをやめる。

「もう、何なんだよー。怖い怖い」

 月はそんなことを言いながら、顔は笑ってる変な奴だ。

 

「ドラマみたいな展開なんだから、俺にも新しい力が覚醒したらいいのにな」

「ほんとそうだね! 私、ひっきーのことぶん殴りたくてしょうがないよ!」

 ヒロインには向かない思考だな。

 俺の手の中でウサギが、動き出す。

「右」

 学校の瓦礫が何かを踏み潰そうとして、崩れ去っていく様子が遠くからでもわかった。

「右って何!?」

 ウサギの言葉は多分右を見ろか右に行けだろう。しかし、右には壁しかない。

「壁に突っ込めばいいんじゃね」

「ふざけんな」

 そういう月を無理やり引っ張って、壁の中に突っ込む。

 壁にぶつかった。

「……」

「壁を越えるんじゃない?」

「そうだな」

 壁を越えると、普通の家だ。いや、こんなところに立っている一軒屋はそりゃ、高級だろうが、これといって非現実的なところはない。

「家だね」

「入るか?」

「犯罪良くない」

 そんなことをいいながら、俺が開いていた窓から家に入ると後から恐る恐る入ってきた。

 部屋の中はやけにファンシーで、ライオンとウサギとペンギンとクジラのキャラクターにあふれていた。

「これ、時雨……」

 いつの間にか奥の部屋から、胸に大きく佐々波と書かれた運動服を引っ張り出してきた。俺が部屋を見渡している間に全ての引き出しを開け、さらに利がう部屋まで物色してきたようだ。

「お前、すごいがっつり部屋を荒らしたな」

 俺の手のウサギが飛び出して、走っていった。

「私が追う。青少年には刺激が強すぎるよ、女の子のプライベートルームは!」

 あいつ、物取りの手際の良さが素人のそれじゃないな。

 すっかり部屋を荒らした後、ウサギを追って二階に上がっていった。時雨が帰ってきたら起こられるだろう、部屋の中は空き巣に入られた後の様子そのものだ。

 数分経って、降りてきた月は大きな風呂敷を抱えてきた。

「おい、こそ泥」

「違うよ? 何も盗んでないって」

 嘘だろ。

「その疑った顔やめてよ。違うって、ウサギがこれ持ってけって」

「全部?」

「全部!」

 月は怒こったようにほほを膨らませた。

 まぁ、信じてやってもいい。

 風呂敷の中身を確認してからなら。


     

      

 

 

  

          

 

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